町山智浩・宮藤官九郎・北丸雄二 2020年アカデミー賞を振り返る

町山智浩・宮藤官九郎・北丸雄二 2020年アカデミー賞を振り返る ACTION

(町山智浩)そうなんですよ。あとね、雨なんですよ。『パラサイト』はすごく雨が多く使われているじゃないですか。

(宮藤官九郎)印象的ですね。

(町山智浩)日本映画で「雨を降らせてくれ」っていうと、もうプロデューサーがぶちぶちぶちぶち文句言いますからね。

(宮藤官九郎)「本当に必要ですか?」って言われる(笑)。

(町山智浩)そうそう(笑)。「本当に必要ですか?」って(笑)。

(宮藤官九郎)「ここ、雨は絶対に降ってなくちゃダメですか?」とか言われますよ。

(幸坂理加)えっ、お金がかかるからっていうことですか?

お金がかかる「雨」

(町山智浩)お金がかかるから、雨は嫌がるんですよ。

(宮藤官九郎)あれね、「実際に本当に天気が雨で降っているなら、降らせなくていいじゃん」って思うかもしれませんけども。本当に降っている雨って実は映らないんですよ。

(幸坂理加)ええっ、そうなんですか?

(宮藤官九郎)大量に降らせないと画には映らないんです。だから、雨っていうのはほぼ100%、降らせていると思いますね。

(町山智浩)ものすごいお金がかかるんですよ。だからこの『パラサイト』とか、ポン・ジュノ監督の映画って雨がすごい重要で。主人公たちの感情が高ぶった時に雨が降るんですよ。殺人が起こる瞬間とか、怪獣が出てきたりとか。そうすると、たぶん日本映画ではもうそれでダメなんですよ。なかなか。

(幸坂理加)へー! 『殺人の追憶』とかもすごい雨が降ってましたよね?

(宮藤官九郎)あれは雨が降ると事件が起こるっていうね。

(町山智浩)やっぱりお金の問題であって。クリエイティビティは非常に高い人がすごく多いんですけども、それを生かせる場がないっていう……あ、複雑な表情をしていますね(笑)。

(幸坂理加)宮藤さんが(笑)。

(宮藤官九郎)いえいえ、その通りですよ。

(町山智浩)それは、その市場の規模がちっちゃく設定されていて、海外を見込んでいないからなんですよね。

(宮藤官九郎)そうかもしれないですね。

(幸坂理加)北丸さん、印象に残ったスピーチとか、ありましたか?

印象に残ったスピーチ

(北丸雄二)でもいまの『バーニング』の話でもそうですし、『ジョーカー』も結局は格差社会の話だし。それに対して個人がどんどんどんどん壊れていって、その社会に対してすごいメッセージを言葉ではなくこうやって訴えていて。まあホアキン・フェニックスが一番最初の受賞スピーチの時に、まあトランプの時代ですから。「結局、みんないろんな問題のことを話しているけれども。たとえばその人種差別の問題、それからジェンダーの不平等、それからクイアライツ、LGBTQの人権問題、それから先住民の問題でも、アニマルライツ、動物の問題でも結局共通してるのは不正義の話なんだ」っていう風にホアキンが授賞式で言うんですね。

(宮藤官九郎)へー!

(北丸雄二)これはやっぱり社会に対するメッセージとして……やっぱり受賞スピーチってすごいですね。ブラピも助演男優賞を受賞しましたが、そのスピーチで「45秒しか助演男優賞のスピーチの時間が与えられていないんだ。でもそれは上院で大統領の弾劾裁判でジョン・ボルトンが……」。彼は安保担当の補佐官で、トランプに不利な証言をする、しないっていうので結局、証言はさせられなかったんだけども。「……ジョン・ボルトンが上院で与えられた時間よりも僕のスピーチの時間は45秒長いけどね」っていう皮肉を言ったりして。

(町山智浩)ジョン・ボルトンはゼロだったから。

(北丸雄二)与えられなかったから。そういう話を随所に盛り込んできて、かならず芸能人であろうと、また映画の話であろうと、政治の話とは無関係でいられないという。

(町山智浩)そうですね。ホアキン・フェニックスもよくデモに出ていて、抗議行動なんかもするわけですよ。日本ではそれをやったら、もうそれだけで炎上したりするけども。まあホアキン自身が炎上キャラなんで。

(宮藤官九郎)割と最近、捕まってましたもんね?

