町山智浩 春日太一が語る 東映京都撮影所伝説『あかんやつら』

町山智浩 春日太一が語る 東映京都撮影所伝説『あかんやつら』 たまむすび

町山智浩さんと春日太一さんがTBSラジオ『たまむすび』に出演。赤江珠緒さん、山里亮太さんと『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』に絡めて、様々な東映京都撮影所のエピソードを語っていました。

(赤江珠緒)ここからは日替わりのラジオコラム。毎週火曜日はアメリカ在住の映画評論家町山智浩さんが映画について語ってくださいます『アメリカ流れ者』のコーナーでございますね。今週はですね、町山さん、日本に帰国中ということでスタジオ生出演ですよ。

(赤江珠緒)それでは『アメリカ流れ者』のコーナー。映画評論家の町山智浩さん。今週はスタジオ生出演です。こんにちは!

(町山智浩)こんにちは。よろしくお願いします。

(赤江・山里)よろしくお願いします。

(赤江珠緒)そして今日はスペシャルゲストも一緒にお越しくださっています。はじめまして。春日太一さんです。よろしくお願いいたします。

(春日太一)よろしくお願いします。

(赤江珠緒)春日太一さんはですね、1977年生まれということですから、山ちゃんと・・・

(山里亮太)何月ですか?

(春日太一)9月です。

(山里亮太)わ!同級生です!その落ち着き、どこで手に入れて来たんですか?

(赤江珠緒)本当ですよ!

(町山智浩)博士だから。春日さんはね、博士なんですよ。映画博士です。映画博士っていうと、単に近所の映画に詳しい兄ちゃんを呼ぶんじゃなくて、本当に博士号を取っています。

(春日太一)一応、国会図書館に論文があります。

(赤江珠緒)あ、そうですか。またお声も渋い・・・映画史・時代劇研究家でご著書に『天才 勝新太郎』『時代劇は死なず!』『仁義なき日本沈没』などなど、あるという春日太一さんなんですね。その春日さんが今週、また新たに・・・

(町山智浩)そうなんですよ。今日、お呼びしたのはですね、今週発売になる本でですね。『あかんやつら』。これ、関西弁だと正しい発音は?

(春日太一)『あかん、やつら』ですかね?

(町山智浩)東映っていう映画会社の京都にある撮影所の酷い話とかですね、面白い話とかを集めた、映画史の本なんですけど。それを今度出版されるんで。

(山里亮太)なんで・・・僕と同い年ぐらいなのに、すごい昔のこととかね。まるでその場にいたかのように細かく書かれてましたけど。大変だったんじゃないですか?調べるの。

(春日太一)そうですね。10年かかりましたからね。取材するのに。全部当時の人たちに一人ひとり伺ってまわって。取材するのに7年ぐらいかかって、まとめるのにまた3年ぐらいかかるっていう。

(赤江珠緒)春日さんご自身が、小さい時から時代劇を見るのはお好きだったんですか?

(春日太一)そうですね。小学校3・4年くらいから時代劇は見てました。

(町山智浩)友達いなかったでしょ?

(春日太一)まったくいませんでしたよ。

(赤江珠緒)私も時代劇、好きで。大学時代とかずっと見てましたよ。

(町山智浩)どんなの?

(赤江珠緒)『伝七捕物帳』とか。

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(町山智浩)(笑)。渋い!

(春日太一)渋いですね。中村梅之助。『よよよい』ですね。

(赤江珠緒)伝さん。『よよよい、よよよい、よよよい、よい』です。あと、昔の『大奥』とかね。

(春日太一)岸田今日子がナレーションの。

(町山智浩)『大奥とは・・・』ってやつですね。

(春日太一)すごいな・・・

(山里亮太)僕のこと、見えてます?

(赤江珠緒)山ちゃん、時代劇、はまってませんでした?

(山里亮太)わかんないの。時代劇って。時代劇って大人になったら好きになるのかな?と思いながら生きてるんだけど。

(町山智浩)でも、『必殺』シリーズとか見てませんでした?

