町山智浩 実写版映画『進撃の巨人 前篇』を語る

町山智浩 実写版映画『進撃の巨人』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で自身が脚本でかかわった実写版映画『進撃の巨人 前篇』を紹介。制作の舞台裏や、原作とキャラクターが大きく変わった理由などについて話していました。

(赤江珠緒)さあ、町山さん。いよいよ『進撃の巨人』ですね。うん。

(町山智浩)はい。まあ、音楽を聞いてください。

(テーマ曲が流れる)

(町山智浩)進撃の巨人の実写版。東宝映画です。8月1日公開なんですけども。これ、今日ですね・・・あ、そういえば山里さん、見てくれたんですよね?

(山里亮太)見てきましたよ!

(町山智浩)どうでした?

(山里亮太)すごかった!面白かった!で、あの、僕がすごい印象に残っているのが、僕、コミックスもアニメも見ているんですけど。巨人の人を捕食するシーンが、いちばん怖かった。

(町山智浩)すごかったでしょ?

(山里亮太)すごかった。いや、グロいし・・・

(町山智浩)よく、これ・・・こんなの作って大丈夫なの?って思いませんでした?

(赤江珠緒)そうなの?コミックでも相当怖いんですけど。

(山里亮太)いや、いろいろコミックとかアニメでね、ちょっと隠そうとしてきてた過激な描写が、映画で何のブレーキも踏まずにやっちゃっている感じ。内臓ビッチャビチャだし。

(町山智浩)これね、プロデューサーがものすごく映倫と掛けあってですね、もう根気よくやって、全部あの表現を通過したんですよ。なんとか。

(山里亮太)へー!いや、えげつない。巨人の怖さが。

(町山智浩)いまさ、この手の映画って全部テレビ局が制作じゃないですか。そうすると、テレビで放送できないからこういう映画、作れないんですよ。現在。

(赤江珠緒)ああー、そうか。

(町山智浩)だから、久々ですよ。これだけの残虐映画は。

(山里亮太)そう。えげつない。巨人・・・

(赤江珠緒)巨人にまあ、人が食われるっていう話ですからね。

(山里亮太)そうそう。

(町山智浩)どうでした?テンション的に、見ていてどんな感じになりました?

(山里亮太)いや、町山さんにいつもご紹介いただいている怪獣映画とか、あれ見ている感じ。特撮の。

(町山智浩)はいはいはい。

(山里亮太)で、ちょっと原作を読んでいる人からすると、『あれ?あ、ここ、こんなに人、変わっちゃってる・・・』みたいな驚きなんですけど。

(町山智浩)はいはいはい。

(山里亮太)そこらへんは、どうしてなんだろう?とか聞きたいんですよね。

(町山智浩)はいはい。今日はその話をしたいんですけど。実は今日ですね、夕方ぐらいから全国で一斉にこの東宝の進撃の巨人の一般試写が行われるんですね。初めて。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)2万人ぐらい、同時に見るのかな?全国で。で、たぶんその上映後ですね、アニメファンの人たちが大炎上すると思うんですよ。

(山里亮太)ああー、なんか、言わんとすることはわかります。はい。

試写後にファンたちが大炎上する可能性

(町山智浩)これね、キャラクターに大きな変更があるからなんですけど。で、多分これね、『これは原作イレプだ!』っていう人がたくさん出てくると思うんですよ。

(山里亮太)ああー、ちょっと入れかえて言ってますけど・・・

(町山智浩)たいへんなことになると思うんですけど。今回、そのいきさつをちょっと話したいんですね。ええと、僕がなぜ、このシナリオをやることになったのか?も含めてですけど。で、まず進撃の巨人っていうマンガについてザッと説明しますと、もうパッと説明しますと、巨大な壁に囲まれた架空の国がありまして。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)その壁の外側には、人間を食う巨大な巨人たちがいるんですよ。ところがその壁が破られて、巨人が中に入ってきて、人を食いまくってたいへんな騒ぎになるっていうのが進撃の巨人っていうストーリーなんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これは2009年秋にですね、別冊少年マガジンっていう雑誌の創刊号で連載が始まったんですけど。で、これを描いた諫山創っていう人はですね、当時23才でまったくの新人だったんですけど。その人をいきなり抜擢して、カラーでですね。で、これが大当たりしてですね。まあこれ、担当の方が偉かったんですけど。担当の人もですね、編集者、入社1年目の川窪慎太郎さんっていう人だったんですね。

