DJ・アシッドパンダカフェ店主の高野政所さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』で最近ハマっている日本語ラップ即興バトルの魅力について語っていました。
(杉山真也)木曜日のパートナー、DJにして渋谷のクラブ アシッドパンダカフェ店主 高野政所さんご提供。『もうチェケラ!だけじゃない。進化する日本語ラップの面白さトップ5』。
第五位:年の差
第四位:カミングアウト
第三位:揚げ足
第二位:準備運動
第一位:キャラクター
(中略)
(高野政所)『もうチェケラ!だけじゃない。進化する日本語ラップの面白さトップ5』ということで、まあ日本語ラップというか、最近僕、MCバトルっていうラップ同士の即興でのケンカ・バトルっていうのにすげーハマってまして。これ、なぜか?っていうと、ウチのお店で定期的にそれをやってるんですよ。で、平日にラッパーを目指す若い子とか、あとは割とベテランの人が集まって。『ラップ道場』っつって、ボクシングでいうジムみたいな感じでラップのカマし合いみたいなのをやってるんですよ。
(杉山真也)へー。
(高野政所)それ、僕自身はラップでフリースタイルって出来ないんですけど、すげー好きで。それが本当に最近ハマっていうて。毎回楽しみにしているんで。杉山さん、ラップをあんまり聞かないと。
(杉山真也)ラップはあまり聞かないんですよねー。
(高野政所)J-POPは死ぬほど聞いてますけど、なんか日本語ラップとかもあんまり聞かないっていう噂を聞いたんで。
(杉山真也)いわゆるランキングに入ってくるような、耳にする機会が多いものは聞いたりはするんですけど。
(高野政所)なんですかね?良さがわかんない感じですかね?
(杉山真也)良さというか、個人的にはメロディーがだんだん展開していかない感じっていうのは、ラップには感じたりはしますね。
(高野政所)なるほど。そうですね。トラックがワンループで。ループでずーっとつながっていく感じで、ちょっと退屈になっちゃう。
(杉山真也)曲調が変わっていかないというところで。
(高野政所)まあ、あれって元々HIPHOPはソウルとかファンクの美味しい、いちばんかっこいいところだけを抜き出して、それを繰り返すから濃いところだけ並べてあるっていうので。実はずっとクライマックスなんだっていうものなんですよ。トラック自体は。でも、なにがいいかって、ラップ。しゃべっていることがやっぱり面白いなと僕は思っていて。僕、それまでJ-POPも聞いてたし、主にアニソンとか特撮ヒーローの歌ばかり聞いて育ったんですけど。あと、歌の乗っていないテクノとか聞いてたんですけど。一時期、日本語ラップがいちばんヤバいんじゃないかと思ってすごい調べてたり掘ったりした時期があったんすよ。
(杉山真也)はい。
(高野政所)で、なにがすごいかって言うと、いちばん最初に衝撃を受けたのは、K DUB SHINEさんっていうラッパーがいまして。ご存知ですか?
(杉山真也)いや、存じ上げません。
(高野政所)日本語ラップ界でもすごい重鎮の方なんですけど。その人は見た目はそれなりに怖い感じなんですけど、あれなんですよ。だいたいポップスになるものって、ラブソングとか人の恋愛を歌っているもの、ロマンスを歌うものが多い中で、延々自分がスゴいっていう自慢だけを1曲の中でし続けるっていう。のが、結構HIPHOPでは当たり前だと知ってガーン!と衝撃を受けたんですよ。
(杉山真也)えっ?当たり前なんですか?
(高野政所)結構それ、セルフボーストものって言って、『俺はこんなにスゲーんだぜ、俺はこんなに金を持っている、俺はこんなにラップが上手い』ってことをラップで言うっていう。
(杉山真也)こわーい!怖いよー!
(高野政所)怖くないよ!それが面白いんだって。
(杉山真也)怖いじゃないですか。
(高野政所)だって別にCD聞いても殴られないし。僕は特に日本語ラップの中でも割とギャングスタ寄りというか。怖い人のラップが好きなんですよ。それなぜか?っていうと、普段ぜったい触れ合わないような怖い人の話を一晩聞いているような感じになるんですよ。怖い人のアルバムを通して聞くと。で、そういう人が考えていることとか、意外と女のこと大切にしてるとか、仕事とか真剣に考えてるとか。なんか一晩そういう面白い人と飲み明かしたみたいな気分になるっていうか。
(杉山真也)へー。
(高野政所)やっぱりラップで大事なのは歌詞の内容だと僕は思ってるんですね。で、最近は怖い人だけじゃなくて、ネット出身のラッパーとかいろんなのも出てきてて。まあバトルの話になるんですけど、まず面白いのが、下は高校生ラップ選手権っていうのがあって。16才の子とかがラップしてるんですよ。
(杉山真也)高校生とかですか?
