町山智浩 2017年アカデミー賞を振り返る

町山智浩 2017年アカデミー賞を振り返る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2017年のアカデミー賞のを振り返り。前代未聞の作品賞受賞作品間違いなどについて話していました。

(赤江珠緒)しかし、アカデミー賞。前代未聞で。

(町山智浩)大変でしたよ。僕、中継番組で生で出ていたんで。みんな「うわーっ!」みたいな。「テロップ、作り直し!」みたいな(笑)。

(赤江珠緒)ああ、そうですよね!

(山里亮太)あのハプニングのところですよね?

(町山智浩)そうなんですよ。大変なことになりましたけどね。まあ、しょっちゅうミスをする自分としては、他人事じゃなくて。人が失敗するのを見ると、胸が苦しくなる方なんですよ。

(山里亮太)「自分がこうなったら……」みたいな?

(町山智浩)そうそう。自分に置き換えちゃうんで。だから僕、推理物とか見れないんですよ。犯人の立場で描いているやつを見ると、もうむやみに自分が追い詰められている感じになるという(笑)。

(赤江珠緒)「つ、捕まる!」みたいな気になって。そっち側目線ですか(笑)。

(町山智浩)そっち側目線。失敗する側の目線なんで。本当にでも、大変な……何人かクビが飛んだと思いますよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(山里亮太)あれ、やっぱり後ろの方の完全なミスですよね?

プライスウォーターハウスクーパースのミス

(町山智浩)あれ、渡す人たちはそれだけのために来ている人たちなんですよ。あれね、プライスウォーターハウスクーパースっていう会計事務所がありまして。アメリカの超一流の会計会社で。まあ、企業の会計をやるから秘密を完全に守るんですよ。で、それでアカデミー協会が投票に関しては集計を一切内部でやらないで、その会計事務所に任せて。それで集計して、その結果も彼らが作って。だから本当に集計した人しか知らないんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、わざわざ第三者を入れて?

(町山智浩)第三者を入れて情報が漏れないようにして。しかも、それを2つのトランクに入れて、2通作るんですね。受賞者の封筒をね。で、舞台の袖の両方に立って。で、プレゼンターにひとつずつ渡していくっていうやり方なんですが……絶対に受賞者のリストが入っているスーツケースを取られないように、手錠で腕につけているぐらいなんですよ。

(赤江珠緒)あ、そんな物々しい感じなのに?

(町山智浩)そうなんですよ。それで、全てを知っている人はその2人しかいないんですよ。それですごいガタイのいい、要するに殴られても絶対にそれを渡さないようなやつらが2人いて、間違いましたね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。へー! そうなんですか!

(山里亮太)いままであったんですか? そんなこと。

(町山智浩)いままで、ないんですよ。2通あって、その1通を渡して、1通は予備みたいな感じなんですけども。で、予備の方を主演女優賞が書いてある封筒を作品賞のプレゼンターに渡しちゃったんです。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)大変ですよ。もう会計事務所に任せたら、そいつらがミスったっていうね。

(山里亮太)でも、手元に来た時に「あれ? これ、主演女優賞じゃね?」みたいには?

(町山智浩)「主演女優賞……だな?」みたいな。でも、あれはウォーレン・ビーティっていう昔の俳優さんで。『俺たちに明日はない』に主演で50周年記念で出ているんですけど。僕、わかるんですが、もうこのぐらいの歳になると、自分のやっていることに自信が持てないから、「これ、間違っているぞ!」とは言えなくて、「うーん。たぶん、これでいいんじゃないかな?」っていう、自信がなくなっていて(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)っていうことは、『ラ・ラ・ランド』がまあ、前評判も『ラ・ラ・ランド』って言われていたし……。

(町山智浩)そうそう。

(赤江珠緒)もう慮って、ご自身でおっしゃったんですね。

(山里亮太)アドリブ気味にね。

(町山智浩)で、またね、ウォーレン・ビーティがズルいのは、自分でもおかしいと思うから、責任を取りたくないから、一緒に出たフェイ・ダナウェイっていう共演の女優さんに「ちょっとこれ、読んで」って彼女に読ませているんですよ(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)よくいる、ズルい旦那みたいな(笑)。奥さんにめんどうくさいところをやらせるっていう(笑)。