(山里亮太)見てないです。

(春日太一)僕らの頃、必殺はもうほぼ終わってるんですよ。

(町山智浩)本当に?

(春日太一)あれ、87年にTVシリーズ終わってますから。

(町山智浩)ええっ、そうなの?つい最近っていうイメージなんだけど。

(春日太一)だからスペシャルになってるんです。僕らの頃って。

(町山智浩)スペシャル!デタラメですけどね。なんかSFになったりとか、タイムスリップしたりしてますよ(笑)。

(春日太一)アヘン戦争に行ったりとか。

(赤江珠緒)レントゲンみたいな映像が出たりね(笑)。

(春日太一)気球に乗ったりとかね。

(町山智浩)スペシャルは時代劇でもなんでもないんですけど(笑)。

(山里亮太)ちょっと見てみたいな。逆に。

(町山智浩)必殺シリーズ、デタラメで面白いですよ。こんなことしていいの?っていうことをやってますけど。あれも東映京都の流れをくむ世界ですよね。

(春日太一)そうですね。

(町山智浩)この間、亡くなりましたね。野上さんが。

(春日太一)野上龍雄さん。脚本家の方が亡くなりました。

(町山智浩)必殺シリーズとかの。

(春日太一)今回の本でも、野上さんに取材させていただいていて。結構いろいろとね。

(町山智浩)巨匠ですよ。野上龍雄さんって。脚本家なんです。

(春日太一)『柳生一族の陰謀』とかね。

(町山智浩)柳生一族の陰謀、僕が子供の頃、流行ったんですけど。見てません?

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(赤江珠緒)再放送、再々放送とかを見てますね。

(町山智浩)『夢じゃ、夢でござるー』ってね。

(山里亮太)赤江さん、目、キラッキラしてるじゃないですか。

(春日太一)すごい!

(赤江珠緒)好きなんですよ。私、時代劇がね。お侍さんが好きなんで。

(町山智浩)柳生一族の陰謀って、とんでもない映画なんですよ。

(山里亮太)あの柳生十兵衛の話ですか?

(町山智浩)そうです。まともな時代劇だと思って見るとひっくり返りますからね(笑)。

(春日太一)『仁義無き戦い』の時代劇版で作ったんですよ。だから、仁義無き戦い・小田原死闘篇みたいな感じで。

(山里亮太)やたらめったら抗争があって人死にまくって。

(春日太一)人死にまくって。いろんな裏切りがあって、わけわかんなくなってて。

(町山智浩)しかも殺陣が普通に地に足がついた殺陣じゃなくて、ポンポン跳びますから。

(赤江珠緒)そうですよ。忍びの者たちですからね。

(山里亮太)なるほどなるほど。

(町山智浩)空、バンバン跳んでますからね。仮面ライダーみたいになってます。

(春日太一)初めてトランポリンを使ったっていう。殺陣で。JACの人たち。

(山里亮太)あ、そうなんだ。そういうのがない、地味目な渋いのが時代劇ってイメージを勝手に思っちゃってたから。

(町山智浩)ああ、もうそんなんじゃないですよ。お祭りみたいな映画です。柳生一族の陰謀は。

(春日太一)時代劇って実は子供から見てたほうが馴染みやすいんですよ。大人になってからっていうよりは。

(山里亮太)食わず嫌いでした!

(春日太一)結構普通に楽しめるの、たくさんありますから。

(山里亮太)だって、そうとうメチャクチャな人たちが作っているっていうのは話で聞いたんですけど。

(町山智浩)この本、『あかんやつら』ってタイトルがね、要するに『ダメなやつ』とか。『ヤバいやつ』とか『いけない人たち』って意味なんですね。で、中はとにかく、いきなり、もう言っていいと思うんですけど、東映の撮影所始まった頃っていうのは、ほとんど映画人なのかヤクザなのか全くわからない状況だったの。

(赤江珠緒)そうなんですね。それ、ちょっと読ませていただいて、ほとんどその、戦後のならず者みたいな人が集まってきたりとか。血なまぐさい事件みたいなのがいろいろあったりね。もう身を張ってスターを守ります!みたいなのとかね。

