大石始と宇多丸 音頭じゃないのに盆踊りで使われる音楽ベスト5

大石始と宇多丸 音頭じゃないのに盆踊りで使われる音楽ベスト5 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

さあ、いよいよ盛り上がってまいりました。ボニー・Mまで出てしまったら、この後はどんな曲が出てくるのか? 音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ、栄光の第二位は、こちらです!

第二位 チェッカーズ『ギザギザハートの子守唄』

(宇多丸)なんでだよ!

(大石始)ですよね(笑)。

(宇多丸)チェッカーズ『ギザギザハートの子守唄』。1983年発売、チェッカーズのデビューシングル。言わずと知れた曲でございます。いよいよディスコですらなくなってきましたよ。

(大石始)ディスコですらないんですよね。

(宇多丸)どういうことなんでしょうか?

(大石始)はい。で、これが踊られているというのが、ブラジルです。

(宇多丸)ん? ブラジル?

(大石始)ブラジルの日系人コミュニティーの中でですね、「マツリダンス(Matsuri Dance)」というカルチャーがあって。マツリダンスっていうのはどういうものか?っていうと、たとえばDJオズマとか、ORANGE RANGEとか、そういう曲に合わせて日系3世とか4世の子たちが和太鼓をその上に乗っけて、それで同じ振り付けで踊るという新しいカルチャー。マツリダンスっていうカルチャーが。

(宇多丸)へー! J-POPに乗せて。

(大石始)そうです。そうです。だからまあ、3世とか4世の方々なので、中には日本語も全くしゃべれない、日本にも行ったことがないという。まあ、そういう人たちがそういうマツリダンスっていうカルチャーをいま、どんどん大きくしているんですね。

(宇多丸)へー! えっ、振り付けってどういう振り付けなんですか?

(大石始)まあちょっとパラパラっぽい感じでもあるんですけども。このマツリダンスの『Roots Of Matsuri Dance』っていう曲があって、これがもうこの『ギザギザハートの子守唄』なんですね。

(宇多丸)えっ、えっ? 別名『Roots Of Matsuri Dance』?

(大石始)はい。『Roots Of Matsuri Dance』。もうみなさんご存知だと思うんですけども。

(宇多丸)いやいやいや(笑)。びっくりしましたけど。マツリダンスの魂のルーツと言えばこちら! 『ギザギザハートの子守唄』!

(大石始)そうです。

(宇多丸)これはどういうことなんだろう?

(大石始)これがですね、ブラジルのパラナ州っていうところがあって、そこのロンドリーナという大きな日系人コミュニティーがあるところがあるんですけども。そこの日系3世、4世の若者たちがこの『ギザギザハートの子守唄』で、これもまた炭坑節の振り付けで踊り始めたらしいんですね。

(宇多丸)ほー。

(大石始)で、それはもともとやはり自分の両親とかおじいちゃん、おばあちゃんの世代が盆踊りを踊っていて。恐らくそのオリジナルの炭坑節とかを踊っていたと思うんですけども。それの子供たちとか孫になると、やっぱり自分たちの新しい音楽で踊りたい、新しいものをやりたいということだったと思うんですけども。かと言って、どうやって踊っていいかわからないので、炭坑節で踊ってみたと。

(宇多丸)ああー、とりあえず合わせてみた。乗せてみた。

(大石始)で、そっからどんどん発展して、いまDJオズマとかORANGE RANGEとか、いろんな曲に発展しているということらしいんですね。

(宇多丸)へー! この『ギザギザハートの子守唄』で踊り始めた時期ってだいたいどんぐらいだったんですか?

(大石始)ええと、これは1990年代だったと思いますね。

(宇多丸)これ、ねえ。90年代にしてなぜこの選曲だったんですかね?

