安住紳一郎さんが2024年1月21日放送のTBSラジオ『日曜天国』の中で以前、番組に出演したことのある河﨑秋子さんが『ともぐい』で直木賞を受賞したことについてトーク。河﨑さんに電話をかけ、お祝いをしていました。
(安住紳一郎)それから水曜日に芥川賞と直木賞の発表がありました。皆さんは本は読みますか? どうでしょうね。結構、ワイドショーなどでもよく報じられますので、芥川賞・直木賞などは注目されるという方が多いかもしれませんね。年に2回、発表されるんですが。今回で170回。戦争の前から続いている文学賞ですけれども。2月と8月に表彰式があるんで、それぞれその1ヶ月前に発表があるのかな? なので、今回は2月分の発表が1月、この前の水曜日であったということですよね。
なんで2月と8月に表彰式があるか、知ってますか? 噂ですけどね。私もちょっと確認はしていませんけども。文藝春秋社が……主催ではないんですけども、ほぼ主催っていうことだと思いますよね。文藝春秋社が出資している文芸団体が決めますんでね。菊池寛さんが作ったんでしょうね。きっとね。そうですよね。2月と8月に表彰式があるんですよね。何となく、わかりますか? 噂ですけどね。本が一番売れない時期だから(笑)。
(中澤有美子)へー!
(安住紳一郎)だからこういう……菊池寛さんっていう方はものすごい商売に才覚ある方だって話を聞きますでしょう? 2月と8月に本が売れないというんで、こういう賞とかの発表をここにぶつけて。そしてみんなのね、起爆剤にして購買意欲をかきたてるんだっていう。
(中澤有美子)へー! そうでしたか。
(安住紳一郎)噂ね。俺も菊池寛さんに話を直接聞いてないから、わかんないし。でね、中途半端にそういうことを言うと、文学賞の権威が落ちちゃうからさ。あんまりこういうことを言っちゃいけないのかもしれないけれど、噂で聞いた。まあ、噂の段階の情報を話している俺もどうかと思うけど。許してください。
(中澤有美子)でもね、どうせ年に2度、するならね。そういう時期がいいと思いますよね。
(安住紳一郎)そういうことですよね。芥川賞は新人作家の人対象。直木賞はキャリアのある作家の単行本。エンターメント作品、大衆部門に贈られる賞ということですよね。で、今回、その直木賞を受賞した1人。『ともぐい』という本を書いた河﨑秋子さんっていう方ですけれども。『日曜天国』をずっと聞いているという方は、もしかすると思いがあってるかもしれませんね。去年の2月、11時台のゲストコーナーに河﨑さんは、このスタジオにいらしてくれた方なんですよね。
(中澤有美子)そうでした。
(安住紳一郎)酪農家に生まれて、羊飼いになったという話をね、してくださいました。覚えてますか? ねえ。主に羊の話なんかを聞きましたけど。
(中澤有美子)そうでした。
(安住紳一郎)中澤さん、なにか覚えてます?
(中澤有美子)ええと、羊が思った以上に草食系じゃないっていう……(笑)。
(安住紳一郎)わかります。私もそこですね。印象はね。
(中澤有美子)そこが忘れられないですね(笑)。
(安住紳一郎)「草食動物でありながら、かなりの肉食だ」っておっしゃっていましたね。ユーモアたっぷりにね。やはり作家さんなんで、お話してくださいました。羊のオスがね、あまり知られていないんですが。だいたい、見る羊はメスらしいじゃないですか。なので、あんまり私たちは普段、羊のオスっていうのを目にすることがないそうなんですけども。羊のオスが、あまり知られていないが、生殖能力が哺乳類の中でも図抜けているっていうね。全然メーメーと鳴かないっていう話でしたよね。「冗談じゃない」って言ってましたね(笑)。
(中澤有美子)アハハハハハハハハッ! 本当に驚いてましたね。
(安住紳一郎)あの羊の群れを作ってるのがね、わずか数頭のオスだっていう話ですもんね。だからね。話が横道にそれましたが。その河﨑秋子さんが直木賞を受賞なさったということで。嬉しいですね。
(中澤有美子)本当に!