(山里亮太)登場人物、本当にそういう系の映画みたいですもんね。出てくる人たち。

(町山智浩)そうそうそう。だからね、僕が子供の頃もすでにそうだったんですけど。映画会社ってお風呂があるんですよ。撮影が終わった後、みんなお風呂に入るんですよ。一斉にね。お風呂はほとんどみんな、いろんな模様がついている人たちばっかりなの。

(赤江珠緒)あー、柄入り(笑)。

(町山智浩)柄入り。それが普通ですよ。昔は大工さんとかそういった人たちも、みんなそうだったんですよ。職人さんっていうのは刺青が入っている人が多かったですよ。僕が子供の頃とかはね。だから、職人さんなんですよ。映画の世界って。当時は。

(春日太一)後に東映がヤクザ映画を撮るようになった時に、聞いたんですよ。大部屋の俳優さんとかに、『みんな東映のヤクザ映画出てる人たちって、本物っぽいですよね?』って言ったら、『撮影所はそういうところだからな!』って。

(町山智浩)本物だから(笑)。

(春日太一)『普段からそういうの慣れているから、そういう風に自然となっていくんだよ』って。

(山里亮太)役作りが完璧なんですね。

(春日太一)完璧なんです。元がそういう社会だから。たたずまいがみんな、そうなんですよ。

(町山智浩)だから間違いがなくて。ヤクザは本当はこんなことするかな?しないかな?みたいなことを、迷いがないんですよね。『それはヤクザはしないから!』とか言って。

(山里亮太)『なんで知ってるんだよ?』って聞いたら、『いやいや、普段そうだし・・・』って。

(町山智浩)そうそうそう。そういう話です。だから面白いんですよ。

(山里亮太)リアリティーもすごいんですね。

(町山智浩)この本の中でいきなりですね、書き出しのところが、ガードマン・門番の人の小指がないってところから始まるんですね。この『あかんやつら』は。あとはいきなり、マキノさんっていう日本映画の巨匠っていうか、日本映画の父みたいな人たちとその一族の話が出てきてて。マキノ一族のいま、いちばんの末裔の方がですね・・・

(春日太一)津川雅彦さんがそうですね。

(赤江珠緒)津川雅彦さん!

(山里亮太)津川さんって、映画撮る時、名前変えて・・・

(町山智浩)そう。マキノの名前でやっています。

(春日太一)それは一応、撮る時はマキノ一族の人間がっていうあれでやってるんですよ。

(山里亮太)伝説の一族みたいな。

(町山智浩)伝説の一族。映画一族なんです。マキノ家っていうのは。

(春日太一)その最後の末裔っていうのが津川さんなんです。

(赤江・山里)はあー!

(町山智浩)いきなりヒロポン打ちながら映画作ってますね。これね。

(赤江珠緒)そうそうそう。

(春日太一)一応当時、合法ですからね(笑)。

(町山智浩)普通に薬屋で売ってたんですよ。

(山里亮太)元気が出る栄養ドリンク的な感じで。

(赤江珠緒)差し入れとしてヒロポン、みたいな感じでしたもんね。

(町山智浩)そうそうそう。撮影所の栄養ドリンクだったんです。

(春日太一)看護婦さんが『ヒロポンどうぞ』って言うと、みんなスタッフが並ぶんです。看護婦さんの前に。で、ひとりずつ打っていくんですけどね。そういった時代なんですね。

(町山智浩)とにかくね、東映の映画の撮り方っていうのは乱暴なんですよ。撮影自体が。で、怪我人続出っていうね。すごい世界なんですけど。この中でね、面白いのは集団抗争時代劇っていうのが流行った時があるんですよ。元々、集団抗争時代劇っていうのは、火付け役は黒澤明なんですね。『七人の侍』とか『用心棒』っていうのが。時代劇って昔はチャンバラでチャンチャンバラバラって音がするから『チャンバラ』って言われてたんですけど。音楽もそういうのが流れていて。つまり人を斬っても血が出ないんですよ。昔の時代劇って。

