町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2016年アメリカ大統領選についてトーク。ドナルド・トランプの過去の性的不謹慎発言の隠し撮りが暴露された後の状況について話していました。
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— ロイター.co.jp (@Reuters_co_jp) 2016年10月10日
(町山智浩)で、大統領選の話を今日はしろと言われましたのでしますけども。とにかく先週の金曜日にドナルド・トランプの11年前の隠し撮りビデオが……「隠し撮り」っていうわけでもないですけども。入っちゃっていたビデオが流出して、大変なことに成りまして。
(山里亮太)なんか……(笑)。急に言い方がエロく聞こえてきました。「隠し撮りで、入っちゃったビデオが」って(笑)。
(赤江珠緒)音声がね。
(町山智浩)しゃべっているだけなんですけどね。トランプはね。まあ、でも内容がひどかったんでね。
(山里亮太)ド下ネタだったっていう。
(町山智浩)うん。だからアメリカでもトランプが言っていることを放送できなくて。みんな、真面目なニュース……要するにアメリカでもNHKみたいな公共放送があるわけですね。そういうところでは、「トランプ氏が『私のような有名人は女性器をいきなり触っても大丈夫なんだ』と言ってました」とかって、言い換えているんですよ。
(山里亮太)ああ、丁寧な言葉で。
(町山智浩)丁寧な言葉で。でも、もっと下品な言葉で言ったから問題になっているんですよね。実際はね。これはだから、他のところでは「Pワード」とか言ったりですね。「猫を呼ぶ言葉で呼び……」とか、なんかいろいろと言い換えをしてアメリカでも困っていたんですけども(笑)。あの、猫のことを「プッシーキャット」って言うんですね。猫ちゃんのことを「プッシー」って言うんですけど、それは女性器のスラングなんですよ。英語ではね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、「それをいきなり私が触っても、私のような有名人だと誰も文句を言わないよ」って言っていたんですね。
(赤江珠緒)日本でも報道されてますけども、結構長い会話だったんですね。一部しか報道されてないですけど。
(町山智浩)これがね、そう。長い会話で。その話し相手をしている人がビリー・ブッシュというテレビの司会者なんですね。この人、ブッシュ大統領のいとこなんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
ビリー・ブッシュがヨイショ
(町山智浩)で、テレビの芸能番組の司会をやっていて、それにトランプが出たんですけども。で、トランプが「私なんかは、やり放題だよ!」とか言うと、もうめちゃくちゃビリー・ブッシュがヨイショして。「そうですよね、トランプさん! なんでもできますよね、トランプさんなら!」とか言ってるんですよ。ずっと。
(山里亮太)上手い太鼓持ちだ!
(町山智浩)もう本当に太鼓持ちで、手をすりあわせている感じが見えるような感じなんですよ。「トランプさんだともう、誰も文句を言いませんよね! やった、トランプさん!」とか言ってるんですよ。ずっと。
(赤江・山里)(笑)
(町山智浩)で、この人は、奥様番組に出ていたんですね。朝のワイドショーに。ビリー・ブッシュは。クビになりました。はい。
(赤江珠緒)この方も?
(町山智浩)クビになりました。
(山里亮太)これが出たことによって、いま?
(町山智浩)はい。でも、これね、オフだったし。まあ、こんなのだってはっきり言っちゃいますけど、芸人さんの世界ではこんなの、太鼓持ちみんなするじゃないですか。
(山里亮太)いや、しますよ。これでクビになったら僕、何個か終わってますよ。
(町山智浩)ねえ。これはもう、こういう先輩がいたら思わずヨイショしちゃう人って、まあしょうがないじゃないですか。生きるためならね。でも、やっぱりダメでしたね。奥様番組をやっている人にはね。
(赤江珠緒)しかし、この隠し玉みたいなのがギリギリに出ましたね。
(町山智浩)これね、面白いなと思うんですよ。っていうのは、4年前の選挙で共和党のミット・ロムニーさんがオバマさんにボロ負けしましたけども。あれも、隠し撮りビデオで負けたんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)あれも、本当に隠し撮りされていて。ミット・ロムニーが、「国民の47%は税金を払っていないんだから、そんなやつらのことなんか気にしません」って言ったんですね。ところが、47%の税金を払っていない人のほとんどが引退した老人ですよ。「高齢者を気にしない」って言ったのと、ほとんど同じですよね。これ、勝てるわけないですよ。選挙に。
(赤江珠緒)それはダメですよ。
(町山智浩)特にアメリカの大統領選挙では、フロリダ州とオハイオ州を取った方が価値なんですね。
(山里亮太)激戦州を。
(町山智浩)フロリダ州、引退した老人が多いんですよ。高齢者の方が。もう、フロリダを落としたですよね。あれでね。
(山里亮太)だって、失言2つぐらいで終わっちゃいましたもんね。ロムニー。
(町山智浩)ロムニーのもうひとつの失言は、失言じゃないですけどもニューヨーク・タイムズに「自動車産業がアメリカでダメになったっていうんだったら、オバマ大統領みたいに税金・公的資金を入れて救済しないで、潰れるに任せろ」って言ったんですね。ロムニーは社説を書いたんですよ。社説じゃないですけど、オプエドっていうのを書いたんですけども。それで、オハイオ州を落としましたね。
(山里亮太)だって、オハイオを落とすともう基本的に大統領選は終わりっていう感じなんですよね?