(安住紳一郎)私もニュースを見て「あっ!」と声が出てしまいました。受賞作『ともぐい』。クマと死闘を繰り広げる明治の猟師を描いたということで。選考委員の先生方からは「令和の熊文学だ」という評が出たということですよね。もう、猟師ではなくて出てくるクマの描写や筆致が素晴らしくて。「主人公はクマなんだ」ということから出た賛辞なんだと思いますけどもね。令和の熊文学って……「えっ? 大正にも熊文学があったのかな?」とか、なんかね、いろいろ考えてしまいましたけれども。「熊文学ってかつて、あったのかな?」みたいな気持ちになりましたけども。えっ、違うのかな? わかんない。あるの?
(中澤有美子)吉村昭さんとか。三毛別のクマのお話とか、結構クマの本は私、好きです。
(安住紳一郎)ああ、熊文学ってもうあるのか? ジャンルが。
(中澤有美子)そういう風に言うのは初めて知りましたけども。人とクマの関わりって、結構ドラマだなって思って。
(安住紳一郎)そうだよね。よくね、もう本当に命と命のやり取りみたいな。もう伝説級の赤毛のクマが出てきて……みたいなことでしょう?
(中澤有美子)小屋を壊したとかね。
(安住紳一郎)そうなんだ。えっ? 熊文学でかつて、あったんだ。ごめん、俺はてっきりなんか、造語なのかなと思ったんだけど。
(中澤有美子)わかんないけども。
(安住紳一郎)わからない? これから、河﨑秋子さんに電話するんだけどさ。受賞した本人にそんな、なんか不躾な質問して、いいの? ちょっと事前に私たちで結果を出してから電話した方がいいんじゃないの?
(中澤有美子)フフフ(笑)。聞いてみましょうよ?
「令和の熊文学」を本人に聞くべきか?
(安住紳一郎)ええっ? 聞けないでしょうよ。受賞した人に「なんで? この人、知らないでよく電話してきたな」って思われるじゃない? どうしたらいいんだよ? えっ、令和の熊文学って……昭和の熊文学もあるのかな? あるんだ。あるのかな?
(中澤有美子)うーん。平成はなさそうですね。
(安住紳一郎)ちょっと! 誰か今、ネットで調べてよ。恥ずかしいよー。でも、令和っていうことは、あれか? あるのか?
(中澤有美子)『羆嵐』っていう本がありましたけども。あれは昭和なのかな?
(安住紳一郎)いや、わかるよ。かつてクマが題材になった作品があるのはわかるけども。それを熊文学と呼んでいるのかな?
(中澤有美子)そうですね。本当、そこですかね。
(安住紳一郎)そうか。わかった。そうですね。じゃあ、河﨑さんにちょっとね、ゲストで出ていただいた縁で、ということで。図々しいとは思いつつ、電話をしてみたいと思います。なんか、関われて嬉しいよね。
(中澤有美子)そうですね!
(安住紳一郎)関わっていないんだけどさ。なんか、勝手に……一度会っただけなんだけど。やっぱり一度、話したことがある方が受賞をされるっていうのは、なんかいいね。
(電話をかける)
(河﨑秋子)はい、もしもし?
(安住紳一郎)河﨑さんですか?
(河﨑秋子)はい、そうです。河﨑です。
(安住紳一郎)おはようございます。TBSラジオの安住紳一郎です。ご無沙汰しています。
(河﨑秋子)ああ、おはようございます。お久しぶりです。
(安住紳一郎)いや、お忙しいところすみません。勝手に押しかけて、電話をしてしまいました。この度は、直木賞受賞、おめでとうございます。
(河﨑秋子)ありがとうございます。
(安住紳一郎)数日、ずいぶんと大変になってるんじゃないですか? いかがですか?
(河﨑秋子)ああ、そうですね。いろいろな方からお祝いの言葉いただいて。なんか、ずっと電話とかでも相手に見えないのに頭下げながら話している感じです(笑)。
(安住紳一郎)すいません(笑)。一度、番組に来ていただいた縁があるんで。なんかもう他人とは思えず。受賞のニュースを見て、1人で大喜びしてました(笑)。
(河﨑秋子)ああ、ありがとうございます。
(安住紳一郎)で、読みたいと思って東京の本屋に金曜日に行ったら、もう売り切れでしたよ。評判になってるみたいですね。
(河﨑秋子)そうなんですか。たぶん重版か何かで、ちょっと待っていただければお手元に届くかと思います。
(安住紳一郎)重版、当然かかりますよね。今はもう、北海道に戻られたんですか?
