サンキュータツオさんがTBSラジオ『荻上チキSession22』に出演。2015年NBAプレイオフを目前に控え、注目選手やチームを語る中で、ゴールデンステート・ウォリアーズの超攻撃的なバスケの魅力について話していました。
(荻上チキ)わかりました。キャブス。では、続きまして・・・
(サンキュータツオ)はい。ゴールデンステート・ウォリアーズ。いま、私も着ているユニフォームのチームなんですけど。こんなチーム、見たことがない!っていうチームですね。ええとですね、今年、オールスターでこのレブロン・ジェームスを抑えて、人気一位になった選手がいるんです。
(荻上チキ)ほう。
(サンキュータツオ)それがこの、ゴールデンステート・ウォリアーズのステファン・カリーっていう選手なんですね。
(荻上チキ)ステファン・カリー?
(サンキュータツオ)はい。このカリーっていう選手は背が低いんですけども。なにがすごいって、1年間で3ポイントを決めた回数。NBA史上で最高の本数を決めたんです。
(荻上チキ)史上で?
(サンキュータツオ)はい。272本という。年間で。81試合ある中で。
(荻上チキ)あ、じゃあもうホームラン王みたいな感じの?
(サンキュータツオ)そうです。そうです。しかも、これだけの多くの3ポイントを決めたことがないっていう。
(南部広美)3ポイントって・・・
(サンキュータツオ)あの、遠くから打って。ちょっと半円のね、あるじゃないですか。
(南部広美)ああ、あれか!
(荻上チキ)遠くから打つやつ。
(サンキュータツオ)遠くから打つと、ちょっと3点もらえるんですよ。普通のシュートは2点なんですけど。3点もらえる。だから、難しいやつなんです。でも、あれをいちばん決められる選手なんですね。
(南部広美)おー。
(サンキュータツオ)で、実は3ポイントを一番決めている選手と、二番目に決めている選手が同じチームにいるんです。
(荻上チキ)ええー?
スプラッシュブラザーズ
(サンキュータツオ)で、このステファン・カリーと、クレイ・トンプソンという3ポイントシューターの名手。もうね、コンビ名までついているんです。アメリカで。スプラッシュブラザーズ。
(荻上チキ)スプラッシュブラザーズ!
(南部広美)アメリカっぽいネーミング!
(サンキュータツオ)これはですね、雨を降らせるように3ポイントシュートを決めるという。
(荻上チキ)はあ、はあ、はあ。
(サンキュータツオ)スプラッシュですよ。だからこのチームに今年就任したヘッドコーチもスティーブ・カーといって。カーはマイケル・ジョーダンと一緒にですね、ブルズを優勝させた3ポイントの名手。
(荻上チキ)ああ、そうだ。
(サンキュータツオ)だから3ポイント一家みたいな感じなんですよね。
(荻上チキ)聞いたことありますもん。カーは。
(サンキュータツオ)で、スティーブ・カーはなにがすごいか?っていうと、ポイントガードなんです。でね、これちょっとNBAの歴史の話になるんですけど。マイケル・ジョーダンとかがいた時代って、やっぱりフォワードが花形のポジションで。ポイントガードっていうのは基本的にゲームを作る選手だったんですね。
(荻上チキ)はい。
(サンキュータツオ)ボールを運んで、シュートを打ってもらう人にパスをすると。
(荻上チキ)うん。立役者というね。
(サンキュータツオ)そうなんです。だから、だいたい1試合で取って10点。で、アシストが10とか。それぐらいがいい数字だったんです。このステファン・カリー、50点以上取るんですよ。
(荻上チキ)へー。
(サンキュータツオ)クレイ・トンプソン。この間、57点ぐらい取ったんですよ。
(荻上チキ)1試合で?
