町山智浩・春日太一 三隅研次監督+市川雷蔵『剣三部作』を語る

町山智浩・春日太一 三隅研次監督+市川雷蔵『剣三部作』を語る たまむすび

町山智浩さんが時代劇研究家の春日太一さんと、TBSラジオ『たまむすび』の中で、三隅研次監督と市川雷蔵コンビの名作映画『斬る』『剣』『剣鬼』の剣三部作を紹介していました。

(赤江珠緒)さあ、今日お二人で来てくださったのは、町山さん?

(町山智浩)はい。今月のですね、16日と17日。だから再来週か。渋谷でですね、春日太一さんと僕とでトークショーをやるんですけども。ちょっと渋すぎたので。テーマが。で、どうもいまいち浸透していないので、その説明をさせていただきたいと(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)お願いします。

(町山智浩)『チケット、売れ残ってるぞ、おい!』という(笑)。

(赤江珠緒)有り体に言うと。なるほど。

(町山智浩)ということがありますが。そのイベントがですね、WOWOWさんで放送される映画の内容を説明する、僕、ずーっとやってるんですね。YouTubeとかで流しているんですけど、『町山智浩の映画塾!』っていう解説をずっとやっているんですけど。それの公開収録で春日さんとやるんですが。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)9月16日、17日、渋谷ユーロライブで午後7時開演でやるんですけども。その内容がね、16日の方がね、三隅研次監督と市川雷蔵主演の『剣三部作』という、超渋いものと、もう1本の方が9月17日の方のメインは小林正樹監督の『人間の條件』全6作という、ものすごい、ヘビー級のにしすぎたんで。どうもこれ、反応が悪いということで今回、その説明をさせていただきたいなと思いまして。

(赤江珠緒)はい。お願いします。

(町山智浩)で、市川雷蔵さんってご存知ですか?

(赤江珠緒)お名前はね。

(山里亮太)知っているんですけど、もちろんリアルタイムで見たこととかはございませんけども。

(町山智浩)はいはい。

(赤江珠緒)大変な映画スターというお噂だけは・・・

(町山・春日)(笑)

(山里亮太)ちょっともう、伝説の生き物ぐらいのね。

(町山智浩)ジェームス・ディーンみたいなもんですよ。すごく若く美しいうちになくなった方ですけども。とにかくね、顔がいい。

(山里亮太)お写真ありますけども。きれいな顔立ち出。

(赤江珠緒)そうですね。

市川雷蔵『眠狂四郎』シリーズ

(町山智浩)もう、美青年なんですけども。この人がいちばん有名になったのは、『眠狂四郎』シリーズというものなんですよ。これはまあ、田村正和さんとかがやってらっしゃるんですけど。元祖は市川雷蔵さんなんですね。で、眠狂四郎っていうのは時代劇で、剣士なんですけども。流れ者の剣士で一匹狼なんですけども。エロいんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)エロ剣士なんです。

(山里亮太)そんな話でしたっけ?

(町山智浩)女を抱くんですよ。毎回。

(赤江珠緒)へー!

(春日太一)あの、ボンド・ガールから持ってきて、『狂四郎ガール』っていうのを作って。それでセクシーな女優たちと濡れ場を展開していくってのが毎回売りになってたっていう。

(山里亮太)剣は一体どこに出てくるんですか?(笑)。

(春日太一)女性の着物をバサッと斬るんですよ。帯を。

(赤江珠緒)ええっ!?

(春日太一)真っ二つに。

(町山智浩)ベローンって。

(赤江珠緒)そこで剣、使っちゃうの!?

(春日太一)眠狂四郎はそれをやるんです。ええ。

(山里亮太)五ェ衛門だったら嘆いているところですよ。『またくだらぬものを・・・』っつって。へー!それで、ちょっと事におよんで・・・

(春日太一)そうですね。ええ。

(町山智浩)で、まあ眠狂四郎っていうのはものすごいハンサムで。女の人は見ただけでもうクラクラっていう設定になっているんですね。で、実際にまあ、その当時、女性ファンっていうのはそうだったんですよ。市川雷蔵さんに対して。

(赤江珠緒)大スターというね。ええ。

(町山智浩)で、毎回セクシー女優さんが出てきては、たいていは悪女。で、眠狂四郎に対して、要するにエロい仕掛けをして倒そうとすると、眠狂四郎が自分の色香で相手をメロメロにして・・・みたいな。大人のドラマ(笑)。

(赤江珠緒)色仕掛けに対して、さらに色で?

(町山智浩)色仕掛け。セクシーな時代劇だったんですよ。

(赤江珠緒)へー!(笑)。

(山里亮太)ああ、そうなんすか?

