ジェーン・スーさんが2011年に初めてTBSラジオ『高橋芳朗HAPPY SAD』に出演した際の書き起こしです。
(川瀬良子)ここからはグッドフレンズ。週替りのグッドフレンズが登場して、さまざまな角度から音楽の魅力を掘り下げていくクロストークのコーナーです。本日のグッドフレンドは音楽制作プロダクション ageha springsでアイドルグループ tomato’n’pineのプロデュースと作詞を手がける、ジェーン・スーさんです。
(ジェーン・スー)よろしくお願いします!
(川瀬良子)ナビゲーション・テーマは『アラサー女子』ということで。
(高橋芳朗)穏やかじゃないですよ。
(川瀬良子)そうなんです。まさにアラサー女子なので。はい、楽しみにしておりました。
(ジェーン・スー)よろしくお願いします。
(高橋芳朗)ちょっと本題に入る前にジェーンさんとのご関係を。実際に会ったのはたぶんもう14・5年くらい前になりますね。僕がHIP HOP雑誌のFRONT・BLASTっていう雑誌で働いていた時に、たぶんその編集スタッフか周りの人を通じて紹介していただいたんだと思います。
(ジェーン・スー)はい、そうだと思います。
(高橋芳朗)で、さっきバイオグラフィー、簡単に紹介してもらいましたけど、tomato’n’pineの作詞とプロデュースを手がけながらも、本当に多才な方ですね。コラムニストだったり、ライター活動なんかも・・・
(川瀬良子)いろんな顔が・・・
(ジェーン・スー)いえいえいえ。
(高橋芳朗)ただですね、この『アラサー女子』というテーマはですね、どんな話をしてどんな曲をかけるんだ?っていう・・・
(ジェーン・スー)そうですよね。
(高橋芳朗)ちょっとねグッドフレンズ枠最強・・・『狂う』の字の『最狂』かも・・・
(ジェーン・スー)全然そんなことないです。
(高橋芳朗)ちょっとこれ、どういうことなんですか?アラサー女子・・・
(ジェーン・スー)いまさらアラサーって言われてもって感じだと思うんですけど。一昔前じゃないですか、アラサーっていうブームがあったのって。まあだけど、私自身はアラフォーなんですよ、もう。私自身はアラフォーなんですけど、もうこれね、『中年こじれ島』が一杯一杯なんですよ。
(高橋芳朗)(笑)
中年こじれ島が一杯で人口密度が大変
(ジェーン・スー)人口密度が大変なことになっていて。
(川瀬良子)こじれ島?
(高橋芳朗)これ、メモってください。
(ジェーン・スー)中年こじれ島って名のは、中年なのにまだこじれている・・・中二病とか言われますけど、そんな生易しいものじゃない。で、もうこの島の人口密度、もう一杯一杯で、カニバリズム寸前みたいになっているんで。
(高橋芳朗)受け入れ不可能だと。
(ジェーン・スー)だから、いまアラサーの人には、もうここでバッチリこじれて頂いて、こっち(こじれ島)に来ないでくれと。
(高橋芳朗)あ、いまのうちにこじれておく・・・
(川瀬良子)こじれておけってどういうことですか?
(ジェーン・スー)思い悩んだりとか、自分探しっていうムダなことやってみたりとかっていう・・・
(川瀬良子)ムダですか!?
(ジェーン・スー)だって探している人と探しているものが一緒なんですよ。見つかるわけないじゃないですか!
(高橋芳朗)(笑)
(川瀬良子)すいません!
(ジェーン・スー)そんなもの、簡単に見つかるわけ・・・まあ、私もやりましたし、まだ見つかってないですけど。早めに済ましていただいて。今、時短とか流行ってる。だから早めに早めに。とりあえず何でもね。早め早めにやって、さっさと中年の普通の島の方に行っていただいて。もうこっち(こじれ島)は人が入れないので。
(高橋芳朗)川瀬さん、もう行けないんですよ。そっちには。
(川瀬良子)そうか・・・じゃあそっちに行かないように、がんばります!
(ジェーン・スー)とは言え、中年女子は特にそうなんですけど、まあアラサー女子・・・『女子』って敢えて言いますけども、の日常っていうのは色々あるはあるんだけど。例えばテレビで見ているドラマとか、海外のニュースとか、海外の映画とかっていうほどドラマチックじゃないじゃないですか。
(川瀬良子)本当、そうなんですよ!
(ジェーン・スー)で、地味にレバーにたまるっていうか、嫌なこともあるし、中途半端な失恋もするし。で、そういう時どうしたらいいかって考えた場合にですね、これを完全に放置していくと、こじれて行くので。もうホラー映画って、怖い音楽をつけて、より怖くするじゃないですか。
(高橋芳朗)ああ、はいはいはい。
(ジェーン・スー)ああいうのと一緒で、もう自分で自分の毎日に演出をつけていく。
(高橋芳朗)なるほど!
(ジェーン・スー)どんどん自分の人生、毎日の平坦な、たいして大きなことも起こらない人生に、自分でBGM当てていって楽しい毎日にしていくっていう・・・
(川瀬良子)映画の主人公のような。
(ジェーン・スー)そうですそうです。もう全部自家発電で行きましょう!
