サンキュータツオさんがTBSラジオ『東京ポッド許可局』のディフェンス論の中で2017年のNBAのトレンドについてトーク。ステフィン・カリー出現以降の超オフェンス志向バスケットを紹介していました。
(マキタスポーツ)マギーさんがここに来て、「演技の上手い・下手っていうのがわからない」っていうことでいろいろと話を聞いてね。面白かったじゃないですか。で、その時に俺もふと思って。あらゆるそういう技術というもの。いろんなジャンルがあるかと思うんですけど。スポーツにしても、エンターテイメントとかにも通じているんじゃないかなと俺はふと思ったんです。役者の技術論みたいな話がそこで出ていたわけだけど。「ピッチャーでたとえると」とか。で、守備側でそれを説明していましたよね。
(サンキュータツオ)バッターではなかったね。
(マキタスポーツ)野球で言うとバッターではなくて、守備側の話でやったじゃないですか。で、主役は言ってみればピッチャーであると。
(サンキュータツオ)ボールを投げるタイミングも全部自分でできるし。
(マキタスポーツ)自分でやるということだね。で、脇を固める人たちはたとえば外野手であるとかみたいな話をしていたんだけど。それで俺なんかすごく思ったんですが、上手い演奏とか上手い歌とかを……レコーディングしたりするわけですが。割りとね、ディフェンシブな考え方というか。
(サンキュータツオ)ディフェンシブ?
(マキタスポーツ)攻めの感じで「こういうことをカマしてやれ」みたいなことと言うよりも、技術というのは何回もちゃんと反復できて再現できていたりとか。たとえば、音程とかの話だったらよく「ピッチ」なんて言いますけども。正確にそこにコントロールよくいけるようにするっていうことは割りとディフェンシブな考え方というか。守っているという感じがすごく強くあるんですよね。
(サンキュータツオ)うーん。
(マキタスポーツ)で、僕はボクシングが好きなんですけども。ボクシングとかの歴史とかもね、とんでもない怪物みたいなタイプの人間がバーン! と出てきたりするんですけども。
(サンキュータツオ)マイク・タイソン的な?
(マキタスポーツ)マイク・タイソンみたいな人が出てくるんですけど、そこでね、オフェンスとディフェンスの考え方が変わるというか、崩れてしまうわけですよ。
(サンキュータツオ)そうすると、いままでみんなで守って、すごいディフェンシブにやって戦っていたものが、ある怪物によっていきなり破壊されて?
(マキタスポーツ)破壊されて、そこで揺らいでおかしなことになってしまうんですよ。だけど、かならずその1人の天才みたいなものはディフェンスとかの技術力によってやがて駆逐されてしまうんですよ。いろんな競技というものとかを見ていても、一部の怪物的な天才とあとルールというかレギュレーションとか。そういった前提になるものとかの繰り返しが行われてきているような気もするんですよね。だから技術とか云々っていうのは基本的にはオフェンス・ディフェンスで言ったらディフェンスなんじゃないかな? とかってすごく思うっていうか。
(サンキュータツオ)それは技術の対義語に才能っていうものを考えた時っていうこと?
(マキタスポーツ)そうかな? うん。そういうことなのかもしれない。
(サンキュータツオ)野球ってどうなの? その、技術と才能っていうことでいうと、いま割りと技術って行くところまで行ってるんですかね?
