町山智浩さんがTBSラジオ『久米宏ラジオなんですけど』にゲスト出演。久米宏さんと2016年のアメリカ大統領選挙について話していました。
(久米宏)昨日、日本に来たばかりで?
(町山智浩)はい。そうです。
(久米宏)よくラジオで「バークレー在住」っていうことをおっしゃっているんですけど。バークレーって西海岸にサンフランシスコっていう街がありまして。あの裏にある湾はサンフランシスコ湾っていうんですか?
(町山智浩)はい。そうです。
(久米宏)で、オークランドっていう街がありますよね?
(町山智浩)あります。
(久米宏)オークランドは行ったことがあるんです。ちょっと南に下がったサンノゼっていうところがありますけど、そこも行ったことがあって。オークランドの隣町がバークレー。
(町山智浩)はい、そうです。
(久米宏)みんなサンフランシスコ湾に面しているんですけど、ずーっと南に下がっていくとシリコンバレーがあるわけですよね。そういう所。どんなもんですか? 住環境っていうのは。
(町山智浩)ああ、バークレーに引っ越してからは良くなったですね。それまではオークランドにいたんですけど、オークランドはアメリカでも5本の指に入る犯罪地帯だったんで。まあ、カミさんが襲われて、前歯を全部折るっていう事態になりまして。後ろから飛びかかってきたんですよ。小僧が。それで顔からアスファルトに落ちたんで。それで全部折っちゃったんですけど。で、これは住めねえなということで、バークレーの方に引っ越したらやっぱり安全で、すごくいまはいいですね(笑)。
(久米宏)ああー。やっぱりオークランドは保守的なところではあるんですか? 街としては。農業地帯だとは……
(町山智浩)いや、オークランドはとにかく銃撃戦が多いところですね。
(久米宏)ああ、そうですか。で、いま経歴をご紹介したんですけど、アメリカでもう20年?
(町山智浩)そうですね。だいたい20年ぐらいになりました。
(久米宏)よくあの国に20年とも思うんですが。興味深い国ではありますか?
(町山智浩)面白いです。いま、たとえばマリファナが解禁されていって。そこら中でみんな普通にやっているっていう状態になったりしますからね。で、場所によると……たとえばテネシーとかに行くと、飛行機を撃ち落とせるようなライフルをみんなが普通に持って撃ってたりしますからね(笑)。
(久米宏)それはまあ、面白いって言えば……
(町山智浩)面白いですよ。やっぱり。撃たせてもらったんですけど、1キロ先の自動車のエンジンを撃ち抜くのを普通に持っているんですよ(笑)。
(久米宏)1000メートル先の? エンジンブロックを撃ち抜く?
(町山智浩)エンジンブロックを撃ち抜くやつ。50口径で。
(堀井美香)やらせてくれるんですか?
(町山智浩)撃たせてもらいました。はい。
(堀井美香)そんなの、できるんですか?(笑)。
(久米宏)いま、50口径っておっしゃいましたけど、50センチ口径ってことですか?
(町山智浩)それは0.5インチ口径なんですけども。飛行機とかヘリコプターを撃ち落とせる弾丸の銃を個人が所有できるんですよ。
(久米宏)なにに使うんですか? それ。
(町山智浩)わからないですね。コンクリートの塀を撃ち抜いて、向こう側の人を殺せる銃なんですけど。なにに使うんでしょうね? わかんないです(笑)。
(久米宏)今日は、主に大統領選の話を、いよいよ11月8日が投票日なのでお伺いしようと思ったんですけど。9.11のセレモニーの途中でクリントンさんが気分を悪くして車に乗るところでガクッてなる映像が世界中に配信されたと思うんですけども。あれ、思ったよりも大統領選挙に影響を与えそうだっていう話を僕は聞いたんですが。どうなんですか?