(赤江珠緒)はあ。

(町山智浩)だからいまもテレビの時代劇はそうじゃないですか。斬られると、『うっ!』って言って倒れるだけで。ところが黒澤明から、斬ると『ブヒュッ!』って音がして、『ブシューッ!』って血が出るっていうのを始めたんですよ。骨を斬る音とかが『グッ!』っとか入ってるんですね。それが流行ったんですよ。当たったんで、それを東映が真似しだすんですね。

(春日太一)そうですね。『もっと残酷にやれないか?』みたいな感じで。

(町山智浩)そしたらね、デタラメになっていくんですよ。やりすぎて。で、本当にカメラも一緒に大乱闘の中に入って、グッチャングッチャンになって。カメラの人、転んでるんですよ。で、それがすごかったのは工藤栄一っていう監督が当時撮った一連の集団抗争時代劇シリーズっていうのがあるんですけども。最初は『十三人の刺客』。で、その次に『大殺陣』っていう映画を撮るんですね。そのことはこの春日さんの本の中に書いてあるんですけど、それがすごいんですね。

(春日太一)これがすごくて。当時、高度経済成長の真っ只中の頃だったんですけど、その時にあるドブ川でみんなで乱闘するチャンバラのロケやったんですよ。ブワーッ!ってやってたら、水がたってきますよね。その水が口に入ってくる。泥水が。で、高度経済成長真っ最中なので、生活排水とかヘドロの凄まじいところで。みんな撮影しながらお腹を下してくっていう。で、腹痛くて。それで里見浩太朗さん含め、みんなおかしくなっちゃって。グチャグチャになって。

(赤江珠緒)長七郎さまが。

(春日太一)ヘドロまみれになるんですけど。ロケ先に宿泊もなにもないんで。京都に戻るんですよ。(ロケ地の)滋賀から。戻ってくるとみんな泥まみれで青ざめきったやつらが降りてくるんで、なんの撮影が行われてるんだ?みたいなことが絶えずあって。一人ひとり、役者が倒れていくっていう。

(山里亮太)ゾンビ映画みたいになっちゃって。

(春日太一)ゾンビ映画。本当、そうなんですよ。

(町山智浩)しかも、いわゆる殺陣をつけてないんですよ。ほとんど。とにかく刀を持たせて、そこで全部斬り合いをしろ!って言って。なんでもいいから思いっきりやれ!って言ってカメラもそこに入って。カメラ割りとかちゃんとやってないんですよ。

(赤江珠緒)じゃあアドリブで、もう・・・

(町山智浩)そう。だからどうなっているか?っていうと、カメラの人、いきなりコケてますから(笑)。カメラ持ったまんま泥の中に。

(山里亮太)段取りがあって、ここに行ったらこのアングルが撮れるとか、そういうのはない。

(町山智浩)そういうのじゃないんですよ。

(春日太一)殺陣師の人が後ろから、『行けー!』とか『殺せー!』とか叫んでる。『この野郎!行けー!』とか。

(町山智浩)とにかく撮ってみよう!みたいなね(笑)。デタラメ。

(春日太一)向こうの殺陣師の方もすごい怖いんで。後ろから来られると逃げられないんですよ。で、ウワーッ!ってやるその迫力が画面に現れている。

(町山智浩)レンズが泥だらけになってますから。だって時代劇なのに、レンズがあるってことがよくわかるんですよ。その映画見ると。

(山里亮太)そうか。はねた泥がね、ついているから。

(町山智浩)そう。レンズってものはその時代にはないだろう?って。あと1人倒れている人の、パンツが見えているシーンもありますね。パンツ、ないですからね。でもイケイケだから全部アリなんですよ。