(町山智浩)で、まあ眠狂四郎っていうのは寝てるみたいな感じがしますけど。これは、催眠術をかけるんですよ。敵に対して。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)円月殺法っていう技がありまして。刀をですね、満月のように丸く回して。相手がこう、催眠術にかけられてクラクラッとしたところを斬るという、すごい技なんですけれども(笑)。

(山里亮太)いや、もういまの説明だと、催眠術にかけられた女の人とエッチなことをするっていう、ちょっと最近のAVの企画みたいな(笑)。

(赤江・町山)(笑)

(春日太一)でもね、エロティシズムを本当、売りにしていこうっていうのはもともとあって。結構、キリスト教の退廃文化みたいな感じでやっていくっていう。だから、十字架とかが出てきて、その上で濡れ場をやったりとか。

(町山智浩)隠れキリシタンとか。そういうのがいつも出てくる。

(春日太一)転び伴天連とか。『神父がこの処女を抱けるかどうか?』みたいな。そんな・・・

(山里亮太)えっ?でも、それは時代劇としての、いちばん大事なところはちゃんとあるわけですよね?カンカンカーン!と戦ったり。

(春日太一)カンカンカンじゃないんですよ。円月殺法で一刀で。もともとやっぱり市川雷蔵っていうのは体がよくなかったんで。そんな激しい戦いはやっぱりできないっていうのもあったんで。それをまあ、活かして。そのかわり、立ち姿は美しいので。それで円月殺法っていうのをある程度、編み出していったというね。

(山里亮太)ちょっと時代劇ファンとかでも、ねえ。虜にするような時代劇としての内容も・・・

(春日太一)そうです。美しさとストーリー。エロティシズムを交えたストーリーの。

(町山智浩)非常にエロチックでバイオレントで。非常に危ない感じのものなんですよ。『眠狂四郎』シリーズっていうのは。それでまあ、女性ファンとか、その頃もうメロメロになっちゃったんですけど。

(赤江珠緒)うんうん。

三隅研次の『日本刀で斬る』こだわり

(町山智浩)その『眠狂四郎』シリーズを撮っていた監督が三隅研次さんっていう監督なんですね。で、この三隅研次さんっていう人は、おそらく世界の映画史上、最も『斬る』っていうことにこだわった人なんです。日本刀で。とにかく人を斬る、斬るっていうことだけを、生涯を通じて撮り続けた男なんですね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、特にこの三隅研次の『研』っていう字がですね、これは刀を研ぐ時の・・・

(赤江珠緒)ああ、『研ぐ』。本当だ。

(町山智浩)『研ぐ』っていう字なんで。すごくね、この人が剣映画を撮っていたっていうのはね、なんかもうすごいなって思っているんですけども。

(赤江珠緒)本当だ。

(春日太一)『座頭市物語』の一作目であったりとか、若山富三郎の『子連れ狼』シリーズとかは全部この人がやっているので。本当、日本の剣戟アクションっていうのを作り上げていった人とも言える大監督なんですけども。

(赤江珠緒)ああ、もうこれでなんか、お名前忘れないですね。隅々まで通るみたいな。

(町山智浩)わかりやすいんですよ。三隅研次。この人はアメリカでも、非常に評価が高いです。ヨーロッパとかアメリカで最も評価が高いのは、日本刀の切れ味っていうものを、具体的に映画の中で見せたんですよ。それまでの黒澤明とかでもありましたけれども。腕が落ちるとか、その程度なんですけど。この人の場合、三隅研次監督の作品では人間が人体、真っ二つになります。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)バサッと斬られて、こう、真っ二つに割れて。キリキリキリ・・・と左右に分かれて倒れますから。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(春日太一)『子連れ狼』でね、それが起きるんですよ。で、そこから血が噴水のように噴き出してくるっていうね。ええ。

(町山智浩)で、もうそれをヨーロッパとかアメリカの人たちは、三隅研次の一連のチャンバラ映画を見て、日本刀っていうのは本当に恐ろしいもんだな!と(笑)。

(赤江珠緒)そうですね。そこまで表現しちゃうとね。

(町山智浩)そうなんですよ。

(山里亮太)でも、海外のそういう映画とかで、人が斬られる時の斬られ方って、そういう斬られ方とかを・・・あれは影響を受けてるんですか?

(町山智浩)あのね、特に血がビュービュー出る映画ってあるじゃないですか。アメリカ映画とか。あれはだいたい、三隅研次監督の『子連れ狼』シリーズがアメリカで大ヒットしたんで。それの真似をしてるだけなんですよ(笑)。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)その影響が強いんですよね。はい。

(山里亮太)あ、そうなんですか?『キル・ビル』とかの時もさ、そんな死に方をする人、いっぱいいたじゃない。

(町山智浩)あれはもう完全に。あれは、真似です。『あれは三隅研次監督の真似だ』とはっきり、『キル・ビル』の監督のクウェンティン・タランティーノは言ってます。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)『「子連れ狼」の真似ですから』って。

(春日太一)それにリアリティーを出すために、普通の模造刀をやっぱ使っているわけですけど。それだと、迫力が出ないわけですよね。だから映像的にリアリティーを出すために、光の当て方とか、照明の当て方をすごい凝って。光がちょっと、怪しく光るんですよ。それが、この刀なら、たしかに切れるかもしれないなっていう映像の見せ方を、またしていた監督だったので。

(山里亮太)へー!