大統領選挙と候補の健康状態
(町山智浩)はい。大統領選においては健康状態っていうのはいちばんの攻撃の道具になるんですよ。ただ、相手のトランプの方も「健康診断を受けた」という風に自分では言ってるんですけども。健康診断を受けたのは数分だったというね。
(久米宏)(笑)
(町山智浩)そんなので何を診断できるのか、さっぱりわからないですけどね。だからまあ、両方とも結構そのへんは曖昧ですけども。ただ、その前にブッシュ大統領のお父さんが共和党から出て、対抗が民主党の方のデュカキスさんだった時があるんですね。1988年。その時は、デュカキスさんがやはり健康状態の診断書を全部公表しなかったということで、ブッシュ父側が「あれはデュカキスは精神病なんだ。精神異常なんだ」というキャンペーンを張ったりしますからね。
(久米宏)うんうん。
(町山智浩)あと、マケインさんね。これはこの間のブッシュが共和党の予備選の時に、マケインさんはベトナム戦争の時に爆撃機に乗っていて、撃墜されてずっと向こうの収容所に入っていたんですよ。それで、収容所に6年間入っていたために、拷問されて精神に異常をきたしたっていう噂を流しましたね。ブッシュの息子は。親子で何をやってるんだ?って思いますけどね(笑)。
(久米宏)あの、トランプさんがね、候補でのし上がってきて、みんなであっけにとられて。消え物みたいな、泡沫候補だとか、色モノだとか、いろんなことを言われてましたけども……(笑)。
(町山智浩)「消え物」ってこれ、業界用語じゃないですか(笑)。
(久米宏)消え物で、すぐ片付けられちゃう。そしたら、メインの共和党の候補になって。でも、まさかトランプさんが大統領になることはないだろうってずっと日本人のほとんどの人たちが思っていたら、どうも日本人が想像する以上に、クリントンさん。ヒラリーっていう人がアメリカでは人気がないっていう……ヒラリーが人気がないっていうことの実態は日本人にはよくわからないんですよ。
(町山智浩)はい。
(久米宏)かわいいし、女性だし、はじめての女性候補で、「ガラスの天井をブチ破る」って言ってる女性だし。でも、アメリカでは日本人が想像する以上にヒラリー・クリントンっていう人が人気がないっていうこと自体が……まあ僕自身もよくわからないんです。なんでそこまで……まあ、トランプさんが人気がないのはわかるんですけども(笑)。当然、これは人気がないと思う。ただ、ヒラリー・クリントンが日本人が思っているよりもはるかに人気がないっていう実態がね、よくわからないんですよ。
(町山智浩)支持率がね、まあいま50%達しないっていう状態が続いてますよね。ただね、ヒラリーさんが人気がないのは1996年ぐらいからずーっとなんですよ。95年ぐらいかな? で、その頃はまだ旦那さんのビル・クリントンが大統領で。で、大統領夫人だったんですけども、その頃すでにマスコミには「なぜ我々はヒラリーが嫌いなのか?」とか「ヒラリー・ヘイター」とか、そういう言葉が飛び交っていたんで。で、その政策が原因なのかな?っていう説もあるんですが、政策はその頃といまとヒラリーさん、全く違うんですよ。その頃は左派で、いわゆるフェミニストで。非常にイデオロギー的には左側だと批判されたんですけど、いまヒラリーさんが批判されているのは「右側すぎる」って批判されていて。
(久米宏)うん。
(町山智浩)民主党の中ではウォール街寄りである、資本家寄りであると。で、ものすごい左寄りの人はバーニー・サンダースっていう人がいましたよね。サンダースさんが「ヒラリーっていうのは共和党とほとんど変わらないんだ!」っていう風に攻撃して。だからポリシーが全く違う、180度転換していて、それなのに叩かれているっていうことは政策に原因はないということですよね。ヒラリーの嫌われる理由は。
(久米宏)電話の問題にしてもね、自分の私用電話を公用に使っていたっていうことも、そんなに大した問題じゃないと僕は……
(町山智浩)Eメールを消してしまったとかね。
(久米宏)なんでって……だから「生理的に嫌い」っていう感じなんですよ。見ているとね。アメリカ人がヒラリーのことを。
(町山智浩)はい、はい。
(久米宏)なんであんなに嫌われなきゃいけないのか?って、わからないんですよ。