(山里亮太)はい。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)それでこの、完全にド新人の2人がいきなりカマしたこれでですね、講談社、それまで10年間、なにやってもダメで赤字でリストラで、本当に会社危なかったのが、いっぺんに立ち直っちゃったんですよ。

(赤江珠緒)はー!そんなに。

(町山智浩)なにやってもダメだったんですよ。おっさんたちが、いろんなことを。この2人で立て直しちゃったんですよ。会社を。

(赤江珠緒)担当の方も、そんな新人だったんですね。へー。

(町山智浩)そうなんですよ。この天才2人が作ったんです。しかも、2人とも結構イケメンなんですけど。それはいいや(笑)。

(赤江珠緒)なんと。

(町山智浩)で、ですね、これを映画化しようってことになったのは、その前にですね、『告白』の中島哲也監督っていうのが映画化しようとしてですね、ちょっと試作フィルムも作っていたんですね。で、それは現代の東京に巨人が現れるっていう、ぜんぜん原作と関係ない話だったんですけど。で、それが流れてですね、突然、2013年にアニメ版が放送が始まる前なんですけども。僕の家に電話がかかってきたんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、樋口真嗣監督なんですね。樋口真嗣監督っていうのは『ガメラ三部作』とか『日本沈没』とかで有名な特撮監督と本編監督の方ですけども。から、電話がかかってきてですね。『進撃の巨人をやろうと思うんだけど、町山さん、一緒にやらない?』っていう電話だったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?ええ、ええ。

(町山智浩)で、これはもうたいへんな、びっくりしましてですね。まあでも、脚本に映画評論家が参加するっていうのは結構よくあることで。

(山里亮太)そうなんですか?

(町山智浩)アメリカでも、いちばん権威のある映画評論家のロジャー・エバートさんっていう人が『ワイルド・パーティー』っていうおっぱい映画の脚本を書いたりとか。ジェームズ・エイジーっていう評論家が『狩人の夜』っていう名作映画の脚本を書いたりしてるんですけども。

(赤江珠緒)ふん。

(町山智浩)ただ今回の場合は、ちょっとすごかったのは、この進撃の巨人っていうのは日本での実写映画化がほとんど不可能って言われていた作品なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、絶対に不可能で、ほとんどもう成功する見込みもないんじゃないか?とか言われていたものに、いきなり『ちょっと来ない?』って言われちゃったんですよ。

(赤江珠緒)へー!それはなぜ、町山さんにお声がかかるっていう経緯になったんですか?

(町山智浩)これね、樋口監督が昔、高校生の時に、1983年にですね、『八岐之大蛇の逆襲』っていう自主特撮映画を撮ったんですね。もう高校生で、たった1人でミニチュアから怪獣から撮影まで全部やって。合成まで。天才なんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、いきなりなんの後ろ盾もなく、特撮界に突然現れた天才少年だったんで、まあ諫山さんと同じような人ですよ。だから。樋口監督は。で、その時に僕はちょっと実は取材をしたことがあるんですよ。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)僕も宝島っていう雑誌の編集部に入りたてで。それでまあ、その記事を書いたことがあって。でも、その後はぜんぜん付き合いがなかったんですね。したらまあ、諫山さんがずっとTBSラジオのファンで、ずっと僕のラジオを聞いてくれていたんですよ。で、僕の名前が出て。『あのバカにやらせてみるか?』みたいな話になったみたいなんですね。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)要するに、どうやって映画化したらいいかわからない状況だったから。で、バカの手も借りたいことだったと思うんですけど。で、僕としてはやっぱりこの時、『ホビットの冒険』でね、突然ドラゴンとの戦争に誘われたビルボの気持ちでしたよ。