(山里亮太)で、その方が読んで。

(町山智浩)そう。おかしいんですよ。だからもう、大変な事態になっていましたね。

(山里亮太)朝、あのニュースばっかりで。ブワーッと。

(赤江珠緒)そう。しかもその後ね、みなさんもスピーチもされていたじゃないですか。すぐ「違う、違う!」とかじゃなくて。

(町山智浩)っていうかもう、アカデミー賞のオスカーのトロフィーをもらって。そしたら「違う」って。「これ、返すの?」みたいな(笑)。だから、「逃げろ!」って思いましたよ。俺。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)「それを持って、ダッシュ!」って思いましたよ(笑)。「家に帰っちゃえ!」って思いましたけど(笑)。

(山里亮太)ダッシュしている時にさ、ちょっと歌いながら走っていって(笑)。

(町山智浩)そう。「ラ・ラ・ランド♪」って感じで踊りながらオスカーを持って逃げるとね。

(赤江珠緒)いいですね。タップ踏んでね(笑)。

(山里亮太)上にちょっと2人で浮いていってさ。ヒューッ!って(笑)。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。「しまった! 空を飛んで逃げられた!」っていうね(笑)。

(赤江珠緒)そうか(笑)。でも、それだけの人しか知らないから、他の人が「違う、違う!」っていうのを出せなかったんだ。「間違い、間違い!」っていうのは出せなかったんだ。

(町山智浩)出せないんですよ。だから、そのトランクを持っている人が一応確認したら違っていたんで、「うわーっ!」ってなって。後ろの方でパニックで。で、『ラ・ラ・ランド』の主演のライアン・ゴズリングだけが「クククッ……」って笑ってましたね(笑)。おかしいですけどね。いやー、とんでもないですね。

(山里亮太)それでも、間違いだったっていうこともすごいですけど、『ラ・ラ・ランド』が逃したか!っていうニュースもね。

『ムーンライト』の制作費は5億円

(町山智浩)そうなんですよ。で、今回の『ムーンライト』という映画は制作費が5億円ぐらいなんですね。総制作費で。

(赤江珠緒)えっ、5億円ぐらいで?

(町山智浩)日本映画と同じですよ。規模は。だからもうものすごく制作費が安い映画がとったんで。ドナルド・トランプとかが……橋下徹さんとかもそうですけど、「アカデミー賞は金持ちの集まりなんだ」って言ってますけども、そんなことはないんですよ。すごいちっちゃい自主映画なんですよ。で、とって、しかも映画の内容がね、黒人貧困層の現実を描いていて。で、監督と脚本家自身の子供の頃の実生活をもとにしていて。まあ、お母さんがジャンキーでね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、しかもそれで主人公がゲイなんですよ。そういうものすごくマイノリティーの小さい小さい枠の世界なんですけども。それに対してアカデミー賞をアカデミー協会の会員が与えたっていうのは、まあ「そういうセクシャルにも人種的にもマイノリティーの人たちもハリウッドは受け入れるんだ」っていうメッセージみたいな感じになっていますね。

町山智浩 映画『ムーンライト』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞を受賞した映画『ムーンライト』を紹介。その映像作りの革新性などについて話していました。 All love, all pride. #MOONLIGHT MOO

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)特にね、アカデミー賞は去年ね、「黒人が全然ノミネートされていない。ひどすぎる!」って言われたんですよ。で、本当にね、60才以上の白人の男性ばっかりだったんですね。アカデミー会員って。で、会長さんはアフリカ系の女性なんですよ。で、600人以上の新しい会員を増やして。その中には女性とアフリカ系とメキシコ系……日本人もそれでかなり入りしたね。アカデミー協会の中に。で、人種的には、実際のハリウッドとかアメリカの人種構成に近い形に持っていこうとしているんですよ。まだ女性はすごい少ないんですけど。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから、その結果が今回に出て。助演女優賞なんて5人の候補のうちの3人がアフリカ系だったり。

(山里亮太)あの方ですもんね。『Fences』の。

町山智浩 映画『Fences』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でデンゼル・ワシントンが監督・主演し、アカデミー賞で4部門にノミネートされている映画『Fences』を紹介していました。 #FencesMovie is now playing at the Ar

(町山智浩)『Fences』のヴィオラ・デイヴィスさんがとったりね。あと、この『ムーンライト』の主演のマハーシャラ・アリさんが助演男優賞をとったんですが。彼はうちの近所のオークランド出身なんですが、イスラム教に改宗した人なんですね。で、イスラム教徒の俳優さんのアカデミー賞は初めてなんですよ。だから結構歴史的で。今回、あと『ムーンライト』って同性愛者の物語なんで、ゲイとかレズビアンの人を扱った映画で作品賞も初めてなんですよ。

(赤江珠緒)あ、初めてのことですか?

