町山智浩『2分の1の魔法』を語る

町山智浩『2分の1の魔法』を語る 町山智浩のアメリカのいまを知るTV

(町山智浩)これね、監督で脚本を書いたダン・スキャンロンさんという人がインタビューで答えてるんですけど。彼のお父さんが実際に1歳の時に亡くなって、彼はお父さんがどんな人なのかわからないから、その写真とかカセットテープの声とかで頭の中で自分のお父さんを作っていったんですって。そのことを物語にしたものがこの『2分の1の魔法』なんですね。はい。で、これがね、ピクサーのいつものやり方なんですよ。

(山里亮太)やり方?

(町山智浩)ピクサーっていうのは全世界で大ヒットする、もうメガヒットの……中国から日本から、それこそ中東諸国、アフリカまでヒットするアニメを作り続けてるんですけど。かならず作り手の個人的な問題をドラマにしていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、ちゃんと実体験が反映されているんですね。

作り手の個人的な問題を描くピクサー

(町山智浩)そうなんですよ。だから『モンスターズ・インク』っていう話はそのピート・ドクターという作り手の人が子供ができたんだけれども、ずっとオタクだったから子供との接し方がわからなくて四苦八苦したという体験をそのままモンスターが初めて子供を抱えて、その子供を笑わせられなくて困るっていう話にしたんですね。

(赤江珠緒)ああ、そうか。はい。

(町山智浩)だから、本当の話なんですよ。自分自身の。で、ピート・ドクターはその後、その娘さんが大きくなって、思春期になった時に鬱病になっちゃったんですよ。転校した学校にうまく馴染めなくて。それで精神科に行って。それで娘さんが感情が全くなくなっちゃったんですね。それはどうしてそういうシステムになっているのか?っていうことをお医者さんに聞いていって。そしたらそれは鬱になると、その感情がシャットダウンされちゃうんだっていうことで、その脳の機能を教えてもらったらしいんですね。それで作ったのが『インサイド・ヘッド』っていうアニメなんですよ。

町山智浩 映画『インサイド・ヘッド』を絶賛する
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でピクサー映画の最新作『インサイド・ヘッド』を紹介。全町山が泣いた!と絶賛していました。(町山智浩)ということでね、今日はアニメの話をします。これはですね、今年のベストに入りますね。ピクサーの新作...

(赤江珠緒)ああ!

(町山智浩)あれはサンフランシスコ……ピクサーのある街に引っ越してきたら娘が学校に対応できなくて、感情がなくなったんでそれを何とか治そうとする話ですけども。

(赤江珠緒)そうか。脳の中にいろんなキャラクターが存在して……っていうお話でしたね。

(町山智浩)そうそう。あれはお医者さんに聞いた脳の構造をそのままアニメにしただけなんですよね。それは本当に彼、監督さんの家族にあったことなんですよ。常にそうやって、すごく個人的な話を元にしているんですね。で、最近だと短編アニメで『Bao』っていう、中国系のお母さんがお饅頭を作るんだけども、お饅頭に命が宿って息子になっちゃうっていうアニメを作ったんですけども。それはその、結局息子が家を出てしまって。よそに彼女を作っちゃって。それでお母さんが悲しくてしょうがなくてそのお饅頭を食べちゃうっていう話だったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それも、その中国系のアニメーターの人が自分のお母さんにお饅頭の作り方を教えてもらったことを元にして作ったアニメなんですね。全部自分の話なの。で、『トイ・ストーリー4』がこの間、ありましたけども。あれは子供が大きくなっちゃって、家を出ていっちゃって。もう親としての役割を終わってるのに、いつまでたってもその『トイ・ストーリー』の主人公のウッディは子供のためにおもちゃとしてね、頑張ろとして空回りしていくっていう話だったんですね。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

(町山智浩)あれは、いわゆる空の巣症候群ですね。子供が家を出ていってしまっても親としての役割をやり続けようとして、めちゃくちゃになっちゃうっていうことを描いているんですけども。常に現実なんですね。ただ、これがすごく面白くて。この間、ポン・ジュノ監督が『パラサイト』でアカデミー賞を取った時に、マーティン・スコセッシ監督に対して「『一番個人的なことが一番世界の人に突き刺さるものになる』っていう言葉を教えてくれたのは、あなたです」って言ったんですよ。「最もパーソナルなものが最もグローバルになる」っていう。それがピクサーのアニメなんですよね。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

「最もパーソナルなものが最もグローバルになる」

(町山智浩)日本だったら「そんな個人的な話は同人誌でやってろ!」って言われると思うんですよ。そうじゃなくてピクサーは「よし、それは君の問題なんだ。それをもっともっと掘り下げて行きたまえ。そうすると世界に通じるドラマになるよ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うわー、それはいい言葉ですね!

(町山智浩)それで全世界向けのヒットを作り出してきたので、それは本当に大事なことだなと思いましたね。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)でね、この監督さんは「自分はお父さんと話したことがないからこのアニメを作ったんだ」ってお母さんに言ったら、お母さんはこう言ったんですって。「何言ってるの? お父さんが亡くなる前にあなたは1歳で初めて言葉をしゃべったけど、それがお父さんに向かって『パパ』って言ったのよ」って言ったんですって。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)それで「ああ、僕はパパと話してたんだ!」って思ったらしいですよ。という話が『2分の1の魔法』なんで。いつご覧になれるのかは分かりませんが。公開されたらぜひ。

『2分の1の魔法』予告編

(赤江珠緒)そうですね。日本では近日公開ということで、まだ決まってはおりませんが。ちょっと楽しみですね。見たいですね。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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