(町山智浩)ダメなんです。オハイオは工業地帯なんですよ。で、自動車産業も多いんですけど、「自動車産業なんか潰れればいいんだ」って言った人が勝てるわけないですけど。どう考えても(笑)。だからロムニーも……その時にロムニーの「47%なんか関係ねえよ!」って言ったそのビデオを隠し撮りしたのを流出させたのは、カーター元大統領のお孫さんなんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)で、彼は民主党の活動家だったんですけども。今回はビリー・ブッシュのヨイショによってトランプが崩壊してますね。いま、トランプの勝つ率はハフィントンポストの予想によるとわずか6.9%ですよ。勝率。
(山里亮太)ええっ? じゃあもう絶望的ですね。
トランプの勝率 6.9%
(町山智浩)絶望的なんですよ。クリントンさんが勝つ確率が92.9%という状況になっていますけど。現在。でも、それはヨイショしたビリー・ブッシュのおかげですよね? これね、面白いなと思うのは、ブッシュ一族を徹底的にトランプは叩いてきたんです。予備選の間、共和党で。で、ジェブ・ブッシュというブッシュ大統領の弟がトランプと戦っていたんですが、彼は史上最大の選挙資金を集めていたんですよ。でも、全く支持率が伸びなかったんですけど。もう、トランプにボロカス言われて、「お前のオヤジは大統領の時にNAFTAという通商条約を結んでメキシコやカナダに仕事をバラまいただろう? アメリカの仕事を奪っただろう?」って言ってね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、それを調印したのはクリントンなんですけど、実際にやっていたのはブッシュのお父さんなんですよ。NAFTAっていうのは。で、「アメリカの仕事を奪ったのはお前のオヤジだ! しかも、お前の兄貴は国民を騙してイラク戦争を起こしただろう?」ってボロカスに言ってぶっ潰しちゃったんですよ。ジェブ・ブッシュを。だからブッシュ一家が一族もろとも、「トランプには絶対に投票しない」って言ってるんですね。支持しないと。でも、従兄弟が11年前にやらかしたヨイショ事件でトランプの足を引っ張ったから、お手柄なんですね(笑)。
(山里亮太)おおっ、なるほど! 一矢報いたんですね!
(町山智浩)ブッシュ一家としては、お手柄。でも、仕事なくなっちゃったんですけどね(笑)。
(赤江珠緒)不名誉なお手柄ですけどね(笑)。
(山里亮太)「いい下ネタを導き出したな、お前!」と(笑)。
(町山智浩)そう。だから非常に微妙な関係になっていると思いますよ。ブッシュ一家の中で(笑)。「よくやってくれたけど、大変だったね」みたいな。なんかね、すごく困った感じになっていますけどね。いかにもお調子者な感じの人ですけど。でも、まあ大変な事態になっていますね。アメリカの方では、トランプがああいう形で自滅に近い感じになってきたんで。トランプ支持者の人たちはちょっと怖い感じになっていますね。
(赤江珠緒)怖い?