(町山智浩)そういう人なんでね。でも全然別になんの影響もないわけですよ。

(北丸雄二)だから「逮捕」というものに対する概念が日本とは違うんですね。逮捕って日本だとほら、99%有罪になっちゃうけれども。そうじゃなくて結局向こうの人はみんな、環境問題とかでデモやって捕まってますからね。あとはホアキンがお兄さんのリバー・フェニックスの17歳の時の詩だっていうことで紹介していましたけども。亡くなったお兄さん。「Run to the rescue with love and peace will follow.」って言っていたんですね。「とにかくまず、困っている人がいたらそこに向けて愛をもって走り出し、助けなさい。安らぎは後からついてくるから、とにかくやるべきことをやりなさい」っていうようなことをホアキンはリバーの17歳の時のフレーズとして紹介して。それでスピーチを終えたんですね。

(宮藤官九郎)かっこいいね! 17歳で? へー!

(北丸雄二)リバー・フェニックスってそういう人で。まあ、お父さん、お母さんがそういう方だったしね。

(町山智浩)まあ宗教団体にいたから。

(北丸雄二)新興宗教で。まあヒッピーみたいな感じですけどね。

(幸坂理加)ポン・ジュノさんはどんなスピーチをされていましたか?

(町山智浩)ポン・ジュノさんはとにかく「朝まで飲むぜ!」って言ってましたね(笑)。

(北丸雄二)そうそう(笑)。

「ありがとう! 朝まで飲むぜ!」(ポン・ジュノ)

(宮藤官九郎)ああ、そうですか(笑)。正直ですね! 飲むんですね(笑)。でもポン・ジュノさんは前、『グエムル-漢江の怪物-』の時とかは結構国から目をつけられていたって言いますもんね。向こうの韓国で。

(町山智浩)ああ、まあ国の責任をね、批判するような内容だったりしましたんで。まあしょっちゅうそういうことは韓国ではあるので。政権が変わるごとに変わっちゃうんですよ。今は左派の政権なんですけど、この前までは韓国は保守政権が2回続いたんで。その時は結構メディアは監視が厳しかったんですよ。

(宮藤官九郎)じゃあ、今はもうそれでしかも世界のアカデミー賞で賞を取っちゃったから。もうすごいですね。今後、どうなっていくんですかね?

(町山智浩)いやー、ポン・ジュノ監督がすごいなと思ったのは、とにかく全世界の映画を作ってる人たちがあれでもう完全に気持ちが変わったでしょう? アカデミー賞、可能性があるわけですから。スペインで撮ろうが、アフリカで撮ろうが……アフリカの人たちを使って撮っても全然問題がないわけですよ。英語でしゃべらせる必要もないんだもん。

(宮藤官九郎)そうですよね。全編韓国語ですもんね。

(北丸雄二)そこにNetflixみたいな新しいメディアが入ってきたらもう、あれですね。オスカーも大変ですね。

(町山智浩)大変なことになります。だから本当に国籍がなくなったんですよ。で、アカデミー賞がそうなったのは、投票する人たち、アカデミー会員っていうのが今まではハリウッドの映画関係者だったんですけども。ここ2、3年ぐらいで2000人ぐらいその会員を増やしたんですけど、そこに外国人をいっぱい入れたんですよ。日本でもいっぱい投票権を持ってる人が知り合いにいますよ。

(宮藤官九郎)ああ、いるんですか?

(町山智浩)いっぱいいますよ。だから「ハリウッド映画だけ」ってことじゃなくなっちゃったんですよ。

(宮藤官九郎)ああ、そうなんですか。へー!

(町山智浩)だから投票者が全世界に散らばってるんで。今後はアカデミー賞は全世界の最高の映画の賞にあるっていうことですよね。

(宮藤官九郎)だから、おっしゃったように「日本人は取れない」っていうことではないってことですもんね。可能性としては。

(町山智浩)もう全然取れる。内容次第ですよね。

(宮藤官九郎)内容次第ですよね。

(北丸雄二)お金とね(笑)。

(宮藤官九郎)まあ、そこにはお金なんですよね。なるほど。

<書き起こしおわり>

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