(春日太一)面白ければそれでいいっていう。

(町山智浩)これ、いま撮れないですよ。怪我したらどうするんだ?って思いますよ。まあ、してるんですけどね。実際。昔はなんでもアリだったんで。

(春日太一)なんでもアリです。面白いもの撮るんだったら、みんな命がけでやるぞ!みたいな。それが当然だっていう。

(赤江珠緒)しかも、途中すごく大量生産しなきゃいけない時期もあって。週に何本・・・

(春日太一)年間100本ですから、多い時は。週に2本になりますね。だからTVドラマよりもすごいペースで撮っているんですよね。

(町山智浩)だからTVがなかった時代っていうのは映画館で毎週毎週新しいシリーズを見れるっていう状態だった時があるんです。

(赤江珠緒)そんなスピードで出していかなきゃいけないんですね。

(春日太一)しかも、2本立てでしたからね。それで酷い時は年間100本っていうので。しかも時代劇ですから。全部。だから、ものすごい大変でしたよ。

(赤江珠緒)ですよね。余分なもの撮っちゃいけないし。

(春日太一)撮影所の空が、夜になると赤く染まったっていうね。夜中までライトをずーっと照らしてやってて。当時、真っ暗じゃないですか。時代が。だからそこだけ明るいんで。ライトで撮影所の上だけ真っ赤になってるっていう。そういう状態だったらしいです。

(町山智浩)『仁義無き戦い』シリーズとか、見てました?

(山里亮太)はい。見ました。

(町山智浩)あれって、いまDVDとかでいっぺんに見れますけど、当時驚いたのは1本目と2本目の間って、全然時間がないんですよ。何ヶ月ぐらいでしたっけ?あれ。

(春日太一)2ヶ月か3ヶ月です。

(赤江・山里)ええっ!?

(山里亮太)だいたいシリーズものって1年とか・・・

(町山智浩)1年とか2年、間があくでしょ?いま、だいたい1本の映画撮るのに、企画から完成まで4年とかかかったりするんですよ。早くても2年とかね。でもその当時、1本目が大当たりしたんです。仁義無き戦いって。すぐにその何ヶ月か後に続編公開してるんですよ。

(春日太一)というのも、仁義無き戦いは試写で見た人がみんな面白い!って言ってるんで、『よし!続編行け!』ですよ。もう。

(赤江珠緒)あ、もう試写で。

(春日太一)『どうする?どうする?』みたいな。『ネタがないぞ、そんなに』って話で。それでみんな慌てるみたいな。だからその年、73年のベストテン興行収入は仁義無き戦い、4本入ってるんですよ。だからその年、4本撮られたんですね。

(町山智浩)3ヶ月に1本ずつ撮ってるんですよ。映画を(笑)。

(山里亮太)ひょんなことから見る機会あって、一気に何本か見たんですよ。そんな劣化してるようなイメージもないし、全然面白かったですけどね。

(町山智浩)ものすごいですよ。あのシリーズは。特に2本目(広島死闘篇)なんて、わずか2ヶ月ぐらいしか準備期間ないのに大傑作なんですよ。千葉真一さんが、本当に超下品で全く放送出来ないようなセリフを最初から最後まで言い続けるという。本っ当に言えないですから。いま言ったら大変な事態になるセリフを。昔はテレビで放送したんですけどね。あれを。ビックリしますよ(笑)。

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(春日太一)そうなんです。テレビ、やってましたからね。

(町山智浩)あれ、放送していいの?っていう。

(春日太一)中学ぐらいの時にゴールデン洋画劇場かなんかでやってて。見たんですよね。

(町山智浩)とにかく映画史上最低のセリフを千葉真一さんがしゃべるのが、仁義無き戦いの広島死闘篇なんです。

(赤江珠緒)改めて見よう。

(町山智浩)あと、この本の中で面白いのは、そういう状況でヤクザ映画を撮っているから、俳優とか出演者とかが自分とヤクザの区別がつかなくなっていくっていう(笑)。

(赤江珠緒)そういうもんですか!?

(町山智浩)で、若山富三郎さんが面白いんですよ。

(春日太一)特に若山富三郎さん、勝(新太郎)さんのお兄さんですけど。親分肌が元々強いせいもあって、『極道』っていうシリーズを始めるんですよ。そしたらその子分たちを本当に自分の子分だって勘違いしだすというか。山城新伍さんが番頭役で菅原文太さんとか、渡瀬恒彦さんとか八名信夫さんとかみんないるんですけど。みんな劇で使っている同じ制服を着て、普段からその格好で歩いて。『若山組』っていうかたちを名乗って。勝手に看板まで作っちゃって。

(山里亮太)ええっ!?