(町山智浩)あれね、旦那さんの方はものすごい好かれていたんですよ。
(久米宏)人気ありますよね。
(町山智浩)ものすごい人気で。旦那さん、ほら。モニカ・ルインスキーっていう研修生とエッチしたってことで、すごい叩かれて。弾劾されるっていうような事態になったにもかかわらず、弾劾される事態になった年の支持率が67%もあったんですよ(笑)。どんだけ好かれてるんだ、お前?っていうぐらいチャーミングな、みんなに好かれてる人ですね。
(久米宏)で、その人の奥さんだっていうだけで嫌われちゃうわけ。そんなこと、理不尽じゃないですか。
(町山智浩)ねえ。
(久米宏)なんか僕、嫌いな理由がわからない。アメリカ人が。
(町山智浩)ただ、やっぱりオバマさんとかの魅力を見るとね、やっぱり違うなと思うんですね。オバマ大統領がどれだけ子供に好かれているか?っていうのはね、「Obama Child」って検索すると、大量に写真が出てきますね。オバマさんが赤ちゃんを抱いていたり、子供たちと一緒に遊んでいるのがいっぱい出てくるんですよ。
(久米宏)うん。
(町山智浩)で、オバマさんの特殊な能力は泣いている赤ちゃんを泣きやます力があるんですよ。子供が泣いていると、オバマさんが触るとみんな泣きやむんです。ニコニコして。
(久米宏)それ、すごいですね。政治家の能力としては。
(町山智浩)すごい力なんですよ。彼は。その魅力はヒラリーさんにはどうもないみたいなんですよね。
(久米宏)くだらない話ですけどね(笑)。
(堀井美香)(笑)
(町山智浩)まあ、予備選の時に周りがあんまりにもオバマさんをヨイショするんで。そのマスコミとか。ヒラリーさんが泣いたことがあるんですよ。思わず、泣いちゃったんですね。「なんでこんなにみんな、私にひどいの」って。そしたらその後にマスコミが「泣きマネ」っていう風に批判するっていう(笑)。
(久米宏)松田聖子じゃないですか(笑)。
(町山智浩)そう。だから僕、思うのは日本でもそうですけども、女性はやっぱりそういう時に本当に本当に、ものすごいスケープゴートになっちゃうなと思いますね。
(久米宏)「高慢ちき」とかいうのもありますよね。
(町山智浩)そういう言われ方をするんですよ。
(久米宏)「上から目線」とか。
(町山智浩)そうそうそう。だから、蓮舫さんが嫌われたりとかするじゃないですか。あと、女の人が逆に本当にみんなにニコニコして良くしようとすると、逆にそれでベッキーさんみたいに嫌われたりとかして。やっぱりね、なんか女の人は生きづらいなって……
(久米宏)アメリカでもなんだ。
(町山智浩)同じですね。そういうところはね。
(久米宏)トランプっていうのは、いかがなもんですか?
(町山智浩)トランプはアメリカの石原慎太郎ですからね(笑)。なにを言ってもOKっていう。言えば言うほど、みんなが喜ぶっていう感じですよね。
(久米宏)「コンクリートの箱が2つか? 3つか?」とか(笑)。あ、飛行機に乗っていたからわからないか(笑)。慎太郎さんとトランプは同じか。
(町山智浩)同じですよ。だって共和党大会に僕、行ったんですけども。その時にいちばんみんなが「ウオーッ!」って共和党の人たちが喜んだのは、「もうポリティカリー・コレクトなんかに構っている暇はねえ!」って言った時なんですよ。ポリティカリー・コレクトっていうのは「差別はいけない」とか、「平等」とか、そういったことを気にすることですけど。「そんなものに構っている暇はねえ!」っつったら、みんな「イエーイ!」って大喜びですからね。
(久米宏)もう建前なんて言っている場合はないと。
(町山智浩)そう。でも、アメリカって一応国是というか、憲法の独立宣言の中に「平等」っていうことが書き込まれているにもかかわらず、それを否定してみんな「イエーイ!」だから。もう、アメリカはどうなっちゃうんだろう?っていう気がしましたね。
(久米宏)で、いろんな報道機関で世論調査やっているんですけど、抜きつ抜かれつで、よくわからないんですよ。「ベースとしては、クリントンがやっぱり有利なのかな?」と思うと、「いや、ヒラリーが逆転された」っていうのもあるしね。一般投票は11月8日ですから。時間がないんですよね。あと2回ぐらいテレビ討論があって、副大統領の討論があって。そんなもんでしょ? これ、どうなるんですかね?
