宇多丸 ア・トライブ・コールド・クエスト ファイフを追悼する

宇多丸 ア・トライブ・コールド・クエスト ファイフを追悼する 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

宇多丸さんがTBSラジオ『ウィークエンド・シャッフル』で、亡くなったア・トライブ・コールド・クエストのラッパー、ファイフ・ドーグを追悼していました。

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ATCQさん(@atcq)が投稿した写真 –

(宇多丸)いまね、ちょうど春にもなってきて。この間、ちょうど今日の特集のためにですね、上野の東京国立博物館に出かけるのに上野公園なんか行ったら、まだ桜は全然咲いてないんだけれども、でも、もうその花見のセッティングは済んでましたね。結構寒い中、人が集まってきて。だんだん春っぽくなってきて。「寒いかな? 熱いかな?」で言うとまだ寒いんだけれども、本当に本格的に春になってきたそんな盛りにですね、ちょっと悲しいニュースが飛び込んで来まして。

僕、本業はヒップホップグループ。日本でラップをやっているわけですけど。で、様々なね、アメリカのラッパーとかヒップホップグループに影響を受けてやっているわけなんですけど。その中でもですね、特に影響を受けたというか。まあ、たとえばアルバムを聞いた回数で言うといちばん多いんじゃないかというグループ、ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)というグループがいまして。

以前、このア・トライブ・コールド・クエスト、ドキュメンタリー映画の話をしましたね。タイトル『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ~ア・トライブ・コールド・クエストの旅~』というドキュメンタリー。以前、しましたね。2年ぐらい前かな? アップリンクかなんかでやっていたんですよね。

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で、その中でどんな話をしたか?っていうと、特にア・トライブ・コールド・クエスト。非常に、90年代を中心に活躍して。80年代末から90年代前半ぐらいが全盛期だと思うんですけど。本当に、音楽シーン全体に多大な影響を与えたグループなんだけれども。

ラッパーが2人いて。そのうちQティップ(Q-Tip)っていうのは本当に伊達男。超モテ男。もう、めっちゃめちゃかっこいいし。ラップも渋くてですね、まあ、わかりやすいスターラッパーなわけですね。で、それに対してもう1人、ファイフ・ドーグ(Phife Dawg)というラッパーがて。で、こっちはどっちかって言うと、ちんちくりんと言うかね。本当に、ちんちくりんなんです。で、割と高音で、攻撃的な感じのラップをするタイプで。

で、ファーストアルバムではQティップだけがラッパーとしてフィーチャーされている感じだったんだけど、セカンドアルバムからこのファイフ・ドーグの割とストリートっぽいっていうか、攻撃的なラップみたいなのがフィーチャーされることで、さらにア・トライブ・コールド・クエスト。音楽的にはもちろんのことなんですけど、グループとして評価を高めたという経緯があるんだが……ありながら、やっぱりこのスター、Qティップに対するファイフというので、どうしてもね、影に隠れがちというところがあったんでしょうか。この『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ』というドキュメンタリーの中だと、だんだん仲違いしていってしまう過程というのが描かれて。

で、僕なんかも長くグループをやってますんで、そういうので、なんかそういう時にひがんじゃったり。あと、よくあるのが、周りが焚きつけたりするんですよ。「お前、いつまで影にいて、我慢できるんかよ?」みたいなね、そんな周りのフッドのやつらの焚きつけなんかもあったりするんでしょうけど。とにかく、グループを長く、僕も続けている身からすると、「ああ、そういうところでこじらせちゃダメなんだぞ」って。「僕らは逆にそういうところでちゃんと上手く舵を切れたからよかったかな」とかね。そんなことをすごくね、思わせられる素晴らしいドキュメンタリー。『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ』というのがあった。

まあ、ア・トライブ・コールド・クエスト、もし作品をご存知ない方でもですね、この作品を見れば、グループとしてのすごさがわかる作品なんですけど。そのファイフ・ドーグさんがですね、アメリカ時間の3月23日。亡くなっていたことが明らかになったと。享年45才ということで、僕より年下なんですけどね。まあ、ラッパーとしてはでも、かなり歳な方です。もはや現役ではなかったんですけど。死因についての公式発表などはないんですが、その映画の中でも、あれ、腎臓だっけ?なんかすごく悪くして、本当に大病をして……

あ、糖尿病か。で、もう本当に危ないぐらいのところまで行って、入院したところにずっと不仲で連絡がなかったQティップから連絡が来て……みたいなくだりがあったりなんかしましたけどね。だから、あんまり身体は強くなかったのか。まあ、病気療養をずっとしていたなんて話もあるみたいですが、亡くなられたっていう話が。最近ね、ラッパーと言えばバンクロール・フレッシュ(Bankroll Fresh)っていう若いラッパーが、これはアトランタのスタジオで撃たれて死んじゃったというのがありましたけども。

