菊地成孔と高橋源一郎 音楽家・菊地成孔を語る

菊地成孔と高橋源一郎 同世代の人々を語る NHKすっぴん!

菊地成孔さんがNHKラジオ第一『すっぴん!』にゲスト出演。高橋源一郎さんと菊地さんの音楽家としての側面について話していました。

(藤井彩子)さあ、今日はいろんな顔をお持ちの菊地さんなので、3つのキーワードに絞ってお尋ねしようと思います。まずは、こちらです。

(高橋源一郎)「音楽家」! これ、当たり前だよね(笑)。

(藤井彩子)ジャンルも幅広いっていうことになるわけですけども。

(高橋源一郎)っていうか、さっき藤井さんも挙げていましたけど。いろんなグループをある意味、同時進行的に。この前、僕が聞いたのはペペ・トルメント・アスカラールなんですけど、いまはスパンク・ハッピーを?

(菊地成孔)「いまはスパンク・ハッピー」っていうか、まあ同時にやっていますね。

(高橋源一郎)同時に。で、いろんなのを同時にっていうのは、やりたいことはいくつも同時にあるからっていう感じなんですか?

(菊地成孔)そうですね。そんなに珍しいスタイルでも……そうだな。60年代だったら珍しいですけど、いまだと普通ですね。大抵のミュージシャンはいくつかやってるんで。さほど珍しいことではないと思いますけども。

(高橋源一郎)そうだ。ちょっと聞きたいことがあったのを忘れていて。僕、菊地さんの書いたもののファンで、音楽もファンなんですけども。菊地さんを読んでいて、好みが似ているところがあって。失礼ですけども。

(菊地成孔)いえいえ、とんでもないです。

(高橋源一郎)それでね、これ、『ユングのサウンドトラック』っていう映画音楽の本。これはゴダールの『気狂いピエロ』のシーンがあって。僕もゴダールが好きなんですけども。で、さっき朝の1曲で『恋のひとこと』をかけたんですよ。フランク・シナトラのじゃなくて、かけたのは大瀧詠一さんのバージョンなんですけども。

(菊地成孔)はいはい。

(高橋源一郎)あれが1967年だったんですね。で、『気狂いピエロ』の公開が67年の正確に言うと7月7日。で、僕は初日に見に行って。それで僕は中1から高3までずっと映画を採点していたんですよ。いるでしょう? そういうなんか嫌なやつが。

(菊地成孔)まあ、嫌じゃないと思いますけども(笑)。まあ、そういう方もいますね。

(高橋源一郎)それで見て、満点っていうのはが2本だけあるんですよ。

(菊地成孔)ああ、興味ありますね。はい。

(高橋源一郎)これがね、正確に言うと100点じゃなくて99点が『8 1/2』。で、101点が『気狂いピエロ』だったんですよ。で、それを見て僕、いまでも覚えているんだけど。7月7日だったんですよね。で、それから2週間ぐらいして、コルトレーンが亡くなって。

(菊地成孔)はい、そうですね。67年に。

(高橋源一郎)それが7月17日でしょう? で、1年前の66年の7月17日に神戸でライブやったんですよ。その時に、見に行ったの。

(菊地成孔)ああ、すごいですね。やっぱり私よりもちょっと上の方の役得ですよね。その頃、こっちは小学生かなんかなんで。

(高橋源一郎)そうそうそうそう。で、僕は正直言ってしばらくジャズから離れていたんですよ。なんかあんまり聞かなくなって。で、本当にそうだな、80年代の途中ぐらいから聞かなくなって。それで21世紀になって偶然、菊地さん聞いて。「あれっ、ジャズってこんな風に……」って。それでちょい後ぐらいにロバート・グラスパーを聞いたりして。

(菊地成孔)ああ、なるほど(笑)。

(高橋源一郎)で、これが音楽の話になるんですけども、いま、すごいジャズは楽しいですよね。

(菊地成孔)いまはいい時代ですね。80年代に比べればっていうか、まあ80年代は80年代でそれなりにね、全体的に文化的に低調な時でもまあ、それはそれなりに楽しいんですよね。80年代はたしかにジャズは株価的には底値で。いまはかなり上がっちゃっているんで。

(高橋源一郎)すごい面白いよね。僕、ちょうど80年代に聞き出したら、マルサリス兄弟だったんですよ。ウィントン・マルサリスとブランフォード・マルサリス。で、なんか合わなくて。それで10年ぐらい聞かなくて、気が付いたらこんなに面白くなってる。で、いまその真っ只中ですよね、菊地さんは。

(菊地成孔)そうですね。はい。

(藤井彩子)「いま、関心を持っている音楽はなに?」っていう質問には答えられるものですか?

(菊地成孔)答えられないですね。

(藤井彩子)「全て」っていう感じ?

(菊地成孔)はい。全部聞くんで。

(藤井彩子)その中から、今日は菊地さんにいくつか選曲をしていただいています。まずご紹介、お願いできますか?

