合唱マニアの安住紳一郎さんがTBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』の中で2016年の卒業式で歌われるお別れの合唱曲の最新のトレンドを紹介していました。
(安住紳一郎)さて、中学校の卒業式は先週行われたところが多かったようですが。北関東、群馬、栃木、茨城は9日、10日だったと聞きましたけども。東京の区立、市立は中学校が18日の金曜日。小学校は今度の24日の木曜日と25日の金曜日に卒業式が結構まとまってあるみたいですね。
(中澤有美子)ふーん。
(安住紳一郎)高校は3月1日とかが多いんですかね?体育館にイスを並べて、卒業証書授与式ですか。在校生や卒業生、また先生方が参加して、一緒に歌を歌って、別れに涙をするということですが。前もお話しましたが、年代によって歌う曲がずいぶんと変わってきていますねということは、お伝えしていますが。
(中澤有美子)ええ、ええ。
(安住紳一郎)いちばん顕著なところで言いますと、いまちょうど30才。いま、30才の人は1985年生まれですか。昭和60年生まれの人がいま30才。いま、30才の人を境に感覚が両側で決定的に違うということはお話しました。そして、「注意が必要だ」ということは再三、お伝えしてきたはずです。どういうことだったか、覚えてらっしゃいますでしょうか? 「卒業ソングのルビコン川・分水嶺」って言われてますね。
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)「奥羽山脈」とも言われてますけども。本当に、30才を境に30から上。私も30から上の世代ですが。30から上の世代と30から下の世代ではもうパックリ、「外国人か?」っていうぐらい違いますから。当然、30より上のみなさんは卒業生のお別れソングと言いますと、『蛍の光』と『仰げば尊し』の二択ですね。ただ、30より下の方は、これ『旅立ちの日に』の一択になるわけですね。
(中澤有美子)おおー。
30才より下は『旅立ちの日に』一択
(安住紳一郎)そして、私、以前5年ぐらい前にもこの話をしたんですが。その時は、『蛍の光』や『仰げば尊し』を『旅立ちの日に』が追いやって、ついに抜いてトップに立ったというところまでお話しましたが、この5年でさらにその現象が進みまして。完全に『旅立ちの日に』が前の2曲を駆逐しました。完全になくしました。
(中澤有美子)そうですかー。
(安住紳一郎)伝統的に意図して選んでいる場合や、私立などを除けば、『蛍の光』や『仰げば尊し』はいま、ほとんどありません。
(中澤有美子)そうなんですね。へー!
(安住紳一郎)私の地元の管内、中学校が50校あるんですが。その中学校50校の中で、『蛍の光』と『仰げば尊し』を歌った学校は今年、1校もなかったらしいです。
(中澤有美子)そうですか。
(安住紳一郎)なので、もうみなさん、おわかりですよね。いまの若い人たちは、お別れの時に『蛍の光』を聞いても何も感じませんので。「えっ、なんですか。スコットランド民謡ですか?」ってことになっちゃうわけなんですね。なので、将来スーパーとかデパートの閉店のお知らせは『蛍の光』ではなく、『旅立ちの日に』が流れると言われているんですね。
(中澤有美子)ああー、そうだー(笑)。「早く出なきゃ!」って思わないもん。
(安住紳一郎)そうですよね。なので、30より上の世代。聞いてますか?みなさん。30より上の世代ですよ。
(中澤有美子)はーい。
(安住紳一郎)私たちの40代。それから50代のみなさん。それから、60代。団塊の世代の70代、80代、90代のみなさんは、「若い人の歌はもう知らないよ」とか言ってないでですね、将来は『蛍の光』ではなくて、『旅立ちの日に』という曲がお店から流れると、「帰ってほしいな」とお店が伝えているということですから。それを理解してないと、「『旅立ちの日に』って何じゃ? ワシは知らんぞ」っていうことになりますと、なかなかね、閉店時間を理解しない嫌な年寄りという風に思われてしまいますから。
(中澤有美子)辛い(笑)。
(安住紳一郎)気持ちはわかりますよ。そんなね、若い世代には合わせたくないっていう気持ちはわかりますが、これは、覚えましょう。
(中澤有美子)そうですねー。
(安住紳一郎)私も3年くらい前に覚えました。ちゃんと歌えるようになりました。30才をすぎてから知った曲で歌える曲は、だいたい人間トータルで5曲未満っていう衝撃的なデータもあるんですよ。
