吉田豪 漫画家・平松伸二を語る

吉田豪 漫画家・平松伸二を語る たまむすび

吉田豪さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で『ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』などの作者、平松伸二さんについて話していました。

(安東弘樹)そんな豪さんなんですけども、これまでインタビューしてきた一筋縄ではいかない有名人の様々なその筋の話を聞いていきます。今日、豪さんに紹介してもらうのは私にとっても、私の人生に大きく関わった漫画家の平松伸二さんです。まずは、あらすじとその筋をご紹介します。平松伸二さんは1955年、岡山県出身。高校1年生の時に少年ジャンプの新人漫画賞に『勝負』が佳作に入選。その後、上京して『アストロ球団』の中島徳博さんのアシスタントとなります。そして、『北斗の拳』の原作で有名な武論尊さん原作の『ドーベルマン刑事』で1974年に初の連載スタート。そこからは『ブラック・エンジェルズ』『マーダーライセンス牙』などド外道犯罪者をこらしめる勧善懲悪物を描き続けて、現在はグランドジャンプでご自身の漫画化人生を描いた『そしてボクは外道マンになる』を連載中です。

(玉袋筋太郎)うん。

(安東弘樹)そして、吉田豪さんの取材による平松伸二さんのその筋は……その1、デビューでいきなり武論尊の筋。その2、赤紙が来た。えっ、マジですか? 俺、やるんですか? の筋。その3、ドロドロとした部分は全部漫画にあるの筋。その4、クレームは反響の証明? の筋。その5、実写化はうれしいけど……内容は決して喜ばしいものではないの筋。その6、花も来ない。虐げられてこその漫画家人生の筋。その7、右手で書いて発散。私生活では平凡な人生の筋。以上7本の筋ですね。

(吉田豪)はい。

(安東弘樹)『ドーベルマン刑事』ね。

(吉田豪)影響、受けてますよね。

(玉袋筋太郎)安東さんはね。

安東弘樹が『ドーベルマン刑事』から受けた影響

(安東弘樹)で、(BUBUKAの)記事を拝読したんですけど。僕は加納の「外道は死ね!」だけじゃなくて、死んでいい本物の外道と犯罪者でも外道ではない人を嗅ぎ分ける嗅覚と、それから弱者に対する深い優しさ。そこも僕にとっては人生のね、師匠なんですよ。

(吉田豪)はいはい(笑)。

(玉袋筋太郎)ずいぶん面倒くさいですね(笑)。

(吉田豪)(笑)

(安東弘樹)「外道、死ね!」だけじゃないということだけはお伝えさせてください。

(吉田豪)1本目から、行きますかね。

(安東弘樹)はい。デビューでいきなり武論尊さん。

(玉袋筋太郎)武論尊先生のね。うん。

(吉田豪)はいはい。武論尊先生原作の『ドーベルマン刑事』。武論尊さんっていうのは自衛隊あがりでチャールズ・ブロンソンを元ネタにした強面な人なんですよ。それとハタチになりたてでコンビを組むわけじゃないですか。大変だと思うんですよ。って聞いたら、「いや、全然。あの時はすごくいい原作で、すごい楽だった。自衛隊あがりだろうが何あがりだろうが、原作が面白ければ全部OK」って言っていたんですけど、武論尊は前に僕、1回インタビューをしているんですけどね。あの人は本宮ひろ志先生の本宮プロの人だったんですけども。自衛隊仲間で。

(玉袋筋太郎)うんうん。自衛隊つながりだよね。

(吉田豪)で、仕事もしないで、アシスタント相手にノミ屋をやっていたんですよ。お金を巻き上げて、競馬のノミ屋をやって、お金を払わないみたいなことをずっとやっていて(笑)。で、迷惑だから編集部が引き離すために無理やり原作者にしたんですよ。

吉田豪・武論尊を語る

吉田豪 武論尊を語る
吉田豪さんがTBSラジオ『たまむすび』で『北斗の拳』などの原作で知られる武論尊さんを紹介。本宮ひろ志先生との不思議な関係や『ドーベルマン刑事』、『北斗の拳』の制作秘話などを話していました。 (小林悠)今日は、どなたのその筋ですか? (吉田豪...

(玉袋筋太郎)武論尊先生が? ええっ!

