町山智浩映画解説 宮崎駿『風立ちぬ』

宇多丸映画評論 宮崎駿『風立ちぬ』 たまむすび

(町山)でも、反戦映画を撮ってるでしょ?戦争はいけないんだ!ってことを映画の中で言うじゃないですか。でも、その割には戦闘シーン、メチャクチャ快感で撮ってるじゃない?と。あんた、戦争の道具大好きでしょ?と。大好きですよ。でも、戦争は絶対にいけないと思う!と。その矛盾した気持ちっていうのを持っているのが、こういったものを創っている人たちなんですよね。

(山里)はー。

(町山)だから、アニメーターである宮崎さんは、そういった形で戦争の快楽ってものを描きながらも、それは悲劇であるってことを同時に訴えると。で、こういう技術者の人たちは戦争に反対しながらも、兵器を造る。具体的には、オッペンハイマーという人がいまして。その人は原爆の父ですけども。原爆を造ったんだけども、原爆の使用には反対してたんですよ。死ぬまでずっと核戦争とかそういったものには反対し続けて、平和主義者だったけども、でも技術者としては原爆を造りたいわけですよ!造れるんだもん。俺には。

(山里)とてつもないものが。

(町山)そう。出来ちゃった!でも、使わないで!っていう、まさにそういうことですね。だからゼロ戦を造ったってことで、ゼロ戦はそれこそ何百機も、何千機も造られましたけど、乗った人は全員死んだんですよ。だからこれは大変なことですよ。自分が造ったもので、何百人、何千人の人が死んだっていうのは、ものすごい辛い罪を背負ったわけですけども。まさしくオッペンハイマーと同じですよね。

(赤江)ああ、そうか!それで最後のあの言葉が・・・

(町山)あんまり最後のところは・・・あるんですが(笑)。

(山里)いま、ひょっとしたらだけど、映画好きの友達としゃべってると思った?ラジオよ!

(町山)あんまり最後のところはアレですが・・・

(山里)言いそうだったもんね。気をつけて!

映画作ってる人たちは、みんな同じ

(町山)でもね、映画作ってる人たちは、みんなそうでね。スピルバーグっていう監督がいますね。あの人はね、ものすごい戦争マニアなんですよ。『プライベート・ライアン』とか『戦火の馬』とか。とにかくどんな映画監督よりも戦争を忠実に、現実通りに描く人で。もう、兵器マニアとか軍事マニアの人はスピルバーグの映画だと大喜びするわけですよ。すごい!すごい!って。細かい制服の、軍服の細かいバッヂぐらいまで忠実なんですよ。スピルバーグの映画っていうのは。

(赤江・山里)へー!

(町山)それだけどあの人、戦争は大っ嫌いなんですよ。『ミュンヘン』とかですね、『シンドラーのリスト』とかで、戦争絶対反対する男たちの話を描いてるわけですね。戦争は絶対いけないんだ!と。言いながら、誰よりも戦争が好きでたまらない。スピルバーグは。

(赤江・山里)ほー!

(町山)でもそれがね、ほとんどの男の子は結構そうだと思いますよ。みんな。あの、富野由悠季さんっていう、ガンダムの人も、戦争を子供のころに体験して。だから戦争ものじゃないですか。ガンダムとかってね。でも、それでみんなどうなるか?って、悲劇しか待っていないんですね。現実にはね。それもちゃんと描くというね。これはね、男の子の病気です!男の子の病です!

(山里)だから女子の赤江さんにはピンと来なかったのかな?

(赤江)男性の方が、もう一回見たい!っていう人、多かったですよね。

(町山)そう。だってこれに出てくるの、メカ、いっぱい出てくるじゃないですか。電車から、市電から。一銭蒸気っていう、小さい蒸気船も出てきますけど。それから空母から戦艦から出てきますけど。あの描写を見てるだけでも、男の子はたまらないわけですよ。もう。

(赤江)そっか。もう、ネジがどうのこうのまで出てきますもんね。

(町山)そうそうそう!ネジがまた重要。リベットっていうんですけれども。あれで枕頭鋲っていう鉄板っていうかジェラルミンの板をつなぐのに、鋲を打っていくんですね。戦闘機の表面にね。あの鋲が出っ張ってると空気抵抗が出るんで、出っ張らないやつを付けるんだ!みたいな話が延々と出てくるんですけど。あれは、俺たちにとっては最高の話なんですよ!ネタとして。

(赤江)そうなんですか!?

