町山智浩 海外ドラマ『ブレイキング・バッド』を語る

町山智浩ドラマ解説 化学教師が覚醒剤密造『ブレイキング・バッド』 たまむすび

映画評論家の町山智浩がTBSラジオ『赤江珠緒たまむすび』で、真面目な高校の科学教師が覚醒剤密造に手を染める大人気ドラマ『ブレイキング・バッド』を紹介していました。

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(赤江珠緒)で、今日はその、あまちゃんくらいアメリカで国民的人気のドラマの話ですよね?

(町山智浩)あ、そうそう。だから番組改編期なんで、9月の終わりにいっぱいいろんなドラマが最終回になるんですね。日本と同じで。日本でも半沢(直樹)とか、次々と最終回になって。すごい視聴率を出しましたけど。

(赤江・山里)はい。

(町山)アメリカでもね、ずっとやっていたドラマが一昨日、日曜日に最終回になりまして。で、1千万人以上が見たっていうね、すごい人気になったドラマを今日紹介します。『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』っていうタイトルなんですよ。

(山里亮太)ブレイキング・バッド。はい。

(町山)ブレイキング・バッドっていうんですけど、これね、スラングでね、『道を踏み外す』『悪いことをしちゃう』っていう意味らしいんですね。でね、これね、エミー賞っていう賞があって。アメリカのテレビ局が各局全部で共同してテレビ局関係者で投票して決める賞があるんですよ。

(赤江・山里)ええ。

(町山)こういうの、日本ってないですね。

(赤江)そうですね。

(町山)各局が全員で協力して何か賞やるって日本ではないですけど、アメリカでは伝統的にあって。それでドラマ部門でこの間、つまり今年の最優秀作品賞を取ったのがこのブレイキング・バッドなんですね。

(赤江・山里)ふーん。

(町山)これね、どういう話かっていうと、すごく真面目な高校の先生が覚醒剤の密造をするっていう話なんですよ。もうそれだけで日本でテレビ放送できねーだろ?って感じなんですけど(笑)。

(赤江)たしかに。

(山里)これが連続ドラマでやってたんですか?

(町山)連続ドラマでずっとやってたんですよ。これね、ニューメキシコっていうちょっと田舎の砂漠の方があってですね。そこのアルバカーキっていう街に住んでいる高校教師が50歳になるんですけども。主人公、ウォルト・ホワイトっていう人なんですけど。『末期ガンです』って宣告されちゃうんです。医者から。ところが、アメリカの公立学校の先生ってものすごく給料が安いんですね。

(山里)はあ。

(町山)だからお金が全然ないんです。50歳になっても。しかも息子さんは脳性麻痺ですごい重い生涯があって。頭はいいんだけど、体が動かないから職業が限定されるんですね。だからやっぱりいい大学に入れてあげたいわけですよ。でもアメリカって1人の子供を生まれてから大学に入れるまでにかかる食費とか生活費とか学費とかの全部の合計が2000万円ぐらいになっちゃってるんですよ。アメリカって今。

(赤江)かかりますねー!

(町山)異常に学費が高くなっちゃってるんですね。で、学費が高くなっている理由っていうのは、各地方自治体が完全に財政が破綻してるんで、お金が入ってこないからなんですよ。大学とかに。で、学費をどんどん値上げしてるんですけども。だから、まず息子の学費が払えないと。息子にはいい大学に入れてあげたいのにと。しかも、奥さんが妊娠しちゃって。この歳で。で、子供2人で4000万円なわけですよ。コストが全部で。

(赤江)うん。

(町山)で、貯金が全然ないと。どうしよう?ってことで、『あっ、俺は化学の先生だ』と。で、いつも生徒に、子供たちは化学なんかに興味が無いわけですね。『化学っていうのは世の中のいろんな仕組みがわかるぞ。役に立つぞ!』って言っても、生徒たちから『なんの役にも立たないよ』って言われてるんですよ。バカにされてるから、化学は役に立つところを見せてやろう!ってことで、覚醒剤の密造を始めるんですね。

(赤江)そっち行っちゃうの?そっち方向に?