(吉田豪)そう。そういう人なんですよ。「それでも問題なかったんですか?」って聞いても、「ああ、それは聞いてますけども。はい」っていう感じで。まあ、聞いたら全然会っていなかったらしいんですよね。

(安東弘樹)ああ、ご本人と。

(吉田豪)そうそう。編集者が間に入ってやり取りをしていたんで、その厄介な感じには巻き込まれないで済んだと。ただ、『ドーベルマン刑事』って第一話でいきなり問題になっているんですよね。連載一発目から。ちょっと精神障害の方が刑務所から出てきて、主人公に復讐するっていう話で。「ヨダレがブワーッと垂れているのがどこかの施設で問題になって。編集長と編集者と武論尊さんと3人で謝罪に行ったみたいです。『平松くんはまだ若いから。なにかわからないんで行かなくていい』って言われた」って言っていたんですけど……僕、武論尊先生からこの話は聞いていて、違う言い方をしていたんですよ。「『平松くんには未来があるから』って言われた」って言っていて(笑)。「だから俺が謝りに行ってね。俺に未来はないのか!」って怒っていたんですよ。

(玉袋筋太郎)(笑)

(吉田豪)で、さらに武論尊先生が怒っていたのが、「連載時にこういう問題になったのにバカなのが、単行本にもそのまま載せたんだよ」って(笑)。

(玉袋筋太郎)ダメじゃん、それ!(笑)。

(吉田豪)「初版だけ、このまんまなんだよ、これ!」って(笑)。

(玉袋筋太郎)初版は。

(安東弘樹)その後は変わっているんですか?

(吉田豪)そう(笑)。

(玉袋筋太郎)じゃあ、レア物だよ。初版は。

(安東弘樹)だから俺、記憶にないんだ。全巻持っているんですけど、「あれ、こんな話、あったっけ?」って。じゃあ、そうなんですね。初版だけなんですね。

(玉袋筋太郎)『ブラックジャック』の4巻みたいなね。うん。いいねえ。

(安東弘樹)じゃあ、武論尊さんもそんな方なんですね。

(吉田豪)武論尊先生は面白い人ですよ。「俺はね、女は千人斬りだ!」って言っていたんですけど、掘ってみると「うん、まあね、だいたい水商売と風俗だ」みたいな(笑)。

(玉袋筋太郎)そこ、カウントしてんのかよ!(笑)。

(吉田豪)そうそう。それを全部カウントするっていう。

(安東弘樹)「斬った」って言わんだろう?っていう。

(玉袋筋太郎)そこが大木凡人先生とは違うところだね。

(吉田豪)「はじめてキスした時は、うれしかったねえ」って(笑)。

(玉袋筋太郎)「キスはダメよ」だもんね。

(吉田豪)そう(笑)。かわいらしい人ですね。すっごい怖そうに見えてそんな感じです(笑)。

(安東弘樹)そしてね、赤紙が来た。俺、やるんですか?って、なんですか。これは?

(吉田豪)だからいきなり初連載だったわけじゃないですか。ハタチそこそこで。「どんな気持ちだったんですか?」って聞いたら、「とにかく毎週連載がはじめてだったんで。アシスタントをやっていた時に『アストロ球団』の中島先生がゲーゲー吐きながら連載していた。それが怖くて。だから『クレームが来た』とかよりもとにかく締め切りが先で。落としちゃいけない。それがいちばんで。とにかく、クレームなんかよりも1週間後の締め切り。で、身を削って描かなきゃ週刊連載なんかできないっていうのが言葉じゃなくても、仕事のやり方を見ればわかった。だから、大変だった。だから、週刊連載が決まって喜んだというよりも、『マジですか? 俺、やるんですか? とうとう俺の番が来た……」って本当、赤紙が来たみたいな感じだったんですよ。

(玉袋筋太郎)(笑)

(安東弘樹)普通はうれしいはずなのに、先生があまりにも大変だったから。ああ、そういうことなんだ。

(吉田豪)「ついに俺の順番が来てしまった」っていう。

(玉袋筋太郎)ゲーゲー吐きながら『アストロ球団』を描いていたって、すごいね! 週刊っていうのはすごいよ。

(吉田豪)『そしてボクは外道マンになる』っていういま平松先生が描いている自伝漫画がちょうどいまこのへんの話が1巻なんですけど、編集者が中島先生のこと、殴ってましたからね(笑)。どこまで本当かはわからないですけどね(笑)。

(安東弘樹)えっ、そうなんですか? そういう力関係?

