音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』でデビッド・ボウイさんを追悼。もっとも好きな曲『Life On Mars?』とともに、デビッド・ボウイさんが描き続けたものを話していました。
(高橋芳朗)今週は二位にランクインしていますデビッド・ボウイについて。いいですか?もうさっそく話を進めさせていただけたらと思います。
(熊崎風斗)お願いします。
(高橋芳朗)改めて、イギリスの伝説的ロックシンガー、デビッド・ボウイが10日ですね。ニューヨークの病院で亡くなりました。亡くなる2日前の8日にご自身の69才の誕生日にニューアルバムの『Blackstar』を発売した矢先のことだったわけなんですけども。で、ちょっとね、どんな形でデビッド・ボウイを追悼しようか悩んだんですけど。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)やっぱり自分がいちばん好きな曲をかけることにしました。1971年の作品で『Life On Mars?』という曲を紹介したいと思います。で、この『Life On Mars?』という曲はですね、結構面白いバックグラウンドを持った曲で。フランク・シナトラの名曲『My Way』。わかりますよね?の、オマージュなんですね。
(熊崎風斗)あ、そうなんだ。へー。
(高橋芳朗)で、この『Life On Mars?』が収録されているアルバムが『Hunky Dory』っていうアルバムなんですけど。にも、『inspired by Frankie』。Frankieっていうのはフランク・シナトラ。っていうクレジットが入っていたりするんですね。だからボウイ本人も、『My Way』からインスパイアされた曲だっていうことを認めているわけなんですけども。
(熊崎風斗)はい。
フランク・シナトラ『My Way』へのオマージュ
(高橋芳朗)で、なんでボウイがシナトラの『My Way』にオマージュを捧げることになったのか、その経緯を簡単に説明しますと、フランク・シナトラの『My Way』。これは1968年にヒットした曲なんですけど。これはオリジナルではないんですよ。原曲があるんです。フランスの、クロード・フランソワっていう人が歌った『いつものように』。フランス語で『Comme d’habitude』。ちょっと聞いてもらいましょうか。
(熊崎風斗)はー。
(高橋芳朗)1967年の曲ですね。まあ、『My Way』。で、このクロード・フランソワの『いつものように(Comme d’habitude)』に英語詞をつけたのが、みなさんお馴染みのフランク・シナトラの『My Way』だったわけですよ。いま、またかけてもらいましたけども。
(熊崎風斗)うん。
(高橋芳朗)これ、英語詞を書いたのがオールディーズヒット『Diana』でお馴染みのポール・アンカが書いたんですけどね。で、実はポール・アンカの前に、デビッド・ボウイがですね、このクロード・フランソワの『いつものように(Comme d’habitude)』の英語詞をつけているんですよ。実は。ポール・アンカよりも前に。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)でもね、これはボツになってしまったんですね。タイトルは『Even A Fool Learns To Love』っていうタイトルでボウイが書いたんだけども。これ、彼がまだ本格的に売れる前で。まだこういう、なんて言うんですかね?小さな仕事というか、ソングライター的な仕事もやっていたんですけど。結局、この『Even A Fool Learns To Love』は未発表に終わってしまい、正式にリリースされることはなかったんですね。これ、デモ音源とかはね、You Tubeとかで聞くことができるんですけど。
(熊崎風斗)できるんですか?
(高橋芳朗)興味のある方はチェックしてみてください。で、その後ですね、なんかデビッド・ボウイ的に因縁めいたものを感じたのかわかんないですけど。ポール・アンカが歌詞を書いたフランク・シナトラ『My Way』のヒットを受けて、『My Way』のオマージュとして、『Life On Mars?』という曲を作ることになるんですね。で、後で曲をかけた時に聞いてもらえばわかると思いますけども。『Life On Mars?』はね、『My Way』と結構共通するコードを多様してたりして。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)割と構成とか曲調が結構似てたりするんですよ。ただ、曲調は似ていても『My Way』と『Life On Mars?』は歌詞はぜんぜん違います。『My Way』は結構、卒業式なんかでも使われる、勇壮でさ、達成感とか充足感にみなぎった歌で。結構おじさまがこう、カラオケで陶酔しきってね、大仰に歌い上げている絵が思い浮かぶ方もいるかもしれないですけども。で、対する『Life On Mars?』はデビッド・ボウイ曰くですね、『現実に失望した少女の歌』って説明しているんですよ。
(熊崎風斗)本当にぜんぜん違うんですね。
