菊地成孔 時代と言葉の変化を語る

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菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の中で、時代の移り変わりの中で変化した言葉や表現などについて話していました。


(菊地成孔)だいぶ、本当に言葉もね。いまね、いちばん、昭和に普通に言われていた言葉で全く形骸化しちゃって。よしんば言ったとしても、意味がない言葉は何かな?って考えた時に『言いたい奴には言わせておけばいいんだ』っていうセリフがありますよね?ありましたというのかな?それは、まあなんか、自分の陰口だとかを言う人がいると。で、陰口なんかを叩く人間は少数派で。それでもう、無視して生きていたって何の問題もないし。なにせ数も少ないし、会うこともないし。自分さえ気にしなければなんともないんだから、言わせておけばいいんだよっていう意味だと思うんですよ。

思うんですよってまあ、ついこの間までそういうコンセンサスが取れていたんですけどね。そういう意味でした。でもいま、世の中っていうのは『言いたい奴には言わせておけばいいんだ』って言ったところで、実際、1分1秒おきにですね、言いたい人が言いたいことを言い続けている世の中なんで(笑)。あの、少数派でもないですし、自分の目につかないってこともないですから。『言いたい奴には言わせておけばいいんだよ』っていうのが何の慰めにもならない時代になったんだってことをね、感じますよね。本当にね。

まあ、私は1回、かなりの・・・私、何事も早いんで。2004年ぐらい。11年ぐらい前にかなりの依存症っていうか、使っちゃいけない言葉かな?中毒っていうのかな?まだSNSのエの字もない頃にインターネットにだいぶハマッて。これは危険だなと思って。自分の肉体的・精神的健康のためにまあ、止めているというか。たしなむ程度にしていますけども。いまはね、文化人類学の学生なんかがとんでもない秘境に行って、『ここにはWi-Fiがない』って。そりゃないよ!っていうね(笑)。

壁じゅうにコウモリが張り付いているような場所ですよ?そこで教授が『ここにはWi-Fiがない』って言うと、1人、また2人と過換気で倒れていくっていう時代ですからね。どんだけ依存してるか?っていう話なんですけども。まあまあ、それはともかくですね。私の実家の仕事的に言うとですね、下戸が・・・要するに、お酒を飲まない方ね。下戸が、宴席でキリンオレンジや三ツ矢サイダーで鰻や天ぷらを食わずに済むようになったっていうのも、かなり大きいんですよ。

ウーロン茶の登場と宴席の変化

それはね、ウーロン茶っていうものの製品化によって変わったんです。でね、これは日本に独特の現象で。たとえばフランスなんかもね、最近はやっと、オレンジーナが来ましたね。オレンジーナの次に来るのがレモンジーナっていうのはちょっと違うと思うんですけど(笑)。フランス語では(レモンは)『Citron』ですから。オレンジーナ、レモンジーナっていうのは、フランス語、英語になっちゃってるんですけど。まあまあまあ、そんなことにケチつけようっていう気は毛頭ありませんけども。

まあ、なにが言いたいか?っていうと、あのね、アジア圏の、中国、東南アジア、北東アジアと言わず、中国、韓国、台湾、フィリピン、ベトナムと言わず、お茶があったの。で、冷たいお茶もね、あったんですよ。だから下戸の人は、宴席の時は冷たいお茶を飲んでりゃ良かったんですけど。日本人はね、お茶で宴席にっていうのがちょっとダメでね。私の家は、古くからのファンの方はご存知でしょうけど、父方が飲み屋。まあ、大衆割烹よりちょっと料亭寄り。まあ、昼は料亭、夕方から大衆割烹、夜になると飲み屋っていう。で、母方は寿司屋ですから。