(サンキュータツオ)1試合で。しかも、12分間で37点取るっていう化け物みたいなことをやらかしたんですよ。
(荻上チキ)もう持たせたら負けみたいな。
(サンキュータツオ)もう、普通だったらですよ、3ポイントシュートのライン、あるじゃないですか。半円形の。だから、ラインぎりぎりから打つじゃないですか。もう、彼らは違うんですよね。あの、3ポイントラインからまたちょっと、1メートルぐらい離れたところから打っても、入るんですよ。
(南部広美)なんでー?・・・なんでってプロに失礼だけど(笑)。
(サンキュータツオ)しかもカリーの場合は、なんで背が低いのに入るかっていうと、シュートを放つタイミングが誰よりも早いんです。
(荻上チキ)ほう。
(サンキュータツオ)普通で言うと、ジャンプして最高到達点でシュートを放つんですけど、そうすると、ブロックされちゃうんですよね。背が低い選手って。だから、おっきい選手がブロックする前に、手から離しちゃうんですよ。
(荻上チキ)あ、じゃあモーションもフォームも違うみたいな感じですか?
(サンキュータツオ)あの、0.3秒でもうシュートにいけるっていう人なんです。この人は。ストップしてから。
(荻上チキ)クイック。
(サンキュータツオ)クイック。めっちゃクイック。これ、もう本当動画で見てもらえると、感動すると思うんですけど。こんなの、人類が可能だったんだ!みたいな。
(荻上チキ)なんか、その手があったのか!みたいな。
(サンキュータツオ)そうなんですよ。だから、それこそスラムダンクで言えば、宮城リョータってポイントガードですよ。
(荻上チキ)はい。ちっちゃいですよ。
(サンキュータツオ)彼、そんなにシュート、決めてましたか?ってことですよね。
(荻上チキ)決めてないですね。
(サンキュータツオ)決めてないですよ。シュート、下手なんです。あれが本来のポイントガードなんですけど、まあカリーをね、誰でたとえるかって、海南大付属の牧と神と足したような選手なんですよ。
(荻上チキ)ほう!
(サンキュータツオ)だから、どっから打っても入るし、ゲームもコントロールできるっていう、無敵の。
(荻上チキ)ああ、もう持たせるな!って言われてましたもんね。
(サンキュータツオ)そうなんです。で、ガードが試合を作る、決定づけるってどういうことか?っていうと、将棋でたとえちゃいますと、今度。羽生さんって、将棋を序盤戦に持ち込んだっていう意味で天才だって言われたんですよ。
(荻上チキ)はい、はい。
(サンキュータツオ)羽生善治の前って、将棋って終盤とか中盤のゲームだと言われていたのが、もう序盤。20手ぐらいで勝負を決めるという、速攻。で、ほぼ最初の20手ぐらいで、いい形勢か悪い形勢かを決めちゃって、勝負を早めに決定づけるっていうぐらい、このガードが試合を作るっていう、まあいまのトレンドの中でも最高のコンビなんですよね。
(荻上チキ)うん!
(サンキュータツオ)さらにですよ、このチームはチーム内のルールがあって。ボールを保持したら、14秒以内にかならずシュートを打つっていうマイルールを作ってるんです。
(荻上チキ)チームで?
(南部広美)14秒で?
(サンキュータツオ)普通、もっと早い状況でいくと、速攻でも5秒以内にシュートを打つと。つまり、もう与えられている試合時間はみんな平等なわけですよ。いかに多くシュートを放り込むか?っていうことだけを考えているんですよ。
(荻上チキ)たしかに、それで入る率が同じならば、チャレンジした分だけ点数、伸びますね。
(サンキュータツオ)で、みんなが知っているバスケットって、たとえばパスをカットしました。リバウンドを取りました。自分たちのボールになりました。じゃあ、自分たちが2人。相手が1人。2対1の状況で、どういうシュートを打ってましたか?っていうね。
(荻上チキ)ふんふんふん。
(サンキュータツオ)そうなると、確率がいちばん高いレイアップシュートとか、ダンクシュートにいってたんです。
(荻上チキ)そうですね。置いてくるっていうやつがレイアップ。
(サンキュータツオ)ただね、このカリー、トンプソンだけは特別ルールが敷かれていて。速攻でも、3ポイントを打つんです。
(荻上チキ)(笑)
(サンキュータツオ)マジか!?と。いやいやいや、ガラ空きじゃん、前!って。そのままいけば、確実に2点なんだよ。だけど、止まって3ポイントを打つんですよ。で、それが入るんですよ。
(荻上チキ)(笑)。入んなかったらブーイングですけどね。
(サンキュータツオ)もうね、これを打つことを許されいている。とにかく入るんです。サクサク。びっくりですよ。
(荻上チキ)前に人がいないからって、3ポイントはね・・・
(サンキュータツオ)入るとは限らないですから。しかも、動きながら。自分でボールを運んでストップしてシュートって、結構難しいんですよ。やってみると。パスもらって即シュートなら簡単なんですけど。自分でボールを運んで止まってシュートって、結構難しいんですよ。
(荻上チキ)疲れるしね。
(サンキュータツオ)でもカリー、止まってからシュートを放つまで、0.3秒ですから。
(荻上チキ)そこでも。敵がいなくても、クイックで。
(サンキュータツオ)もう化け物なんですよ!