(町山智浩)一応、初めてなんですよ。だから、ちょうど10年ぐらい前に『ブロークバック・マウンテン』という映画がアカデミー賞作品賞をとると言われていたんですが。それはゲイのカウボーイの物語だったんで、とれなかったんですよ。で、その時に「アカデミー賞の会員は60過ぎのおじいちゃんばっかりだから、ゲイのカウボーイとか許せなかったに違いない」と言われたんですが、今回とったんで、だいぶ変わってきたと。

(赤江珠緒)ああー、ちょっと開かれつつあると。

(町山智浩)開かれつつあると思いますね。

(山里亮太)トランプがやっていることに対してのアンチ的なメッセージとかっていうのは、そんなのはあまり関係ないですか?

反トランプ的なメッセージの作品

(町山智浩)今回の件に関しては、『ムーンライト』に関してはないんですけども、受賞した人たちのコメントがね、非常にトランプ政権のやり口に対してはっきりと「No!」を言うという形だったんで。特に、『ズーラ……』(笑)。あの、『ズートピア』。

(赤江珠緒)『ズートピア』ね(笑)。

(町山智浩)『ズーランダー』っていう別に映画があって。そっちはバカ映画で。そっちはチンコ映画ですが(笑)。

(赤江・山里)(爆笑)

(町山智浩)『ズートピア』の方はディズニーのアニメーションで。受賞した監督たちがね、「この話というのはもうヒューマニティー(人間性)についての話なんだ。動物がいっぱい出てきてしゃべるんだけど、実際は人間のことを言っているんだ。これは違った人間同士が互いを受け入れるということは、違った人間を憎む、恐れるということよりももっと強いことなんだ」というメッセージで。それを世界中の人が喜んでくれて。『ズートピア』は全世界で当たりましたからね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから、そういうメッセージだということをはっきりと言っていましたね。

(赤江珠緒)そうですね。しかも、子供でも見てわかるっていうね。わかりやすく作っていましたもんね。

(町山智浩)わかりやすく作っていて、これは動物の話じゃないんだと。もうひとつは、ハリウッドでこれが受け入れられたということで、「これはハリウッドとかアメリカのことでもある」ということをはっきりと受賞者が言いましたからね。だからあの映画、実はね、『ズートピア』がいちばん反トランプ的な映画なんですよ。アカデミー賞全体の中で。

町山智浩『ズートピア』が描くアメリカの政治的実情を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ディズニーアニメの最新作『ズートピア』を紹介。この映画が実は描いている現代のアメリカの政治的実情を解説しつつ、最後にプリンスを追悼していました。 (町山智浩)ええと、『ズートピア』なんですけど

(赤江珠緒)ああーっ! 今回の中で。

(町山智浩)最もはっきりと、いろんな人種を受け入れるんだっていうことなんで。あと、外国映画賞はたぶんトランプと関係しているんですよ。で、この間紹介した『ありがとう、トニ・エルドマン』っていう映画。あれがとるんじゃないか?って言われていたんですよ。

町山智浩 ドイツ映画『ありがとう、トニ・エルドマン』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2017年アカデミー賞の外国語映画部門にノミネートされているドイツ映画『ありがとう、トニ・エルドマン』を紹介していました。 (町山智浩)今日もですね、実はアカデミー賞ものなんですけども。いま、ア

(赤江珠緒)ダメオヤジのね。

(町山智浩)ドイツのダメオヤジの。で、すでにハリウッドでもって(リメイク)映画が進んでいるから、ハリウッドの人たちはすごいいっぱい見ているんですよ。だから、あっちがとると思われたら、『セールスマン』という映画がとったんですね。それはイランの映画なんですよ。で、それはそのイランの監督が……こっちはとらないと言われていたのは、このアスガー・ファルハディ監督はもう1回、アカデミー賞をとっているんですよ。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)だからもう、2度やらなくてもいいやっていうことがあって、とらないと言われていたんですね。この『セールスマン』っていう映画は。それが今回とったのは、やっぱりノミネートされたあたりでトランプがイランを含む国に入国停止令を出しましたんでね。で、彼はそれに対する抗議として授賞式に出るのをボイコットしたんですよ。