(町山智浩)勘違いしちゃって。俳優だってことを忘れちゃったんですよ。

(山里亮太)極道で、ちょっと役者もやっているっていう。

(春日太一)それぐらい。もうその区別もないですね。だから『よーい、スタート』って言われても、そのまま行くっていう。

(山里亮太)本人はドキュメント撮っているような感じで。

(春日太一)そうそう。で、大変なことになっちゃったっていう。

(町山智浩)ケンカしだしたら本当に抗争が始まっちゃうんですよ。俳優同士で。

(春日太一)もう1人、当時スターで鶴田浩二って人がいて。この人も結構役に入っちゃうと、見境なくなっちゃう人で。ある時、劇の中で八名信夫さんが若山さんから鶴田さんに裏切るっていう設定があったら・・・

(町山智浩)ストーリーの中で裏切るんですよ。

(春日太一)そしたらね、若山さんがキレちゃったんですよ。『八名、許さねえ!』みたいなこと言って。

(町山智浩)『裏切りやがって!』っつって。

(春日太一)で、八名さんをぶん殴っちゃうんですよ。そしたら鶴田さんは鶴田さんで、『俺の子分になんてことしやがるんだ!』という。鶴田さんも入り込んじゃったから、自分の子分がやられた気になっちゃって、お互い、若山組対鶴田組が撮影所の中で抗争になっちゃうっていう。

(赤江・山里)(笑)

(山里亮太)『台本じゃないですか』みたいなツッコミをするスペースもないわけですよね。

(春日太一)言う人もいたと思うんですけど、言ったら『なにをーっ!』ってボコボコにされたと思うんですよ。

(町山智浩)『映画ですから』って言ったら、『なに言ってんだ!』って感じで。

(春日太一)『俺の子分がやられた時にそんなこと言ってられるか!?』みたいなこと言うような。

(山里亮太)町山さん、それこそ『地獄でなぜ悪い』の、あの感じ。

(町山智浩)そう!だからあの『地獄でなぜ悪い』って園子温監督の映画は、みんな馬鹿馬鹿しいと思うかもしんないけど、ほとんど事実だから!って言ったじゃないですか。本当にそうなんです。映画って。

[参考リンク]町山智浩映画解説 園子温監督『地獄でなぜ悪い』

(赤江珠緒)映画のベースは。

(山里亮太)本当にそう。コメディーだと思って見てましたからね。

(町山智浩)ああいう人たちなんですよ。

(春日太一)みんな親分肌が強いから、それでモメるっていうね。

(山里亮太)丹波哲郎さんが飲酒検問かなんかの時に、警察に『ちょっと外出てもらえますか?』って言われて、『安心しろ。俺はGメンだ』って言ったって話、あるじゃないですか。

(町山智浩)それ、本当ですか?

(春日太一)丹波さん、半分冗談だったらしいですけどね。丹波さんもメチャクチャな人ですからね。

(町山智浩)丹波さんはメチャクチャですよ。僕、亡くなる直前に一緒に飲んだことがあって。とにかく片っ端から会った人に、『んー・・・僕は君とSEXしたっけ?』って言うんですよ。

(赤江珠緒)片っ端から!?

(町山智浩)片っ端から言うんですよ。とりあえず。それはね、『してたとして、忘れていたら失礼だからとりあえず聞いておく』って言ってましたよ。礼儀として。

(赤江珠緒)いやいやいや(笑)。

(春日太一)その丹波さんも京都でちょっと・・・本には書いてないですけど、ちょっと酷い目にあったことがあって。最初来た時、ハッタリかまそうと思って、『俺は普段東京で真剣で殺陣やってるからね。京都は竹光でやってるから、そんな大したことはないよ!』とか言うわけですよ。で、ふっかけたら『丹波さん、本当なんですか?』って東映の人たちがカチンと来て。ニコニコしながら『わかりました。じゃあそういう風に準備します』って。相手役の人が薙刀の名人と戦うんですけど、本物の薙刀持ってきてグルグル振り回して。丹波さん、さすがにビビっちゃって、『うわーっ!』って。

