ロバート・グラスパーと高橋芳朗 『COVERED』を語る

ロバート・グラスパーと高橋芳朗 『COVERED』を語る 音楽

ロバート・グラスパーさんが『タワレコ渋谷洋楽第二企画室』に出演。新作アルバム『COVERED』について、音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんらと話していました。
※基本的にロバート・グラスパーさんの言葉は通訳の方が話したものを書き起こしています。英語部分のみ、本人の言葉を起こしています。

ロバート・グラスパーと高橋芳朗 『COVERED』を語る

(高橋芳朗)で、その来日に合わせてというわけではないのかもしれませんが、今回、ニューアルバム『COVERED』がリリースされました!

(一同)(拍手)

(高橋芳朗)で、さっそく、じっくりこの新作についてのお話をお聞きしていきたいんですが、まずはちょっと1曲、ロバートさん本人から紹介していただければと思います。

(ロバート・グラスパー)Yes, this is the song by Jhene Aiko, and the title, “The Worst”.

(高橋芳朗)はい。というわけで、グラスパーさんのニューアルバム『COVERED』からジェネイ・アイコのカバーですね。『The Worst』、聞いていただきました。じゃあさっそく、新作についていろいろお伺いしていけたらと思うんですけども。今回、6年ぶりにアコースティックなピアノトリオに回帰したということですが、その理由を、経緯を教えていただけますか?

アコースティックピアノトリオへの回帰

(ロバート・グラスパー)あの、やはり6年間、『Black Radio』の方でエクスペリメント(Experiment)として活動を続けていたということもあって、自分の原点であるアコースティックピアノの部分というのに回帰したいなという自分の思いもあったんですけども。やはり、長年離れていたことで、『ピアノの音を聞きたい』と言ってくださる方たちもやっぱり多かったというのもあって。今回、このような形でトリオのアルバムにしたんですが。『Black Radio』でファンになった方々もやはり多いということで、今回の作品はジャズのファンと、そして新たにファンになってくださったR&Bとヒップホップのファンの方々たちにも満足いただけるような内容に考えました。

(高橋芳朗)あの、『Black Radio』でグラスパーさんのことを知ったという方もきっと大勢いらっしゃると思うんですけども。あのアルバムでグラスパーさん的に得た、最大の収穫というのは、何になりますか?

(ロバート・グラスパー)あの、あまり実は知られていないんですけども。ジャズを始める前って、自分はゴスペルとR&Bをやっていたんですね。ですから、正確に言えばエクスペリメントをやることで、自分が初期に戻って、回帰したという方が実は正しいんですね。ですけれども、やはり自分が音楽を始めた最初の頃に立ち戻ってやったということ。で、本当に聞いてくださる方の幅が広がったというのもありますし、やはり音楽としてジャズのファンをR&B、ヒップホップの世界を知ってもらう。そして逆にR&B、ヒップホップの世界の人たちにジャズを知ってもらう。そういうきっかけができたことはうれしいと思います。

(高橋芳朗)『Black Radio』でグラスパーさんを知った方に向けて、今回R&Bとかヒップホップの最近の曲をメインにカバーされていると思うんですけども。そういうリスナーに、なんて言うんですかね?ジャズの魅力を伝えるために、どういうアレンジ面で配慮、留意した点があるか、聞かせてもらえますか?

(ロバート・グラスパー)やはり原曲に忠実な形にできるようにしました。というのは、やはりジャズミュージシャンで多いのが、アレンジしすぎてですね、元の曲がどういうものなのか、わからなくなってしまうっていう。

(高橋芳朗)ありますね。あります。

(ロバート・グラスパー)そういうようなカバーの仕方をジャズミュージシャンはしがちなんですけども。やはり、どういう曲なのか?ということだけはわかっていただきたい。まあ、グラスパー化(Glasperize)するというんですかね?曲をグラスパー化するという形で原曲をあまり崩さずに、自分のスパイスを加える。そういう形にこだわりました。