三隅研次『剣三部作』

(町山智浩)この三隅研次監督が市川雷蔵主演で『眠狂四郎』と平行して作っていたのが、今回紹介する『剣三部作』なんですね。で、1本目が1962年の『斬る』っていう映画で。

(赤江珠緒)まさに、『斬る』。

(町山智浩)はい。もう『斬る』。ストレートなんです。

(赤江珠緒)タイトルが、『斬る』。

(町山智浩)で、次のは1964年の『剣』という映画ですね。で、最後のが1965年の『剣鬼』。『剣の鬼』って書くんですよ(笑)。超タイトルがわかりやすいっていう(笑)。

(山里亮太)『斬る』にこだわってますねー。

(町山智浩)わかりやすいんですけど。で、特に変なのはこの『剣』という映画なんですけど。これは三島由紀夫原作なんですね。

(赤江珠緒)ああー。三島由紀夫さん。はい。

(町山智浩)で、おそらくは東大の剣道部を舞台にした話で。現代の若者たちがお酒を飲んで、女の子をナンパして、スポーツカーに乗って、とかやっている中で、1人、間違った時代に生まれてしまった剣士である主人公が、剣の道を貫こうとして、チャラチャラ文化とどうも合わないっていう話なんですよ(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)へー!面白そう!

(春日太一)現代劇ですよ。

(赤江珠緒)えっ?意外と現代。そんな話なんですか?

(町山智浩)東大ですよ。これ、たぶん舞台は。

(春日太一)浜辺で剣道部員が合宿していく中での人間模様っていう話なんです。で、普通ならキラキラの青春ものかと思いきや、悪い方の副部長みたいなやつがいて。こいつが主人公を追い落とそうとするっていう中で、女の誘惑が・・・

(町山智浩)それ、川津祐介さんが演じている人が、『人間はみんな欲望っていうものがあるんだ。「剣だ!」とか言ってそれに精神を全てつぎ込んで・・・なんて、そんなバカバカしいことは嘘だ!』って。で、女の子をけしかけて、誘惑しようとするんですよ。市川雷蔵さんをね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)っていうような話です。これ、三島由紀夫さんの、はっきり言って自決の精神的な基盤になっている小説です。これを読むと、三島由紀夫はなぜ自殺したか?すごいよくわかるんです。

(赤江珠緒)えっ?ええーっ!?いまの話から?

(町山智浩)わかるんですよ。オチになっちゃうんで、あんまりこれ以上言えないんですけど。映画を見てもらうとわかります。で、とにかく『斬る』ってことにこだわり続ける監督が三隅研次で。それと市川雷蔵のベスト3っていう感じなんですね。はい。で、人体真っ二つとかありますよ。うわっ!?みたいな(笑)。

(春日太一)(笑)。もうとにかく、この時期の市川雷蔵の映画は大体そうなんですけど。地獄めぐり系映画という風に考えてるんですけど。もう本当に、市川雷蔵の主人公がひどい目に遭い続けたり。あと、人間の醜いもの、ひどいものをひたすら見せつけられて、憂鬱な気持ちになっていくっていう映画をアクションとともに描いていくっていうね。

(山里亮太)へー。なんかね、勧善懲悪でね、時代劇っていうのは最後はいいものがバシーン!と斬って終わるっていう・・・

(春日太一)そんなスカッと感、ぜんぜんないです。もうひたすら、嫌なものを見て。ズーン!と沈んでいくっていうね。でも、それがなんとなくね、文学的な匂いというか。して、結構ね、面白くなってくるというね。雷蔵とその暗さと、上手く合うんですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。まあ、市川雷蔵さんってそんな明るくないんですよ。雰囲気が。非常に優男で。ちょっとなんか、体の弱い感じが非常にリアルでいいんですね。

(赤江珠緒)ああ、ご本人も早く亡くなってるんですね。

(町山智浩)ガンで亡くなりましたね。

(春日太一)37才で。

(町山智浩)若くして。はい。で、まあその『剣三部作』というね。これはまあ、ぜひ。特に『剣鬼』は傑作ですから。本当に。いま見ても。

(赤江珠緒)『剣鬼』。

(町山智浩)カラーも素晴らしいですし。

(赤江珠緒)この『剣鬼』はどんな話なんですか?

(町山智浩)『剣鬼』はね、ちょっと放送に適さないような内容なんですが。

(春日太一)これ、スタートから言いにくいっていうね(笑)。

(町山智浩)まあ、出生の秘密を抱えて差別されている男がですね、その差別を乗り越えるために全てをかけて。まあ、殺し屋になっていくんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)で、体制側の殺し屋になっていくんですが・・・っていう、ちょっと政治的な内容にもなっています。はい。

(山里亮太)これは、お二人のライブに行くと、ノーブレーキで全部聞けるから。

(春日太一)あのね、スタッフの話から、全部しますので。カメラマンとの相性とか(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。内部情報まで。

(山里亮太)ライブじゃないと言えない単語、たくさんあります?

(春日太一)あります。はい。

(町山智浩)で、いまのが『剣三部作』なんですけど。

<書き起こしおわり>

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