(町山智浩)怖い感じ。まずね、トランプが「ヒラリーを取り除け」って言ったんですよ。「取り除く」ってどういう意味かっていうと、「殺す」っていう意味なの?ってことですよね。
(赤江珠緒)ねえ。「抹殺」みたいな意味ですよね。「取り除く」。
(町山智浩)そう。すごいことになっちゃっていて。しかも、「今度の選挙で私が負けたなら、それは投票に不正な操作があったということだ!」って言ったりしてるんですよ。
(山里亮太)うわー、最後のあがきがすごいな。トランプ。
(町山智浩)すごいことになっちゃっていて。ものすごい対立が進んでいる形で。また、ノースカロライナのトランプの事務所が何者かに放火されたりしてですね。なんかちょっと嫌な感じになっていますね。アメリカが。
(赤江珠緒)ふーん。
(町山智浩)で、ただ選挙を決定するオハイオ州でのトランプの支持率が落ちたんで、まあトランプの勝ち目はいま現在ない感じになっているんですけどね。でもね、なんか面白いんですよ。トランプさんの言っていることっていうのは、結構。「日本の車に関税を38%かける」って言ったんですね。「(日本車が)アメリカの車をおびやかして、アメリカの仕事を奪っているから、日本車に38%税金をかける!」っつって、みんな「イエーイ!」って言って喜んでいるんですけど。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)全く意味がないですね。アメリカで売られている日本の車の7割がアメリカで作られているんですよ。
(赤江珠緒)そうですか(笑)。
(町山智浩)アメリカ人に仕事を与えているのは日本車なんです。
(赤江珠緒)ああー、自分の首を締めることになると?
(町山智浩)そう。しかも、トランプを支持している人たちが住んでいる場所に日本の自動車の工場があるんですよ。アメリカで最も売れている車であるトヨタカムリはケンタッキーに工場があるし、ホンダのアコードはオハイオにあるし。ホンダのオデッセイの工場はアラバマにあるんですよ。で、トヨタとホンダはそれぞれが工場で3万人のアメリカ人を雇って、ディーラーで1万5千人のアメリカ人を食わせているんですよ。日本車を叩いちゃ、ダメなんですよ(笑)。
(赤江珠緒)なるほどですね。そもそもね。
(町山智浩)で、逆にGMとかアメリカの自動車会社の方がカナダとかメキシコに工場を移動させちゃっているんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)それなのに、日本車を叩いても意味がないんですけど。ただ、アメリカのそのトランプ支持者もあんまり考えがないから、日本車を叩くとそれで喜んでいるんですけど……よく考えろ!っていうね(笑)。
(山里亮太)なるほど(笑)。
(町山智浩)まあ、考えない人たちが支持しているんでしょうけどね。だからもう本当にね、たとえば「メキシコに壁を築く」っていう風にトランプは言っていますね。メキシコの労働者が来ないようにね。「その壁を築くお金はメキシコに出させる」って言ってるんですけど……(笑)。メキシコは「出さない」って言ってるんだから、壁はできないわけですよ。絶対に。
(赤江珠緒)そりゃそうですよ。
(山里亮太)ああ、そうか。できないことを言って……
(町山智浩)そう。だから、僕がたとえば、「ビルを建てるんだけど、そのお金は隣の山田さんに出してもらう」って言ったら、おかしいじゃないですか? 「関係ねえし、お前が約束することじゃないよ!」って思うよね?
(山里亮太)でも、ビルを建てることだけはみんなの心に残るわけですよね。「そうか、ビルを建ててくれるんだ、この人は!」って。
(町山智浩)そう。でも、そのお金は全然違う、第三者に出させるって言ってるんですよ。だから、公約がデタラメなんですよね。だからこういう状態だから、いま現在失言問題もあって共和党議員の1/4以上がトランプの推薦を拒否するという状態になっていますね。
(赤江珠緒)でもね、いまでこそそうなりましたけども、ここまで来たというのがね。トランプさん。ねえ。
(町山智浩)そう。ここまで来た原因っていうのはまず、予備選に勝ったということですね。他の15人以上の共和党のトップ15人を全部倒して。15人を倒すってすごいですよ。勝ち抜き戦で倒していったんですからね。全部、本当に。で、候補指名を勝ち取ったんですけど、その原因っていうのは「共和党の支持者が9割が白人だ」ということだったんですね。
(赤江珠緒)ふーん。
共和党支持者の9割が白人
(町山智浩)で、共和党内部はそれだと白人が減っていっているから、メキシコ系の人とかキューバ系とか、ヒスパニックと言われているラテン系の人たちを取り込もうとずっとしてきたんですけど。ただ、実際に9割が白人なんで、(ラテン系を)取り込もうとする共和党の未来に対する政策に反対している人が多かったんですよ。内部に。ジェブ・ブッシュさんなんて、奥さんがメキシコ人で、子供も完全にバイリンガルで教育をしていて、すごくメキシコ寄りの人なんですよ。だから、それを徹底的にトランプは叩いているんですよ。「あいつはメキシコ側だ!」っつって。
(赤江珠緒)はー……
(町山智浩)で、他に共和党はテッド・クルーズっていう人はキューバ難民の息子で。マルコ・ルビオっていう人もキューバ難民の息子さんなんですね。で、彼らを取り込むことによってなんとかラテン系の支持者を増やそうと共和党はしていたのに、「やつらはラテン系だ!」っつって潰したんですよ。トランプは。せっかく共和党が票を広げようとしていたのに、それを潰したんですよ。民族主義的な攻撃によって、トランプは。だから、勝ったんですよ。
(山里亮太)でも結果、共和党をすごく潰すかもしれない状態になってしまったわけですね。トランプが。
(町山智浩)それは、要するに共和党の支持者が9割が白人だからトランプは勝ったんですけども、白人は減っているんです。アメリカでは、ものすごい人数が減っているんですよ。
(赤江珠緒)アメリカのトータルで見ると?