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こっちは言っちゃえばまあ、病気で死んじゃったということで全然違うんだけど。「ああ、亡くなっちゃたか……」っていう感じですね。そのドキュメンタリーの中で、放送の時には言わなかったんだけど。すごい素敵な幕引きなんですよ。これが。要は、すごく仲悪く。一時期は本当に仲悪くなっちゃって、もう全然連絡先もお互いしらないぐらいの仲だったのが、病気をきっかけに連絡を取り合うようになって。で、再び元のメンバー。アリ・シャヒード(Ali Shaheed Muhammad)というDJと3人で、再びア・トライブ・コールド・クエストとしてツアーに出ようじゃないか、というぐらいの手前で映画が終わるんだけど。

「練習をしよう」っていうので集まるところなんだよね。最後の場面が。で、アリが曲をかけてですね、最初はちょっとよそよそしい感じなんですよ。やっぱり、ちょっと気まずさがまだ残っているような。Qティップとファイフが。ちょっと距離感があるような感じなんだけど、ずっとカメラが見ていると、曲に合わせて体をこう、揺らしはじめて。ライブに備えていくんだけど。体を揺らすのが、動きがだんだん2人とも振り付け的に、だんだん動きが一致してきて。こう、なってくるんですよ。これがすごい見ていて、「ああっ、グループだ! グループ、いいな!」みたいな感じがすごいする、素敵なエンディングがあったり。

まあ、そんなのもあって、「トライブ、これからまたやったりしないかな?」なんていうのもあったところだったので、非常に残念なことでございます。ということで、ア・トライブ・コールド・クエストの曲をまたかけようかなと。そのドキュメンタリーの話をした時も、これ、同じ曲をかけたんですけど。やっぱりでも、ファイフ・ドーグ追悼で何か曲っつったら、僕はやっぱりこれかな? という風に思っています。

というのは、この1991年のア・トライブ・コールド・クエストのセカンドアルバム『The Low End Theory』。これ、本当に出た時の衝撃はいまも忘れられないなー!『The Low End Theory』っていうぐらいで、とにかく低音使いというか。ヒップホップにおけるミックス技術っていうんですかね?ダイナミックレンジをきっちり活かしたですね、非常に高度なミックス技術みたいなのも、これで画期的にヒップホップ全体の音が良くなったというかね。なんだけど、それに加えて、本当に斬新な音作りで。もうみんな衝撃を受けたんですけど。

その中でも、『Buggin’ Out』という曲があるんですけど。そのド頭がいきなりファイフのヴァースなんですよね。だから、ア・トライブ・コールド・クエストと言えばQティップ! Qティップ!ってやたらそればっかり言われがちだったわけですよ。当時の輸入レコード屋なんかのポップでも……いや、俺、それを見てすごい頭に来たんですけど。そのポップで、「Qティップの声しか印象に残っていませんが(笑)」みたいなことが書いてあって、「ふざけんなよ! セカンドはどう考えてもファイフの魅力がものすごく大きいじゃん! なにもわかってねえな!」みたいな、超頭に来たりしていたんですけど。

まさにそれを世界に向けて証明したというかね。出だしの「Yo, microphone check one, two, what is this?」。この出だし、非常に有名なパンチラインとなっております。ということで、お聞きください。ア・トライブ・コールド・クエスト、91年の曲です。『Buggin’ Out』。

A Tribe Called Quest『Buggin’ Out』

はい。ということで、ア・トライブ・コールド・クエスト、セカンドアルバム『The Low End Theory』。当時、CDというかお皿にプレイし始めて、この曲が流れ始めて。もうみんなぶっ飛んだというですね、『Buggin’ Out』。特にファイフのド頭のヴァースがクラシックヴァースとして残っております。ファイフ・ドーグ追悼としてかけさせていただきました。ア・トライブ・コールド・クエスト、まあこのセカンドアルバムも素晴らしいですし、その次の3枚目の『Midnight Marauders』。これも名盤中の名盤ですし。

で、その後ね、Qティップという人はトラックも作る。まあ、そういう意味でスター。本当に素晴らしい才能。天才なんですけど。Qティップがそのいわゆる元ネタのレコードがいっぱいあった家が火事になっちゃってですね。元ネタのレコードが焼けてしまって。ところがその後、Jay Dee(J Dilla)というですね、さらに若手のトラックメイカーと組んで、さらに新しいサウンドメイキングでもう一時代築いてしまう。まあ、そのJ Dillaもね、後になくなってしまったりするわけなんですが。

という、まあモンスターグループ、ア・トライブ・コールド・クエストということでございました。ファイフ・ドーグ、ご冥福を日本からもお祈りしたいと思います。

<書き起こしおわり>

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