(南部広美)どうやったらそんな風に・・・まあ、言うても仕方ないですが。
(サンキュータツオ)ただね、このカリーとかトンプソンって面白いのが、実はこれね、2世プレイヤーなんですね。お父さんもオールスター選手なんですよ。で、しかも3ポイントシューター。シューターだったの。
(荻上チキ)サラブレッド。
(サンキュータツオ)サラブレッド。で、自分が背が小さいっていうのを自覚していたから、昔からもうずっとシュート練習して。で、もうブロックされないように誰よりも早くリリースするってことを覚えて、進化したんですよね。大学だって、聞いたこともないような大学なんですよ。背が低かったから。なんですけど、自分が行ったデビッドソン大学っていうところも、全米が注目するようなチームに仕立てあげたっていうぐらい。で、やっぱり世界中の人のスターなんですよ。ステファン・カリーは。
(荻上チキ)すごいな。少年マガジンとかでマンガ化されてもおかしくないよ。
(サンキュータツオ)本当に。俺、ちょっとこんな時代が来るとは思ってなかったんですけど。いまは3ポイント時代ですね。もうガード3ポイント時代に突入したので。
(荻上チキ)1試合2人とも50点ぐらい取るってことは、それだけで100点?
(サンキュータツオ)まあまあ、2人とも調子が良ければですよね。だから、今日はカリーが調子いいなっていう時はカリーが積極的に打つし。トンプソンも打てるぞってことになると、カリーはパスに徹するみたいな。
(荻上チキ)あー。
(サンキュータツオ)でね、このチーム厄介なのが、みんな3ポイント打てるんですよ。みんな打てるんですよ。
(荻上チキ)あいつに気をつけろ!じゃないんだ。
(サンキュータツオ)どっからでも打てるんですよ。
(南部広美)早すぎる。試合が。
(サンキュータツオ)だから、見ていて面白くてしょうがないんですよ。いま、NBAを見ている人で、まあ好きなチームはいっぱいあると思います。好きな選手、いっぱいあると思いますけど。『いま、どこのバスケットがいちばん面白いですか?』って聞かれたら、まあ10人中10人がゴールデンステートって言いますよ。
(荻上チキ)100%だ(笑)。
(サンキュータツオ)間違いない。10人ゴールデンステートって言いますよ。
(荻上チキ)はー。それだけ遠くから投げると、今度は遠くに警戒して、近くが疎かになるとかっていうことは?
(サンキュータツオ)そうなると、中の選手がただ簡単に決めるだけなんですよね。だからディフェンスはもう、3ポイントを抑えなきゃいけないから、前に出なきゃいけない。そうすると、中がスカスカになる。抑えようがない。どうなるんだ?というところなんですね。
(荻上チキ)どうしようもないじゃないですか。
(サンキュータツオ)だからもう、このチーム、西で一位ですよ。もう勝率8割以上。
(南部広美)無敵感満載。
(サンキュータツオ)無敵。ただ、このチームがいま、果たしてプレイオフ勝ち抜けるのか?ってことに関しては、評論家はかなり懐疑的になっているということなんですよね。そこで、次のチームを紹介したいと思います。サンアントニオ・スパーズ!