(高橋芳朗)じゃあまあ、入門編として向いているところもあるのかもしれないですね。ジャズの。

(ロバート・グラスパー)そうですね。やはりそのジャズを普段聞いてないような方々でも、やはり聞いてすごく消化しやすいというか。理解してもらいやすい、そういうような音というのを目指したわけですけども。自分自身がもともと、シンプルでメロディーがすごく好きな人間ですので。その美しいメロディーというものを残したいなということですね。やはりその、ジャズミュージシャンであっても他の音楽というものが好きなんだよということも知ってもらいたかった。

(高橋芳朗)りちゃこさん(バニラビーンズ リサ)とかもそんなにジャズは、熱心に聞くような感じではないと思いますけども。結構聞きやすいんじゃないですか?

(リサ)そうですね。あと、ピアノの音がすごく優しくて。キレイだなと思います。はい。

(ロバート・グラスパー)アリガト!

(リサ)(笑)

(高橋芳朗)(Jazzバイヤー)岩見さんの方から、新作に関して、なんか質問、ありますか?

(岩見)はい。ええと、息子さんが参加されていたりと、すごく今までのグラスパーさんの作品の中では非常に自身のルーツというか、ジャズに対する思いだとか。あと、いまの『Black Radio』を聞いたファンに向けてのメッセージ性がすごく強く現れた作品だなと思うんですが。中でも、ご自身の中で思い入れが強い曲はどの曲ですか?

(ロバート・グラスパー)エットー・・・(ため息)。Right now, I will probably say “So Beautiful”?

(高橋芳朗)『So Beautiful』。

(ロバート・グラスパー)And I・・・

(高橋芳朗)いま、選ぶならですよ。

(岩見)いまです。この瞬間で、あえて選ばなきゃいけないんであれば、『So Beautiful』?

(ロバート・グラスパー)で、『I’m Dying of Thirst』ですね。

(高橋芳朗)『So Beautiful』はミュージック・ソウルチャイルド(Musiq Soulchild)。『I’m Dying of Thirst』はケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)。で、そのケンドリック・ラマーの曲にロバート・グラスパーさんのお子さんが声で参加をしていますけども。で、その曲、アルバムの最後にあるんですよね。最後のその『I’m Dying of Thirst』と、その前の『Got Over』。これ、ハリー・ベラフォンテ(Harry Belafonte)さんが参加した曲なんですけど。これ、昨今のアメリカ、結構人種問題が大きな社会問題になっておりますけども。これに対する、グラスパーさんなりのレスポンスみたいなところがあると思うんですけども。ここで訴えたかったことは、どういう?

アメリカの人種問題へのレスポンス

(ロバート・グラスパー)まず、いちばん最初にハリー・ベラフォンテの『Got Over』という曲ですけども。やはり彼は本当の公民権運動の時から、本当にスターとしてかなりキーパーソンとして活躍されていた方で。すごい偉大なるスターであるにもかかわらず、やはり信念に向かって立ち上がって、きちんと声を上げて訴えかけてきているような、そういう人の1人で。ニーナ・シモンもそうですし、マーヴィン・ゲイだったり、モハメド・アリだったり、アレサ・フランクリン。たくさんの有名人たちがそういう形で、この世の中はこれが間違っている!ということをきちんと社会に向けてメッセージとして発していった、そういうキーパーソンの1人だと思うんですけども。

やはり、その彼の声というものをいまの人たちに聞いてもらいたいというのをすごく思ったんですね。本当に今回、やはりいまの時代、警官に無実であるにもかかわらず射殺されている黒人の若者たちがたくさんいるわけで、やはりそういった思いというものも、最後に訴えたかった。もうひとつ、ハリーに関しては、そこまでいろいろな、公民権運動も乗り越えてきて、何もない時代から立ち上がって、そしていま生きている。乗り越えてきたんだ!という、そういう生き証人なので、やはりその彼に伝えてもらいたかった。

