町山智浩『バックコーラスの歌姫たち』アカデミー賞受賞の理由を語る

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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』に出演。2014年アカデミー賞でドキュメンタリー賞を受賞した『バックコーラスの歌姫たち』について、その受賞理由を、このように語っていました。

『アクト・オブ・キリング』が受賞を逃した理由

(山里亮太)あと、町山さんのお話を聞いていて、『これはとんでもない面白い映画だぞ』って思って出てくると思ったら名前がなくてびっくりしたんですけど。『アクト・オブ・キリング』は・・・

(町山智浩)はい。アクト・オブ・キリングは強烈過ぎたみたいですね。アカデミー会員には。

(山里亮太)もっと強烈過ぎたんですか?

(町山智浩)そう。やっぱりこれは耐えられない!って感じだったと思うんですよ。

(赤江珠緒)へー。それこそドキュメンタリー映画賞とかには入ってくるんじゃないかと思ってましたけど。

(町山智浩)もうずっと向こうでは下馬評で、絶対アカデミー賞はアクト・オブ・キリングで行くだろう!って向こうのマスコミも言ってたんですよ。でもね、行かなかったですね。やっぱりキツすぎたんですね。やっぱり、インドネシアの1965年の大虐殺ですけど。政権を取ったスハルト大統領の下で行われた共産主義者狩りですけども。基本的におちゃらけて撮ってるんでね。それを見てると、どう反応を・・・

(赤江珠緒)しかも、俳優さんじゃなくて当事者ですからね。

(町山智浩)当事者。虐殺した本人が、『なんちゃって』って言いながら人殺しのシーンを演じてるんで。だから笑っていいのか怖がっていいのか、わからなくて非常に困るというね。

(山里亮太)すごい新しいドキュメンタリーですけどね。途中で本人たちが、『あれ?』ってなっていく・・・

(赤江珠緒)だからインドネシアとしても、国としてもアカデミー賞を取っても、まったく不名誉な。名誉でもなんでもない話ですよね。

(町山智浩)そう思いますよ。アメリカ側も、これがアカデミー賞を取った場合、インドネシアの反共政権を応援していた部分に関してどう決着をつけるのか?という問題になるんで。非常に政治的に・・・しかし、イカ臭いですね、ここは!

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)このスタジオ、異常ですよ!このイカ臭さは(笑)。

(山里亮太)この(スルメの)袋、1回外に出しといてもらっていい?

(町山智浩)いや、いいんですけど(笑)。

(赤江珠緒)匂いの。香りの届くラジオをお送りしております。

(山里亮太)町山さんもね、この感じ。懐かしくなっちゃってる。

(町山智浩)懐かしいですね。はい。

(赤江珠緒)せめて、バラの香りを・・・

(町山智浩)あ、バラの香り。癒やしましょう。はい(笑)。

(山里亮太)すべての緊迫感をなくす、バラの香り(笑)。

(町山智浩)いやいや、そういうね、政治的に非常に難しいんで。結構判断を避けたんだろうなって思いましたね。アカデミー賞はね。

(山里亮太)そういうのも影響してくるんですね。

(町山智浩)あると思いますよ。それ。他にもね、ドキュメンタリー賞であがっていたもので、カンボジアの映画で。カンボジアでも70年代に大虐殺があったんですよ。ポル・ポト政権が大人をほとんど全滅させちゃって。インテリとか大人とか。英語がしゃべれたら殺しちゃうっていう。それも、子どもたちに殺させたんですよ。ビニール袋を大人の頭に被させて。で、大量に殺したんですけど、それを映画化しようとしたら、フィルムとか一切残ってなくて。写真とか。で、でもこれだけはちゃんと語り継いでいかなきゃならないってことで。そのカンボジアの人が粘土人形でもってカンボジア大虐殺を再現するっていう映画があってですね。

(山里亮太)ほう!

(町山智浩)『ロストピクチャーズ』っていう。それも今回、ノミネートされていたんですよ。

(山里亮太)最近の映画なんですね。

(町山智浩)最近の映画です。だから、大虐殺はあったんだけど、証拠をなにも残さなかったんですよ。犯人側が。ポル・ポト政権が。そっちは共産主義側が資本主義側を殺したんですけど。だからそういうのを聞くと、共産主義だの資本主義だの、右だの左だのって関係なく悪いやつは悪い!とにかく権力を握ろうとするやつは、なんでもやるってことでね。権力を握ろうとする人が悪いんだと僕は思うんですけどね。

(赤江・山里)はー!

(町山智浩)それが同時にノミネートされていて。『アクト・オブ・キリング』と、そのカンボジアの『ロストピクチャーズ』っていうのが。だからどっちも強烈すぎて、どっちも票がいかなくて。で、今回ドキュメンタリーで賞を取ったのがですね、『バックコーラスの歌姫たち』っていう。『歌姫』って書いて『ディーバ』って読むんですけど。っていう映画を取ったんですけど。要するに、同じ声の人がいっぱいいろんなレコードで聞こえてくるんですよ。結構アメリカの歌って聞いてると。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)おんなじ人がバックコーラス、やってるんですよ。すごい上手い人が。で、名前は知られてないのに、声だけはみんな知っているっていう歌がいっぱいあって。そういう人たちに脚光を浴びせようと。みんなに知られないで来てるからっていうドキュメンタリーなんですけども。でね、ちょっと1曲聞いてもらうと誰でも知っている歌があってね。クリスマス、お願いできますか?