追い詰められた化学教師が覚醒剤を密造・販売

(町山)(笑)。そっち方向に行くんですよ。で、覚醒剤っていうのはメタンフェタミンっていう物質なんですけど、これはエフェドリンっていう鼻炎カプセルとか風邪薬に入っている物質から抽出できるんですね。精製して。で、アメリカでは貧しいシングルマザ-とかがお金目当てで風邪薬とかをいっぱい買って、それを煮沸してですね、覚醒剤を精製してるんですね。アメリカでは。各地で。

(山里)へー!

(町山)それは質がすっごく悪いんですよ。ところがこのウォルトさんは化学の先生だから、抜群の覚醒剤を作ることができるんですね(笑)。

(赤江)何に腕を使ってるんだ?ってことですけど(笑)。

(町山)そうそうそう。で、フラフラしている高校の卒業生をつかまえてですね、お前ちょっと俺と働けって言ってですね、2人で覚醒剤の密造を始めるんですけども。で、すごいいいものができるんですが、そうなると地元でその覚醒剤を売っているヤクザグループから目をつけられるわけですよ。

(山里)まあ、そうか。はい。

(町山)『俺たちの仲間に入れ』とかね。『入らなければ商売敵だから殺すぞ』って言われて。で、それが最初はチンピラみたいなグループだったのが、どんどん巨大なグループが。最終的にはですね、国際的なメキシコの麻薬ギャングまでが入ってくる。で、戦争になっていくんですね。

(赤江)ふん。

(町山)彼自身はちょこっとお金を稼いで子供たちに残して、ガンだから死んじゃうって思ってたんですけども。そうなる前に、もう巨大な、国際的な麻薬戦争に巻き込まれていくんですよ。っていう話が、このブレイキング・バッドなんですね。

(赤江)ええーっ!?また、あまちゃんとかと全然違う・・・

(町山)あまちゃんみたいな・・・(笑)。『シャブちゃん』みたいな話で(笑)。

(山里)(笑)。全然違いますよ!

(赤江)これ、大ヒット!?

(町山)これ、アメリカで大ヒットしたんですよ。これが大ヒットした理由っていうのは、まずやっぱりアメリカって稼ぎ手が病気になっちゃうと、それだけで一家が路頭に迷うっていう状況があるんですね。

(山里)ふーん。

(町山)ひとつは今、オバマケアっていうのをやってますけど、国民健康保険がないから、ものすごい負担になっちゃうんですね。ガンとかになると。化学療法とか。で、一家が破産してしまうというのと、稼ぎ手が死んじゃう。で、奥さんがシングルマザーになるっていうのが、ひとつの家族が貧困層に転落する最大の理由なんですよ。稼ぎ手が病気もしくは死んでしまうっていうのが。

(赤江)受け皿がないんですね。

(町山)そうなんです。別にね、『ウィード(Weeds)』っていうドラマもあってそれも人気なんですけど、それは本当に旦那が死んじゃって、奥さんが路頭に迷って。未亡人が。それでマリファナの栽培を始めるっていうドラマも人気だったんですよ。アメリカでは。

(赤江・山里)へえー!

(町山)これがリアルなのは、いつ自分がそうなるかどうか、わからないんですよ。あなた病気だよって言われたら、もう一家どうなるかわからない。子供大学に入れられるかどうか、全然わからないと。で、普通に働いてても、学校の先生とかそういった年収500万前後だと、子供を一流大学に入れることはほとんど不可能になってるんですよ。アメリカは。

(赤江)あ、そんなになんですね。

(町山)大変な事態なんですね。それは要するに、地方自治体が本当に崩壊してるからなんですけども。だからこのドラマ、ただとんでもないドラマっていうよりは、すごくリアルな、自分たちにも起こるかもしれないものとして視聴率が上がっていったらしいんですよ。

(山里)そうか。最初設定聞いた時はね、そんな・・・コメディじゃないけど、ぶっ飛んだ設定の話かな?と思ったら、意外とリアルな・・・

(町山)とんでもなくないんですよ。あとやっぱりね、アメリカって麻薬っていうとヘロインとかコカインやってるっていう風にみんな思ってるんですけども。日本の人はね。いま、覚醒剤がすごく蔓延してるんですよ。アメリカ。

(山里)へー!

(町山)で、これもね、ひとつの理由があって。覚醒剤をやる人たちっていうのは、ふざけた人たちじゃないんですよ。

(赤江)ど、どういうことですか?