そして、最後の曲ではそういう形で警官に射殺された人たちの名前をですね、自分の息子。6才の息子ライリーと彼の友達に名前を並べてもらったんですけれども。その名前を並べることで、タイムスタンプをつけるような、そういう気持ちっていうのがあったんですね。これまで自分の作品の中でも、聞いていただければわかるんですけども、その時、その時代、その年のなにか大事なものっていうもの、起こっていることというのをタイムスタンプのように、なにかの形で残してきていて、残していきたいと思っているんですけども。

今回のアルバムでは、やはりこのことに対してきちんとタイムスタンプとして残したい。やはり、これまでの歴史の中で素晴らしいレコードというのは、そういう形でその時代、その時代を映し出している。そういう作品が多いと思うんですけども。それを自分も、これからも、今回も作りたかった。

ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』レコーディング

(高橋芳朗)はい。で、あのケンドリック・ラマーと言いますと、彼のニューアルバム『To Pimp A Butterfly』にもグラスパーさんは参加されているわけですけれども。なんでも、この『COVERED』と同じタイミングでセッションをされたということなんですが。こちらのレコーディングの様子はどうだったんでしょう?

(ロバート・グラスパー)LAでこの『COVERED』のライブレコーディングをしていたんですけども。そのレコーディングの最中の午後にですね、友人のテレンス・マーティンから電話がありまして。『自分がセッションをやっているのはわかっているけど、その後にDr.ドレのスタジオに来てくれないか?ケンドリック・ラマーが待っているから。実は1曲、ちょっと参加してほしいんだ』という話がありまして。

(高橋芳朗)うん。

(ロバート・グラスパー)で、自分の『COVERED』のレコーディングが終わってからですね、スタジオに言ったんですけども。面白かったのが、ジャズのアルバムであるべき『COVERED』ではジャズを弾かずにですね、ケンドリックのスタジオに行ったら、『For Free?』という曲を最初にやったんですけど、モロにジャズを弾いているという。本当にすごく皮肉な話なんですけども。そういう形で参加させていただいたんですが。もともと1曲の予定が、結局7、8曲やることになりまして。そのまま徹夜しました。

(高橋芳朗)はー!あの、お互いの作品で影響しあっているようなところもあるんでしょうかね?

(ロバート・グラスパー)実際には今回レコーディングで会うまで、あまりケンドリックを、本人自体は知らなかったんですね。もちろん、ケンドリックのアルバムはデビュー作だったり、ミックステープ風の曲『Section.80』から大好きではあるんですけども。彼のプロデューサー。参加している全てのプロデューサーを知っていて、そのプロデューサーが自分はすごく好きなプロデューサーたちばっかりなんですね。そして、その彼らも自分のことが大好きだと言ってくださっているプロデューサーばっかりだということで。

本当にケンドリックの作品というのはプロデューサー中心に聞いていて、すごく好きではあったんですけども。そのプロデューサーたちが自分の作品を大好きだと言ってくださっているので、そういった作品のレベルでお互いにインスピレーションを与え合っているんじゃないかな?と思います。ケンドリック自体が自分からインスピレーションを持ってくれているかはわからないですけども、自分はケンドリックの作品からインスピレーションをもらっているので。まあ、そういった意味では、すごくインスピレーションのサークルになっているんじゃないでしょうかね?

(高橋芳朗)あと、この『COVERED』。日本盤ではですね、これぜったいみなさん、日本盤を買ったほうがいいと思うんですけども。ボーナストラックでJ・ディラ(J Dilla)にトリビュートした『Dillalude 3』っていう曲が入っています。

で、ねえ。いま、DillaのTシャツ、着てますけども。

J・ディラへの思い

(高橋芳朗)J・ディラの功績と、あと、ジャズに与えた影響みたいなところについてはどのようにお考えでしょうか?