(赤江珠緒)「行かない」と。

(町山智浩)「行かない」と。それを応援するために、かなりここに票が集まったんじゃないかなと思われます。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)この『セールスマン』っていう映画もね、『Fences』と同じで。元は『セールスマンの死』というアメリカの戯曲で。それをイランで上映する演出家と俳優の夫婦がいて。ところがある日、家に押し込み強盗みたいなのが入って。旦那が家にいない間に奥さんが血だらけになってシャワールームで倒れているんですよ。で、「なにがあったんだ!?」って言うんですけど、奥さんはなにがあったか、絶対に言わないんですよ。っていうのは、イランではイスラム教の法律があったりして、イスラム教が厳しいんで、女性はレイプされても罪に問われるんですね。

(赤江珠緒)ええっ! 被害者なのに?

(町山智浩)要するに、「男を誘うようなことがあったんじゃないか?」ということで、宗教的に糾弾されちゃうんですよ。だから、奥さんがなにがあったか言わないから、旦那がなにがあったかを探していくというミステリー物、推理物になっているんですね。だからこれは、イランの厳しいイスラム政策に対する批判的な映画なのにもかかわらず、トランプの入国停止令っていうのはどんな立場であろうとその国の人を全部禁止しちゃうわけじゃないですか。これはおかしいじゃないかと。

(赤江珠緒)ああ、そういうことなんだ!

(町山智浩)そういうことですよ。だから、その国……たとえば「イランが悪い国だ」とトランプがもし思ったとしても、イランと戦っている人も入れないんですよ。もっとひどいのは、イラクでね。イスラム国と戦っている、アメリカの一種同盟国であるにもかかわらず、イラク人を入れないとか。デタラメだし。あと、シリアですよね。シリアはものすごいロシアの空爆を受けて。子供たちもみんな住めなくなって、みんな死んでいるにもかかわらず、その人を受け入れない。でも、「空爆はOK」ってトランプは言っているんですよ。「プーチンの空爆、もっとやれ!」って言っているんですよ。それで難民が出るんだけど、難民は受け入れないよと。おかしい。めちゃくちゃおかしい。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、今回、ドキュメンタリーの短編でアカデミー賞をとった映画は『ホワイト・ヘルメット』っていう映画で。これはシリアで空爆がすごいから、その瓦礫の中から被害者を助け出すボランティアの人たちの話なんですよ。白いヘルメットをかぶっているんですね。「敵でも味方でもない。俺たちはどっちかについたりしないんだ」ということで助けている人たちのドキュメンタリーなんですけども。そのホワイト・ヘルメット隊の人も招待をされていたんですが、入れなかったんですよ。

(山里亮太)入れなかった?

(町山智浩)入国できなかったんです。アメリカに、今回。で、彼らはテロリストでも何でもないし……。

(赤江珠緒)シリアだから?

(町山智浩)そう。シリアだから。不法移民でも何でもないし、テロリストでも何でもないんだけども、入れなかったんです。

(赤江珠緒)そんな人道的な活動をしているのに?

(町山智浩)人道的な、いいことをしている人ですが。だから、デタラメなんですよ。だからもう、本当にひどいんで。で、特にすごく誤解があるのは、ハリウッドがドナルド・トランプの政策に対して反対しているのがすごく誤解があるのが、「金持ちの左翼の道楽だ」みたいなことを言っている人がいるんですよ。

(赤江珠緒)はあ。

なぜハリウッドはトランプの政策に反対するのか?

