ライムスター宇多丸さんがTBSラジオ ウィークエンド・シャッフルでアウトレイジ・ビヨンドを評しましたが、シネマハスラーの映画評に先立って、観客席のお客さんたちについても言及していました。
さっそく9時台からアウトレイジ・ビヨンドの話を始めちゃおうと思ってます。っていうのは、シネマハスラーの中に入りきらない大事な話があって・・・客席がね、映画館の。ガラ悪いんだ!アウトレイジ。というお話から始めたいと思います。ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル!
東京赤坂TBSラジオ第六スタジオから生放送でお送りしておりますライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル、お相手はライムスター宇多丸です。はい、スペシャルウィークということでね、映画評論コーナー ザ・シネマハスラー。10面サイコロを使って9面がアウトレイジ、1面がボーン・レガシーで見事アウトレイジ・ビヨンドを当てさせていただいて今日10時からやるわけなんですけど・・・当然のように(メモした)ノートが詰まり気味、言うこといっぱいあるんだろうなということになっているので、時間短縮のためにこっからやはりお話しないといけない。
今回、アウトレイジね、大ヒットしてるわけじゃないですか。北野武監督としては初めて?公開ランキング1位 ということもあるのかないのか。僕ね、いつもシネマハスラーでだいたい最低2回は見に行くんですよ。真っ白な状態で1回見て、いろいろ勉強した上てもう1回見るみたいなことを毎週毎週やってるんですけども。今回は結構短期間に3回も見ちゃったんですよ。単純にタケシ映画のファンっていうのもあるし、特にアウトレイジは楽しくてしょうがないってんで行っちゃったんですけど。なんで3回も行ったかっていうと1つには、最初に見た時に「むしろ客席がアウトレイジだ!客席がアウトレイジのビヨンドに行っているぞ!」っていうことを発見して、これいろんなところで見てみたいなってね。まさに映画館ならではの体験・・・
むしろ客席がアウトレイジ
どういうことかっていうとヤクザ映画暴力映画ってことだからなのかもしれないんですけど、映画館の客席の様子が、ここ最近のシネコンの非常にキレイになって、テレビ局主導・テレビドラマの延長線上といったような客席の感じからすると、本当に珍しいくらいにガラが悪い・マナーが悪いわけですよ。「あの客たちが帰ってきた!映画館にあのタチの悪い客たちが!」この感じ、いままでシネマハスラーでやった中でいうとクローズZERO2やった時に、そのお客さんは多少ヤンキー感があったりしてちょっとガラが悪いんですけど。ただ、(アウトレイジ・ビヨンドの客は)年齢層がちょっと上なんです。
大人のガラの悪い客・大人のエチケットの悪い奴らっていう最悪の人たち・・・要は昔の映画館の決して快適ではなかった部分も含めて、「このニオイ、戻ってきたな!懐かしいぞ!」みたいな。たとえば、最初に1回新宿のバルト9で見たんですけど。まずバルト9っていうのがよく考えたら新宿だぞと。バルト9やピカデリーなんてキレイになってシネコンの代表みたいになってますけど、よく考えたらピカデリーなんか歌舞伎町背中合わせだぞと。ある意味一番危険な、アウトレイジみるには最高の・・・たぶん近くに山王会の事務所があるんだと思うんですけど。っていうような場所にあるわけじゃないですか。
で、バルト9で最初にみて。割と深夜寄りな回だったんですよ。そしたらね、来る客来る客基本的に酒臭い。酒のんで来てるわけですよ。「起きてられんのか、コンニャロー!どういうわけだコノヤロウ!映画一本見通ねぇとはどういうことだ!」みたいなね、石原テンションで。酒臭くって、当然イスに座るときもドーン!ドスーン!ですよ。音が立ちますから。座るときに。で、僕は席は割と端っこの方に取るんです。空いたところでみたいから。でも、僕の後ろにワイルドな感じの男性二人がドーン!って来てたわけですよ。どうも振る舞いから察するに指定席と違う場所に「あっち空いてるからいいんじゃね?」みたいな感じでドーン!って。
結構若めだからそんなにモノホン感は無いんですけど、でもガラが悪いわけですよ。で、見ている間もね、他の席でも今時珍しいんですけど携帯鳴りまくり。報告が来ている中では「(携帯に)出まくり・かけまくり」なんていう話もありますけど。そんなの全然序の口で。
見ていると今のシネコンの席ってスゴいイイ席で段差もキレイについているから、席同士のトラブルってまず起きそうにないくらい充実しているじゃないですか。なのに、ゴンゴンゴンゴン!背中ゴンゴンゴンゴン来るわけですよ。センサラウンド方式がゴンゴンゴンゴン来る!臨場感溢れる・・・ なんか来るたびにゴン!ってね。意図的に蹴ってるんだろっていうくらいにゴンゴンゴンゴン来るわけですよ。で、リアクションもやっぱり豊かでね。見ている間もものすごく笑うわけですよ。アウトレイジは笑う場面多いですからね。