(町山智浩)トータルで見ると。だからものすごい減っていて、いま現在ですね、白人ってアメリカの全人口の62.8%しかいないんですよ。この減り方じゃあ、勝てないですよね。だって、62.8%全員がトランプに投票するわけじゃないですからね。多く見積もっても半分じゃないですか。国民の3割しか、トランプを支持しないんですよ。実際は。勝てるはずがないですよね?
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)どう考えてもね。だから、こういうバカげた計算でやっている世界なんですよ。
(山里亮太)これも別に代表をすげ替えることはできないんですもんね? もう、ここまで来ちゃったら。
(町山智浩)もうここまで来たらできないですね。ただ、やっぱり人種的恐怖っていうのはあって、アメリカの白人がもうすぐ人口的には多数派でなくなると。で、今回がだから彼らにとってラストチャンスだったんですよ。白人の大統領を選ぶことができるかもしれないラストチャンスだったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)どのぐらい減っているか? といいますと、1976年の選挙では、投票者の9割が白人だったんですよ。全投票者の。で、現在は6割ぐらい……7割は確実に切ると言われているんですよ。それで、2012年の段階で7割しかいなかったんで、まあ7割は確実に切りますよね。それぐらい減っていて、これは急激に減っています。で、いちばん日本人に誤解があるのは、オバマさんが大統領に選ばれた時に、みんなこう思ったんじゃないですか? 「アメリカ人の意識が変わったんだ。アフリカ系の人を大統領に選ぶぐらいに彼らは多様性に寛容になったんだ」という風に思った人も多いんじゃないですか?
(赤江珠緒)やっぱりそういう風に見えますよね。
(町山智浩)全く違うんですよ。実際は。2012年のオバマ大統領の再選選挙がありましたけど、あの時に投票した白人の中でオバマ大統領に投票した人はわずか39%しかいないんですよ。61%の白人がオバマさんに投票していないんですよ。白人は、やっぱりオバマさんを拒否しているんですよ。60%以上が。でも、じゃあオバマさんが勝ったのはなぜ?っていう理由は、白人が減っているからなんですよ。
(赤江珠緒)そういうことか!
(町山智浩)アメリカ人が寛容になったのではなく、白人の人口が減ったというだけのことなんです。だから、ラストチャンスなんですよ。もう、これからは減る一方なんですよ。だって今回、ヒラリーが勝つとするじゃないですか。したら、たぶん2024年までヒラリーが8年間継続するじゃないですか。大統領を。すると、その次の選挙。2024年なわけですね。そうすると。もう、白人はこれ、50%台になっちゃうんですよ。全白人が。もう、白人の大統領が選ばれる可能性がものすごい減るわけですよ。今回、ラストチャンスなんですよ。だから必死だったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だから、日本の人たちもそれは頭に入れておいた方がよくて。「アメリカっていうのは白人の国なんだ」っていう意識はもう捨てた方がいいですよね。もう、変わっていっていくんですよ。
(赤江珠緒)そんな急激に。
(町山智浩)急激に変わっていっているんですよ。状況はね。で、いちばんアメリカ人が怖がっているのは最高裁なんですよ。最高裁の判事っていうのは9人いるんですが、その多数決でアメリカの法律の憲法判断をしていくんですけども。最高裁判事を任命できるのは大統領だけなんですね。で、一度任命したら絶対に辞めさせることができないんですよ。死ぬか、引退するまでその人はずっと判事でいるんですね。っていうことは、1回選ぶと10年以上いるわけですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
絶大な力を持つアメリカ最高裁判事