(町山智浩)はい。いまんところ、拮抗している状態なんですけども。ただ、アメリカって基本的にだいたいの州がどっち側が勝つのか、もうほとんど決まっちゃっている状態なんですよ。で、あんまり動かないんですよ。で、決まっていない州っていうのは本当に10州もないんですよ。どっちに動くかわからない州っていうのは。そこで決定するんですが、コロラドがそうですよね。それで、フロリダがそうで、オハイオ。それとペンシルバニアもどっちに行くかわからないんですけども……あとはだいたいもう、決まっていて動かないんです。それでアメリカの大統領選挙っていうのはこの決まっていない州。だから激戦州とか浮動州と言われているものを……
(久米宏)スイング・ステートっていう。
激戦州・浮動州
(町山智浩)スイング・ステート。そこ以外ではほとんどなにもしてないですよ。
(久米宏)選挙運動しても意味ないんだ。決まっているから。
(町山智浩)しても意味ないです。決まっているから。動かないから。それは人口的な問題で決定するんですよ。たとえばニューメキシコっていう州があるんですけど。そこは本当にメキシコ系の人がすごく多いんで、ここは民主党が勝つって決まっちゃっているんです。だから、民族的な人口比との関係性なんですね。で、いま言った州は民族的な人口比が非常に複雑なところなんですよ。
(久米宏)たとえば息子ブッシュの時に大問題になったフロリダですけど。機械が壊れただの、もう1回やり直しだの。裁判になったりして。「フロリダ」って聞くとまた嫌な予感がしたりするんですけど。フロリダって保養地で、リタイアした金持ちが住んでたりなんかして。それでキューバに近いとか。そんな特殊なところだとは思えないんですけど。フロリダ州って。
(町山智浩)いやー、フロリダはね、票が読めない州なんですよ。
(久米宏)なんでなんですか?
(町山智浩)まずね、キューバから来た難民の人たちの人口がすごい多いんですよ。で、キューバの人たちっていうのはヒスパニックですね。でも、キューバだから、カストロが嫌いだから反共なんですよ。共産主義は大っ嫌いなんです。ところが、ヒスパニックは民主党支持で、共和党が嫌いな人は共和党支持なんですよ。だからもう、キューバ人の票がどこに動くか、まずわからない。
(久米宏)キューバ人がどっちを取るかわからないんだ。
(町山智浩)あと、ユダヤ系の人たちが多いんです。それはニューヨークとかの金持ちの夫婦が温かいから。あと、税金の免除があるから、フロリダに大量に住んでいるんです。で、ユダヤ人は票が読めないんです。これが。
(久米宏)ユダヤの人たちはわからない?
(町山智浩)ユダヤの人たちは差別が嫌いなんで。民主党はリベラルで平等だから投票するっていう人もいるんですが、ただ、イスラエルの徹底的な擁護をするシオニストっていう人たちがいるんです。ところが、共和党はイスラエルに軍事的な支援をしていて、徹底的にアラブと戦うという方向をとっているので、ユダヤ系の中でもイスラエル支持の人たちは共和党支持なんですよ。だから、ユダヤ人も票がどっちに行くかわからないんです。
(久米宏)いま、ちょっとめんどくさい話になりますけども、シオニスト系のイスラエル支援のことに関しては、トランプって何も言ってませんよね。そういうことに関しては。
(町山智浩)トランプは一応、ユダヤ系の集団の大会に出まして、「イスラエルを支持する」という風に表明したんですよ。ただ、実際的に非常にタカ派的にイスラエル支持的な行動をしているのはヒラリーの方なんですね。ヒラリーの外交政策はそういう風に中東では非常にタカ派的なんですよ。だからこれもよくわからないんですよ。そのへんは複雑ですね。はい。
(久米宏)トランプさんってあんまり外交のことは自分の生涯で考えたことがない人だと思うんですけど。アメリカ国家の外交がどうあるべきかって、1秒たりとも考えないで生きてきた人だと僕は思うんですよ。
(町山智浩)はい(笑)。
(久米宏)その人が大統領って……アメリカの大統領って最大の仕事は外交だと僕は思うんですけどね。トランプさん、たぶんいま70才ですけど。69年間ぐらい、1秒も外交のことは考えないで生きてきた人だと思っているんですよ。その人がアメリカ大統領になって大丈夫なのかな?っていうのが、僕の最大の疑問と不安なんですけど。どう思います?