(中略)
(サンキュータツオ)まあ、このゴールデンステート・ウォリアーズとサンアントニオ・スパーズ。西のチームなんですけど。おそらく、西はこの2強の戦いになるだろうと。ただですね、これ、クライマックスシリーズとかでもそうなんですけど。プレイオフになると、なぜゴールデンステートが懐疑的になるかって言われると、この1本を決めなきゃいけない!っていう緊張感のあるシュートって、基本的にハーフコートバスケットって言って、もうじっくり守る。じっくり攻める。だから24秒以内にシュートを打たなくちゃ行けないんですけど、24秒たっぷり使ってシュートを打つっていうゲームが主流なんです。
(荻上チキ)はい。
(サンキュータツオ)なんで、だいたいスコアとしては、90対88みたいな渋い試合になるんですよ。守り合いになるんですよ。野球で言えば、1対0の試合みたいなやつなんですけど。ゴールデンステート・ウォリアーズっていうのは、だいたい1試合で120点ぐらい取るんですよ。とにかくシュートを決めるんで。
(荻上チキ)ほう、ほう。
(サンキュータツオ)だから彼らが果たして、スパーズがゴリゴリに守った時に、14秒以内にシュートを打てるのか?っていう、いま本当にイデオロギー闘争が始まっているんですよ。
(荻上チキ)でも、ちょっと遠くから3ポイント打てるんでしょ?
(サンキュータツオ)そうなんです。で、それをこのグレッグ・ポポビッチ(スパーズヘッドコーチ)がどう回避してくるのか?っていうところがちょっと見どころであるかなと。
(荻上チキ)ああ、じゃあそもそも、ボールを渡さないっていうようなことを。持ったら打つっていうことで。
(サンキュータツオ)そうなんですよね。なんで、もしゴールデンステートが、このチャンピオンシップを取るとしたらですよ、NBAの歴史、変わります。今年。いままでNBAって、やっぱりディフェンスのいいチームっていうのが勝つっていう。本当にデータも出てるんですね。もう、ハーフコートバスケットが強いチームが勝つというデータが出ている中、14秒以内にシュートを打つっていうチームが優勝したら、またNBAの歴史が1個、変わります。
(南部広美)覆されるんだ。大前提が。うおー!
(サンキュータツオ)なんで、ここの試合はもう必見なのと、これを勝ち抜いても、たぶんキャブスがいるっていう、ちょっと恐ろしい自体になっているんでね。
(荻上チキ)面白いなー。
(サンキュータツオ)もう目が離せない。
(荻上チキ)壁に対して、速度で翻弄するみたいな。へー!
(サンキュータツオ)そうなんですよね。時間の使い方とかになってるんですよ。あと、空間の使い方とか。だからもう、確実なダンクとかよりも、まあ入るか入らないかわからないけど取りあえずスリーみたいな。そういう考え方。あと、いっぱい打てばいいじゃんっていう考え方と、いや、打たせなきゃいいっていう考え方。
(荻上チキ)ほこ×たてみたいな(笑)。
(サンキュータツオ)そうなんです。ボールを持ったら打つんだったら、ボールを持たせなきゃいいって。
(荻上チキ)言うのは簡単ですけど、それをやるのが、普通は無理なんですよね。
(サンキュータツオ)だからこの、スパーズがやりかねないのは、カリーにボールを入れないっていうのをやりがちなんですよね。だから1人に2人つける。他の3人で、4人を守るっていうようなことを、もしかしたらやるかもしれないというね。
(荻上チキ)つぶしにきたぞ!っていう。はー。すごいですね。
(サンキュータツオ)化け物じみた。最近のNBAのデータだと、3ポイントとゴール下からしか、確率のいいシュートが決まっていないっていうデータがあるんです。なので、最近ミドルレンジの、フリースローラインぐらいからのシュートがほぼ見られなくなって。ルールによって、バスケットが進化したっていう。データ上にも明らかになっているんでね。そういったNBAの進化の歴史も見届けていただければと思います。
<書き起こしおわり>