(吉田豪)まあ、どこまで本当かはわからないです。相当膨らませているやつでしょうけど。でも、締め切りも大変だったみたいで。1回目は30ページぐらいでいきなりその読者アンケートもよかったんですけど、普通の週刊は20ページだったんで多いけど、その後に4回ぐらい20ページが続いて前後編でやったら、人気アンケートが落ちちゃった。だから毎回30ページになってキツくて、辛くて。ギリギリでやっていて。で、「連載当時、なにが楽しかったんですか?」って聞いたら、「楽しいことはないです! 日々締め切りに追われて、アシスタント問題も抱えて。人間関係ですよね。みんな年上で、アシスタントからすれば『この若造が』みたいな気持ちもあって。若かったから僕も少しは生意気だっただろうし。楽しいことは一切なし。オナニーぐらいですかね」っていう(笑)。

(安東弘樹)ヤベえ、わかる!

(吉田豪)(笑)

(玉袋筋太郎)わかるけど、漫画家だけにまさにこれがGペンなんつってね。

(吉田豪)(笑)

(安東弘樹)玉さん、上手い!

(吉田豪)「Gペンを握り……」(笑)。

(玉袋筋太郎)ナニを握ってんだよ!(笑)。2本のGペンを(笑)。うん。

(安東弘樹)でも、そうですよね。ハタチぐらいですよね。当然、アシスタントは年上で。「楽しいことはオナニーぐらいですかね」って。うーん、そうか。

(玉袋筋太郎)だと思うよ。

(吉田豪)そして、その3につながってくるんですよ。

(安東弘樹)なるほど。ドロドロとした部分は全部漫画にある。

(吉田豪)武論尊先生は『ドーベルマン刑事』がいきなりヒットしたことですぐに大金が入ってきたんで、タクシーを飛ばして芸者をあげて遊んで帰ってきて……みたいなことを繰り返して。その結果、飲みすぎて体を壊して入院したりとかしていたらしいんですよ。「そういうことには付き合わされることもなかったんですね?」って聞いたら、「もう全然。芸者遊びもなにも、岡山のド田舎の山の中出身で、女遊びだの何だの、なにも知らない。まだ童貞でしたから」って。

(玉袋筋太郎)童貞なんだ。

(吉田豪)「当時はだいたいみんなそうじゃないですか? 漫画を描く人間なんて部屋に閉じこもって絵をシコシコ描いているわけですから。みんな童貞で連載をもらって、どこか取材旅行に行って童貞を捨てるっていうイメージ」っていうね。

(玉袋筋太郎)ああ、取材旅行で捨てるんだね。うん。

(吉田豪)そうなんです。だから、作品のことを聞かなくても女性の話を聞くとそれが作品に反映されるっていうのが僕の持論なんですよ。平松先生はすごいストイックな人なんですよね。「浮気はしない」って広言していて。で、聞いたら、「本当に浮気はできない。『しない』というより、できない。漫画を描く以外に能がないんで。あとは全部奥さんにやってもらっているから。お金から、炊事洗濯から何から。だから、離婚したら本当に困っちゃうんで、奥さんは大事!」って。

(玉袋筋太郎)はー! わかるな。でも、その部分は。うん。炊事洗濯、全部そうだろ。でも、俺は漫画は描いてないんだよな。うん。

(吉田豪)「男だから『100%ない』って言ったら嘘になるけど、うちの両親はすごい仲が良かったんで。夫婦喧嘩は見たことがないぐらいだったんで、結婚っていうのはこういうもんなんだなっていう刷り込みがある」と。

(安東弘樹)それは大きいだろうな。

(吉田豪)で、掘ったら、初体験は吉原で。10回ぐらい行ったけど、その後は奥さんだけっていう話でしたね。

(安東弘樹)えっ! その後は奥さんだけ?

(吉田豪)だけ。

(玉袋筋太郎)その吉原の人が奥さんになったっていうことじゃない?(笑)。

(吉田豪)違いますよ!(笑)。すごいですよ。

(玉袋筋太郎)一穴主義。星一穴。うん。

(吉田豪)で、しかもお酒も飲まない。

(玉袋筋太郎)お酒も飲まないんだ!