そのウケているポイントが、たとえば途中で小日向文世さん演じる片桐刑事がでっち上げの調書を取る取り調べシーンがあるじゃないですか。あそこで、特に警察が何か横暴なことを言ったりやったりする描写になると、笑いの感じが「あるある!」「出た出た!」みたいにドッカンドッカンね。それがスゴい「アレ!?来たなっ!」みたいな感じがね。たしかに笑えるんだけど、笑いのトーンが「あるある!」笑いっていうね。スゴい楽しかったわけですよ。そういう環境も込みでのアウトレイジ・ビヨンド。映画に合わせた、シャンテ系とは違う大人の観客っていうね。
で、シャンテ系という意味では、2度めは場所変えてみようと思って丸の内東映に行ってみたんですよね。銀座の方の、昔からあるところじゃないですか。箱自体は古くからあるんだけど、席とか設備は新しくなっているんですよ。そしたら、新宿とは違うんですね。新宿は、ちょい若で桐谷健太さんと新井浩文さんのチンピラコンビくらいの感じですよ。銀座にいくとグーッと年齢が上がって。で、だいたい女性、出勤前のクラブのホステスさんみたいな方を同伴で。金は持っているような貫禄のある、肌も含めてちょっとクロめのジェントルマンたちが来ているわけですよ。こっちの丸の内東映がよりアウトレイジ度が高くって。
昔ながらの映画に行っていて最近はあんまり行っていないっていう感じなんでしょうね。今、だいたい指定席じゃないですか。昔は指定席はそれなりのお金払ってましたが今は全部が指定席。だから今時この手のことは起きないんですけど、まー決まった席に座らないんですよ、奴らが。本当に!ここかなって思ったところに座る。でも、いいと思うんですよ。混んでいたら割と空いている目のところに座るっていうくらいの融通をきかせてもいいと思うんですよ。昔ながらの客なんだなってことも分かるんですが。映画が始まると、女性連れのクロい紳士たちが後から後から入ってきますよ。
そうすると違うところに座っているから、若干ピリっとしたような揉め事がこっちで起こっているわけですよ。「あれぇ~!あ~ん?」みたいなね。間違った方座っているヤツも舌打ちとかしながら、後ろの方行ってドスッて元の席なんですけど。で、元の席に行くとそこにも平気で座っているヤツがいるから、どんどんどんどん違う席の連鎖が起こっていくわけですよ。もう始まってるんですよ!画面では加瀬亮さん演じる石原が怒鳴りつけたりしてるんですよ。ガンガンやっているのにこっちはこっちで負の連鎖が起きてるんですよ。
客席のアウトレイジが始まってるんですよ。
で、見てたら途中で、クロいカップルたちに囲まれて一名で見に来ている、割とおとなしそうで映画好きそうな方がいて。結局、その人は自分の決まった席に最初別の人が座っちゃっているから、止む無く一個前の席に座っちゃってたっぽいのね。で、その負の連鎖がグーッと回ってきた結果、ついにそこの人に「おい!どけ!」みたいな感じで。(そのおとなしそうな方が)そこで立って、一瞬躊躇した後クッて後ろ向いて、「すいません、そこ・・・」みたいにやって。後ろに座っていたヤツも「チッ」ってやって。この抗争が落ち着くまで30分くらいかかってましたよね。
だからね、客席がアウトレイジみたいなところも含めて、まあスゲー楽しかったってことなんですよね。やっぱこういうのは映画館で見たほうがいいよね、ヤクザ映画って特にね。でもこれが示していることって結構大事なことで、要はこういう客層っていうのがいるじゃん、やっぱり。潜在的な客層、マーケットっていうのがやっぱりちゃんとあるじゃないかと。ここんところの日本映画のヒットする傾向とはそぐわないものとされてきたかもしれないけど、そのガラの悪い連中が集まってくると(ランキング)1位とれたじゃないかと。男たちですよね。大きい男たちですよね。まどか☆マギカに集まっている人たちとの客層の違いもまた良かったんですけどね。
だからこういうジャンル映画、暴力映画・ヤクザ映画も含めた大人の男向けのジャンル映画っていうのを待っている一定の層がいるじゃんと。それを証明したってこともあるから、アウトレイジ・ビヨンドがヒットしたということで、映画業界、テレビ屋さんの映画でもいいですけど、「あ、そういう市場もあるんだ」と認識してくれるといいなぁ~と。前にアウトレイジを扱かった時にも言ったんだけど、本来はこういうような映画、タケシ映画ってことで特別視しちゃうんだけど、アウトレイジくらいのレベルのジャンル映画感って、本来なら年に何本かは見れるくらいになってほしいと改めて思ったし、それが意外に市場的にも商売的にもヘンなこと言ってるんじゃないんじゃなかなぁとね、映画館でビクつきながら思った次第であります。
<書き起こし終わり>