(赤江珠緒)ああ、『指輪物語』。ええ。

(町山智浩)そう。それとか、いきなり世界チャンピオンの対戦相手にされたロッキーの気分ですよ。もう、本当に。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)へー!じゃあもう、勝つじゃないですか。でも、最後は。

実写化不可能と言われていた理由

(町山智浩)もう大変ですよ。それでね、どうしてこれが不可能だって言われていたか?っていうと、規模の問題もあるんですけど、それ以上にですね、これ、原作の舞台がドイツなんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうですね。

(山里亮太)主人公の名前とかも、そうですもんね。

(町山智浩)主人公の名前もドイツ人なんですよ。だからこれ、映画化が発表される前から、これは日本ではできないなって言われていたんですよ。

(赤江珠緒)町並みとかもドイツですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから『日本人の俳優がドイツ人やるなよ』とかね、『日本人顔してね、ドイツ名、名乗るのかよ?』とか『草はえるw』とか。『ハリウッドにやらせろ』とか言われていたんですけども。

(山里亮太)ネット上の評価ってやつですね。

(町山智浩)そう。だから樋口監督はね、これを軍艦島でね、撮りたいっていうアイデアがあって。で、だったらもうこれ、日本っていう舞台設定にするしかないということで。そっから始まったんですけどね。その作業がね。で、これも結構キャラクターの名前を全部日本名に変えるっていうアイデアもあって。それでもやってみたりね。逆に開き直って全員ドイツ名のままやったりとかね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)結構行ったり来たりしてて。撮影直前まで結構悩んでいたんですけど。でも、最終的にはやっぱりね、主人公たちのグループは原作通り行こう!ってことになったんですよ。

(山里亮太)はいはい。エレンとか。

(町山智浩)エレン、アルミン、サシャ、ジャンはそのままで行こうと。でね、屁理屈だけ考えてね。ええと、名前ってコロコロ変わるじゃないですか。時代で。で、いまはほら、エミリちゃんとかマリアちゃんとか日本人でいますけど、別に昔はいなかったでしょ?そんな名前。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)で、いま、新左衛門っていう人はいないじゃないですか。

(赤江珠緒)たしかに(笑)。

(町山智浩)だから名前も変わったんだってことでいいかと。で、一応調べてね。エレンっていう人は結構いるんですよ。沼田エレンっていうクラシックの演奏家もいますしね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)あと、サシャちゃんっていうのは上田サシャっていうアイドルがいて。で、ジャンはね、鉄鍋のジャンっていう料理研究家がいますね。

(山里亮太)(爆笑)

(町山智浩)で、アルミンはね、岡田あーみんっていう漫画家さんがいますね。『お父さんは心配症』のね。

(赤江珠緒)はあはあ。いや、そうですね。懐かしい。

(町山智浩)だからこれはまあ、いいかと。でもね、それでもね、絶対に日本人の名前にはできないキャラがいっぱい出てくるんですよ。モロに、イッヒビンドイチっていう感じの人がね。で、それはね、ベルトルト、ライナー、ハンネス、フランツ、ハンナ。これはもう、どう考えてもドイツ人でしかないんで、ちょっと使えないと。で、これは日本名にしました。はい。

(山里亮太)あ、そうなんだ。

(町山智浩)だから日本名なんですよ。この人たちのキャラは。元になっているのは。で、あと困ったのはリヴァイと、エルヴィンなんですよ。

(赤江珠緒)うわー、リヴァイとエルヴィンのこの、『ヴ』は難しいですね。

(町山智浩)そう。『ヴ』って日本っていうか、東洋の方の音にないものなんで。それをアジア人顔した人が『ヴ』っていうのを発音すると、やっぱりなんかおかしいんですよ。で、まあそれを開き直ってやるっていう手もあるんですよね。たとえばほら、『のだめカンタービレ』で竹中直人さんがシュトレーゼマンさん演じてたじゃないですか。

(赤江珠緒)はいはいはい(笑)。

(町山智浩)あとほら、阿部ちゃんが『テルマエ・ロマエ』でローマ人やっていたでしょ?