(町山智浩)それは違っていて。ハリウッドっていままでずっと政治権力に負けてきたんですよ。ずーっと。だから、いちばん昔はユダヤ人の人たちが作った映画産業なんで、ものすごい規制を厳しくされて。それこそ「キスは3秒以上はダメ」とか(笑)。そういう規制とか、「政治的なことは一切映画では描いちゃいけない」とか、すごい規制があって。それが1930年代から68年ぐらいまで続いたことがあって。まあ、それも負けたんですね。権力に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)あと、1950年代に共産主義的な活動をしている人たちをハリウッドから締め出すという「赤狩り」というのがあったんですけども。それで共産党に入っていた人は実際にいたんですが、入っていない人までやられたんですよ。で、いちばん大きかったのは1952年にチャールズ・チャップリンが『ライムライト』という映画を作りまして。で、プレミア上映でロンドンに行っていたら、アメリカに戻ってこれなくなっちゃったんですよ。チャップリンはイギリス人なんですけど、アメリカに戻ろうとしたらアメリカ側がチャップリンを入国禁止したんです。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でもチャップリンって世界の映画史上最高の監督ですよ。で、ハリウッドをあれだけ儲けさせて。ハリウッドの映画というのを芸術の域まで高めて。それを「入ってくるな!」って言ったんです。で、理由は「共産主義者の疑いがある」。でも、そんなの全くないんですよ。チャップリンは共産主義。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)もう、ひどいです。だから思想的に「貧しい者の味方」みたいな考えを持っているから、チャップリンはダメっていう。

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)だから、それを1回やられているんで、入国禁止で今回、イスラムとかシリアの人たちの入国禁止をやっているだけじゃなくて、いつでもこういう思想的な入国禁止をやる可能性があるんですよ。アメリカっていう国は。

(赤江珠緒)うんうん。しかも、勝手にレッテルを貼ってね。

(町山智浩)そう。まあチャップリンのような偉大な人を入れなかった。チャップリンはその後、20年間アメリカに帰ってこれなかったんです。20年もですよ。あの偉大な監督が。ねえ。そういうことをハリウッドはさんざんやられて、負けてきたので。ずーっと権力と戦って負けてきたんで、「もう本当にそういうのは二度とやめようよ。戦おうよ」ということだし。あと、ハリウッド自体が昔の映画監督……フランク・キャプラとかビリー・ワイルダーとかウィリアム・ワイラーとかフリッツ・ラング、みんな外国人ですよ。ハリウッドっていうのは昔から、半分外国人ですよ。で、いまもそうです。ほとんど外国人。だから、ニコール・キッドマンだってオーストラリア人でしょう?

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ねえ。みんな、アリシア・ヴィキャンデルってあの人はスウェーデンかなんかですよ。で、もうハリウッドの名俳優、名監督はみんな外国人ですよ。で、それで半分外国人で成り立っているのに、もう入国禁止を厳しくするってやっちゃうと、そのハリウッドの映画産業そのものに対する営業妨害ですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、守らざるをえないんであって、道楽とか思想的な意味じゃなくて、労働組合の戦いなんですよ。これは。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)だって、『スター・ウォーズ』の『ローグ・ワン』とかあるじゃないですか。あれとか、日本人がいっぱいいるんですよ。僕の友達もいっぱい参加しているんですよ。SFXでね。でも、彼らもやっぱりビザを取るのが大変なんですよ。なかなか。アーティストビザとか、ワーキングビザとかでアメリカに入ってくるんですけども。IT業界とハリウッドは「とにかく世界中で優秀な人がいたら、誰でも来い!」っていう世界だから、もうとにかくSFXの世界からメイクアーティストから衣装デザインから、「とにかく優秀なやつは何人でも構わない。どんな思想を持っていても構わない。肌の色も関係ないから、みんな来い!」っていう世界でやっているわけじゃないですか。

(赤江珠緒)それが力になっていたんですよね?

(町山智浩)そうそう。それがアメリカの力だったし、実際にそういうことをやっているのはアメリカのITと金融と映画、テレビ、芸能界、音楽がそういうことをやっているわけですよ。何人でも構わないって。でも、それがほとんどアメリカを豊かにしているんですよ。あと、農業なんです。農業は不法移民が多いんですけども、メキシコ系の人がやっているんですね。それが、アメリカを現在これだけ豊かにしているのに、そこに対する強烈な攻撃なんですよね。トランプ政権の攻撃っていうのは。だからこれは、思想とかと違って、自分たちの職場を守るためですよ。

(赤江珠緒)そうか。もう実害がある、労働組合の戦いだ。なるほど。

(町山智浩)労働組合の戦いなんですよ。それでいままでさんざんやられているから、もうこれ以上は負けないよというところなんです。ただね、去年と一昨年ね、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が『バードマン』と『レヴェナント』で連続してアカデミー賞をとって。その時に受賞しながら、「あんまり俺みたいなメキシコ人がオスカーを連続してとっていると、政府に移民規制されるかもしれないな」って言っていたんですけ……(笑)。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)言っているんですよ。すでに、その時に(笑)。