(高野政所)が、ラップしてるんですよ。それが大会になると、三十路すぎのおじさんラッパーと戦ったりする。
(杉山真也)ほう。16才対30才。
(高野政所)そう。なにを言うのか?っていうことですよね。
(杉山真也)気になりますね。
(高野政所)基本的にフリースタイルっつって、即興で思いついたこと全部言ってるんで。先攻後攻でどんどん重ねてくんですけど。先攻の人がだいたい話題を決める。トピックを決める。で、それにツッコミを入れていくっていう、揚げ足の取り合いなんですよ。口喧嘩なんです。特に題材も決まっていない中、口喧嘩するっていう高度な遊びなんですけど。
(杉山真也)難しいよね。
(高野政所)年の差がまず面白くて。そのへんで高校生の人とおじさんが本気で口喧嘩するのって見られないじゃないですか(笑)。
(杉山真也)たしかにそうですね。
(高野政所)それを、ラップっていう土壌にして、普段見れないものを見られるっていう面白さが第五位にあって。で、この第四位。若い子って経験値とかが少ないから。自分の人生経験値っていうか。いろんな経験したことしか言えないじゃないですか。人間って。面白いのが、やたら高校生のラッパーが、自分の童貞であることをカミングアウトしてしまうっていう現象があって。
(杉山真也)(笑)。第四位のカミングアウト。
(高野政所)カミングアウト(笑)。カミングアウトしちゃう。だいたい高校生のラッパーとか、『俺は童貞で・・・』みたいなことをしゃべってて(笑)。それを30過ぎのおじさんラッパーが、『まあまあ。まずは風俗に行けよ』みたいな。すごい上から目線になったりする。
(杉山真也)なるほど(笑)。
(高野政所)『でもラップの上手さに童貞っていうのは関係ねえ!』みたいな、言い返したりする感じとかがすごいドラマチックでいいんですよ。
(杉山真也)ドラマチックか(笑)。
(高野政所)やたらラップをやっている若い子は、結構童貞が多いっていう(笑)。だから、17以下の人も17以上の人も童貞が多いんですよ。20過ぎで童貞なんだけどラッパーで・・・っていう人とか、すごい味わい深くて最高なんですけど。そういう人のバトルは毎回童貞であることをツッコまれたりして、それをどう跳ね返すか?みたいなね。
(杉山真也)なるほどね。
(高野政所)繰り返し見ていくと面白いんですけど。で、第三位。揚げ足っていうのがあって。基本的には題材がないですから、最初に『俺がラップが上手い』ってことをラップで言うと。でも、実際に上手くなかったらそこにツッコミ甲斐があるじゃないですか。
(杉山真也)で、返してくると。
(高野政所)返してくる。だから相手の戦略を破綻を見逃さないっていうのが。もうすぐなにかあるとツッコんでるし。たとえば、噛むじゃないですか。ラップを。アナウンサーでも噛むこと、あるでしょ?で、噛んだら、『いま噛んだな?』みたいな(笑)。すぐ次のヴァースで。自分の番で指摘したりとか。あと、口癖でついつい同じことをラップしてしまうヤツがいるんですよ。
(杉山真也)はい。
(高野政所)なんか、『俺が思うに』みたいなこと。決まり文句みたいなのがあって。『それを言ったらお前の負けだ!』みたいなことを先に言ったりとか。
(杉山真也)『さっきも言った!』みたいな感じ?
(高野政所)そうです。それも言ったりとか。とにかく子供のケンカ的な揚げ足の取り合いっていうのがめちゃくちゃ面白い。これ、エキサイティングですよ。それを、童貞のカミングアウトがありながら、年の差があったりする中でやっていくというのが相当面白いんですけど。もっとすごいのが、第二位の準備運動ってやつなんですけど。
(杉山真也)どういうことですか?
(高野政所)まあ、バトルの大会があるとするじゃないですか。したら、集合時間にラッパーがどんどん集まってくるわけですよ。で、ずっとHIPHOPのビートが流れてるんですけど、挨拶とか全部そのビートに乗せてやってるんですよ。彼らは。
(杉山真也)えーっ!?
(高野政所)『YO!久しぶりだな』みたいなことを。
(杉山真也)もう日常会話から。
(高野政所)ラップじゃないとその中では会話できないみたいな。僕、ラップできないから何もそこには参加できないんですけど、見てるだけですっごい面白くて。『この前のクラブイベントでお前、女口説いてたけどどうなったんだ?』みたいなやり取りとかをしてたり(笑)。本当にどうでもない、他愛もない会話とかがビートに乗ると音楽に聞こえてくるし。それが耳に入ってくるっていうのが、すごい面白い。
(杉山真也)そういう挨拶とかでも韻を踏むんですか?