(吉田豪)なんかね、どんどん安東さんとかぶってくるんですよ(笑)。聞けば聞くほど。

(安東弘樹)若干僕も、「楽しいのはオナニーだけ」ぐらいから「あれっ?」っていう。

(玉袋筋太郎)だけど、『俺節』の土田世紀なんていうのは酒浸りで。最後は若くして死んじゃうわけだから。いや、こっちの方がいいね。大事じゃないの?

(吉田豪)だから、「お酒は飲まないけど、その分漫画の中でいっぱい悪さをしている。女が出れば強姦するし、人は殺すし。僕の中にあるドロドロした部分は全部漫画の中に吐き出しているんで、現実の自分の生活の中ではそういうことをしようとは思わない」っていう。

(玉袋筋太郎)蛭子能収も入っているな。ちょっと。

(吉田豪)(笑)。だから、デビューしてお金がドーンと入ってきても、貯金だけ。貯金三昧っていうね。最初、中島先生に「漫画家なんて先が見えない商売なんだから、金が入ったからって使っちゃダメだ。○○っていう漫画家は酒と女に溺れて……とか言われたから、ちゃんとしようと思った」っていう。

(玉袋筋太郎)「○○」って誰なんだろうね。

(吉田豪)まあ、いっぱいいるでしょうけどね(笑)。

(玉袋筋太郎)いるだろうなあ。だって締め切りがあるんだもんね。そこにお金が入ってきたって、使いようがないよ。

(吉田豪)そうなんですよ。

(安東弘樹)だって旅行とかできないですよね。絶対に。

(吉田豪)そして、その4。

(安東弘樹)クレームは反響の証明。

クレームは反響の証明

(吉田豪)そう。「どれぐらいで楽しくなったんですか?」って聞いたんですよ。「『ブラック・エンジェルズ』の連載時には辛くて毎週死のうと思った」っていう話もあって。やっぱりその時代は大変だったみたいで。「ページ数は戻ったけど、自分で話を考えて、絵も描くのは本当に大変で。『リッキー台風』っていうのをその前でオリジナルでやって。プロレス好きだからそれは楽しく描けたんだけど、『ブラック・エンジェルズ』は本当に苦しくて。ただ、『ドーベルマン刑事』の連載中に原作付きの漫画をやっている限り、お前は認めない』って編集の後藤さんっていう人に言われて、『見返してやる』って思っていた」っていう。

(玉袋筋太郎)はー!

(吉田豪)なにが辛いかっていうと、平松先生ってキャラになりきって、入り込んで描くから、こうやってド外道な漫画を描くと、まずド外道になりきり悪さをして。そして、主人公になりきって殺すみたいなことをやらなくちゃいけないので、相当消耗するらしいんですよ。

(安東弘樹)ええっ、大変! それは大変!

(吉田豪)さらには『ブラック・エンジェルズ』もやっぱり第一話で問題になっているんですよね。やっぱりクレームが来て。第一話で、前科者のお兄さんに「お前は絶対にまた犯罪を犯す!」って刑事が付きまとうっていう話だったんですけど、警視庁から「刑事はこんなことしない」ってクレームが来て。

(安東弘樹)そっちか!

(玉袋筋太郎)お上から来ちゃったんだ。これは怖い!

(吉田豪)「でも、僕のヒットしている漫画は全部クレームが来ています。『ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』『マーダーライセンス牙』『リッキー台風』も」っていうね。『リッキー台風』はフランク・ゴッチっていう昔の選手の絵をプロレスの本から抜いてそのまま描いちゃったんで、それがクレームが来たと。

(玉袋筋太郎)クレームが来るんだ。

(吉田豪)「ただ、でもクレームが来ないと寂しいですね。『ああ、なんだ。あんまりヒットしないんだ』って思う。反響の証明」っていう(笑)。一話目からクレームが来たら、「これは当たるぞ!」ぐらいの。

(玉袋筋太郎)はー!