(町山智浩)でも、投票する人たちは、だからアメリカ人の30%しかパスポートを持っていないので。投票する人の7割は外国ってどこだかわからない人たちですよね。
(久米宏)(笑)。ねえ。僕も日本のバラエティーでね、アメリカの田舎で「日本はどこか?」って地図に書いてもらうっていうのを見たんですけど、恐ろしいですもんね。ほとんど日本がどこにあるか知らないですもん。アメリカ人って。
(町山智浩)はい。真ん中らへんの人たち、要するに海から遠いところに住んでいる人たちは本当に外国に行くことが、戦争で徴兵された時とか、戦争で行った時以外はほとんど行かない人たちですね。
(久米宏)半分以上の人は自分の州から出たことないで死んじゃう人。
(町山智浩)出たことないですね。
(久米宏)自分の州外に出ないっていう。広いからね。州境に住んでいない限り、なかなか州外に出られないんですよ(笑)。
(町山智浩)まあ、日本よりデカいですからね。1つの州が。それはしょうがないですけども。
(久米宏)じゃあ国民が外交のことを考えたことなきゃ、外交のことをあんまり考えたことない大統領が出てきてもそんなに不安じゃないんだ。
(町山智浩)そうですね。っていうか、逆にトランプさんは貿易に関しては保護主義だったり、孤立主義をとっていて。アメリカが外国に軍隊を置いているじゃないですか。それも減らせって言ってるんですよ。だからむしろ、反外交的なところが受けているんですよ。
(久米宏)まあ、アメリカだけのことを考えようと。
(町山智浩)はい。だからそう言うと、僕はクー・クラックス・クラン(KKK)っていうアメリカにある白人至上主義の人たちのお祭りに参加したことがあるんですけど……本当にね、売店でものを売ったり、お祭りで音楽でみんな踊ったりしてるんですよ。
(久米宏)KKKが?
(町山智浩)KKKが(笑)。そこにフラッと行ってですね、「なにを考えているのか?」って聞いたら、「とにかく日本とか韓国に軍隊を置いている理由が私たちにはわからない。田舎に住んでいる白人の私たちには全く意味がわからないから、それをやめてくれ」と言ってましたんで。まさに彼らの考えていることをトランプさんは言ってるんですよね。だから、外交に関してトランプが逆に手を引く方向に動いてますね。NATOとも手を切ろうみたいなことを言っていて。それは、票を得ることになるんですよ。
(久米宏)なるほどね。そうすると、選挙の結果の予想なんですけども。町山さん、どう思います?
(町山智浩)はい。問題はですね、トランプに投票するような、先ほど言ったような外国との交渉をほとんど持たない……要するに、ビジネス自体外国とほとんど関係ない人たちっていうのは昔は人口の6割ぐらいいたんですね。もっといた頃、9割ぐらいいた頃もあるんですけど。それは「サイレント・マジョリティー」と言われている大卒でない白人の人たちですね。1972年の選挙でニクソンに投票した人たちなんですけど。この人たちの人口が急激に減っているんですよ。
(久米宏)ああ、そう?
(町山智浩)で、1980年にレーガン政権が成立した時にレーガンに投票したのがこの人たちなんですね。その時は、アメリカの投票者のうちの9割が白人だったんですが、現在6割に減っています。だから、トランプがいま集めようとしている人たちが全員投票しても、ちょっと票の数が少ないんですよ。現実問題として。だから、トランプは勝てないだろうと言われていたんですが……オハイオという州がありまして。そこは選挙人数と言われる大統領選における点数が18点と、かなり高いんですね。で、オハイオを取らなければ絶対に勝てないと。オハイオとフロリダがいちばんの戦場なんですよ。そこを取れば、大統領は勝てると言われているんですけど。
(久米宏)東海岸に近いところですよね。オハイオね。
(町山智浩)オハイオっていうのは、実は隣にデトロイトがあるんですけど。自動車産業とかをやっているところなんですよ。で、日本とか中国からのダメージを最も食らっているあたりなんですよ。このへんは。で、「日本や中国の商品に関税をかける」という風にトランプは言っているんで、それがアピールするとオハイオやペンシルバニア、ミシガンという五大湖の各州を取っちゃうと、トランプは勝ちますね。はい。で、ここは人口的、民族的にはカトリックとロシア正教の人が多いところなんですよ。
(久米宏)うん。
(町山智浩)で、いわゆる白人の、いままで言われているような白人とはちょっと違う、ホワイトエスニックという少数民族白人……まあ、白人の中でもちょっと東ヨーロッパとかに起源を持つような人たちなんですが。この人たちが、ブルーカラーの工場労働者の人が非常に多いんですね。この人たちの票を取ったら勝つと言われてるんですよ。
(久米宏)オハイオあたりを取った方が、勝ち?