(ロバート・グラスパー)実は、1999年だと思うんですけども。J・ディラと実際に仕事をさせてもらう機会があって。本当に光栄な機会だったんですけども。ビラル(Bilal)のファーストアルバムに参加した時なんですが。デトロイトに行って、彼と2週間ほど一緒に過ごして。彼がビートを作るところだったり、見るだけではなくて、一緒にビートを作らせてもらったり。そういう素晴らしい経験をさせてもらったんですけども。本当に彼はすごい素早さでビートを作るんですね。

(高橋芳朗)あ、そうなんですね。

(ロバート・グラスパー)で、そういったところとかを見て、本当にインスピレーションを得ました。実際、何百万枚もレコードを持っているんですけども。頭に浮かんだものを、『あ、これを使いたい!』と思ったら、もう真っ先にその場所に行ってですね。どこに何かあるかわかっていて、スッとレコードを引き出してくる。そういう人で。まさに本当、天才的な人だったのと、あと、自分もやはりそのピアニストとしてインスピレーションを得たのは、普通のピアニストだと思われがちなんですけど、自分だけではなくて、たくさんのピアニストが彼のいわゆるピアノを真似する音というものにインスピレーションを受けていると思うんですね。

それはピアニストだけではなくて、ドラマーも一緒で。やはり、プロデューサーであって、生楽器を弾いていないにもかかわらず、ドラムであったりピアノであったりというものをきちんと人間が叩いたり弾いている人よりも素晴らしい音を出したりとか。もっと生っぽい音を出したりとか。そういうところがものすごく我々人間のプレイヤーにはインスピレーションを与えてくれたなと思っています。で、本当にやはり彼はプロデューサーであっても、やはりそれ以上の存在であり、音楽に対して、やはりお父さんがたぶんジャズミュージシャンだからだと思うんですけども、ジャズのあり方だったり音楽のあり方というのをものすごくわかってらっしゃる。そういう唯一のプロデューサーだった。そして、人間より勝る音を作るプロデューサーだったと思います。

ロバート・グラスパーおすすめジャズ入門盤

(高橋芳朗)うん。なるほど。じゃあちょっと、この『COVERED』を聞いて、ジャズに興味を持った・・・このリサ子みたいな方に、さらに深くジャズの世界に入り込むために、どんなアルバムを聞いたらいいか?ロバートさんからレコメンドがあったら、お願いしたいんですけども。

(リサ)あ、教えてください。

(ロバート・グラスパー)まず、これ(『COVERED』)です。

(リサ)OK,Thank you.(笑)

(高橋芳朗)それはわかっています(笑)。

(ロバート・グラスパー)(熟考後に)RHファクター(RH Factor)、ロイ・ハーグローブ(Roy Hargrove)。

(リサ)RHファクター?

(ロバート・グラスパー)この作品は、やはりヒップホップ、R&Bというものが融合されている作品であって、歌が中心なので。メロディーも一緒にハミングできるような、そういうような作品なので、入りやすいんじゃないでしょうかね?

(高橋芳朗)うんうんうん。

(リサ)ありがとうございます。

(ロバート・グラスパー)『3chordfold』というテレイス・マーティン(Terrace Martin)のアルバム。それも素晴らしいアルバムです。

(高橋芳朗)古いピアノトリオとかでは、なにかおすすめはありますか?

(ロバート・グラスパー)アマッド・ジャマール(Ahmad Jamal)の『Awakening』ですね。すごく彼のアプローチ自体がすごくメロディアスなので、すごく入りやすいんじゃないかな?と思います。

(高橋芳朗)ピート・ロック(Pete Rock)とかコモン(Common)がサンプリングしている。

(ロバート・グラスパー)『The World Is Yours』もそうですね。

(高橋芳朗)じゃあ、新作以外でも構いませんので、グラスパーさんに質問を。

ロバート・グラスパーが初めて買った作品

(リサ)はい。私、すごい聞いてみたいことがあるんですけど。グラスパーさんがいちばん最初に買ったCDとか、レコード。まあ、どっちでもいいんですけど。は、何ですか?小さい頃に。

(ロバート・グラスパー)カセットテープです。チック・コリア・アコースティックバンド(Chick Corea Akoustic Band)の『Alive』ですね。

(高橋芳朗)いきなりジャズ、買われたんですか?