(大石始)それもね、たぶん選曲を「この曲でやろうぜ!」って言った3世か4世のロンドリーナの若者がいたと思うんですが。その人が新しいカルチャーをどんどん作ったと。

(宇多丸)でも想像するに、やっぱりそのおじいちゃん、ひいおじいちゃんたちのルーツにつながるものっていう意識で選んでいくと、この曲のちょっと演歌メロディーというか。向こうから見ればすごくアジアチックなメロディーに聞こえるだろうから。

(大石始)そうなんですよね。あと、この歌ってよく聞くと七五調なんですよね。だから、歌のリズムがある意味音頭に合うというか。

(宇多丸)ああー、そうか。じゃあ炭坑節とかを乗せても合うかもしれないと。なるほど、なるほど。

(大石始)だからそれをもしかして、無意識のうちでこの曲をセレクトした人はかなりの天才だと思いますね。

(宇多丸)たしかに、たしかに。しかし、大石さん。これって感慨深いんじゃないですか? だって世界のいろんなダンスカルチャーみたいなのを追っていった中で、グルッと回ってつながっちゃったよ! みたいな。

(大石始)そうそう。音頭でつながるっていうね。いや、本当そうなんですよ。感慨深いんですよ。本当に。

(宇多丸)えっ、でもそのマツリダンスっていうシーンがまた興味深いですね。これね。

(大石始)そう。これね、まあ「Matsuri Dance」ってYouTubeとかで検索していただくと、もう膨大な数の動画が出てくるんですけども。結構すごいですよ。もうスタジアムでグワーッ! とか盛り上がっていたりとか。

(宇多丸)えっ? そんな規模なんすか?

(大石始)もう数万人。

(宇多丸)えっ、そうなの? 小さな日系人コミュニティーとかじゃないんだ。

(大石始)もうすごいことになっていますよ。本当に。

(宇多丸)全然レイヴだ。ああ、そう。

(大石始)レイヴです。

(宇多丸)これは映像がまたあるんですか? これは。

(大石始)ですね。これはマツリダンス。あと、これは恐らくその日系人の団体だと思うんですけど。「Kyoushin」ってアルファベットで入れていただくと、YouTubeで引っかかるものです。

(宇多丸)ルーツ・オブ・マツリダンスの様子を……

(大石始)はいはい。

(宇多丸)まあ、和太鼓が置いてありますね。で、割と男女が、これは体育館みたいなところで。えっ? すげえ。結構めんどうくさい踊りをしてますけども。あれっ?

(大石始)これで始まって。

(宇多丸)ああ、これだ。でもさ、手の手刀を作ってシャッシャッていう動きと、ちょっとクイッとおじぎをするような動きと、パパンパパンって、やっぱり見よう見まねかもしれないけど盆踊り感みたいな。

(大石始)そうなんですよ。あと実際に炭坑節の、スコップで地面を掘るアクションっていうのもちゃんと残っているんですよね。

(宇多丸)ああ、そうかそうか! そういうことか。スコップか。いいね。これはそれがちゃんと残っている感じがグッとくる感じですね。これ、でもさ、実質踊られている人数から言えばナンバーワンじゃないの? じゃあ、そのね。

(大石始)まあ、そうなんですけども。ある意味またこれを超える衝撃度のがありまして。

(宇多丸)じゃあ一位はそちらということで。行かせていただいてよろしいでしょうか? じゃあルーツ・オブ・マツリダンスを超える音頭の曲じゃないのに音頭で使われている曲ベストヒッツ、記念すべき第一位は、こちら!

第一位 『とんちんかんちん一休さん』

(宇多丸)なんでだよ! はい。アニメ『一休さん』主題歌、『とんちんかんちん一休さん』(笑)。1975年から82年まで放映されたテレビアニメ、ご存知『一休さん』の主題歌。レコード売り上げミリオンセラーを超える大ヒット曲ということでございます。私もそりゃあもう、リアルタイム世代でございますので。しかし、もうなんだかわからない。

(大石始)ですよね(笑)。

(宇多丸)なんでしょうか、これは?