(プチ鹿島)どうなんだろう? まあ、それも人次第じゃないですか? でも、誰かがわかりやすく出てくると攻略法はすぐに見つけますよね。だからそことの争いですよね。たぶん。
(サンキュータツオ)前ね、NBAでいまステフィン・カリーっていうとんでもないバケモノが現れたっていう話をしたと思うんですけども。
(マキタスポーツ)うん。しましたね。
新種のウィルス ステフィン・カリー
(サンキュータツオ)で、彼はいわゆる3ポイントラインよりももっと、1、2メートル下がったところから鬼の速さで3ポイントを決められるっていう。だからちょっと新種だったの。やっぱりNBAファンの中では、というか僕の仲間の中では、やっぱり新種のウィルスなんですね。
(マキタスポーツ)うんうんうん。
(サンキュータツオ)で、いままでの伝統で言えば、そういう新種のウィルスってすぐに血清が見つかるんですよ。つまり、それに対するディフェンスっていうのがすぐに考案されるんです。
(マキタスポーツ)ディフェンスがね。
(サンキュータツオ)ただ、あまりにも見たことがないタイプのウィルスすぎて、対応ができなかった。で、NBAを制してしまったんですよ。で、その翌年もマイケル・ジョーダンが作った72勝10敗っていう記録を塗り替えて、73勝9敗という記録を打ち立てて、ファイナルまで行って。で、まさかファイナルで負けるという、よくわからないモヤッとした……。
(マキタスポーツ)どうして負けたの? それは。
(サンキュータツオ)それは、カリーたちがやっていたバスケットをいち早く、逆に取り込んで。それよりももっとすごいバスケットを実現したチームがいたんです。それがレブロン・ジェームス率いるキャブスっていうチームで。いままで3ポイントシュートをいちばん決めていたチームだったんですよ。ウォリアーズっていうカリーのいるチームが。だけど、それをもっと突き詰めて、全ポジションどこからでも3ポイントを打てるぞっていうチームを作り上げて。で、そのキャブスっていうのはNBAでいま1、2番目ぐらいに3ポイントを決めるチームになったんです。それで勝っちゃったんです。
(マキタスポーツ)ふーん。
(サンキュータツオ)1対1も強い。3ポイントも打てるみたいな。だから逆に、血清を作るんじゃなくて、むしろ体の中にウィルスを取り込んで、もう抗体を作るっていう発想ですよね。で、それでカリーが負けるという事件があったんです。ただ、ここ20年ぐらいの歴史で言えば、マキタさんのようなバブル世代っていうのはバスケットっていうのは背が高いセンターのスポーツだったと思うんですけど。
(マキタスポーツ)昔はそうでしたね。
(サンキュータツオ)チェンバレン。
(マキタスポーツ)チェンバレンとか、ジャバーとかね。
(サンキュータツオ)カリーム・アブドゥル=ジャバー。
(プチ鹿島)まあ、ダッシュ勝平っていうのもちょっといたけど。それは別としてね。
(マキタスポーツ)(笑)
(サンキュータツオ)それは二次元ですからね。で、マイケル・ジョーダンによってややフォワード寄りのバスケットになり。
(マキタスポーツ)うんうん。それまでは見ていたよ、俺。
(サンキュータツオ)2000年代に入ってからアレン・アイバーソンっていう178センチの得点王が現れて。
(マキタスポーツ)モンモンだらけのね。
(サンキュータツオ)そう。で、ガードのスポーツになりました。で、それからさらに、ガードの中でもボールを運んでゲームメイクする人とバリバリ点を取る人がいて。
(マキタスポーツ)シューティングガード、ポイントガード。
(サンキュータツオ)そうそう。で、ポイントガードがすぐにシュートを打つという時代にいま、なったんです。つまり、ゲームをコントロールしてパスを供給すべき人が……。
(マキタスポーツ)外側にいる人ね。中じゃなくてね。
(サンキュータツオ)そう。外側にいる背のちっちゃい選手がひたすら点を決めまくる。あるいは、ゲームの起点になりうる。でもそれはロジックがちゃんとあって。外側からシュートを決められる人がいた方が、ディフェンスが広がるんですよ。ディフェンスはそれに付かざるをえないから。そうなると、中が空くんですよ。