(安東弘樹)だって、反響がないってことは、読んでないっていうことですもんね。

(吉田豪)で、いちばんの反響の証明が、たぶんその次ですよね。

(安東弘樹)実写化はうれしいけど、内容は喜ばしいものじゃない。

(玉袋筋太郎)うん。言っちゃっているね。これ。

(吉田豪)デビュー作がいきなり映画化されて、テレビ化もされて。すごいじゃないですか。『ドーベルマン刑事』。千葉真一さん主演で、あの頃の東映で深作欣二監督で。最高じゃないですか。最高のはずなのに、最高じゃない作品だったんですよね(笑)。最高のメンバーを集めて。

(玉袋筋太郎)(笑)。そうだ、そうだよ。

(安東弘樹)正直、俺も思ったな。

(吉田豪)全然違う!っていう(笑)。

(安東弘樹)全然違った。もう本当に。

(吉田豪)そうなんですよ。平松先生もすごいうれしくて。深作欣二監督と千葉真一さんに会いに新宿に行ったらしいんですけど。スチール写真かなにかを撮るところに。そしたら深作監督は『ドーベルマン刑事』の次に出る『柳生一族の陰謀』の話ばかりしていて。千葉ちゃんも出るんで。ずっとそっちで盛り上がっていて、心ここにあらず(笑)。

(玉袋筋太郎)まあ、『柳生一族の陰謀』も傑作って言われているからね。そっちに力が入っていたっていうのはあったんだろうね。

(吉田豪)で、映画を見たら全然『ドーベルマン刑事』じゃないし。ブタを連れている市っていう(笑)。

(安東弘樹)そうなんだ。ドーベルマン刑事じゃなかったな。

(吉田豪)ブタ刑事だったんですよ(笑)。

(玉袋筋太郎)ブタ刑事。本当だよ。でも、この頃はあれだね。ジャンプの原作って多いね。東映は。

(吉田豪)『こち亀』とかね。

(玉袋筋太郎)『こち亀』『サーキットの狼』とか。すごいんだな。

(吉田豪)で、それも上手くは行っていないっていう(笑)。だからまあ、「当時はいまよりも漫画の地位が低くて。映画人も『漫画と同じにやったら映画人の名折れだ』っていう感覚があったんじゃないですかね?」っていう感じで。

(玉袋筋太郎)じゃあ、最近の漫画原作で映画化されているものっていうは……。

(吉田豪)だいぶ良心的ですね。

(玉袋筋太郎)うん。上がってきたんだね。

(吉田豪)「ちなみにテレビ版の黒沢年男主演の『爆走!ドーベルマン刑事』はどうでしたか?」って聞いたら、「もっと下です」っていう(笑)。「1回見て、つまらないと思って止めました」っていう。

(安東弘樹)俺もこの時の失望感、いまだに覚えてますね!

(吉田豪)全然違いましたからね!(笑)。

(安東弘樹)全然違うんだもん。「えっ、グループ!?」って。

(吉田豪)そうなんですよ。黒バイ隊っていう(笑)。

(安東弘樹)なんでそうなったのか……うわっ、思い出した! ごめんなさい。それを当時作っていた方には申し訳ないけど。

(吉田豪)まあ、みんなそう思っていたという。で、さらにはその後も『ブラック・エンジェルズ』なんか時代的にアニメ化するべき作品じゃないですか。

(玉袋筋太郎)そうだよね。

(吉田豪)「でも、僕は諦めています」って言っていて。「アニメにはならないんだなって。『ブラック・エンジェルズ』もアニメ化の話はあったんだけど、編集が打ち合わせに来た時に『アニメの話、あったんですけど。どうも信用できないアニメ会社なんで断りました』って言われて、俺に断りなく? 勝手に言うなよ!」って言っていて。

(玉袋筋太郎)ええーっ!

(吉田豪)まあ、意外とジャンプはこういうのがあるみたいで。本宮ひろ志先生も怒っていたんですよね。パチンコ化の話が来た時に、「ジャンプはそういうんじゃないんで」っていう感じで断られて。「お前、俺を通さずになに言ってんだ?」っていうんで本宮先生が直で話をするようになって……みたいな。