(河﨑秋子)はい。十勝の自宅に戻りました。
(安住紳一郎)そうですか。2度目のノミネートで、もう数々文学賞もお取りになってる中で、順当にね、評価されただけっていう声も多くて。審査員の先生方も満場一致だという風にね、記事を見ましたけれども。
(河﨑秋子)いえ、でもちょっとやっぱり待たせていただいてる間はかなり緊張が続きました。
(安住紳一郎)なんか、あれですよね。出版社の方々、編集者の人と、ホテルの待合室みたいところでずっと電話を待つんですよね?
受賞者発表の「待ち会」
(河﨑秋子)そうですね。よく「待ち会」という風に言われるやつなんですけれども。今回の私の場合は新潮社さんの施設の中にある和室の中で、みんなでボードゲームをしながら。なるべく頭の中に「今、待ってるんだ」という意識を追い出しながら、ゲームに没頭してました(笑)。
(中澤有美子)へー!
(安住紳一郎)なんかボードゲームをやるのが伝統みたいになってるんですか?
(河﨑秋子)そうなんでしょうかね? うーん、やっぱり適度に、なんでしょうね。みんなで、複数人数でワイワイやれて。しかも何ていうか、あまりお互いに恨みを残さないタイプのものを……(笑)。
(安住紳一郎)アハハハハハハハハッ! なんか、直木賞を受賞された万城目さんもウノをやっていたって記事が出てましたよ。
(河﨑秋子)なんか偶然、そうだったみたいですね。
(安住紳一郎)その記事を二つ、読んだんで。「待ち会っていうのは編集者と一緒にゲームをする伝統でもあるのかな?」なんて(笑)。
(河﨑秋子)やっぱり黙って待ってると、緊張しますからね。
(安住紳一郎)そうですよね。で、今回の河﨑さんの『ともぐい』ですけど、クマの出没がずいぶん今年ニュースになって。タイムリーな話だなっていう風に思ってたんですけど。ずいぶん、デビュー前に書いた短編が既にあったそうですね?
(河﨑秋子)そうですね。はい。十数年前に小説を30歳手前で書こうと思った時に、一番最初に書いた短編が元になってます。
(安住紳一郎)そして、新しく書き直して。するとまた世の中で少しクマ出没のニュースとか、たくさん出てきたんで。「タイムリーだな」っていう感じ、ご自身でも感じてませんでした?
(河﨑秋子)そうですね。偶然っていうものは重なるものだなという風には思ってましたね。ただ、元々の……今回の作品の舞台もそうですけど。明治時代とか、もちろんそれ以前からも北海道、クマがいますしね。で、人間の生活となかなか折り合いがつかないっていうトラブルは昔からあったことなので。それが今年……去年の秋はずいぶん、いろんなところでひどいのが出てしまったなという印象です。
(安住紳一郎)実際に河﨑さんが育った別海町も、もう本当によくクマのニュース、ありますもんね。
(河﨑秋子)しょっちゅう、道の脇に「クマ出没注意」って。あれ結局、目撃現場なんですよね。あの看板が立ってますから。
(安住紳一郎)そうですよね。それこそOSO18も別海町のあたりですもんね。
(河﨑秋子)そうですね。ちょっと私の実家からは離れてはいたんですけれども。やっぱり、うちの実家も酪農をやってますので。もし近くに出ていたら、嫌だったなとは思います。
(安住紳一郎)河﨑さんはそして、ご実家が酪農で。さらには学校を卒業して羊飼いになったりで。動物がテーマになる、そういうご本が多いですけれども。やっぱりお好きなんですか?
(河﨑秋子)そうですね。やっぱり自分の血肉に根ざしてる感じは一番、動物を書いたりするのがしっくりくるかなという風に思います。
(安住紳一郎)あと、会見で牛のTシャツを着てましたよね? あれ、記者から突っ込まれませんでしたよね。あれ、先生、突っ込まれ待ちですよね?
(河﨑秋子)突っ込まれ待ちだったんですけど、あの時に誰も何も言ってくれなくて(笑)。
(安住紳一郎)「なんで突っ込んでくれないんだ?」と私もね、「誰か! 突っ込めよ! 変なTシャツ、着てるじゃん!」って思ってね(笑)。
(河﨑秋子)いや、あれはよく見るとかわいいんですよ(笑)。
(安住紳一郎)あと、なんかピアスも牛のピアスをしていたって。
(河﨑秋子)そうなんですよ。十勝の道の駅で見つけて。「ああ、これいいな」って思って買った牛の耳標の、みんなにつける黄色いタグのピアスをつけてたんですけど(笑)。認識用の。それも突っ込まれなくて。
(中澤有美子)アハハハハハハハハッ!