(町山智浩)勝ち。それは自動車関税とか保護貿易的なところがどのぐらいアピールするか? なんですよ。
(久米宏)あの、日本ではアメリカの大統領選挙ってもしかしたらアメリカ以上にみんな心配事っていいますかね、関心が高いんですけども。実際のアメリカ人たちは今回の大統領選挙って両方とも嫌われているから……
(町山智浩)(笑)
(久米宏)つまり、嫌われ者同士の大統領選挙っていうんで、いまいち盛り上がっていないって聞くんですよ。どっちが嫌われているか競争みたいな大統領選挙って、たぶん盛り上がりませんよね?
(町山智浩)盛り上がらないですよね。「あの人が好き」っていうんじゃないですからね。
盛り上がりを欠く大統領選挙
(久米宏)どれぐらいどっちが嫌いか? みたいな、そんなの盛り上がりっこないから。日本よりも盛り上がってないっていうんで、僕は心配してるんですけど。どんなものですか? 周りの方って……でもやっぱりね、オハイオの人と友達がいるわけじゃないから。いわゆる一般の方たちはどうなんですかね? 大統領選挙。まあ、一緒に国会議員選挙もあるんですけど。どうなんでしょうかね?
(町山智浩)ただ、今回は盛り上がっていないといえば盛り上がっていないんですけど、アメリカの歴史にとっては非常に重要な選挙だと思います。今回、トランプが指名された共和党大会に僕、行ったんですけども。共和党大会にもかかわらず、共和党の大物、重鎮、ベテラン、誰も来ていないんですよ。
(久米宏)そうですよね。共和党が内部を露呈してしまったっていう。
(町山智浩)共和党は完全に崩壊状態にあって。長い間続いてきた、リンカーンから始まっている--リンカーン大統領が共和党を作ったんですけど--ほとんど崩壊状態にあると。で、共和党をずっと支援してきた大企業は今回トランプの選挙戦にお金を入れてません。
(久米宏)ラジオを聞いている方もご存知だと思うんですけども、アメリカの議会っていうのはもう共和党が圧倒的多数を持っているわけですけど。大統領選挙じゃなくて、議会選挙でも共和党が力を失うと、本当にアメリカは変わりますよね?
(町山智浩)変わりますね。だから今回、トランプによって共和党が腑抜けであることが判明してしまったので。っていうか、予備選で16人いたんですね。トランプを入れて。それで、他の15人が全員トランプに敗退したんですよ。それは、共和党の内部でトップ15人の政治家に人気がなかったっていうことが判明してしまったんですよ。ひとつの政党のトップから16人が全く人気がなかったら、その政党って成立すると思いますか?
(久米宏)……
(町山智浩)成立しないんですよ(笑)。
(久米宏)いまは大統領が民主党で議会は共和党でしょ? ヘタしたら、トランプが大統領になったら、大統領が共和党で、議会は民主党に?
(町山智浩)民主党になると思います。そうなったら、完全に機能しなくなるでしょうね。アメリカっていう国自体が。大変なことになると思いますね。
(久米宏)そういう意味でも、歴史的な選挙っていうことですね。
(町山智浩)歴史的な選挙だと思いますね。二大政党制の崩壊とかいうことと結びついてくると思います。
(久米宏)あの、もう1個、第三の党ってありますよね? ジョンソンとかなんとかいうやつが。
(町山智浩)ああ、はいはいはい。リバタリアンの。
(久米宏)あれが通るってことは、ありえないんですよね?