(中澤有美子)そうなんですか?(笑)。
(安住紳一郎)そうなの。意外に人間はね、30までに覚えた歌で一生いけるらしいんですよ。
(中澤有美子)嘘、嘘!?(笑)。
(安住紳一郎)いや、実際に想像してごらんなさい。意外にね、歌える歌っていうのは30未満で覚えた歌ばっかりなんですよ。ねえ。私なんかT-BOLANとかさ、WANDSとか、もうずっと歌ってますから。
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)ずーっと歌ってますから。
(中澤有美子)リアル(笑)。
(安住紳一郎)30すぎてからね、覚えた歌できちんと歌えるのはだいたい人生残りのね、50年近い人生の中で、5曲くらいですって。
(中澤有美子)そうかも。もしかしたら。
(安住紳一郎)なので、なんとかデータの容量を整理して、この『旅立ちの日に』という曲をねじ込んでください! できれば、歌えるようにしてください。はい、お待たせしました。30より下のみなさん。「なに言ってんの、この人たち?」ってことになりますよね(笑)。
(中澤有美子)ごめんなさいね、本当に(笑)。
(安住紳一郎)ごめんなさいね。「はあ?」みたいな。もう、30より下のみなさんは『蛍の光』や『仰げば尊し』は知らない世代ですからね。「はあ? へっ? はー、なんですか? 自然賛歌の歌ですか? 蛍の…… ああ、そうですか。クールジャパンの歌ですね」なんつって。なってしまうっていうね。
(中澤有美子)そうなのか(笑)。
(安住紳一郎)はい。しかし、30より下のみなさんもうかうかしてられません。みなさんも『旅立ちの日に』という歌を大事にしているように、いま、小学生のみなさんですね。小学生のみなさんがこの『旅立ちの日に』に代わる歌を歌いたいというムーブメントが起きているわけですね。
(中澤有美子)ほー。
(安住紳一郎)うーん。10才、11才、12才。なんて言うんですか?ローティーンって言うんですか? ジュブナイルって言うんですか? よくわかりませんけども。そのみなさんですね。ハイティーンではない、ローティーンのみなさんですね。ええ。「ローティーンのみなさんが卒業式で歌ってみたい曲は何ですか?」という、そういうアンケートにですね、いきなり支持率26%。ダントツで頭を出してきたのが、『桜ノ雨』っていう歌なんですね。なんと、そのアンケートでは『旅立ちの日に』を上回っているんですね。
(中澤有美子)へー!『桜ノ雨』。
『桜ノ雨』が『旅立ちの日に』を上回る
(安住紳一郎)はい。もうね、40から上の世代はチンプンカンプンみたいな。「『桜ノ雨』が超えた曲はなんですか?もう一度……」みたいなことになっていると思うんですけど(笑)。いいですか。『旅立ちの日に』が来て、それをいま、超えようとしているのが『桜ノ雨』ということになります。
(中澤有美子)へー!
(安住紳一郎)私はこの『桜ノ雨』の曲を聞いた時に、おったまげました。正直、ジェネレーションギャップを人生でいちばん感じました。どういうことかと言いますと、この『桜ノ雨』という曲を歌っているのは、初音ミクなんですね。
(中澤有美子)へー。
(安住紳一郎)ボーカロイドですよ。どう驚いていいか、まだチンプンカンプンの方もいらっしゃると思いますよね。当然ですよ。
(中澤有美子)つまり、ねえ。実在……
(安住紳一郎)実在しないロボットが歌っているんですよ。音声合成技術ソフトっていうんですか? あの、よく電話とかで、「ただいまお預かりしているメッセージは、サンケン……アズミシンイチ……レイサン、ゴーゴーナナイチ、ア、ロ、です……』みたいな。そういう。
(中澤有美子)そうです。組み合わせ、組み合わせで。
(安住紳一郎)組み合わせ、組み合わせで歌っているわけですね。ええーっ? っていう感じですよね。
(安住紳一郎)もともと、合唱曲風に作られていたものを、ボーカロイドで公開して人気を博したという経緯もあり、人気の理由がうかがえるんですが。ローティーンのみなさんはこの、少し無機質に聞こえるボーカロイドの方が。まあ、無機質の中に自分の感情をいかようにでも溶けこませることができる。まあ、柔軟なというか、多感な。たくさんの情報を小さい時から持っているみなさんですから、逆にこっちの方が、ものすごく卒業の別れを乗せやすいんでしょうね。
(中澤有美子)へー!