(赤江珠緒)予言みたいになっちゃって。

(町山智浩)本当になっているんですよ。で、まあメキシコ系の人は不法移民だから禁止。イスラム教の人はテロリストの可能性があるから禁止ってやっているんですけど、でも本当の移民規制を喜んでいるトランプ支持者の人たちはそうなじゃくて、「外国から来た人が優秀だから入ってお金を稼ぐ」っていうことが耐えられないんです。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)それ自体が耐えられないんですよ。だって、その日本人のSFXアーティストとかがアメリカに来て、コンピューター会社で働いて年収1千万とか2千万とかもらうんですよ。ところが、アメリカに3代、4代住んでいる中西部の人たちはどんなに頑張っても、夫婦で年収7百万ですから。

(赤江珠緒)うわー。でもその思想云々じゃなくて、自分より得している人がいることがもう許せないっていう人が。そうか。

(町山智浩)そうなんですね。ただ、彼らの言い分も納得できるところがあって。彼らのおじいさんは本当に貧しくて。あまりにも貧しくて、子供がどんどん死んじゃうような貧しさの中でアメリカに来てね。で、アメリカもその頃、貧しかったんですよ。1900年ごろ。で、アメリカが豊かになったのは1900年から1930年にかけての30年ぐらいで急激にアメリカってGDPが産業国家になって上がっていったんですが。それを支えたのが、いまのトランプを支持している人たちのおじいさんかひいおじいさんなんですね。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)で、ものすごく貧しい頃にみんなでがんばってきて。それで貧しかったアメリカを豊かにしてきたのは俺たちのおじいさん、ひいおじいさんなのに、すでに豊かになったところに来て高給を取るのは許せない!っていう。

(山里亮太)それこそ、この前おうかがいした『Fences』の……。

(町山智浩)『Fences』の話がまさにそうなんですよ。あれは黒人でしたけど、「俺はこんなに苦労してこの程度なのに、お前らは……」っていう。そういう気持ちって本当によくないなと思うんですよね。うーん。結構厳しい話なんですけどね。

(赤江珠緒)で、そういう心理は根深いものがありますね。人間としてはね。

(町山智浩)それは根深いんですよ。本当にもともとアメリカに生まれたっていうんじゃなくて、3代前だったっていうところが非常に微妙なんですよね。全員移民なんだけれども。要するに、「我々が移民として苦労したから、新しい移民は嫌だ」っていうところなんでね。まあ、面白いですけども。

(赤江珠緒)どうしたものですかっていう事態ですね。

(町山智浩)今回、アカデミー賞でよかったのはケイシー・アフレックが賞をとってよかったですね。

(山里亮太)ねえ。おっしゃってましたもんね。

(町山智浩)あの人ね、セクハラ疑惑でもって絶対にとれないって言われていたんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですか。じゃあ、会員の中でも嫌われていて?

(町山智浩)「セクハラ野郎!」って言われていて。『容疑者ホアキン・フェニックス』っていう映画を撮った時にセクハラをしたと言われていたり。だから、とれないつもりで来たらとれたんで。ただ、とれる気持ちになっていなかったから、どよ~んとした感じでオスカーをもらっていましたね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)涙ぐんでいたような印象も受けましたけども。

(町山智浩)多分それもあるんでしょうけども。本当に生きる希望を失った男の役で。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』っていう映画で賞を取っているんですけども。全くそのままの役でオスカーをもらっていて(笑)。

(山里亮太)ああ、まだ役が抜けきれてない(笑)。

(町山智浩)そう。あれ、マット・デイモンが賞をあげていたでしょう? マット・デイモンの役だったんですよ。もともと。

町山智浩 映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でケイシー・アフレック主演の映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を紹介していました。 (赤江珠緒)さあ、そして今日、ご紹介いただく映画は? (町山智浩)今日紹介するのは、たぶんアカデミー賞の主演

(赤江珠緒)おっしゃってましたね。譲ったってね。

(町山智浩)そう。マット・デイモンがプロデューサーで。それで譲って、譲られた人がアカデミー賞をとったんで、司会者のジミー・キンメルが「マット・デイモンっていうのは本当にバカだな。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を幼馴染の弟なんかに譲って、テメーは『万里の長城』っていうバカ映画に出て大赤字を出してやがる。本当にマヌケな俳優だ!」って言ってましたね。マット・デイモンのことを(笑)。

(赤江珠緒)そうですか!