(大石始)これはですね、この間に行われた神奈川県横浜市鶴見区の総持寺というお寺さんがあるんですけども。そこで今年、69回目を迎えた御霊祭り盆踊り大会というのが毎年7月17日から19日まで行われるんですね。で、そこで踊られているのが、いろいろな歌が踊られるんですけども、いちばん盛り上がるのがこの『一休さん』なんですね。

(宇多丸)(笑)。いちばん盛り上がるのが?

(大石始)いちばん、もうめちゃくちゃ盛り上がるんですね。

(宇多丸)もちろん、結構ちゃんとしたと言っちゃあれですけども、ちゃんとした盆踊り大会で?

(大石始)そうです。そうです。

(宇多丸)大規模ですもんね。

(大石始)そうなんです。で、その総持寺というのも、曹洞宗の本山で非常に由緒正しいお寺で。で、櫓があって、総持寺の広大な駐車場の真ん中に大きな櫓を立てて。そこの周りを踊りの輪が作られるという形なんですけども。その櫓に上がっているのが、修行僧の人たちが上がっているんですね。

(宇多丸)ほうほうほう。

(大石始)で、その修行僧の人たちがめちゃくちゃ煽りまくると。

(宇多丸)ああー! 修行僧たちにとっての、もう俺たちのアンセムっていうか。

(大石始)ですね。で、これがですね、この間も僕、取材に行ったんですけども。もう盛り上がり方がちょっと尋常じゃなくてですね。で、まあその撮影したものがありまして。

(宇多丸)これ、大石さんが撮影してきた映像ですか? これ、僕がいま拝見できるのは。ちょっとじゃあ、すいませんね。拝見しますよ。

(大石始)はい。

(宇多丸)あ、これは音声つきでございます。結構巨大な会場ですね。

(大石始)そうなんですよ。これ、最後の最後ですね。エンディングの、これで終わるぞ!っていう。

(宇多丸)まさに、ザ・アンセム。えっ……(爆笑)。ああっ、すげー! えっ、なんて言ってるの?

(大石始)「ほっぺ、ほっぺ」。

(宇多丸)ほっぺ? ええーっ! すごいな!(笑)。

(大石始)(笑)

(宇多丸)この、なんて言うんですか? いままでの他の祭と比べても、踊りのその規模とか盛り上がりぶりもさることながら、いま衝撃的だったのがコール・アンド・レスポンスっていうんですかね? これがすごいじゃないですか。

(大石始)完璧ですよね。

(宇多丸)出来上がっている。

(大石始)で、来ている人たちももう完全にわかって来ていますよね。

(宇多丸)そうですね。しかもそれが曲に合わせたコール・アンド・レスポンスじゃなくてさ、アイドルのミックスって途中で。あれみたいに、なんか勝手に唐突なことを言ってるじゃないですか。「ほっぺ、ほっぺ」とか。

(大石始)でもね、「ほっぺ」っていうのは動きなんですね。だからその修行僧のリーダーが「ほっぺ、ほっぺ」って。

(宇多丸)ああ、そうかそうか。すごいよ、このレスポンス!

(大石始)めちゃくちゃすごいですよ。盛り上がり方が。

(宇多丸)こんな盛り上がっているライブ、ないよ!(笑)。ええーっ! ああ、そうなんだ。ええと、こちらは「総持寺 一休さん」。こちらの検索で出てきます。2015、2016。今年版も出てくるという。

(大石始)そうですね。

(宇多丸)恐ろしいわー。

(大石始)で、これでかなり盛り上がっているので、ある年はもう盛り上がりすぎて中止になった時もあるらしいんですね。

(宇多丸)(笑)。『一休さん』で?