(ロバート・グラスパー)13才ぐらいの時ですね。

(リサ)そうなんだ。

(ロバート・グラスパー)いま言ったようにですね、自分が初めて買った作品というのがジャズの作品で、しかもチック・コリアの作品だったわけですけども。実は日本に来る前、2週間前にですね、韓国にいたんですが。その韓国で、彼がハービー・ハンコック(Herbie Hancock)とショウをしてまして。その時に出会って話をしましたら、チック・コリアさんが自分の『Black Radio』のアルバムをしょっちゅう聞いていると。

(高橋芳朗)おおっ!

(ロバート・グラスパー)で、『Black Radio』からインスピレーションを得ているんだよと言われて、すごく感動したんですけども。そういった形でこう、サークルになって1周しているんだなと思いました。

(高橋芳朗)(笑)。そりゃあ、うれしいですよね。

(ロバート・グラスパー)すごい自分がクールになった気分です。

(高橋芳朗)(笑)。よかったら・・・

『COVERED』から漏れた作品

(DJフクタケ)じゃあ、僕、いいですか?あの、『COVERED』に関してですけれど。今回、カバーする楽曲の候補から惜しくも漏れたような曲ってあったりしますか?

(ロバート・グラスパー)プリンス(Prince)の『Sign of the times』を実はライブの時にレコーディングしたんですけれども。プリンスから許諾がおりずにですね。やはり今回、本当は許諾さえおりれば、アルバムのいちばん最初に収録したかったんですけど。ダメだったんですよ。

(高橋芳朗)ああー・・・

(ロバート・グラスパー)実は、ハリー・ベラフォンテの『Got Over』はそのプリンスの『Sigh of the times』と融合されていた曲だったんです。もともとは。

(高橋芳朗)それは録音としては、あるわけですね。

(リサ)じゃあ、いつか許諾がおりたら・・・

(ロバート・グラスパー)あの、オフレコですけど、リー○しようかも・・・っていう(笑)。

(高橋芳朗)みなさんからもリクエストしてほしいですけどね。

(DJフクタケ)でも、『COVERED』の第二弾もじゃあ、期待できるかもしれないですかね?

(ロバート・グラスパー)もうとにかくプリンスはレコーディングとして彼の作品をカバーして残すのはダメ!と。それで断固としてダメなので。

(リサ)厳しい・・・

(高橋芳朗)困った人ですね(笑)。岩見さんは?

(岩見)はい。ロバート・グラスパーさんの一生の名盤ってありますか?

(ロバート・グラスパー)マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の『Off The Wall』。

(高橋芳朗)ジャズアルバムではないんですね。

(ロバート・グラスパー)違います。アルバムとしては『Off The Wall』です。

(高橋芳朗)うんうんうん。りちゃこさんは?

(リサ)いま、いろんなアーティストとかバンドがいっぱいいると思うんですけど。グラスパーさんがいまいちばんクールだなと思うバンドとかアーティストはいますか?

(ロバート・グラスパー)新しいバンドですか?それとも・・・

(リサ)どっちでもいいです。

(ロバート・グラスパー)もう、レディオヘッド(Radiohead)の大ファンです。実は外見はどういう外見なのか、わかんないんですけど。

(高橋芳朗)マジっすか!?(笑)。

レディオヘッドの大ファン

(ロバート・グラスパー)レディオヘッドの音楽の大ファンなんです。もう、外見なんて関係ない。単純にレディオヘッドは最高にクールだと思う。

(高橋芳朗)なるほど。それはすごい話ですね。

(ロバート・グラスパー)でも、バンドとして本当に大好きなのはアイズレー・ブラザーズ(The Isley Brothers)ですね。

(高橋芳朗)あの、レディオヘッド、今回『Reckoner』、やってますよね。で、以前もこちらで『Everything in its right place』をやっていますけど。レディオヘッドはジャズでカバーするのになんて言うんですかね?やり甲斐があるというか、面白味があるんですか?彼らの音楽性は。

(ロバート・グラスパー)あのですね、彼らの曲はすごくソングライティングに長けていて、やはりすごっくメロディーが美しいっていうのもあって。コード進行だとか、そういったものがすごく素晴らしいんですよね。で、メロディー自体に空間がある。ちょっと説明しにくいんですけど、ジャズで演奏するにも面白く遊べるというか、面白くできる空間がある。そういった曲を作っているなと思います。

(高橋芳朗)あの、同じジャズピアニストだと、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)もよくレディオヘッドの曲を取り上げてますけども。彼のアプローチとか、どう思いますか?