(川瀬良子)そんな時代ですね・・・
(ジェーン・スー)そうですね。で、そういうためにアラサー女子というテーマを敢えて選んでここに・・・
(高橋芳朗)川瀬さん、もう頷きまくりじゃないですか!
(川瀬良子)もう本当、何にもないんですよ。あとでちょっと、メールアドレス教えてください。
(高橋芳朗)(笑)
(ジェーン・スー)だからこっち来ちゃダメなんだって!
(高橋芳朗)そうです、ダメダメ!距離とらないと!
(川瀬良子)いや、いろんなアドバイスを。舵を取っていただかないと!
(ジェーン・スー)舵を取らせちゃダメよ!
(高橋芳朗)舵取らせたら、そっち行っちゃいますから。これでどんな曲かかるんだって話ですよ。
(ジェーン・スー)そうですね。で、やっぱりそのアラサー女子の毎日ってところで、今回は敢えて一回フラットな状況にリセットしてもらうためのデトックスとして3曲選んだんですけど。これ、いいですか。進めちゃって。
(高橋芳朗)どうぞ。
(ジェーン・スー)3曲のテーマはですね、中途半端に落ち込んでいるのが、まず良くない。だから徹底的に堕ちる。
(高橋芳朗)どん底まで行けと。
(ジェーン・スー)堕ちるは堕天使の『堕』です!バッチリ堕ちていただいて。まず自分で堕ちる。自分で憐れむ。
(高橋芳朗)自己憐憫ですね。
(ジェーン・スー)自己憐憫。そして立ち上がる。大人なら、人に迷惑かけない。全部自分で。同じ女友達におんなじ話しても関係ないです。全然。解決しないんで。というところで3つ、テーマを考えて来ました。
(川瀬良子)はい。
(ジェーン・スー)ということで、1曲目ご紹介ということでよろしいでしょうか?まず聴いていただきたいのは『堕ちる』というテーマで、アラサー女子ならば悪い男に一度や二度引っかかったことあると思います!で、それを敢えて思い出しながら、『あれは何だったんだろう?時間のムダだったのではないか?』と考えながら聴いていただきたいと思います。Duffyで『Warwick Avenue』。
Duffy『Warwick Avenue』
(川瀬良子)ジェーン・スーさんの選曲による、Duffyの『Warwick Avenue』をお送りしています。
(高橋芳朗)曲かかっている間ね、とんでもない井戸端会議が繰り広げられてましたけどね。
(川瀬良子)電波にのせないでくださいね。これ、曲の内容などんな感じなんですか?
(ジェーン・スー)そうですね。『Warwick Avenue』の駅で男の人と別れ話をするんですけど、すごいパンチラインがあって。個人的パンチラインですけど、[Don’t think we are OK. Just because I’m here.]・・・私がここに来たからって、「あっ、来てくれたんだから大丈夫じゃん」みたいな。男の人に有りがちな勘違いなんですけど・・・
(川瀬良子)勘違い甚だしいですよね。
(ジェーン・スー)「えっ、だって電話くれたじゃん?」とか。「えっ、だって誕生日やったでしょ?」みたいな。いやいや、そういうことじゃないから・・・
(川瀬良子)高橋さんがちっちゃくなってる!
(高橋芳朗)さっき、そんなコーナーがありました。
(ジェーン・スー)そうですね。あとまあ、歌詞も素晴らしいんですけど、歌詞をそんなに聴かないでも、かなり堕ちる・・・
(高橋芳朗)まあ伝わってくるし、ビデオがまたね・・・
(ジェーン・スー)いやー、最高ですね。ずーっとDuffyが泣いている・・・
(川瀬良子)そういう時もアラサーには必要だと。
(ジェーン・スー)必要です。自分で堕ちて行かないと。
(川瀬良子)で、自分で立ち上がれと。
(ジェーン・スー)そうです。その前に一回憐れまないといけない。
(川瀬良子)憐れむも挟むんですね。
(ジェーン・スー)そうです。そうです。『私、かわいそう』を挟んでからの立ち上がりです。
(高橋芳朗)じゃあ次のレベル、行ってもらいましょうか。
(ジェーン・スー)では、次ご紹介する前にお話をさせていただきたいと思うのが、結局ですね、アラサーって『負け組』とか『勝ち組』とか良く言うと思うんですけど、勝ちも負けも特にないと思うんですよ。
(高橋芳朗)ないんですか?
(ジェーン・スー)ただもう、アラサーはアラサーっていう広がる荒野なだけで。
(高橋・川瀬)(爆笑)
(ジェーン・スー)特にそこに勝ちも負けもないと思うんですよね。
(川瀬良子)広がる荒野・・・
(ジェーン・スー)そうです。広がる荒野。20代前半までだと希望もあって、それこそ『世界中旅行してみたい!ハワイ行きたい!』とか、『◯◯行きたい!』みたいなのがあって、いわゆるアラサーと呼ばれる時までには、いくつかは叶えちゃってるんですよね、もう。で、そのいくつか叶えちゃった後に、じゃあ自分はどこにアタシあるんだろう?ってことになると、もうどこに・・・パリも行った、ロンドンも行った、ニューヨークも行った、ロスも行った。自分はどこにいるのか分かりませんみたいな・・・ことが多いんですが。ま、心配することはない。こんなことはもう、何年も前からみんな経験してるってことでこの曲をお届けしたいと思います。
(高橋芳朗)まさにバッチリな曲ですね!