(赤江珠緒)ああ、そうでした。

(町山智浩)そう。でもそれやると、コメディーになっちゃうんですよね。藤井隆さんのマシュー担っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ねえ。だからやっぱりこれは諦めるかっていう感じになったんですよ。はい。ただ、リヴァイっていうのは人気キャラなんですよ。いちばんのね。

(山里亮太)最強のね。

(町山智浩)だから『リヴァイが出ないなら、実写化なんて見ないわ』って言っているファンの人がすごく多くてですね。非常にこれはね、難しい選択だったんですけども。ただ、諦めたのは結構最終段階でね。結構ギリギリまで何とかね、いちばん大きいキャラとして出そうと思っていたんですけど。まあ、難しかったですね。これもね。

(山里亮太)出しても出さなくてもね、クレーム来ますよ。出したら出したで、『こんなのリヴァイじゃない!』って言う人も絶対に出てくるし。

(赤江珠緒)うわー、人気作品だけに、難しいですね。

(町山智浩)そうなんですよ。それもそうなんですけど、とにかく名前的にね、リヴァイって旧約聖書に出てくるユダヤ人の名前なんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)だから日本人がそれを名乗っていると、理由を説明しなきゃなんなくなっちゃうっていう問題があったんですけどね。

(赤江珠緒)ふーん。そうかそうか。

(町山智浩)まあそれで、それはひとつ大きな壁だったんです。いっぱい壁があるんですよ。この映画化にはね。

(山里亮太)映画の中にも壁、いっぱいありますけどね。

(町山智浩)そう。でね、どんな作業をしたか?っていうと、実際は僕ね、マンガの、コミックの最初から4巻目くらいまでをそのまま圧縮して90分にしたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)まったくそんまま、90分のシナリオにしたんですよ。90分で90ページなんですけど。で、それを会議に提出して、原作者と編集者の川窪さんと、樋口監督とプロデューサーと。あと、それをまとめる脚本家の渡辺雄介さんと僕とで、僕の書いた叩き台をもとにですね、ああでもないこうでもないって言いながら修正していくっていう作業をしたんですね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、たとえば今回は、原作では15才くらいの男の子、女の子なんですけど。俳優の問題から20才くらいの設定にしなきゃいけないっていうことで。したら、やっぱり15才の青春と20才の青春って悩んでいるものとか違いますからね。

(赤江珠緒)ああ、たしかに。

(町山智浩)フェロモン的にもいろいろ違うんで、それも変わってくるんですけども。リアリティーがね。そういうことをいろいろ調整したりしてたんですけどね。たとえば、馬を使わないとかね。そういうことをやっていったんですが。ただ、いちばん大きな変更っていうか、この作品でいちばん大きな変更はですね、原作者の諫山さんから来た要請だったんですよ。

(赤江珠緒)はい。

原作者 諫山創からのキャラクター変更要請

(町山智浩)それはね、『主人公のエレンのキャラクターを変えてくれ』っていう依頼だったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(山里亮太)いや、そう・・・ですよね。

(町山智浩)これ、見ましたよね?