(玉袋筋太郎)おおっ。美味しいんだけどね。パチンコの権利ってね。やるとね。(相当な金額を)もらえるっていうからね。

(吉田豪)そうなんですよ。そして、その次につながっていくと。

(玉袋筋太郎)花も来ない。虐げられてこそ漫画家人生。

(吉田豪)その、さっきのジャンプの怒りから……「いまだにジャンプはひどい編集部だ的な思いはあるんですか?」って聞いたら、「ありますよ!」ってスイッチが入って(笑)。「俺、いまだにひどい扱いを受けているんですか! このキャリアで」って。平松さんは最近、漫書展っていう展示回をやっているんですけど。自分の漫画のイラストに書道で一言書くという。

(玉袋筋太郎)うんうん。

(吉田豪)「漫書展をやれば、花も来ないでしょう? 『外道マン』の新連載でもね、表紙に名前もない。本当に俺の40年間はいったい何だったんだ?」って言いはじめて(笑)。

(玉袋筋太郎)ダメでしょ、それ!

(吉田豪)「もちろん感謝はありますけど、いまは虐げられた思い出しか……ただ、虐げられたからこそ、反発していまだに現役を続けられるのかな?っていう思いもある」っていうね。

(安東弘樹)これも似ているなー!

(玉袋筋太郎)虐げられてるんですか?

(安東弘樹)僕、アテネオリンピックに行ったんですけど、その時のアテネオリンピックに絡んだアナウンサー全員が表彰をされたんです。キャスターをちょっとでも、1回でも中継をやったアナウンサーは。僕だけ、名前がなかったんです。

(吉田豪)(笑)

(安東弘樹)僕、期間中ずーっとアテネに行っていたんですよ。取材をずーっと、毎日やって、1ヶ月ほぼ寝ずに取材をしていたのに、なぜか僕の名前だけ表彰に……製作者とかプロデューサーからアナウンサー、全員。関わっていた人全員が表彰されたんですけど。

(吉田豪)それは、上司に噛み付いたりしたからですかね?

(安東弘樹)いや、それはわからないですけど……。

(吉田豪)(笑)

(安東弘樹)後で聞いたら、ただ忘れられていたっていうことがわかりまして。

(吉田豪)うわー……。

(安東弘樹)忘れられていたんだ、俺っていうね。

(吉田豪)で、平松先生は『鬼龍院花子の生涯』とか五社英雄監督の本を読んだと。たぶん、春日太一さんの本なんですけど。「そこに『男は悔しがって生きて、女は寂しがって生きる』っていう一節があって、本当に男は悔しがって生きるんだなと思います」っていう。

(玉袋筋太郎)(笑)

(安東弘樹)平松先生!

(吉田豪)「わかる!」っていう。で、ちなみにその『ブラック・エンジェルズ』が終わった後、大変だったらしいんですね。やっぱり。何度かアンケートでも上手くいかなかった時期もあったりとかで。そんな時に『北斗の拳』で原哲夫先生が出てきて。かつて自分が組んだ人(武論尊)と組んで。さらにはすごい絵で。40年間漫画をやっていて、いちばんショックだったらしいんですよね。「この絵には敵わない。俺の漫画はもう通用しないのか」と。そんな時に、スーパージャンプっていう青年誌ができて、『マーダーライセンス牙』が始まって、そっちが人気がずっと1位でっていうね。

(玉袋筋太郎)おおーっ!

(吉田豪)『ドーベルマン刑事』の時はずっと『サーキットの狼』が1位だったんで。ようやく自分に責任感が出てきて。

(玉袋筋太郎)『サーキットの狼』を抜けなかったんだ。2位だったんだな。

(吉田豪)で、「作品と編集者の相性とかって関係があるんですか?」って聞いたら、「僕の経験から言うと、僕は編集者とは仲良くならない方がいいんです。『てめえ、この野郎! ブチ殺してやる!』って編集者に憎しみを持った方がいい作品になる」っていう。

(安東弘樹)「憎しみ」って(笑)。

(吉田豪)そう。「だから本当に俺、幸せになっちゃいけないんですよ。漫画を楽しくするためには、いじめられ、虐げられ……『外道マン』は他のところからはクレームが来ていないんですけど、僕が『漫書展に花も贈ってこない』とか『ぶっ殺してやる』とか漫画に描いたら、集英社の上の方からクレームが来て」って(笑)。

(玉袋・安東)(笑)

(吉田豪)「それはありですけど、言葉を直します。『ぶっ殺す』はダメだ」っていう(笑)。「ただ、とりあえず売れないと。集英社の悪口をもっと書きたいから」っていう(笑)。

(玉袋筋太郎)なるほど。あるんだなー。エネルギーを作品に放出っていうか、するんですね。

(安東弘樹)俺も「チキショー!」って言いながら腕立て伏せやっていますもんね。いつも。

(吉田豪)同じです! タイプはかなり近いです!