(町山智浩)まあ、ありえないと思いますけどね。でも、アメリカって何度も第三党が票を伸ばしたことはあるんですけど。ただ、トランプ自体が第三党みたいなもんですよね。
(久米宏)そうですよね。共和党員じゃないし。
(町山智浩)そうなんですよ。共和党員じゃないんで。もともと。
(久米宏)変なんですよ。もともと泡沫ですから(笑)。そういう人だから、わけがわかんないって言えば、わけがわかんないんですけど。
(町山智浩)これは面白いですよ。アメリカっていう国が、南北戦争の前から始まっている二大政党制でずっと来たのが、もうとうとう終わって、転換期に入ろうとしているんだろうなと思いますね。
(久米宏)日本のマスコミと違って、アメリカの新聞社とかテレビ局って割と共和党色とか民主党色とか鮮明ですよね。「FOXテレビは右だ!」みたいなね。日本はみんなわけわからなくなっちゃってますけども。その変、どうですか? アメリカのマスコミは。
マスコミと大統領選挙
(町山智浩)アメリカのマスコミも崩壊していますね。FOXテレビはちょうど共和党大会の時に社主、CEOのロジャー・アイレスっていう人がセックススキャンダルで、セクハラで退任しましたので。で、FOXは完全に選挙戦からほとんど引いている状態になりましたね。それで、ブッシュ政権を作ったのはFOXテレビと言われているんですよ。FOXニュースが徹底的にブッシュを押していって。で、成立させて、しかもイラク戦争への世論も作っていったんですね。で、FOXと共和党の二人三脚による大政翼賛的なものがブッシュ政権を支えていたんですけども……セクハラというとんでもない事態によって一気に崩壊しましたね。はい。
(久米宏)どうなんですか? クリントンとトランプで、アメリカのマスコミはどういう風に対応しているんですか?
(町山智浩)いま現在、もう右派テレビの方は誰も応援できない状態なので非常に困りきっているという感じですけどね。
(久米宏)右派の主張はしているんだけど、具体的に名前を出せないみたいな?
(町山智浩)そうそうそう。トランプを支持するわけにはいかないっていうか、右派のテレビとかラジオはトランプをなんとか、途中で蹴落とそうとしていたんですよ。予備選の中で。ところが、失敗したんですよね。でも、じゃあ誰を出すのか? 誰を押すのか? それがないんで、どうしようもないから。だから、ヒラリーを攻撃してはいるんだけど、じゃあトランプに投票するのか?っていうと、それも積極的には言えねえなっていう、非常に困った感じになっていますね。
(久米宏)まあ左とは言わないけど、リベラルのグループはどうしているんですか?
(町山智浩)リベラルのグループはずっとバーニー・サンダースという民主党の中の非民主党の社会主義者の人を推していたんですけども。それもバーニー・サンダースが出なかったんで、まあ、「でも・しかヒラリー」みたいな感じ。だから今回、マスコミもどうしたらいいかわからない(笑)。
(久米宏)それは盛り上がらないし、国民は選択に困りますよね?
(町山智浩)選択に困りますね。でも、やっぱりずっとあった政党とイデオロギーと企業とマスコミとの結びつきがバラバラになっていくという状態だと思います。まあ、アメリカは再編成されるんでしょうね。今回のバラバラの後に。
(久米宏)さっきも州によっては、選挙運動してもしょうがない州はやらないんだっていう話がありましたけど。カリフォルニア州はやっぱりリベラルで固まってはいるっていう? ブルーの色になっているという。
(町山智浩)はい。大統領選においては完全にヒラリーなんですけども。ただ、うちの近所のバークレーあたりでは、もうバーニー・サンダース支持者が多かったですね。だから、ヒラリーだったら投票にも行かないかっていう人も多いですね。はい。
(久米宏)イギリスあたりだと、賭け屋が活躍する事態になっていると思うんですけども。
(町山智浩)はいはいはい(笑)。ブックメーカー。
(久米宏)アメリカでは賭けみたいなのはないんですか? どっちだ?っていう。
(町山智浩)ブックメイキングはアメリカにいても、一応賭けることはできるんですよね。イギリスでやっているやつにね。
(久米宏)日本でも賭けられますけども。
(町山智浩)世界中、賭けられるんですけども(笑)。あれ、でもいろいろ問題があると思うんですけども。まあ、そういう賭けてる人もいますよね。ただ、賭けでは一応ヒラリーが強い、勝つと見られてますけどね。賭け、ブックメイキングにおいては。
(久米宏)常識的に言ったらヒラリー・クリントンが勝つと思うんです。ただ、今回の選挙は常識が通用するか?っていうことだと思うんですよ。
(町山智浩)はい。そう思います。まあ、とにかく外国や外国系の人を憎むということをトランプは押し出して。憎しみで選挙をしようとしているので。
(久米宏)だって自分だって移民じゃないですか。元をただせば。
(町山智浩)もともと移民なんですよ。彼もね。
(久米宏)アメリカはみんな移民ですけども。
(町山智浩)アメリカは移民じゃない人は先住民だけになっちゃんでね(笑)。しょうがないんですけども。ただ、まあ先に来た人が後の人を差別するっていうのは昔からアメリカのやっていることなんですよね。まあ、KKKもそうですからね。
(久米宏)どこが面白いんですか? アメリカっていう国は?