(町山智浩)はい。ダーレン・ラヴっていう人の歌なんですけども。このダーレン・ラヴっていう人は1960年代にですね、フィル・スペクターっていうすごい有名な音楽プロデューサーの下でですね、ロネッツっていうバンドがあって。弘田三枝子さんみたいな歌ってわかります?女の子みたいなんだけど、すごいお腹の底からバーン!って声が出る歌手。そういう人たちをいくつか抱えていて。その1人だったんですね。このダーレン・ラヴさんって。それで、クリスマスっていう。これと違うヴァージョンのクリスマスの歌があって。『グレムリン』っていう映画のトップでいきなりかかる、すごい有名な『クリスマス♪』っていう歌があるんですけど。それを歌っていた人なんですけど。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)誰でも歌は知っているのに。アメリカ人でも日本人でも、世界中の人が。この人、知らなかったんですよ。声しか知らなかったんですよ。売れそこったんですね。それでその後、ずっと家でお手伝いさんやったりして働いてて。

(赤江珠緒)あ、そんなに脚光が・・・

(町山智浩)いかなかった。でも最近になって、やっぱり復活して。いま現役でやってるんですけど。で、そのダーレン・ラヴさんが今回アカデミー賞でステージにあがって、受賞の喜びを歌で示して。初めてスポットライトを浴びたんです。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)で、画期的なね。そういう人たちが忘れられている人たちをね、みんなで思い出してあげようよっていうのはこれね、たぶんアカデミー賞の投票をする人たちって俳優さんが16%なんですね。全投票者5800人のうち。その内の8割以上は誰も知らない俳優さんなんですよ。っていうのは、アカデミー賞の会員っていうとすごい感じがしますけども。誰でも会員になれますから。俳優組合に入っていれば。

(山里亮太)えっ、あ、そうなんですか?

(町山智浩)俳優組合員、全員会員なんで。基本的に。

(赤江珠緒)じゃあ1回でも舞台に出たり、なんか俳優だ!って自分が言えば。

(町山智浩)いや、俳優組合入ってれば。で、もともと組合の催しなんで。そうすると、映画って日本映画だと、ただ歩いている人って普通の人をエキストラで雇ったりするじゃないですか。でもアメリカ映画の場合には、組合の規定でちょっとしたシーンでも、隅っこに映っている人も俳優組合に入ってないといけないんですよ。

(山里亮太)へー。

(町山智浩)だから俳優組合ってものすごい人数がいるんです。だからその人たちにすると、このバックコーラスの人たちって、自分たちと同じじゃないですか。ねえ。知られざる人たちなんで。だからすごく人数の多い彼らが投票したと思うんですよね。

(山里亮太)なるほど!自分たちを投影したんだ。ちょっと。

(赤江珠緒)あ、そっかそっか。選ぶ人の心理っていうのもいろいろ出てるんですね。

(町山智浩)選ぶ人の心理。面白いですよ。大部屋っていうのがあって。昔はみんな社員だったんですね。俳優さんたちって。で、どの映画に出るか?なんかなんにもしらないで。シナリオなんかも読んでないんだけど、ずっと待機してるんですよ。スタジオのところに。で、『はい、こんど撮影シーンで40代・50代ぐらいの男性!誰かいるか?じゃあ、君!』っつって。それで行って、ただ歩いて帰ってくるっていう仕事があって。

(赤江・山里)ふーん。

(町山智浩)で、うちの娘の同級生のウォーレン君のおじいさんが、ワーナー・ブラザーズでそういう大部屋俳優やってたんですよね。で、ずっと映画会社に朝9時から5時までいて、それで要するに、『通行人で50代が必要』っていうと、パッて行って撮ってきて、帰ってくるんだけど。彼自身はシナリオを読んでないから、なんの映画だかわからない。自分が出た映画っていうのは100本以上あるんだけど、なんの映画に出たのか、自分じゃわからないって。

(赤江珠緒)すごい出方ですね!

(町山智浩)すごいんですよ。

(赤江珠緒)今日、なんの役、仕事したんだろう?って。

(町山智浩)わかんないです。『今日、3本ぐらい映画出たな』っていうんですよ(笑)。名前なんか1回も出ないです。記録にも残ってない。

(山里亮太)最後、テロップが出てくるわけでもない。

(町山智浩)出てくるわけでもない。最後に、出てくる人は全員名前が出るようになったのはスターウォーズからなんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうなんですか。

(町山智浩)それは組合の規定で、関わった人はお弁当の仕出し屋さんまで全部名前を出すってことになったんですよ。

(赤江珠緒)それはそれで、また大変ですね。

(町山智浩)スターウォーズのころから。だから、スターウォーズは延々とちっちゃい字でもってバーッ!って名前が流れていくんですよ。

(山里亮太)あ、そうか。あの曲が流れて、ずーっと。

(町山智浩)そうそうそう。でも、それまでっていうのは、主要な人以外は名前なんて出ないです。映画って。日本映画なんかもそうなんですよ。いまって映画が終わった後、ずっと音楽が流れて、ずーっとテロップが流れていきますけど。昔は映画で『完』っていう。『END』って出ると、いきなりカーテン閉まっちゃうんですよ。昔って。

(赤江珠緒)それこそ、『以上です!』みたいなね。

(町山智浩)そう。『以上です!』だったんですよ。僕が子供の頃はそれだったんですよ。映画が終わると、いきなり終わり!カーン!ダーーン・・・って閉まっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)いきなり。エンドロールを見ながら曲がかかって、余韻が・・・っていうのじゃない。

(町山智浩)ぜんぜんなかった!あっという間に終わります。本当に。すごいですよ。だから西部劇とか、ギャング映画とかで、犯人撃ち殺すじゃない。バーン!バタッ!完!(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)潔いですね。

(町山智浩)なんだ、その終わり方!?っていう。昔、そうですよ。結構。えーっ!?みたいな。

<書き起こしおわり>
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