(町山智浩)映画の撮影所ってね、ケンカが強いとか言ってる人が入ると、まずそれをシメるところから始まりますから。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)だいたい殺陣師の人たちって、本物の人たちだから。時代がこういう時代だから殺陣師やってるけど、昔だったら剣豪やっている人たちだから。

(春日太一)あと、殺陣の勉強するために実際に護身術とか空手とか剣術、全部学んでるから無茶苦茶強いんですよ。

(町山智浩)で、チンピラとかの人が入るじゃないですか。前、暴走族やってたとか、番長やっていた人。まずそいつらを徹底的にシメるところから映画の撮影が始まるんですよ。

(赤江・山里)うわーっ!

(春日太一)だから僕も取材で行って、殺陣師の人と飲んだりするんですけど、もう狂ったように飲まされますからね。グイグイグイグイ飲んで。八海山半分ぐらい一気で飲まされて。

(町山智浩)そういった映画関係者の中で、本当に怖い人たちばっかり。その中で最強と恐れられてる人って、誰だと思います?俳優さん。

(赤江珠緒)えっ?誰?

(山里亮太)それこそさっき言った、勝新さんとか?

(町山智浩)渡瀬さんなんです。渡瀬恒彦さん。

(赤江珠緒)ええっ!?

(山里亮太)そんなイメージないですけどね。

(町山智浩)渡瀬恒彦最強伝説っていうのがあるんですよ。映画界に。

(春日太一)命知らずの人なんですよ。とにかくなんでもやるっていう。当時は。

(町山智浩)アクションシーン、一切スタント使わないんですよ。

(春日太一)バスジャックの映画があるんですけど。『狂った野獣』っていう。その時はバス乗るところにオートバイで並走していって、オートバイの後部座席から、お互い走っているバスの窓に乗り移るんです。

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(町山智浩)オートバイからバスに乗り移るっていうのを本人がやっている。それもすごいスピード出して。

(山里亮太)ええっ!?

(春日太一)バスの窓からバスの中に入るまでをワンカットでやるんです。で、さらにそのバスを自ら運転して、横転までするんです。

(町山智浩)そう。そのバスでもってパトカーを何十台も轢き潰した後、バスがクラッシュするんですよ。それ、ずーっと渡瀬さんが運転席にいるのがよく見えるんです。

(赤江珠緒)何者?渡瀬さん。

(町山智浩)だからどうかしている人なんです。

(春日太一)当時の監督さんは『渡瀬さん、スターなんだから、あんまりそんなことやっちゃダメだよ』って言ったら、『俺にはこれしかないんだよ』って言って。当時、まだ演技力に自信がなかった頃なんで。

(町山智浩)とにかく俺は体を張ればいいんだって思ってたんですよ。

(春日太一)だから開いた車のドアにずっとぶら下がったまま猛スピードで走ったりとか。そういうのをひたすらやってたんですよ。

(赤江珠緒)えっ?だっていま、タクシードライバーの事件簿みたいな、やってますよね。

(町山智浩)当時は『マッドドッグ』って言われてたんですよ。本当に言われてたんです。

(春日太一)『狂犬』って言われてたんですよ。

(町山智浩)言わなくていいですけど(笑)。そういう人だったんですよ。

(山里亮太)そんな人ばっかりで映画作ってた時代ってことですね。

(町山智浩)本当、怖かったみたいですよ。バスがひっくり返えるところって、川谷拓三さんも乗ってらっしゃるんですよ。でも川谷拓三さん、映ってないんですけど、リアリティーのために乗ってるんですよ。死ぬかもしれないのに(笑)。

(春日太一)そう。で、本当に危なかったらしいです。みんな青ざめて、悲鳴あげてたって。ケンカの強い人たちが。『渡瀬さんだけには敵わない』って。

(赤江珠緒)本当に『地獄でなぜ悪い』じゃないけど、みんな命がけで撮るっていうのは。

(町山智浩)要するにあの映画の中で『死んでもいい』って気持ちでやるじゃないですか。渡瀬さんとか完全に、ちょっと間違ってたら死んでた人です。いま歩いているの、ちょっとおかしい感じ。