(ロバート・グラスパー)本当にブラッドのアプローチも自分も大好きです。本当に彼のアプローチ、素晴らしいと思いますし。やはり自分と同じで、もともとの曲というのをあまり変えない、そういうアプローチをするので。そうしながらも、彼なりのやり方というのをやっています。

実は彼もやっている『Everything in its right place』という曲なんですけども。日本でしか見ないんですけど、2001年に出した『Mood』という自分の作品ですね。そちらにタイトルを変えて出しているんです。ちょっと著作権の問題で『Everything in its right place』というタイトルをつけられなかったということで。それで、内緒でタイトルだけ変えてですね、弾いているのは『Everything in its right place』なので、彼よりも先に僕がやったんですよ。

(高橋芳朗)ふんふんふん。なるほど。なにかありますか?岩見さん。

(岩見)はい。これまで様々なミュージシャンの方たちと共演されていると思うんですが。いまこれから、一緒にやってみたいなと思っているアーティストはいますか?

(ロバート・グラスパー)やっぱりスティービー・ワンダー(Stevie Wonder)とは一緒にコラボレーションしたいですね。

(高橋芳朗)カバーされてましたもんね。

(ロバート・グラスパー)それでグラミー賞とりましたしね。

(高橋芳朗)共演してくれると思いますけどね。グラミーとったんですからね。うん。

(ロバート・グラスパー)そうですね。楽しみにしています。

(高橋芳朗)コラボっていう意味では、さっきケンドリック・ラマーのアルバムに参加されたっていう話を聞きましたけど。いまのブラックミュージックのシーンのところでは、ジャズミュージシャンとかヒップホップアーティスト、R&Bアーティストが結構混在しているというか、積極的に交わっているような状況になっているんですか?

(ロバート・グラスパー)R&Bに関しては、もうR&Bというジャンルって、もうなくなっちゃったんじゃないかな?と思うぐらいですよね。いまね。さっき、『R&Bはない』って言ったのは、やはりR&Bと言われている楽曲だったりアーティストでも、ほとんどヒップホップのビートに合わせて歌っているようなR&Bというのが多くて。本来のR&Bっていうものがあまりないような気がするので。

そういう意味でも『Black Radio』で自分がやりたかったのはR&Bを本来のR&Bというものを呼び起こす。そういうような作品を作りたいなと思っているんですが。実際には、本当ジャンルという形で境界線というものがなくなってきていると思っていて。それは決して悪いことではなくて、逆にすごく素晴らしいことじゃないかなとも思っています。

人種問題に対する意識の高まり

(高橋芳朗)さっきちょっとアルバムの人種問題に関するメッセージソングの話を聞きましたけど。そういう社会問題、人種問題に対する意識っていうのは、そのへんのミュージシャンで結構高まっているところはあるんですか?

(ロバート・グラスパー)本当はもっとやるべき人たち。もっと自分よりもものすごい
幅広いプラットフォームがあるようなアーティストたちというのがやっていないような気がしますね。彼らこそ、もっと声を上げて言うべきじゃないかなと自分では思っていて。もちろん、影で匿名だったりとか名前を伏せてお金を寄付したりとか。いろいろやってらっしゃるかとは思うんですけど。実際にこういった問題というんは声を上げてきちんと人々に伝えなきゃいけないと思うんですね。

そういった『クール』と言われている人たちから聞くことによって、若い人たちだったり興味を持っていない人たちも、『あ、こういうことはクールなんだ』とちゃんと思えると思うんです。そういったことで、やはり影でどれだけいいことをやっていようと、やはり表舞台できちんと声を上げて若い人たちだったり、いままで興味がないと思っているような人たちにインスピレーションを与える。そういったことをもっとビッグスターたちがやってくれるといいなと思います。

今後の制作予定

(高橋芳朗)わかりました。じゃあちょっと、最後に今後のグラスパーさんの予定についてお聞きしたいんですけど。なんか、マイルス・デイビスの伝記映画『Miles Ahead』のスコアを制作するというお話を聞いたのと、あと、マイルスのアウトテイクとかを使ったリミックスアルバム。あと、ニーナ・シモンの映画のトリビュートアルバムのプロデュースも行っていると聞いたんですけども。それぞれの作品、どんな内容になりそうか?教えていただけますか?