(安東弘樹)で、右手で描いて発散。私生活は平凡な人生っていうね。

私生活は平凡な人生

(吉田豪)安東さんっぽいですけどね。いちばんしんどかった時期を聞いたら、「『マーダーライセンス牙』の頃だった。あの時はいちばん精神状態がおかしかった。毎月60ページのネームをやるには、ずっと根を詰めてやらなくちゃいけないんで精神的におかしくなって」って。「それもやっぱり編集の後藤さんの『原作付きの漫画を描いている限り、絶対に俺はお前のことを認めない』っていう言葉がなかったら踏ん張れなかった。それと『ブラック・エンジェルズ』の連載中に『ホームランを打たなきゃ認めない』って言われたのも大きくて。本当に俺はいじめられているな」って言っていて(笑)。

(安東弘樹)ああー。

(吉田豪)ホームラン=『ドラゴンボール』とか『北斗の拳』とか『キン肉マン』級なんですよ。まず打てないんですよ。打てるわけがない(笑)。

(玉袋筋太郎)それはまた、なあ!

(吉田豪)「僕はせいぜい二塁打ぐらいだと思われているんですよ」っていうね。

(安東弘樹)いやー、でも本当にわかるわー。

(吉田豪)(笑)

(玉袋筋太郎)たしかになー。

(吉田豪)「ただ、その後藤さんが少年ジャンプの編集長をしている時に、年末号か年始号で編集長の言葉の中で『世の中の牙が○○』とか『牙』っていう単語を3回使ってくれたコメントがあって。それを読んで、たぶん俺のことを認めてくれたんだなって解釈してスッと憑き物が取れたようになって。それからしばらくして、連載も終わった」っていうね。

(玉袋筋太郎)(笑)

(吉田豪)怒りのモチベーションは必要だっていう(笑)。

(玉袋筋太郎)そういうことなんだね。

(吉田豪)まあ、後藤さんは漫書展に来てくれたらしいんですよね。で、「木刀を持ってもらったり、写真に写ったりとかして。関係もいいし、僕は基本的に争い事は好きじゃない。基本的にバイオレンス漫画は描いてますけど、平和主義者なので喧嘩はしたくない」っていうね。そういう流れで、「TBSの安東アナも『ドーベルマン刑事』に触発された側ですからね」って聞いたら……。

(玉袋筋太郎)聞いたの?

(吉田豪)「そう。あの人もちょっと変わってますよね」って(笑)。

(安東弘樹)(笑)。前に担当していた番組でゲストに来ていただいて。

(吉田豪)「悪いヤツは死刑にしろ!っていう感じでしょう? いい影響はないと思いますけど」みたいな(笑)。

(安東弘樹)でも、さっきも言いましたけど、そこだけじゃないっていうね。優しさとかね。

(吉田豪)「僕は漫画の中で悪さをいっぱいやっているので、私生活では平凡な人生を歩んでいます。だからテレビの中で善玉とかをやっている人は性格が悪いんだろうな。悪役の人は普段はいい人なんだろうなっていう発想になる」っていう。

(玉袋筋太郎)そうだよ。そうそう!

(吉田豪)プロレスファンはみんな知っている(笑)。

(玉袋筋太郎)そうでしょう? うん。

(吉田豪)ダンプさんもポーゴさんもいい人っていう(笑)。

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(玉袋筋太郎)みんないい人だよ。うん。

(安東弘樹)中野さんなんて、もう!

(吉田豪)ブルさんもいい人ですよね。

(玉袋筋太郎)上田馬之助さんだって。玉袋筋太郎だっていい人だ!