(高橋芳朗)そうですね。で、歌詞の前半部分のストーリーをちょっとざっくりと説明すると、こんな感じになります。両親の口論に嫌気がさした女の子が家を飛び出して、映画館に逃げ込んで。もう何度も見てきたような退屈な映画をぼんやりと眺めているんですね。そして女の子は現実にうんざりして、夢想に逃げ込んでいくんですよ。それが『Life On Mars?(火星に生き物はいるのだろうか?)』という。ファンタジーの世界に思いをはせているわけですね。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)たぶん火星は何かのメタファーで。ここではないどこかに思いをはせているっていうことなのかもしれないですけど。僕、もうこの歌詞の前半部分だけでちょっとグッと心を鷲掴みにされるような気持ちになってしまうんですね。この話を聞いてると、いろんな素晴らしい青春映画の、将来への漠然とした不安とかさ、鬱屈を抱えたキャラクターの顔が浮かび上がってくるんですよ。たとえば『ゴーストワールド』の緑の髪の毛のイーニドとか。あと、『桐島、部活やめるってよ』の主人公の2人。前田くんとか菊池くんとか。
(熊崎風斗)うん。
(高橋芳朗)で、僕はね、こういったところにデビッド・ボウイの真髄があると思ってるんですね。達成感とか、充足感にみなぎった『My Way』のオマージュとして、未来が見えない、虚無感を抱えたティーンの少年少女に寄り添った歌をうたうのがボウイの本分っていう気がしています。特に70年代の作品にそういう傾向が強いんですけど、デビッド・ボウイはキッズに対する視線を忘れないアーティストで。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)ちょっとした後ろめたさとか不安を持って夢想に逃げ込んできた子供たちを優しく迎え入れてあげたようなところが。それで肯定してくれるようなところがあったと思います。で、比較的最近だと、『クロニクル』とか『ウォールフラワー』とか、そういうちょっとヒリヒリした青春映画にデビッド・ボウイの曲が映えるのはね、きっとそういうことなんじゃないかな?と思います。で、デビッド・ボウイの訃報が飛び込んできた直後に、女優・モデルの水原希子さんがTwitterで『17歳の頃、David Bowie の Life on Marsに心を救われた事がありました』って投稿していて。
17歳の頃、David Bowie の Life on Marsを聴いて心を救われた事がありました。彼がこの世に残してくれたものは何世代にも渡って人の心に響き続けると思います。
Rest in peace David Bowie
https://t.co/te8Q1PvmqI
— Kiko Mizuhara (@kikoxxx) 2016, 1月 11
(高橋芳朗)それを見て、こうやってね、デビッド・ボウイの曲に助けられた少年少女が世界中に大勢いるんだなってことをね、改めて実感しましたし。僕も、辛い時とか孤独を感じた時に、デビッド・ボウイの曲があったから乗り越えられた夜が本当に数えきれないぐらいあります。なので今日は、そんな大好きなデビッド・ボウイに感謝の意味をこめて、この曲を聞いて彼を追悼したいと思います。デビッド・ボウイで『Life On Mars?』です。
David Bowie『Life On Mars?』
(高橋芳朗)はい。デビッド・ボウイで『Life On Mars?』、聞いていただきました。で、最後にもうひとつだけ、どうしても伝えておきたいことがあるんですけども。もし、デビッド・ボウイのことをよく知らなくて、これから何か聞いてみたいという方がいましたら、一昨年、2014年にリリースされましたデビュー50周年記念のベストアルバム『Nothing Has Changed The Best Of David Bowie』をおすすめしたいと思います。これ、トータルで20曲入っていて。いまかけた『Life On Mars?』も入っていますし。代表曲はほぼ網羅されているんですね。で、ここに1曲だけ、当時録音した新曲が入っているんですよ。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)いま、後ろでかかっていますけども。『Sue (Or in a Season of Crime)』っていう曲なんですね。
(高橋芳朗)で、これ、新世代のジャズミュージシャンを起用して作った曲で。遺作になりました、さっきiTunesランキングで二位になった『Blackstar』の足がかりになった作品になります。で、これ、別バージョンが『Blackstar』にも収録されています。この曲をね、どうかじっくり聞いてほしい。これ、デビッド・ボウイの長いキャリアの中でももう上位に食い込む大傑作だと僕は思っているんですけども。ここにデビッド・ボウイが死の間際まで切り開こうとした未来があると思っています。
(熊崎風斗)うん。
(高橋芳朗)この先にね、なにがあったのか、もっとちょっと聞いてみたかったですけど。ただ、だから最後の最後までイノベーティブだった。新しいことに挑戦し続けたデビッド・ボウイの姿勢をこの曲から感じ取っていただけたらなと思います。で、ここから何か感じるものがあったら、次に遺作の『Blackstar』を手に取っていただけたらなと思います。なんで、とりあえずデビッド・ボウイに興味を持ったという方は、ベストアルバムの『Nothing Has Changed The Best Of David Bowie』を入門編として聞いてみてください。以上です。
(熊崎風斗)ありがとうございました。
<書き起こしおわり>
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