(ロバート・グラスパー)マイルス・デイビスの映画のスコアなんですけども、監督・脚本をドン・チードル(Don Cheadle)がやっているんですが。本当に彼から依頼をされて、本当光栄です。こういった作品にスコアを書くというのは本当に光栄な経験で。3月に仕上がって、この秋に公開されるといいなという段階。まだちょっと決定はしていないんですけども、この秋ぐらいかな?と思っています。

で、まあそれとマイルスのリミックスアルバムに関しては、実は少しだけ、半分ぐらい終わって。実は昨日の夜ですね、ちょっと終わらせたりとかしたんですけども。まだ全部完成していないんですが。エリカ・バドゥ(Erykah Badu)だったりキングだったりビラルだったり。本当に素晴らしいアーティストたちが参加してくれてまして。マイルスが作ってきた音楽を再び違ったイメージでまた表現する。そういった作品になるんですけども。彼が残したトラックにですね、また新しい曲をつけてみたり、そういった経験をさせてもらいました。

そしてニーナ・シモンの作品はニーナ・シモンのドキュメンタリーですね。たしかこれは6月26日に公開になると思うんですけども。これはトリビュートアルバムという形になるんですが。ドキュメンタリーに合わせて作られた作品で、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)だったりメアリー・J.ブライジ(Mary J Blige)、グレゴリー・ポーター(Gregory Porter)、アッシャー(Usher)、コモン。もうそういった様々な素晴らしいアーティストが参加してくれてました。

(高橋芳朗)おおー、楽しみですね。あの、マイルス・デイビスの作品と向き合ったりすることで新しい発見とか、そういうのはありましたか?

(ロバート・グラスパー)自分は最悪だってことに気づかされました。

(高橋芳朗)(笑)

(ロバート・グラスパー)本当にですね、マイルスが様々なバンドを作って、様々なバンドと演奏してレコーディングをしてきたわけですけども。それで、自分たちがいままで聞いたこともないようなレコーディングセッションの様子というものを間近で聞くことができたんですね。やはり素晴らしいミュージシャンたちが素晴らしいことをやっているのに、マイルスの一声で、『そんなのダメだよ!もっとこうしろ!』とか。そういった指示で消えてしまった曲、みなさんの耳に届かなかった曲。

そういったものを聞くことによって、自分がそのレコーディングセッションの中にいたような、そんなような気分になりました。でも、それを全部聞いてみると、マイルスがなぜこういう形にしたかったのか?みなさんの耳に届いたものが、なぜここの部分をキープしたのか?他の部分を排除したのか?そういったものの、彼の目的みたいなものが垣間見えたような気がします。本当に彼のようなマスターからたくさんのことを学びました。

(高橋芳朗)ちょっとそちらもぜひ、楽しみにしたいですけど。まあ、そろそろちょっと時間が迫ってきておりましたので。特にじゃあ『COVERED』の推薦というか、みなさんにメッセージをしていただきたいんですけども。よろしいですか?

(ロバート・グラスパー)あの、これまでずっとサポートして応援してくださったみなさん。本当にありがとうございます。そして最近ファンになってくださった方も、本当にありがとうございます。で、僕のことを知らないよという方。ぜひこのアルバムを買って知ってください。よろしくお願いします。

(高橋芳朗)というわけで、ロバート・グラスパーさんでした!みなさん、盛大な拍手でお送りください。

(ロバート・グラスパー)アリガトゴザイマス!アリガト!

<書き起こしおわり>

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