(安東弘樹)まあ、悪役ではないですけどね。

(玉袋筋太郎)名前は悪役だけどね。そう。

(吉田豪)「悪いことばっかり考えていると、仕事から抜けたらそんなことしたくないっていうね。だから、普通の人も頭の中で悪いことを想像するだろうけど、僕はそれを現実にやらなくても、右手で描いて発散できるから。普通の人も悪いことを想像して、文章とかにすれば多少は解消できるんじゃないですかね?」っていう。

(玉袋筋太郎)ああー。

(安東弘樹)深いですね。言葉が。

(吉田豪)そう。いろんな話を聞きましたけど、個人的に衝撃だった話が1個。『ブラック・エンジェルズ』の連載中に『ミスター★レディー』っていう女子プロレスの漫画を描いているんですね。読み切りで。そこでちょっと……伏せ字を使って表現しますけど、「ミル・マ○カラス」っていう覆面レスラーを出したんですよ。

(玉袋筋太郎)うん。

(吉田豪)マスカラスのパロディーレスラーはたくさん出ているんですけど、こんなストレートなネーミングで、ストレートなデザインでマスクを描いた人って平松先生ぐらいで。これはやりすぎだろう?って正直僕、当時思ったんですけど。その後で全日本プロレスを見に行って、選手の控室に入れてもらったら、タイガー戸口さんっていうレスラーがいて。英語も堪能な。「平松伸二ってお前、もしかして『ミスター★レディー』って漫画を描いたやつか? マスカラスがあれ読んで怒ってたぞ!」って(笑)。

(玉袋・安東)(笑)

(吉田豪)マスカラス本人が読んでいたっていう(笑)。

(安東弘樹)でも、ある意味うれしいですよね。

(吉田豪)うれしいですけどね。

(玉袋筋太郎)うれしいけど、マスカラスっつーのはプロレスの中ではベビーフェイスだけど、もう裏方の人。同業者からはいちばん嫌われているタイプの人だからね。

(吉田豪)固い試合しかしないっていうね。

(玉袋筋太郎)ねえ。最悪だよ。キラー・カーンさんがシメたとかね、いろいろあるんですよ。

(吉田豪)そうなんですよ。

(玉袋筋太郎)いや、でも漫画家の先生っつーのは大変だな。

(安東弘樹)毎週締め切りって、どんな気分なんですかね? 連載は。だって、7日しかないんですよ。

(吉田豪)で、昔はもっとキツいんですよ。毎週締め切りな上に、愛読者賞っていう読み切りのバトルまであって(笑)。それも休んじゃいけないんですよ。

(玉袋筋太郎)そりゃあね、『浮浪雲』も終わるよ。

(吉田豪)ジョージ先生(笑)。

(玉袋筋太郎)ジョージ先生も終わっちゃうよ。

(安東弘樹)そう考えると『こち亀』、秋本先生はすごいな。

(玉袋筋太郎)すごい。

(吉田豪)あと、個人的にちょっと面白かった話が、「『北斗の拳』以外で同時期に連載している人とかを見て、『これはヤバいかも』みたいに感じたことはなかったんですか?」って聞いたら、「うちでアシスタントをしてくれていた猿渡哲也くん。彼が入ってきた時にデッサンを見せてもらって、『こいつ、ヤバいな』って思って怖かった。デッサン力がすごかったんで」って言った後に、「その前に『キャプテン翼』の高橋洋一くんもうちに1年ぐらいいたんですけど」って言われたから、「デッサン力は?」って聞いたら、「いや、あの……」で終わって(笑)。

(玉袋・安東)(笑)

(吉田豪)「失礼しました!」っていう(笑)。

(玉袋筋太郎)まあでも、時代をちゃんと作ったから。あれがあったから、ワールドカップのね。

(安東弘樹)だってワールドカップに出場している世界の強豪国の選手が『キャプテン翼』を見て……。

(玉袋筋太郎)みんな読んでいるんだから。デッサン力だけじゃないんです!

(吉田豪)物語作りとかね。はい。

(安東弘樹)今日は『ドーベルマン刑事』などでおなじみ、漫画家・平松伸二さんの筋でした。平松さんのインタビューは現在発売中の『BUBKA』10月号でじっくりと読むことができます。表紙は乃木坂46。豪さん、なにかありますか?

(吉田豪)大丈夫です!

(安東弘樹)わかりました。吉田豪さん、次回の登場はちょっとイレギュラー。9月。今月の29日になります。

(吉田豪)大人の事情です。

(安東弘樹)大人の事情。すいません。ありがとうございました。よろしくお願いしますね。

(玉袋筋太郎)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

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