(町山智浩)いや、そういうめちゃくちゃなところが。むき出しな感じですよね。日本みたいに曖昧じゃないところかな?
(久米宏)正直。オネストな。
(町山智浩)正直なところですかね。だから、テレビでアナウンサーであるとかコメディアンが自分の支持する政治家の話をしたり。あと、政治家のことを徹底的に叩いたり。「あいつは絶対に許さない!」っていう形で。それも全部ギャグにして言っていったり。あと、政治家の真似をする人たちがすごく多いですしね。そのへんははっきりしていて、面白いですね。歌手なんかもそうですよ。歌ではっきりと歌を歌いますよ。特定の政治家に反対する歌であったり、賛成する歌であったり。
(久米宏)日本にたまに帰ってくると、あまりのぬるま湯で気持ち悪くなりません?
(町山智浩)あまりのぬるま湯ですね。ワイドショーとか見ていると、どんなに政治的にいろんなことが問題になっていても、誰かの下半身のこととか殺人事件が重要ですね。で、実は国自体の非常に大事な憲法とかにかかわる問題があったとしても、ワイドショーではやらない。なぜなら、ワイドショーでコメントをしている人たちはお笑いの人たちだからっていう状態がありますよね。はい。
(久米宏)うん。
(町山智浩)あと、非常にモラル的に逸脱した人を徹底的に叩くんだけど、それよりも大事なことがあるだろう? みたいなところがありますよね。マリファナを誰がやったとか、どうでもいいだろう?って。アメリカなんか、マリファナやり放題だから、誰もなにも言わねえよ! 道端でやってるよ! そんなの、どうでもいいわ!って思いますけどね。はい(笑)。
(久米宏)本質のことがあまり話し合われずに、あまりにも枝葉末節ばっかりが話題になっている。この国は。
(町山智浩)そうなんですよ。だからワイドショー……アメリカもワイドショーはあるんですけども。アメリカのワイドショーはそれこそトランプを呼んできて、「その髪の毛、どうなってるの?」ってこうやって引っ張ったりしますけどね(笑)。
(久米宏)(笑)
(堀井美香)おかしい(笑)。
(町山智浩)そういうことをやったりしない……まあ、お笑いですからね。アメリカもだから、お笑いなんですよ。司会者の人たちはワイドショーとかもみんなお笑い系の人たちですけど。ただ、ものすごい過激ですよね。もう、徹底的にやりますよね。
(久米宏)過激?
(町山智浩)過激ですね。
(久米宏)日本人、おとなしいですねー。
(町山智浩)おとなしいですね。あれ、やるとやっぱり政治家を支持している人から嫌われちゃうからやらないっていうところはあるんでしょうね。ただ、お笑いだからなんでもやってもいいんだというところで、やっぱりそのへんはね、アメリカの方はお笑いは許されるっていうところがあるんですよ。「Joker’s Wild」っていう言葉があるんですけど。アメリカとかヨーロッパでは、道化師は王様をどんなにけなしてもよかったんですよ。宮廷では。
(久米宏)なるほど。
(町山智浩)それが伝統としてあるんですよね。
(久米宏)よし、がんばろうね。番組(笑)。
(堀井美香)(笑)
(久米宏)お疲れのところ、ありがとうございます!
(町山智浩)いえいえ。
(久米宏)原稿のゲラチェックしながらだから、大変なんですよ(笑)。
(堀井美香)ありがとうございました。今日のゲストは映画評論家、コラムニストの町山智浩さんでした。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
<書き起こしおわり>