(山里亮太)はい。見ました。

(町山智浩)原作のエレンっていうのは、もうまったく恐れというものがない、猪突猛進の、とにかく巨人を倒すこと以外なにも考えていない少年なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、もう完全に、諫山さん曰くですね、『いかにも少年マンガのヒーローとして完成したものだった』と。ただ、諫山さん自身は『感情移入できない』って言ったんですよ。会議の時に

(赤江珠緒)ご本人が?ええ。

(町山智浩)ご本人が。それで、『もし映画化するんだったら、エレンを非常にリアルな、巨人を見ると恐怖で身動きもできなくなっちゃうような青年として描いてくれ』という要望があったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(山里亮太)そうなんですね。ああ、だから・・・

(町山智浩)そうなんですよ。これで炎上する可能性があるんですよ。すごく。今回の試写で。

(赤江珠緒)うわー。

(山里亮太)まあ、たしかにエレン、ちょっとね、そうなの。ちょっとダメな要素も入っちゃってるの。

(町山智浩)そう。主人公のヒーロー設定の変更をしてるんですよ。

(赤江珠緒)根本的な部分ですもんね。

(町山智浩)根本的な部分だから、これ、全部書き直しになったんですけど。その後。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ただね、この原作のエレンっていう少年がなぜ巨人を恐れないか?っていうと、小学生の頃に殺人を経験しているんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)幼い頃に、ミカサっていう女の子を救うために、悪いやつを刺し殺してるんですね。で、この2人は幼い頃に殺人を経験しちゃった、なんて言うか一種の共犯関係で結ばれている形なんですよ。原作では。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからそんなになっちゃったらもう、要するに巨人どころじゃないですよね。子どもの頃に人を殺しちゃったらね。で、ミカサはその自分を救ってくれて罪を背負ってくれたエレンのためだったら、人でも平気で殺すような、なんて言うか、まあ守護天使なんだけど、ちょっと怖い守護天使。殺戮の天使みたいなキャラクターなんですよ。ミカサは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それで人気があるんですよ。ただ、この話で主人公エレンが物語が始まった時に普通の人だったってことにしちゃうと、この殺人をした過去も消さなきゃならなくなっちゃうんですよ。今回のシナリオでは。そうすると、ミカサとエレンの関係っていうものはそんなに強い絆じゃなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうかー。

(山里亮太)ちょっとその青春の時の惚れたはれたぐらいの関係性に・・・

(赤江珠緒)そうなりますね。

(町山智浩)ただの幼なじみですよね。で、しかも2人とも、罪を背負ってないから非常にイノセントな、ご覧になったらわかると思うんですけど、エデンの園のアダムとイヴみたいなもんですよ。最初は。この映画では。だからこれにはね、原作のファンの人は激怒するだろうなと。

(山里亮太)いや、まあたしかに驚く・・・『あれっ、ミカサが?そんな、あれ・・・?』っていう(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。だからとにかく2人ともイノセントに始まるんですけども。そこから、大変なことになっていくという話になりましたね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからこれね、諫山さんの要望はキツいなと僕は思ったんですけど。その時は。そっから組み立て直してみると、諫山さんの要望はすごいな!と思いましたね。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)これ、ご覧になったらわかると思うんですけど、ものすごい厳しくてキツいドラマになっているでしょ?

(山里亮太)はい。エレン、超つらいです。

(町山智浩)ねえ。原作は要するに、主人公は絶対に負けない男だし、くじけない男だし。で、彼女の方はそれを命がけで守る女の子だから。どんな地獄状況にあっても、それ、セーフティーネットなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)安心するんですよ。ヒーロー・ヒロインで。読者はね。でも、この設定にすると、それも覆されちゃうし、守ってくれる天使であるミカサすら奪っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうかー。

(山里亮太)いや、エレンは本当に、どの作品よりも地獄だと思う。今回。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)地獄なんですよ。今回、エレンはものすごい罪を背負って。で、その後が大変なんですよね。で、地獄の巨人との戦いに入っていくわけじゃないですか。すると、彼は1回罪を背負っちゃったから、後はもう自分を罰するかのように死に急いで、自分からどんどん危険に飛び込んで行くんですよね。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)本当の死に急ぎ野郎になっていくんですよ。で、これはだから非常に普通の青年が地獄を経験して、その贖罪を求めて地獄を巡っていくという恐ろしいドラマになったんですよ。

(赤江珠緒)はー!ちょっとまた、違うドラマが見えてきましたね。ええーっ?