(町山)宮崎さんっていうのはとにかく、兵器に打たれた鋲の描写っていうのに、ものすごいこだわっていた人なんですよ。あの人のメカっていうのは、必ず鋲が描いてあるんですよ。で、あの人以前のアニメには鋲は描いてなかったんですよ。

(赤江)へー!

(山里)ラピュタの時の飛行機も。ゴリアテとか全部。

(町山)そう。だから鋲にこだわるっていうのがあって。で、まあ主人公の堀越さんってのは、魔女の宅急便に出てくるトンボくんっていう男の子、いたでしょ?メガネかけた。あれが成長した姿なんですよ。

(赤江)はー!

(町山)飛行機が大好きで!っていうね、あの男の子。で、ラピュタに出てくるパズーもそうですけど。機械が大好きで。あれも全部、宮崎さん自身なんですよね。機械が大好きで大好きでたまらないという、自分自身ですよね。それで、でも戦争は嫌いだというんで、描いてるんで。もう本当にこれは普通の人がどうこうっていう問題じゃなくて。映画っていうのは誰に対しても開かれているわけでは、決してないんですよ。個人的な映画っていうのもあるんですね。すごく個人的な映画。

(山里)こんなに大ヒットしている映画なんだけど、向けられている人たちは意外とこう・・・

(町山)ものすごい個人的な話なんですよ。これは、私のことであるってことで。だから、声優さんに庵野秀明さんを使ってるんですけども。庵野秀明さん、エヴァンゲリオンの監督なんですけども。これ、結構棒読みだとか素人だとか言って批判されてるんですけども。あれは、声優さんとかプロの人が、要するに世慣れして、誰々の心も演じられるような人が演じちゃダメで。人の心なんかわからないし、世の中のことなんかもわからないけど、好きなものだけやり続けるアホのような男が声をやらなきゃいけないんですよ!

(山里)あっ、だから監督というその・・・

(町山)そうそうそう。庵野さんにやらせたんですよ。庵野さん、ぼーっとしてるわけですね。声出しながら。で、人の話を聞いてないっていうシーンがすごく多いんですね。

(赤江)そうなんですよ。聞いてないの。いま、大事な話してんだろ!みたいなところで、聞いてない。

(町山)そうそう。妄想してるんですよ。なんだっけ?って言ったり、返事もしない。そういう人じゃないと、この声はできないんですよ。

(赤江)はー!そこまで計算されての・・・

(山里)なんで庵野さんなんだろう?って思ったら。

(町山)だからちょっと裏情報で失礼なんですけど、庵野さんの奥さん(安野モヨコ)はこの映画を見た後、本当に泣いたらしいですね。そういう男と結婚してしまった女の悲劇でもあると(笑)。

(山里)なるほど!

(町山)でもでも、それで嫌いになれないでしょ?その男を。ね?夢見てる男なんだもん。常に。そういうことなんです。

(赤江)あ、そういうことなんだ!

(町山)そういうドラマだったんですね。

(山里)じゃあ、周りでダメだ!って言ってる人は、夢を見れてない人たちなんだ。

(町山)夢を見れてない男だと思いますよ!夢を見れてない男。これ、飛行機が飛ぶ音を『プルプルプル・・・』って口で言ってるんですね。この映画って。『ブーーーン!プルプルプルッ!』とかね。『ヒューーン!』って声で出してるんですね。

(赤江)あっ、あれ、声!?

(町山)声なんです。人の声なんですよ。なぜそれやってるか?ごっこ遊びですよ。おもちゃの飛行機を持って男の子がみんな、プルプルプル・・・って。ブーーーン!ヒューーン!ってやるじゃないですか。あれを映画でやってるんですよ!これは。

(山里)そういう意味だったの?いや、なんで全部人の声でやって・・・なんかニュースになってたのよ。人の声でやって、すごいって。人の声でやる意味、なんなんだろう?って思ったら、そういうことなんですね。

(町山)そうですよ。男の子の飛行機ごっこですよ。そういう物語だとね、僕、昨日ある映画監督と朝までずっと飲んでて、その話をずっとしてたんですけど(笑)。

(山里)へー!見に行く前にこれ知らないと、よくわかんないですよ。

(赤江)解けなかった問題を解いてもらったみたいな。

(町山)みんな言ってたのが、とにかくなにか見ると、飛行機が飛んでいても、その飛行機がこうなって爆発したらどうだろう?とか、想像しながら見るんですよ。自動車がこう走ってても、ここで横転して・・・とかね。それで、アニメーションするんですね。頭の中で。妄想族なんですよ!俺たち妄想族っていう話ですからね。これね。エッチな妄想もしますけど、そういう男の子妄想もするんですけどね。