(ジェーン・スー)ということで、 Charleneの『I’ve Never Been To Me』です。
Charlene『I’ve Never Been To Me』
(川瀬良子)ジェーン・スーさんの選曲による、Charlene『I’ve Never Been To Me』をお送りしています。
(高橋芳朗)いやー、もうCharleneの『I’ve Never Been To Me』なんてイヤってほど聴いてきた曲だけど、今の説明聞いた後に聴くと、全然聴こえが違うっていうか。
(ジェーン・スー)いやいや、本当にね。『パラダイスには行ったことはあるけれど、自分自身にはまだたどり着いていないのよ』っていう、このパンチラインがこれほど、レバーに来ることもなかなかないと思うんですけど。
(高橋芳朗)レバーにね、ビシビシ来てますよ。
(川瀬良子)だんだん、ヘコんできました。。。
(ジェーン・スー)ちょうどいいんです、それで。堕ちてヘコんで、いまちょうど。
(高橋芳朗)堕ちて憐れみですから。憐れみの段階ですから。じゃあ、次のレベル。
(ジェーン・スー)ということで、一回堕ちて、自分で自分を憐れんだ後、もう立ち上がるのも自分ですから。はい、ということで、自分で立ち上がらなくちゃいけない、そういう時に、堕ちたのも憐れんだのも自分なんですけど、『でも私やるのよ!』って自分で立ち上がるときの一曲としてご紹介したいのが・・・Christina Aguileraの『Beautiful』なんですけども。こちらの方は、とにかく聴いていただければ分かるんですが、性別、年代、いろんなものを全部こえて、辛い身にある人は聴けば涙なくしては聴けない曲になっていますので、是非何も言わずに聴いていただきたいと思います。
(川瀬良子)わかりました。
(ジェーン・スー)Christina Aguileraで『Beautiful』。
Christina Aguilera『Beautiful』
(川瀬良子)ジェーン・スーさんの選曲による、Christina Aguileraで『Beautiful』をお送りしています。
(高橋芳朗)なんかもう、ゲイ選曲みたいな感じもちょっと・・・
(ジェーン・スー)そうですね。アラサーになってくると、やっぱりその辺がだんだん曖昧になっていくというか・・・
(川瀬良子)おっ!?
(ジェーン・スー)やっぱり10代ぐらいの時って、女の子って自分がまだ子供なんだけども、だんだん女の色気みたいなのが身について来て、自分がまだその辺に無自覚でってところが、こうちょっと魅力的だったりするんですけど。20代後半から30代になってくると、いるだけで価値のある女性性ってのが、だんだん陰りが見えてきて。でも手にしてるもの、ノウハウっていうのはかなり増えてきて、バランスがもう一回崩れてくるんですよね。
(川瀬良子)なるほど!
(ジェーン・スー)で、それ自身に対していろいろ自分で問いを投げかけたりするのが、やっぱりこう、オカマちゃんたちとはね、かなり共通するものが・・・
(高橋芳朗)はー。オカマとカブってくる・・・
(ジェーン・スー)そうですね。馬力がすごいんですよね。
(高橋芳朗)さっき、打ち合わせの時に『両性具有』なんて言葉が・・・
(ジェーン・スー)そうですね。あの、仕事できる人ほどムダに馬力があるんで。
(川瀬良子)ムダに?
(ジェーン・スー)ムダにです。馬力はムダです。
(高橋芳朗)馬力はムダ(笑)。
(川瀬良子)で、『Beautiful』。
(ジェーン・スー)でも、『言葉で私を貶めることは出来ない。私は誰が何と言おうとキレイなんだ』っていうのを聴いて、立ち上がると。
(川瀬良子)これ、誰かに言ってほしいっていうのはダメなんですか?
(ジェーン・スー)あっ、そういう甘えた心も必要だと思います。それもすごい大事だと思うんですけど。いや、本当に。
(高橋芳朗)堕ちて、憐れんで、自分で立ち上がるんですよ。
(川瀬良子)そこがまだちょっとね。
(ジェーン・スー)そこから立ち上がらないっていう方法もあるんですよ。そういう人はなるべく早めに結婚していただいて、みたいな。
(高橋芳朗)ああ、なるほど。
(川瀬良子)そうなんだ。
(高橋芳朗)いやー、スゴいですねー。どうですか、川瀬さん。応えました?ちょっと顔が歪んでますけど。
(川瀬良子)くっ・・・
(高橋芳朗)もう言葉にならない?泣かないでくださいね。
(川瀬良子)後でとりあえずメールで感想を・・・
(高橋芳朗)今日、ちょっと飲みに行きましょうかね。
(川瀬良子)そうですね、飲んじゃいましょう!はい。
<書き起こしおわり>