ツッコミどころがスルーされる
(安住紳一郎)ねえ! 二つもね、ツッコミどころを用意してたのに……と思って(笑)。あと、北海道のテレビ番組の映像ニュースでお兄様がインタビューに答えてまして。私、河﨑さんのお兄さん、初めて見たんで。「ああ、この方がお兄さんなんだな」って思いました。
(河﨑秋子)はい。10歳離れた長兄です。
(安住紳一郎)ああ、10歳、離れてるんですか。へー! 酪農をやってらっしゃるんですよね?
(河﨑秋子)はい。家を継いで農家をやってます。
(安住紳一郎)そうですか。今は河﨑秋子さんは、もう酪農。羊飼いはやめて、文筆業に専念してるっていうことですよね?
(河﨑秋子)そうですね。体力とか時間の問題があるので、今は文章の方を磨いていきたいなという風に思ってやってます。
(安住紳一郎)そうですか。だから一時期は本当に酪農をやりながら。そして空いた時間でパソコンに向かって原稿を書いてたってことですよね。
(河﨑秋子)そうですね。いつも眠くってね(笑)。
(安住紳一郎)ねえ。これまでもね、十分活躍されてましたけど。直木賞受賞っていうひとつの区切りっていうんですか? ひとつの大きな結果が出たということは、周りの方は喜んでくださっていますか? いかがですか?
(河﨑秋子)そうですね。私自身はまだ実感というのはじわじわ出てきてる段階ですけども。とにかく周りの友人、知人、親戚とかが皆さん、喜んでくれたので。本当によかったなと。本当に、それこそいろんな方のおかげで。去年、TBSさんのそちらのラジオ番組に出させていただいたのもすごくいろんな刺激になったので。本当にありがたいなという風に思ってます。
(安住紳一郎)ありがとうございます。2月に授賞式っていうんですか? あるんですよね。
(河﨑秋子)はい、あります。
(安住紳一郎)ぜひ、なにか爪痕、残してください(笑)。
(河﨑秋子)いきなりハードルが高くなりました……(笑)。
(中澤有美子)そうですよね(笑)。
(河﨑秋子)そうですね。考えておきます。
(安住紳一郎)そうですよね。何がいいでしょうね、なんて(笑)。
(河﨑秋子)なんでしょうね?(笑)。
(安住紳一郎)今朝は十勝、かなり冷え込んでるんじゃないですか? いかがですか?
(河﨑秋子)そうですね。-16か17度ぐらいになりました。
(安住紳一郎)そうですか。猫ちゃんたちによろしくお伝えください。
(河﨑秋子)ありがとうございます。今、こたつで寝てます(笑)。
(安住紳一郎)朝から河﨑さん、ありがとうございました。すいません。おしかけて電話をしてしまいました。
(河﨑秋子)いえいえ、どうもありがとうございます。
(安住紳一郎)またぜひ、スタジオの方に来て、本の話を聞かせてください。よろしくお願いします。
(河﨑秋子)はい。よろしくお願いいたします。
(安住紳一郎)失礼いたします。ごめんくださいませ。
(河﨑秋子)失礼します。
(電話を切る)
(安住紳一郎)いやー、河﨑さん、お元気でしたね。
(中澤有美子)そうですね。よかった。お声が聞けて。
(安住紳一郎)令和の熊文学、やっぱり聞けなかったわ。聞くべきだったな。失敗した。忘れてた……あの、来ていただいた時もすごいね、ユニークで。優しい方で。柔らかい方で。
(中澤有美子)そうですね。淡々とね、面白いことをいつもおっしゃって。
結局、聞けなかった令和の熊文学
(安住紳一郎)で、空気があたたまった時に令和の熊文学を聞こうと思ったんだけど……あたたまったら忘れちゃった(笑)。聞けばよかった。ねえ。誰も聞いてないもんね。きっとね。ああ、失敗した。そうね。誰か、聞いてくれねえかな? でもなんか、本当に嬉しいですよね。
(中澤有美子)そうですね。
(安住紳一郎)『ともぐい』ですけれども、新潮社から1925円で発売ということです。そして、河﨑さんは馬の話とか、それから犬の話、キツネの話とかね、動物の様々な本を書いてらっしゃいますので。もし興味のある方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?
<書き起こしおわり>