(町山智浩)だって最初はアダムとイヴだったんですよ。それが地獄に落ちるんですよ。

(山里亮太)そう。悲惨よ。エレン。

(町山智浩)だからこれはね、諫山さんってすごいなと思って。普通、漫画家の人って自分が創りだしたヒーローっていうのは大事にするじゃないですか。それにあえて重い枷をはめて、地獄に突き落としたんですよ。あの人は。

(赤江珠緒)いや、それでも町山さん、大変でしたね。

(町山智浩)でもやってみてね、『あ、これは重くて深いわ』っていうか、『諫山、恐るべし!』って思いましたね。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。へー!

(町山智浩)贖罪っていうのは『罪を贖う』って書くんで。『食材』って書いている人がTwitterでいますが、間違ってますからね。はい。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)で、なんかね、エレンとミカサが映画ではラブラブみたいなことをファンの人は怒っているんですけど。

(山里亮太)予告編かなんかでね、そのシーンがパッと出ちゃったんですよね。

(町山智浩)そう。でもそんなシーンじゃないし、いま話したみたいに、そんな甘っちょろいもんじゃないんで。はい。

(山里亮太)そう。そこらへんのね、なんか『原作の2人がそんなことするわけないだろう!?』って怒っていた人たちは、見たら、『ああ、ああー・・・』ってなる。

(町山智浩)地獄に突き落とす話になっているんですよ。でね、普通ね、原作者と編集者って映画化っていうことになったら『あれが違う、これが違う』って言ってくるもんじゃないですか。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)逆で。『映画として面白くするには、こんなことした方がいいよ』ってことばっかり言うんですよ。2人は。諫山さんと川窪さんは。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これ、たとえば立体機動っていう武器があって。それで巨人を倒せるんですけど。『それはなかなか見せない方がいい。1時間ぐらい見せるな』って言われたんですよ。2人に。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)そうなっていたから、地獄みたいな絶望が続くでしょ?延々と。

(山里亮太)いや、本当もう、人間はただ単に食いつくされていくだけの、恐ろしい地獄が。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれ、すごいなと思って。さすがね、講談社を立て直したサゼッションだなと思いましたよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)すごいと思った。あとね、今回ね、前篇後篇で。今回前篇だけど、後篇で完全に話を完結させるんですよ。

(山里亮太)原作がまだ完結してないし、謎もまだいっぱい残っているから。

(町山智浩)原作、なにもわからないですよ。巨人の秘密もわからないし、世界の秘密もわからないんですよ。でもそれ、全部決着つけますから。今回。

(山里亮太)っていうことは、オリジナルのこの・・・

(町山智浩)そう。そのためには、悪役が必要なんですよ。敵役が必要なんですよ。でもそれも僕、原作に縛られていて、どうしたらいいかわからなかったんですよ。したら川窪さんが、『この映画、前後篇が面白くなるかどうかは、この、あなたが作るキャラクターにかかっているんだ』と言われてね。まあ、自分で一生懸命考えましたけどね。はい。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でもこの2人はすごいなと思いましたね。本当ね。

(赤江珠緒)じゃあもう、まったく別物の、また楽しみ方ということになるんですね?