(安住紳一郎)これなんだと。11才、12才の少年少女は、卒業式にこれを歌いたいんだということなんですね。もう、f分の1的なゆらぎはいらないわけですね。もう、自分でゆらいできますから。
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)もう、心根に最短距離で入ってくる感じっていうんですかね。ええ。近い感じですね。うん。合唱曲に編曲して、音楽の先生などがもうすでに小学校の卒業式でこの曲をみんなで歌っているということのようですね。
(中澤有美子)そうですかー。
(安住紳一郎)この歌の聞き所は、歌詞のいちばん最初。歌い出しですね。「それぞれの場所へ旅立っても友達だ 聞くまでもないじゃん 十人十色に輝いた日々が 胸張れと背中押す」っていう歌詞があるんですけども。
(中澤有美子)ええ。
(安住紳一郎)もうね、40代以上のみなさんは気になる点が、もうひとつありますよね。「聞くまでもないじゃん」っていう。「じゃん」なんですよ!
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)「じゃん」っていうのが卒業式で合唱曲でみんなで。「聞くまでもないじゃん」って歌うんですよ。
(中澤有美子)(笑)。そうですね。
(安住紳一郎)ちょっとね、違和感ありますよね。「へっ、卒業式でみんなで大きな声を出して『じゃん』って言っていいの?」みたいな。
(中澤有美子)そうですね(笑)。
(安住紳一郎)でも、11才からしてみると、「『いまこそ別かれめ いざさらば』。『さらば』ってなんですか? 誰か使ってるんですか?」とかね。「『明けてぞ今朝は』って、ええっ、時代劇ですか? おじゃる丸様ですか? なんですか!?」みたいな。
(中澤有美子)おじゃる丸(笑)。
(安住紳一郎)いや、たぶん12才からするとね、「えっ、なんですか? 『いざさらば』とか言って……自分の感情、乗せられるんですか? 安住氏、日常生活で『さらば』とか言うんすか?』みたいなことですよね。
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)それだったらまだ、「聞くまでもないじゃん」って言っている方が……っていうことだと思うんですよね。
(中澤有美子)本当だ(笑)。そうでしょうね。
(安住紳一郎)いや、たぶんね。「いざー、さらーばー♪」って。「さらば」?「おじゃる丸様! おじゃる丸!」みたいな。「ええっ?」みたいなことになるわけですね。
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)『旅立ちの日に』を超えようとしている『桜ノ雨』。レガーロ東京というプロの合唱団のみなさんの歌でお聞きいただきたいと思います。どうぞ。
レガーロ東京『桜ノ雨(同声三部)』
(安住紳一郎)『桜ノ雨』をお聞きいただきました。いい歌ですね。
(中澤有美子)そうですね。へー!
(安住紳一郎)11才、12才。ローティーンのみなさんはこの歌を卒業式でぜひ歌って卒業生を送り出したいという風に言っているそうですよ。
(中澤有美子)そうですか。
(安住紳一郎)さあ、そして30より下。そして15才くらいまでは『旅立ちの日に』。これをみなさん、卒業式で歌いたいということですね。そして、30より上のみなさんは、この曲をもう、今日覚えないといけないんですよ。
(中澤有美子)わかりました(笑)。
(安住紳一郎)はい。新しく、この4月から生活を始めるというみなさん。どうぞご活躍ください。そんな思いを込めまして、今日の1曲目はこの曲を送ります。栗友会アルカディア・コールという日本のトップのアマチュア合唱団のみなさんの合唱で『旅立ちの日に』です。どうぞ。
栗友会アルカディア・コール『旅立ちの日に』
<書き起こしおわり>