(春日太一)殺陣も上手いからね、それもあるんですよ。殺陣も上手いから、千葉真一さんとやっても、千葉さんが勝ちそうに見えないっていうので、どうやってるか?と。構えると隙がないんですよ。居合の名手だから。

(町山智浩)映画界でね、本当に怖い人で。若山さんもすごいんですよ。殺陣はすごいんですよ。あの人も本当に人を斬れる技術を持っている人なんですよ。それと、近衛十四郎さん。

(春日太一)松方弘樹さんのお父さん。

(町山智浩)松方弘樹さんのお父さんっていうのは本当に剣豪だった人なんですよ。居合とかものすごいんですよ。

(山里亮太)そっか。じゃあ昔の、その時代の映画のシリーズを見ると、いまと違って殺陣のシーン、チャンバラのシーンってメチャクチャリアルで見てるってことですね。

(町山智浩)あの人たち、生まれるのが100年ズレてたら、もう人斬りだった人たちですね。本当に。

(山里亮太)緒形拳さんも?

(町山智浩)緒形拳さん、すごいんですよ。アクション。結構渋い、演技派俳優って思っている人多いけど。緒形拳さんってアクション俳優ですよ。

(春日太一)元々、新国劇っていう時代劇専門の劇団で育った人ですから。

(町山智浩)あの人、ものすごいですよ。殺陣とか。あとジャンプとか、すごい高いところからボンボン飛び降りてますよ。

(春日太一)結構あの人も命知らずな。

(町山智浩)あの人も危ない人で。本当に撮影が危険な人なんですよ。

(春日太一)入っちゃうとね、見えなくなっちゃう。

(町山智浩)そういう人たちばっかりやっているから。犯罪をやっているのか、映画をやっているのか、よくわからない世界ですね。

(赤江珠緒)(笑)

(春日太一)だから命がけの感じが画面に出てるんでね。すごい迫力になっている。

(赤江珠緒)鬼気迫るものがありますね。

(町山智浩)とにかく面白いですけど。あと、監督とかも変な人が多いんですよ。五社英雄監督って・・・

(山里亮太)あの、『吉原炎上』の?

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(春日太一)そうですね。吉原炎上の。

(町山智浩)あの人、元々フジテレビの演出家だったんですよね。

(山里亮太)テレビ局の人だったんだ。

(春日太一)そうです。部長までいった。

(町山智浩)それが、映画に取り憑かれて。途中から映画の世界に入っていって、だんだんどうかしていったんですよ(笑)。

(山里亮太)どうかさせるなにかが、撮影所にはあったと。

(町山智浩)映画見るとわかるけど、五社英雄さんってとにかくなんでも爆破したり火つけたりするじゃないですか。

(山里亮太)『炎上』っていうぐらい。

(町山智浩)炎上大好き男ですから!

(赤江珠緒)『鬼龍院花子の生涯』も。

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(春日太一)キレイに撮れたら、最後なぜか刺青入れちゃいましたからね。最後。

(町山智浩)あの人、全身刺青入ってるんです。

(赤江珠緒)監督が入れる?意味が・・・

(町山智浩)映画で命をかけるために。

(春日太一)俺はこれからフジテレビじゃなくて映画に行くぞ!っていう。覚悟を決めたわけですね。だからみんなあの撮影所にいると、おかしなテンションになっていって。で、僕もおかしなテンションになりながら。そういう人たちにふれていくと、おかしくなって書いちゃったっていう感じで(笑)。

(町山智浩)CGとかないんでね。

(春日太一)実際にセットを燃やしながらやりましたからね。

(赤江珠緒)本当に濃い、太秦の京都の撮影所の歴史が満載のこちら、『あかんやつら』ですけども。春日太一さんの新刊本をいま、たまむすびをお聞きの5名様にプレゼントされていただきます。

<書き起こしおわり>

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