(町山智浩)そうなんです。ジミー・キンメルっていうのはずーっとマット・デイモンと争っていて。自分の番組に呼んで、ゲストで呼んでおいて、「あ、時間がないから。今日はマット・デイモンさんの出番はありません」って言ってカットしたりして、イジメをやっているんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうなの? それは本当に仲がいいからじゃなくて?

(町山智浩)仲がいいからですよ。

(赤江珠緒)ああ、なんだ(笑)。

(町山智浩)仲がいいから。

(山里亮太)ああ、プロレス的な? 「プロレス的」っていう言い方もおかしいけど。

(町山智浩)仲がいいからやっているんですけど。で、マット・デイモンはそのジミー・キンメルのガールフレンドのサラ・シルバーマンを寝取ったりね。で、それに対してジミー・キンメルは報復としてマット・デイモンの幼馴染であるベン・アフレックを寝取ったりとか。いろいろしてますんで。

(赤江珠緒)(笑)。複雑よ、ちょっと。

マット・デイモンVSジミー・キンメル バトルの歴史

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(町山智浩)いろいろと複雑なんですが。そのへんがすごく面白かったですね。はい。ということでアカデミー賞、面白かったですよ。

(赤江珠緒)ねえ。今回はまた本当に話題性たっぷりでしたね。アカデミー賞ね。

(町山智浩)まあ、現場は大変だったですけどね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。町山さん、「クククッ……」って思っていました?

(町山智浩)ああ、もうこういうのがあるからたまらないですね。ひっくり返すのがあるから。思った通り、あれで『ラ・ラ・ランド』がとったらやっぱり面白くないんですよ。そこがひっくり返っちゃうから、面白かったです。

(山里亮太)しかも、ひっくり返り方が独特でしたからね(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)ねえ、本当に。

(赤江珠緒)今日はアカデミー賞の後日談を町山さんにお話いただきました。町山さん、ありがとうございました!

(町山智浩)どうもでした!

(中略)

(赤江珠緒)ということでね、町山さんにはエンディングまでお付き合いいただきますけども。でも、本当にね、スピーチをした後にオスカーを返すというですね。

(町山智浩)いやー、泣いてるんですよ。オスカーをもらって泣いていて。だから、さっきも話したんですけど、ミス・ユニバースで2015年にもっとひどいのがあって。

(赤江珠緒)あ、ありましたね!

(町山智浩)優勝して王冠を乗せて。

(赤江珠緒)頭の上に乗せたんですよ。

(町山智浩)優勝だと。ミス・コロンビアかな? で、その後に「違います」って王冠を取られて。もう、ひどすぎですよね!

(赤江珠緒)ねえ。そうか。じゃあもうアカデミー賞に関してはトランプさんは何もツイートはされてないんですか? 

(町山智浩)あ、してます。ブライトバート・ニュースというメディアで「トランプ叩きみたいなことをやっているから間違えるんだ」っていう風に言っているんですけども。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ(笑)。

(町山智浩)でも、間違えたのはアカデミー賞のスタッフじゃないし。あと、やっぱりミス・ユニバース世界大会ってトランプさんが主催してたんですよ。

(赤江珠緒)そうだ!

(町山智浩)そっちでもやってるぞ!っていう(笑)。そっちの呪いじゃないか?って思うんですけど。

(山里亮太)皮肉にも(笑)。

(町山智浩)皮肉にも(笑)。まあ、ミス・ユニバース世界大会はね、トランプがメキシコ人批判とかをやったためにテレビ局からボイコットされて。で、そのミス・ユニバース世界大会そのものの権利を他に売っちゃったんですよね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)その最後のやつでいきなり優勝者を間違えたっていう(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)ねえ。これ、流行るとよくないですよね。

(山里亮太)間違いブーム(笑)。

(町山智浩)ぬか喜び。大学とかがこういうのを合格通知とかでやったら最悪ですけどね!

(赤江珠緒)本当ですよ(笑)。

(町山智浩)ひどすぎる。はい。

(赤江珠緒)いやー、前代未聞のね、世紀の瞬間を見ることができましたね。町山さん、また帰国の時には『たまむすび』にね、生でお願いいたします。お相手は赤江珠緒と、

(山里亮太)山里亮太と、

(町山智浩)町山智浩でした。

(赤江珠緒)それでは、また明日です!

<書き起こしおわり>

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