(マキタスポーツ)中が空くね。
(サンキュータツオ)だからガラガラになるから、今度は中に入れる選手が点を取り始めるっていうので、いま、得点王争いをしている人が175センチなんですよ。で、いまもうバスケットは完全に身長が低い人のスポーツになっているんですよ。
(マキタスポーツ)それは、面白いね。
バスケットは完全に身長が低い人のスポーツに
(サンキュータツオ)信じられないでしょう? アイザイア・トーマスっていう人が175センチでいま、ボストン・セルティックスっていうところでがんばっているんですけど。いま、東で2位になっているっていう、信じられない時代になっているんですよね。
(マキタスポーツ)うん。
(サンキュータツオ)信じられない時代になっているんですよね。でも、カリー対策って根本的にできているのか?っていうと、みんな体の中に抗体を入れただけで、血清はまだ見つかってないんですよね。全てのチームが血清ではなくて抗体を作っているという状態なので。いま、だから一昔前はバスケットって90点台ぐらいで決着がつくスポーツだったのが、いま130点ぐらいで決着がつくんですよ。
(マキタスポーツ)いっぱい点を取るんだ。
(サンキュータツオ)だからオフェンス過重になっているんです。すごく。そんなことなかったじゃないですか。だから、普通だったらディフェンス……「とにかく抑えられるかどうかわからないんだったらひたすらシュートを打ちまくれ。相手より取ればいい。勝てる」っていうのが発想としてはディフェンシブなんです。まあ、ディフェンスは水物だから。抑えられるかどうか、わかんないから。
(マキタスポーツ)ディフェンスが?
(サンキュータツオ)ディフェンスが。
(プチ鹿島)バスケットって、そうなんですか? ディフェンスの方が水物?
(サンキュータツオ)いまはどうしたって抑えられないシュートが決まるから。それだったら相手よりも攻めた方がいいという。
(プチ鹿島)じゃあ中畑とかバスケの監督をやったら合うんじゃないの?
(マキタスポーツ)そうなんだよ(笑)。
(プチ鹿島)お祭り野球でしょう? ルーズベルトゲームでしょ?
(サンキュータツオ)ルーズベルトゲーム。
(プチ鹿島)相手が7点取ったら、こっちは8点取るわっていう。
(サンキュータツオ)ただね、今シーズン、ヒューストン・ロケッツっていうチームがあって。そこにダントーニという監督が就任したんですね。で、そのダントーニという監督はもうラン&ガン。オフェンスのことしか考えてないっていう人で。しかも、ヒューストン・ロケッツからはもうすごい有名な選手も出ちゃって。まあほぼ、これはもう最悪、最下位とかに沈むだろうって言われていたの。だけど、そのダントーニという監督はチームでいちばんオフェンス力のある人をポイントガードにして。で、3ポイントを打てる人ばっかりを補強したんですよ。で、どこよりも3ポイントを決めるチームに仕立て上げて。もうディフェンスはいい。2人ぐらいディフェンスできるやつを入れておくと。で、みんなとりあえず3ポイントを打とうかって言って、それでいま全米でいちばん3ポイントを決めるチームになって、勝ちまくっているんですよ。
(マキタスポーツ)へー!
(サンキュータツオ)だからもうシーズン始まる前は「ダントーニでロケッツってそんなもん、勝てるわけないじゃん!」ってみんな言っていたんですけど、いまはもう「ダントーニのバスケってすごかったんだ。いままで勝てなかったのは時代を先取りしすぎていて。いま、むしろ時代のトレンドに合っているのはこのバスケットなんじゃないか?」っていう評価が一変する出来事があって。
(マキタスポーツ)もうシステムが変わっちゃったわけだね。
(サンキュータツオ)システムが大きく変わって。それもこれも、やっぱりカリーのバスケットから始まっているんですけど。とにかくいま、点を取るということがすごくディフェンシブな考え方になっているということですよね。
(マキタスポーツ)なるほど。そうだね。
(サンキュータツオ)バケモノによってイノベーションが起った。
(マキタスポーツ)イノベーションが起こってね、システム自体が変わっちゃうっていう。
<書き起こしおわり>