(大石始)やりすぎちゃって。だからこの修行僧のリーダーの人たちも非常に、これでもコントロールしながらうまーく進めているわけです。

(宇多丸)マイクロフォンコントロールしているわけだ。

(大石始)そうなんです。危なく盛り上がりすぎるなっていうと、ちょっと落ち着かせる感じがあったりとか。途中でトークがあって、「曹洞宗の総本山である永平寺さまはどこにあるか、ご存知ですか?」みたいな話をしたりとか。そこらへんがちょっと、普通の野外フェスとは違うところで。

(宇多丸)でも、MCですよ。マスター・オブ・セレモニーですね。

(大石始)もう見事なコントロールでしたね。素晴らしいです。

(宇多丸)この盛り上がり。すごいですよね。N.W.A.とかじゃないですよね?(笑)。

(大石始)(笑)

(宇多丸)『一休さん』で盛り上がる(笑)。すごいな! 全く知らなかったですわ、これ。いやー、ちょっと驚きのシーンでございました。ということでこれね、リスナーのみなさまからもちょいちょい来てるのがあるのかな? 一通だけ、行きましょうか。(メールを読む)「宇多丸さん、こんばんは。今回、本来は音頭じゃない曲で盆踊りに興じるという謎の文化について語るということで、ついにあれを投稿するタイミングが来たと思い、メールを送ります。私の住む兵庫県伊丹市では、昭和50年ごろから田中星児さんの『ビューティフル・サンデー』で踊るという文化がついております。あの『ビューティフル・サンデー』に合わせて太鼓を叩き、みんなが踊るのです。盆踊りになった経緯は当時、伊丹市内の病院で働いていた研究医の方が余興のために作ったのが由来だそうですが、途中で腰をフリフリする独特なものです」というね。こちらも映像が見れたりするということかな?

(宇多丸)はい。ということでございます。田中星児さんご本人が登場して、今年は7月31日にやったなんていう、そんな情報も来ているということで。

(大石始)すごいですねー。

(宇多丸)日本人、やりますねー!

(大石始)いやー、やりますね。

(宇多丸)本当、大石さんのこの『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』という著書と合わせて読んでも、日本人、全然さ、本当パリピっすよね!

(大石始)いやー、そうなんですよね。

(宇多丸)つくづく思う。

(大石始)根っからのパリピだと思いますね。本当に。

(宇多丸)いや、でも本当にそう思いますね。しかも、なんか割と思ってるよりもその、伝統みたいなところに別に縛られているわけでもなんでもなく、割と好き勝手にめちゃくちゃな文化を生み出しているっていう意味で……

(大石始)いや、そうなんですよね。だからさっき、裏でフクタケさんとも話をしていたんですけども。やっぱり音頭って、本当に音楽の様式とかじゃなくて、もうスピリットとかアティテュードみたいな、そういうものにもなっているんじゃないかな?っていう感じがしますよね。

(宇多丸)本当、そうですよね。まさに、ルーツ・オブ・マツリダンスじゃないけど。なんかそういうのがつながってさえいれば……みたいな感じの力強さを感じます。さあ、ということで大石さん、最後にちょっと告知をお願いします。

(大石始)はい。『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』、発売中ということなんですけども。あとですね、この本の出版記念イベントを8月13日(土)に浅草のカフェ村のバザールというところでやります。

(宇多丸)はい。

(大石始)で、僕の撮影してきたお祭りの映像であるとか、あとアラゲホンジという非常にかっこいいバンドのライブがあったりとか、やりますんで。このへんの詳細は旅と祭りの編集プロダクションB.O.Nという自分がやっているプロダクションのホームページのブログに書いてありますんで、チェックしてみてくださいという感じでございます。

(宇多丸)もう旅行もしながら、取材もしながら文章も書いて。大変ですね、本当ね。あと、もちろん昨年のね、『ニッポン大音頭時代:「東京音頭」から始まる流行音楽のかたち』。こちらもね。

(大石始)ありがとうございます。そして雑誌『サイゾー』で『マツリ・フューチャリズム』という連載もいまやっておりますので。そちらの方も、『ダンシング・ヒーロー』のこととかを書いています。

(宇多丸)はい。ということで、素晴らしかったです。もう、びっくりしました。目からウロコ落ちまくり。衝撃を受けまくりの特集でございました。ありがとうございます。今年もライド・音頭・タイム。音頭最前線2016でした。大石さん、そしてフクタケさん、ありがとうございました!

(大石始)ありがとうございま下。

(宇多丸)また来年、よろしくお願いします!

<書き起こしおわり>

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