(赤江)たしかに町山さんおっしゃる、当時の日本人だったらそんなにベラベラしゃべらなかったかも・・・っていうのはあるかも。

(山里)リアルなとこと・・・

(町山)ベラベラしゃべって自分の思想とか政治とかぶつけるような人は、ゼロ戦造ったり、アニメ作ったり、映画監督やったりしないですよ!それは。やっぱりワケのわかってない人はやるんでね。モノを創る人は、絵描きでもそうですけどね。だから、作品を創るんですね。だから俺みたいにしゃべってる人は、なかなか作品創れないっていう気もしますが。

(赤江・山里)(笑)

(町山)まあ、しゃべりを作品にしてるんでね。はい。という気もしますが。だからやっぱりね、この映画で最後に『ひこうき雲』が流れますけども。荒井由実さんの。この歌は、ひこうき雲っていうことでつながっているということも1つあるんですけども、この歌詞の中ですごく重要なのが、『今はわからない ほかの人にはわからない』っていう歌詞が出てくるんですよ。まさに、ほかの人にはわからないんですよ!

『ひこうき雲』の意味

(赤江)はー!

(町山)わからない人には、この堀越二郎の気持ちはわからないだろうと。たしかに、心の中には何百人も何千人も死んでいった、自分の飛行機で死んでいった人たちの気持ちはあったでしょうね。当然、あったでしょう。それがどういう気持なのかは、口で言ってみんなにわからせることじゃないんですよ。

(赤江)かっこいい。いまごろ・・・なんだろう?すごく時間がたってから、響いてきちゃった。

(山里)だから見た後にこれ聞いて、思い出してつながっていく快感も今、あるわけでしょ?

(赤江)なるほどー!

(町山)だからね、この歌を選んだってすごいなー!と思いましたね。

(赤江)あ、そういうこと・・・だから、宮崎監督自身もね、この映画を見て、完成して泣けたって・・・

(町山)自分のことだからですよ!自分で自分の話つくって、自分で泣いてるっていうね(笑)。そういうことでいいのか!?っていう気もしますが、いいんですよ。それが作品なんですよね。芸術っていうのはそういうもんなんで。で、芸術とか技術とかは、本当に個人的なもので。実際は。で、それが実は社会と結びついて行く中で起こってくる、すれ違いみたいなものっていうのが、時に悲劇を起こすし。やっぱり、あの映画わかんねーよ!って普通の人たちは言うっていうとかね(笑)。そういうことになっていく。家族連れで行っても、わかりゃしないわけで。子供なんか、こんなの飽きちゃいますよ。絶対。

(山里)子供が走り回ってるって、ニュースになってたからね。

(町山)そうそう。でもやっぱり、宮崎監督の作品としてはものすごく、一歩突き抜けたなと思うのが、SEX描写があったってことですね。

(山里)へー!そんなシーン、あるんですか。

(町山)はじめて、初夜で結ばれてるっていうところを、はっきりと描いてますから。直接描写はないですけど。もちろん。で、そのあと彼を抱きしめるシーンがあるんですね。菜穂子さんがね。その時こう、やっと来てくれたのねってこう抱きしめて、そのあとグーッと腕に力入れて回していくっていうシーンがあって。

(赤江)そこがものすごいね、いままでぼーっとしてたのに。ものすごい男だな!みたいな感じなんですよね。

(町山)そう。生々しいでしょ?で、頬と頬がこすれあってみたいな感じが。あの生々しい描写っていうのは、日本のアニメの中で最近珍しいですよね。はい。まあでも、日本のアニメでそれをやったのがあってですね。それに対する対抗でやったっていう説もあるんですけど。それはまあ、置いておいて。ということで、宮崎監督の作品としては、画期的な描写だと思いますね。

(山里)へー!どうしよう?やっぱり、見に行こうかな?

(赤江)そうだねー!

(町山)はい。是非!

(山里)どうしよう?それで全然感動できなかったら、俺、ちっぽけな男なんだな!って思っちゃう・・・

(赤江)まあ、そっちの人種じゃないっていう場合もありますけどね。しょうがない。

(町山)だからそっちの人種じゃない人もいっぱい出てくるんですよ。軍人とかね。会社の経営者とか。

(山里)俺、そっちの人間って言おう。

(赤江)(笑)。ということで、今日は町山さんに宮崎駿監督の最新作、風立ちぬ、もう紹介、さらに解説という感じでね、していただきました。ありがとうございます。

(町山)どうもでした!

<書き起こしおわり>


↑より詳しい町山さんの『風立ちぬ』解説です

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