(町山智浩)そうなんですけど。ただ、いま言ったみたいに原作者と編集者が非常に深く関わってくれて。しかもその、非常に重要な構造上のサゼッションもしてくれているんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)はい。だからね、これはね、みんなの力でできた!っていう感じでね。もうビルボ、もう本当に感動ですよ。もう。

(赤江珠緒)いや、そうですね。町山さん、大変だったと思いますけど。映画作りにおいては、原作者の方とかとすごくいい関係性だったわけですね。

(町山智浩)今回、すごくいい関係でしたね。はい。

(赤江珠緒)ねえ。そうやってね。

(町山智浩)でも、そうじゃないものもあるみたいですけど。ただね、いまね、いまっていうかネット見てもわかるんですけど、『実写版進撃とか作るな!』とか散々書かれてますよ。『やめろ!』とかね。『マンガの実写化は成功したためしがねえじゃねーか!』とかね。『どうせ失敗する』とかね。『これが上手くいかなかったら、町山、映画評論家やめろ!』とか書いている人、いっぱいいますよ。

(赤江珠緒)そこまで!?

(町山智浩)いっぱいいますよ。本当に。でも、この映画は、絶対に勝ち目のない戦いに挑む話なんだから、作る側もそうじゃなきゃおかしいじゃないですか!

(赤江珠緒)おおー。

(町山智浩)申し訳ないですよ。主人公たちに。これは本当に文字通り、この映画の企画はジャイアント・キリングなんですよ。巨人殺しなんですよ。だから、負ける可能性も高いし。でも、やってみなきゃわからないんですよ。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)やってみなきゃわからない。それをまた、『どうせ失敗する』とか言って、人が命がけで戦っているのを冷笑して。自分は何にもしない人たちもいますけども。それはたしかに安全だけども、勝つ確率はゼロだから!何もしなきゃ。

(赤江珠緒)うわー!

(町山智浩)本当、壁の中だから!

(赤江珠緒)町山さん、戦士になってるわー!

(山里亮太)いまね、町山さんが立体機動装置で飛んでね、なんか・・・

(町山智浩)巨人とか壁に挑むやつを笑うな!

(赤江珠緒)おおっ!

(町山智浩)ということで、僕、自分でチケットを買ったんで。20枚、買いましたんで。カップル10組20名様にご招待します。はい。

(赤江珠緒)わっ、ありがとうございます。いや、ちょっと今週の町山さん、違いましたね。

(山里亮太)いや、本当ね、この昨今、CGとかじゃなくて戦闘シーンとかもすごいんだから。巨人のバトルシーンがあるんだけど。あのシーンとかも、すげー。

(赤江珠緒)たまむすびの瀧さんもね、出演されてますし。

(山里亮太)そうだ!

(町山智浩)そう。だから昔の仲間で集まって映画作っているようなもんですね(笑)。

(山里亮太)最高じゃないですか(笑)。

(赤江珠緒)今日は実写映画版『進撃の巨人』をご紹介いただきましたが。日本では8月1日から公開です。

(チケットプレゼント情報なので省略)

(赤江珠緒)いやー、町山さん、熱は伝わってきましたよ。

(町山智浩)・・・

(赤江珠緒)あら?

(町山智浩)あ、はい・・・すいませんでした。

(赤江・山里)(笑)

(山里亮太)燃え尽きてましたよ、町山さん!(笑)。いや、でも僕も見させていただいて、すっごい面白かったですし。後篇に向けてね、いろいろ用意してくれる前篇な要素もあったんでね。

(町山智浩)はい。後篇、何もかもひっくり返す、めちゃくちゃな展開になっていますから。

(赤江珠緒)へー!そうなんだ。

(山里亮太)あと、大型の巨人がCGじゃなかったっていうのが驚きですけど。

(町山智浩)あ、CGって言われてます?CGじゃないですから。みんな特撮で。

(山里亮太)すっごいクオリティーで。CGに見えちゃうんだけど。すごいの。

(町山智浩)あの、本当に大きいモデルとか作ったり。ミニチュアとか。そういうので撮影してる特撮です。

(赤江珠緒)わかりました。ぜひ拝見いたします。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)はい。どもでした。

<書き起こしおわり>


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