アメリカで覚醒剤が蔓延する理由

(町山)チャラチャラしてないんですよ。ほとんどがね、一生懸命働いてるんだけども、2つ以上の仕事を持っていないと生活できない人たちなんです。やっている人たちの多くは。だから昼間働いて夜、学校に行くとか、昼間働いて夜もウェイトレスやるとか。そういうことをやっている人たちは、もう眠くなっちゃうから覚醒剤をやるんですよ。

(赤江)うわぁ・・・

(町山)だから貧しければ貧しいほど、そういう世界に入ってくんですよ。だからすごく残酷な事態なんですよね。すごく多くやっている人はトラック運転手の人で、夜中じゅう走らなきゃなんないとか、あとシングルマザーの人も多いんですよ。実際に。2つ仕事を持って、昼間と夜で違うウェイトレスの仕事をしてるとか。そういう人が起きるためにがんばって覚醒剤をやっているとか。

(赤江)いやー、ちょっと社会としてはかなり不健全な状態なんですね。

(町山)相当不健全ですよ。アメリカは。だって大手スーパーとかで働いても、フルタイムで働いても年収200万切っちゃうんだもん。そういう状況ですから。だからまあ、こういうものが必要になってくるんですね。だからね、あらゆる意味で非常にリアルなアメリカを映してるんですけども。

(赤江・山里)うんうん。

(町山)ただね、それだけだとドラマがね、人気にならないんですよね。この化学の先生、ウォルトっていう人はすごい化学の能力を持っていて。昔、実はあるひとつの発明をしてノーベル化学賞を取るところだったのを、発明を盗まれちゃうんですよ。友達に。そのぐらい優秀な人だったのに、転落して中学の先生を貧しくやってたんで。そこで化学の力を爆発させて次々と自分に立ち向かってくる犯罪組織のヤツらをやっつけていくんですよ。

(山里)うわー、それ面白そう!

(赤江)あー、そこは痛快ですね。その知識で。

(町山)そうなんですよ。たとえば、『お前、俺のために覚醒剤を作るんだ!』とか言われて、作ってみせるんですけど、実は覚醒剤じゃなくて別の有毒ガスを作ってて。それで自分だけガスマスクをつけて、その有毒ガスで麻薬のボスをやっつけちゃったりするんです。

(山里)あ、あー、面白い!

(町山)あと、要するに覚醒剤っていうのは結晶になってるんですね。氷砂糖みたいになってるんですよ。で、それを作ったと見せかけておいて、それをよこせ!って言われて、『あ、これ実は覚醒剤じゃないんだよ』っていうんですね。『これは雷酸水銀なんだ』って言うんですね。雷酸水銀っていう物質があるんですよ。これは、ショックを与えると大爆発するんです。で、相手が覚醒剤だと思っていたら、それをバーン!と天井にぶつけて大爆発とかね。

(赤江)へー!

(山里)かっこいいな!

(町山)かっこいいんですよ。化学の技術を駆使してですね、犯罪組織と戦っていくんですけど。問題はその相手を殺しちゃうわけですから、今度死体の始末をしなきゃいけなくなるんですよ。で、今度は化学の知識ってことで、酸でですね、死体をお風呂場に入れて酸で溶かしたりするんですけど。

(赤江)ええーっ!?化学、フル活用じゃないですか!

(町山)フル活用なんですよ。化学って役に立つなあ!っていう、勉強になるテレビなんですけど(笑)。子供に見せられないんですけど。酸でお風呂に死体いれて溶かしてたらね、酸が効きすぎてお風呂の湯船が溶けてですね、下の床も溶けて天井からドロドロに溶けた死体が降ってきたりするんですけど。

(山里)うわっ!なに、そのジョーク。

(町山)そう、無茶苦茶な。だから『冷たい熱帯魚』とか『凶悪』系のテレビなんですね。でね、これは大人気なんですよ。アメリカでは。やっぱり面白いんですね。すごく。

(赤江)そうなんですね。

(山里)シリーズもので結構なシリーズ、いってるんですもんね。

(町山)ずっと続いて、今度第6シーズンで終わったんですけども。もうひとつ、問題が起こってきていて。自分の奥さんの妹の旦那さん、だから自分の義理の兄になるのか?ホワイトさんの義理の兄はDEAの職員なんですよ。

(赤江)DEA?