(町山智浩)オバマさんが何人か選んでいたでしょう? で、いま現在最高裁っていうのは実際は9人いるんですけど、8人しかいま(判事が)いなくて。4対4なんですね。4人が共和党が選んだ判事で、4人が民主党が選んだ判事なんですよ。要するに、リベラル4人、保守4人の状況なんですね。で、これがヒラリーさんになったらどうなるか? もう、ほとんどこれから10年か20年ぐらい最高裁はリベラルな判決しかしなくなるんですよ。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)で、いま本当は1人の欠員があるんですけど、その欠員を埋め合わせるオバマさんの任命を共和党の議員が「絶対に拒否する!」って言ってるんですね。で、この間マケインさんが「ヒラリーが大統領になったとしても、1名の欠員の判事は任命させない」って言ってるんですよ。だって、完全に固定されちゃうから。で、最高裁が固定されるっていうことは、日本人にとっては「だから、なに?」って思うかもしれないですけど。アメリカでは――日本も本当はそうなんですが――「法の支配」と言って大統領よりも最高裁判決の方が上なんですよ。
(赤江珠緒)うん、うん。
(町山智浩)大統領がどんな決定をしても、最高裁が「ノー」って言ったらダメなんですよ。だから、アメリカの政治っていうのものは方向性を決定しているのが最高裁なんです。それは、1回任命されちゃうと動かないで10年、20年は力関係が変わらなくなるんです。だからこの後、大統領がどんな大統領になっても当分変わらないんですよ。アメリカの政治的な方向性は。だから、重要なんです! 今回、だからアメリカにとってものすごい重要なんですよ。
(赤江珠緒)はー。じゃあ、共和党の目はかなり、どんどん薄くなっていくっていうことですか? このいまの流れを聞いていると。
(町山智浩)共和党の目は薄くなっていくんですよ。共和党の目が薄くなるだけじゃなくて、アメリカって黒人に人権を与えるっていうのを1960年代にやりましたよね? あれは最高裁が与えたんですよ。大統領が与えたんじゃないんですよ。アメリカで女性の権利……人工中絶の権利とかを女性が持ったのも、最高裁が与えたんですよ。政治家が与えたんじゃないんですよ。で、今度のアメリカ、同性婚。同性の人が結婚できるようになっていったのも、最高裁が決定するんですよ。アメリカという国の方向を決めるのは最高裁なんです。それを決定するのが、大統領なんです。で、1回決めると20年間ぐらいは動かなくなるんですよ。
(赤江珠緒)そうか。
(町山智浩)連続して最高裁判事が次々と死なない限りね。で、レーガン大統領の時に3人亡くなったので、一気に共和党寄りに最高裁がなったんですよ。だからアメリカっていうのは1980年からこの間、ブッシュ大統領の頃まで、ずーっと政治が共和党寄りの保守的な方向に行ったのは、最高裁がそういう力関係に変わったからなんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、特にブッシュ大統領がほどんどゴア副大統領と差がなかったんですね。2000年の選挙で。それで、結局ほどんど差がないのにブッシュ大統領が大統領になったじゃないですか。あれを決定したのは最高裁なんですよ。その時、最高裁は共和党の方が多かったから、ブッシュを大統領にしたんですよ。大統領を決定するのも最高裁なんです。アメリカは。だから、大変な戦場なんです。現在、アメリカの大統領選っていうのは。
(赤江珠緒)そうですね。うん。
(町山智浩)でも、ほとんどトランプさんの勝ち目はないんで、これからみんな、日本の人たちが思った方がいいのは、たぶんトランプさんが負けると思うんで。アメリカはこれから政治が全体的に法律とかすべてがリベラルの方向に行くでしょう。
(赤江珠緒)ということですね。保守の人からすると、本当、あがきたくなるような状況にいま、なっているということですね。
(町山智浩)に、なっていくんですね。これは法の支配ということを知らないとちょっとわからないと思います。日本はでも、最高裁の立場が弱いね。
(赤江珠緒)そうですね。そうかそうか。
(町山智浩)政治家よりも強いんですよ。アメリカでは。
(赤江珠緒)はい。わかりました。わー、あっという間に時間が来てしまいました。町山さん。
(町山智浩)はい。また来週も続きっていうか……(笑)。
(赤江珠緒)はい。わかりました。今日はアメリカ大統領選の話題を町山さんに紹介していただきました。今週木曜日の荻上チキさんの『Session-22』にも町山さん、ご出演でございます。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)再来週、日本に行きます。
(赤江珠緒)はい(笑)。
<書き起こしおわり>