(高野政所)踏んでたりしますよ。挨拶の時は特殊な挨拶、あるじゃないですか。握手なんだけど拳を合せて、みたいな。いろんな握り方の流派があって。そういうのもあったりするんですけど。で、そういう子たちが集まってくると、『最近どうだった?』みたいなことを急にラップしだしたりとかしてて。ラップができるヤツの特権みたいな世界が繰り広げられている。それが、もう60人とか集まって大会をやるんで。まあ、面白いですよね。で、一位なんですけど。なにがいちばん面白いのか?っていうと、やっぱりラッパーのキャラクターがすっげー面白いんですよ。
(杉山真也)はい。
(高野政所)やっぱり年の差もそうなんですけど、下ネタばっかりラップする人。思いついた下ネタばっかり言う人もいるし、あとは童貞を全面に押し出してくる子。あとはなぜか宇宙の真理みたいなのをラップしがちな人とか。あとは、面白いのが外国人とのハーフのラッパーの子がいて。日本語ラッパーなんですけど、8才までたしかブラジルとかで育ったんですよ。だから、日本語的には8年他の人より遅れてるんだけど、日本語ラップでがんばってるんですよ。で、まだ残念ながらそこまでラップのスキルっていうのがついてなくて。途中で詰まっちゃったりするんだけど、そこでポルトガル語に切り替えてラップをするんですよ。
(杉山真也)へー!
(高野政所)そうすると、みんな意味がわかってないんだけど、かっこいいから。ポルトガル語が。ウワーッ!って盛り上がって、そういう子が勝ったりするんです。すごい最終必殺技を持っていたりする子がいたりとか。あと、やたら色男で抱いた女自慢をひたすら童貞に向かってするタイプがいたりとか。
(杉山真也)(笑)
(高野政所)とにかくキャラクターがすごいいっぱいいて。見てるとプロレスラーみたいに好きなラッパーが出てくるんですよね。で、だんだん応援しながら見たりとか。やたら相手を罵倒するのが上手いタイプとか。あと、相手関係なくお客さんに向かってラップするタイプもいたりして。本当、プロレスラーみたいな。で、結構すごい罵り合いで酷いことを言い合うんですけど、最後ちゃんと握手で終わるんですよ。
(杉山真也)へー!あ、よく戦いましたと。ありがとうございましたと。
(高野政所)『ありがとう。いい戦いできた』っつって。握手で終わったりするのが本当結構感動的で。そうなんですよ。あんだけ酷い、バカとかクソとか言ってるんですよ。でもちゃんと握手で終わるっていうのが、すごいアスリートだなと。彼らはっていう。
(杉山真也)しかも自らの晒したくない部分とかも全部歌詞で晒す。しかもそれを聞いている。で、やりきってお互い、よく戦ったと。
(高野政所)そう。スポーツなんですよ。だから、楽曲としてラップ聞かないっておっしゃったじゃないですか。でもフリースタイルバトルは本当に面白いっすよ。1回見てほしいですけど。
(杉山真也)でもそんなにね。アドリブを、即興で言葉を紡ぎだしていくんですね。
(高野政所)そうなんですよ。それはたぶんアナウンサーとしても勉強になると思うんで。
(杉山真也)本当ですか?本当に、『昨日どうだった?楽しかった!』でしか合わせられないんですけど(笑)。
(高野政所)彼らはそれをちゃんと踏んで来るんですよ。韻も。だから本当、上手い人のバトルとかは、本当感動しますよね。
(杉山真也)すごいなー。頭の回転は鍛えられそうですね。
(高野政所)たぶん、すごい悪そうな格好してるんですけど、頭はぜんぜん僕らよりいいと思いますよ(笑)。頭の回転とか。
(杉山真也)でも、やっぱり気になるのはビジュアルとかの面も気になるんですけど。
(高野政所)それが最近は、ニコニコ動画から始める子もいて。ラップを。ものすごい、言ってしまえばオタクっぽい風貌の子と、バリバリのB-BOYのギャングっぽい子とかが戦ったりするんですけど、ものすごいいい戦いをしたりするんですよ。逆にオタクっぽい子の方がラップが上手かったりするっていうのがあって。
(杉山真也)へー。
(高野政所)それがまた燃えるんですよね。見てても割とスカッとするし。で、やっぱり見た目のバカにし合いにもなるんですよ。『このオタク野郎が何でラップやってんだ?』みたいな感じで怖めの人が言うんだけど、そのオタクの子がそんな身なりなんだけどめちゃくちゃラップが上手くて、たたみかけるようなやつで相手をヘコませちゃったりとか。ドラマがあるんですよ。めちゃくちゃ。
(杉山真也)へー。なんか見てみたいですね。
(高野政所)ぜひぜひ。これはね、機会があったら。なかなか触れる機会がないと思うんですけど、MCバトルは。YouTubeとかでも見れるんで。『MCバトル』とかで検索すると。結構ハマると思います。
(杉山真也)スーツ系の人はいますか?
(高野政所)スーツの人もいるんですよ。MC正社員とか言う人とか。
(杉山真也)(笑)
(高野政所)本当にいろんなタイプがいるんで。プロレスラーみたいな感じなんで。興味があれば、ちょっとYouTubeだけでもいいんで。現場に行くと、また面白いんですよ。
(杉山真也)新たなる異種格闘技のような。
(高野政所)あれはもっと流行ってもいいと思います。普通の人が見ても、ぜんぜん面白いんで。
(杉山真也)MCラップ?
(高野政所)MCバトル。フリースタイルラップ。
<書き起こしおわり>