(町山)DEAっていうのは『連邦麻薬取締局』なんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山)そうなんですよ。だから毎日、家に来て飯食ったりしている義理のお兄さんが自分を追っかけだすんですね。ただ、彼は全然わかんないんですよ。『どうもこの地帯にすごい覚醒剤の王様がいるんだ。そいつはハイゼンベルクって呼ばれてるんだ』と。ハイゼンベルクっていう名前を名乗ってるんですよ。彼は。自分の本名を名乗れないから。『その麻薬王がいる。そいつを捕まえるのが俺の指名なんだ!』って目の前にいてご飯食べてるんですよ。

(山里)(笑)

(町山)っていう話なんですよ。これね、いろんなサスペンスがどんどん次から次に出てきてね、もう本当面白いんですけどね。

(山里)止まらなくなるパターンだ。1回見たら。

(町山)そうなんですよ。ただ彼は家族のために一生懸命やってはいるんだけど、やってること自体はいろんな人を苦しめる、覚醒剤を作っていることなんですよね。しかもそれを売る過程で、いろんな殺人も犯していると。どんどんどんどん罪が重なっていくんですよ。ただの高校教師だった彼に。で、最終回では一体、たくさん彼の上に積もった罪をどう贖うのか?っていうのが、全米の注目の的だったんですね。

(赤江・山里)はー!

(町山)それでみんな、どうするんだろう?どう決着をつけるんだろう?ってことでもって、最終回を見ようとしたんですよ。だからすごい視聴率になったんですね。

(山里)なるほど!気になる!

(町山)彼自身は悪い人じゃなくて、もうそこらにいる普通の人なんですよ。いつも怖がっているし。怖いことやりながら。で、なんか人が死ぬ度に本当に悲しむんですけども、そのへんでどんどんどんどん感情移入していくんで。視聴者たちが。これ、よく出来ててね。あとね、自分の麻薬の名前とか、自分のボスとしての名前をハイゼンベルクっていうんですけど。

(赤江・山里)はい。

「ハイゼンベルク」の意味

(町山)ハイゼンベルクっていうのは不確定性理論っていうのを提唱した化学者なんですよね。これはね、ミクロの世界においてものを見ようとした時に、ものを見るっていうのは実は光というビームを当てて、それが反射して目に入ってくるもので見るんですよね。ところがミクロのものに光を当てると、それだけで当たったものに影響を与えちゃうわけですよ。だから、ミクロのものを観察する時には、純粋に観察することなんか出来ないんだっていうのが、その不確定性理論なんですよ。

(赤江・山里)ふん。

(町山)難しいけどそういう話があるんですね。ただ観察することはできないんだと。まさにこの主人公は最初、チャラチャラとした気持ちで、俺は化学の力があるから覚醒剤を売ればいいんだって思ったんだけども、やっぱりただそれだけじゃ済まなかったんですね。どんどんどんどん悪の道に引きずりこまれていって、どうしようもなくなっていくっていうのがね、ハイゼンベルクっていう名前に象徴されているんですよ。

(赤江・山里)はー!

(町山)やっぱりこうしなければ生きていけないアメリカっていうのも描いているから、みんな彼を責められないっていうですね。見てる人も。今ね、だってアメリカって政府、ストップするんですよ。アメリカ政府。

(山里)あ、なんか今日ニュースでやってたな・・・

(町山)そう。だってみんなに健康保険、医療保険を与えるのはイヤだ!って言って共和党は政府をストップさせる!って言ってストップさせちゃうんですよ。貧しい人なんかに税金から与えるのは許せん!ってことなんですよね。

(赤江)そうなんですよね。自分たちのことは自分たちで・・・みたいな考え方ですもんね。

(町山)考え方なんですよ。もうね、だからこれは本当アメリカならではのドラマだなと思いますね。

(赤江)本当ですね。ちなみに日本ではケーブルテレビ、DVDで見ることができると。DVDはシーズン2まで出ているそうでございますね。

(町山)あまちゃんとだいぶ違いました。すいませんでした。

(山里)真逆でしたね!すごいタイトル、つけてました。

(赤江)ということで今日は、アメリカで大人気のドラマシリーズ、ブレイキング・バッドをご紹介いただきました。アメリカ流れ者 町山智浩さんでした。町山さん、ありがとうございました。

(山里)ありがとうございました。

(町山)どもでした!

<書き起こしおわり>

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Posted with Amakuri
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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