するともう、年がら年中宴席が持たれるんですけど。ミネラルウォーターがないから。フランスみたいに。で、アジア諸国みたいに冷たいお茶っていうのがなかったんで。で、熱いお茶で天ぷらを食うっていうのはね、日本人のサラリーマンのお父さんとかが良しとしなかったんですよね。で、結果としてね、ビールを飲んでいるお父様方の中で、下戸のお父さんはキリンオレンジや三ツ矢サイダーで鰻食ったり天ぷら食ったりする時間が長かったの。で、まあいまから思えばずいぶん甘口ですよね。子どもっぽいっていうかね。

でも、かなり長かったですよ。だからウーロン茶っていう商品が出てきて、缶入りのウーロン茶っていうのがある意味、瓶入りのキリンオレンジっみたいになって、トクトクトクとビールのグラスに注いで飲めるようになったっていうのはね、もう福音っていう感じがしましたけどね。まあ、そんなに最近でもないですけど。あれ、何年ぐらい前ですかね?20年ぐらい前なんでしょうか?まあ、というような、『何年ぐらい前なんですかね?』っていういい感じも、『じゃあ検索します』ってあっという間に正しい年代が出るという、クソのような世界ですけどね(笑)。いまはね、本当に(笑)。

知らなきゃ知らないでいいんですよ。あとですね、あの・・・(笑)。寿司をね・・・これは、ともみん。ともみんっつってもね、村松友視さんですけどね(笑)。エッセイスト、小説家の。『時代屋の女房』。『私、プロレスの味方です』。村松友視さんがもう、はっきりと書いてますけども。ある地方、これ、金沢だったと思いますけども。『金沢なんかに行くと、もう取れたての白身魚をレモンと塩で食うんだよね。ものすごいことだ、これは!』っつって、エッセイに書いていたのを私、覚えてますから。いま、当たり前ですからね。

すしざんまい行って、『ミル貝』とか『つぶ貝』っていうと、『レモン塩で!』『梅醤油で!』『わさび醤油で!』って聞かれる時代になって。当たり前になりましたけど。ちょっと前まで日本人っていうのは、どの寿司ネタも全部ムラサキで食ってたんですよね。その、昆布締めだのね、ましてや塩とレモンっていうのはね、もうあり得ないですよね。まあ、年寄りの繰り言シリーズですけどね。まあ、嫌だと思っているわけじゃないですよ。塩とレモンが定着したのは面白いし、いいことですよね。

マヨネーズなんて、ぎりぎりゲテモノだったはずですけど、いま、主力商品ですからね。本当にね。低価格寿司屋さんではね。いろいろありますよ。本当に。まあ、私なんかね、一家でいちばん年下ですからね。なんて呼ばれるか?って、『成孔』なんて呼ばれないですよ。よくて『成坊』ですよね。成坊っちゃんってことですけど。で、兄貴が秀行ですから『秀坊』。秀坊・成坊がこれ、まだいい方で。平均的には『やっこさん』って呼ばれてましたから(笑)。

『やっこさんがよお』っていう(笑)。私が学校でテストの平均点を下回ったんで、そのテスト用紙をクシャクシャに丸めてランドセルの底にしまっていた。これに関して、母親は父親に『やっこさんよお・・・』っていう(笑)。『やっこさん』で通じるんですよ。成孔だってことが。『やっこさん、今日よお、テストの用紙をよお、点が低かったからってよお、クシャクシャに丸めてランドセルの底に隠してたよ。やっこさんがよお』と言うような感じですけども。いまやこのね、小さな子ども。まあ、童を指すために『やっこ(奴)』と呼ぶと。これもまあ、ある種の階級ですね。ある業界の階級にならった俗語ですけども。いちばん下の子を『やっこさん』と呼ぶのもなくなりましたよね。

いま、『やっこさん』って言ったら、椿鬼奴さんのことを指す時代になりました。固有名詞になっちゃいましたからね。時代は変わったわけでございますけども。どんどんどんどん、こうしてね、言葉は変わっていくわけですが。こうした言葉が変わったというメッセージを皆さまから募集しております。番組では(笑)。してないっつーの、別に(笑)。いま、偶然そういう話の流れになっただけですけどね。

<書き起こしおわり>

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