(菊地成孔)これはなんていうか、国民的と言うか、世界的なコンテンツだと思うんですけども『機動戦士ガンダム』っていう。まあ、説明する必要もないようなものがあるんですけども。その中のスピンオフっていうんですかね? シリーズの音楽監督をやらせていただきまして。『サンダーボルト』っていうシリーズなんですけど。それのオリジナルサウンドトラックが2枚出てまして。やっぱりアニメっていうのはこの国の国是で。僕がいろいろとコツコツ活動をしてきた中で飛びぬけて……もうケタが3ケタ違うぐらい売れてるものですね。『機動戦士ガンダム サンダーボルト』オリジナルサウンドトラックより、『サンダーボルトのメインテーマ』です。

『サンダーボルト メインテーマ』

(藤井彩子)『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のオリジナルサウンドトラックから『サンダーボルト メインテーマ』をお聞きいただいていますが。

(高橋源一郎)しかし、これでいいんですかね?っていう(笑)。

(菊地成孔)まあ、これは順番が逆で。原作に書き込まれているんですよ。原作がすでに音楽劇みたいなっていて。仇敵が出てくるんですね。2人組の。1人はいわゆるオールディーズって言われてる50年代のポップスのファンで、もう1人はジャズのファンなんですね。で、彼らは……彼らだけじゃなくて、多くの戦場にいる人たち。イラクに行った人もそうだし、ベトナムに行った人もみんなそうだけども。音楽を聞いてないとやっていられないんですよね。だから音楽を聞きながらやっていたわけなですが。まあ、未来の戦争でも音楽を聞きながらやっているっていう設定で。で、片方がジャズで、片方がオールディーズポップスで、どっちも作れる人がいないか?っていうので、僕に話が来たみたいな。

(高橋源一郎)なるほどね!

(藤井彩子)なんかでも、こういう曲をメインテーマにするっていうのは、どういう発想からだったんですか?

(菊地成孔)主人公の片割れがドラムをやっているんですよね。それドでラムを叩くシーンがあるんですよ。で、ドラムソロから入るフリージャズ。

(高橋源一郎)これ、フリージャズだもんね。

(菊地成孔)フリージャズです。原作はね、ハードバップなんですよ。で、「ハードバップとオールディーズじゃあどっちもポップすぎるから、ジャズの方をフリージャズにしたらどうですか?」ってそのガンダムの人たちに言ったの。そしたら「フリージャズってなんですか?」っていう話になって。それで「こういうもんですよ」って聞かせたら、「ああ、この方がコントラストが出ていいですね」っていうことで。それでフリージャズになったんですよ。

(藤井彩子)ああ、そういう作り方だったんですね。

(菊地成孔)だからこれ、ドラムから始まったのは主人公が叩いているんですよね。

(高橋源一郎)ちゃんともうストーリーに基づいてるんですね。

(菊地成孔)そうです、そうです。

(藤井彩子)さて、音楽家の菊地さんのことをよく知る方といま、電話がつながっています。この方です。もしもし?

(大友良英)もしもし? おはようございます。

(菊地成孔)フハハハハハハハハッ!

(高橋源一郎)大友さんだ(笑)。おはようございます。

(藤井彩子)おはようございます(笑)。名乗っていただいていいですか?

(大友良英)はい。大友良英でーす(笑)。

(菊地成孔)ああ、そうも。菊地成孔です(笑)。

(大友良英)フフフ、午前中に話すのは初めてだよね?

(菊地成孔)うん、初めてだね(笑)。

(大友良英)20数年の付き合いで(笑)。

(菊地成孔)うん。もう30年近い付き合いですけど、午前中に話すのは初めてですね。

(大友良英)午前中っていうか、朝ね。真夜中はあるけど。

(菊地成孔)真夜中ばかりですよね。基本的に夜の男、夜のミュージシャンなんで(笑)。なんですか? やっぱり今日はNHKと非常にうまくいっている方、先輩からの……。

(大友良英)うるせえな、朝から、もう(笑)。

(菊地成孔)フフフ、NHKの成功者からなにか……(笑)。

(高橋源一郎)大友さんはこの番組のレギュラーみたいな。大友さん。前にね、大友さんに「菊地さんってどんな人?」って聞いたら、「あいつは悪いやつですよ! ワハハハハハッ!」って言っていましたけども(笑)。

(大友良英)そんなこと、言いました?(笑)。

(高橋源一郎)言った、言った!

(大友良英)いや、いい人ですよ。最高ですよ(笑)。

(高橋源一郎)嘘?(笑)。どこが悪いのか、聞こうと思ったんだけど。

悪いやつ・菊地成孔

(大友良英)いやいやいや、悪いですよ、本当に(笑)。もうね、なにが本当かわからない人ですからね(笑)。

(藤井彩子)あの、改めてご本人に聞かせながら言うのは照れくさいかもしれませんが。

(大友良英)はいはい。今度、裏でじっくりと言います。

(藤井彩子)そうですよね(笑)。菊地さんが音楽家としてすごいなって思う点はどんなところですか?

(大友良英)すごいところ……いやいや、すごいですよ。敵わないんですけども。「早い」。あらゆる意味で。それは音も早ければ、やることも早いし、音楽も早いし……なんですけども。早いです。とにかく早い。

(菊地成孔)ああ、早いですね。僕。

(高橋源一郎)急いでいるんですよね、菊地さん。なんか。

(菊地成孔)いやいや、もともと体が早くできているんですよね。

(高橋源一郎)早くできている(笑)。

(大友良英)なんかね、脳みその回転も早いんですよ。俺が返事をしている間に話題がもう3つぐらい先に行っている感じですからね。いつも。

(菊地成孔)そうですね。この間さ、なんか特番を見ていたらさ、大友っちが仕切りでね、いろんな音楽をやられていたんですよ。それで、「そろそろ平成無責任男だ!」みたいな感じでクレイジーキャッツリバイバルみたいなコーナーがあって。

(大友良英)ああ、クレイジー。やった、やった。

(菊地成孔)それで植木等で小松政夫さんが出てきたでしょう? あれは大友っちが決めたの?

(大友良英)そう。全部俺があれを決めたわけじゃないけど、あのクレイジーキャッツに関しては俺が決めた。小松さんでやることも。

(菊地成孔)なるほどね。大変文句があるね。

(一同)フハハハハハハハハッ!

(大友良英)なんだよ?(笑)。

(菊地成孔)やっぱりいま、植木等さんをやるのはさ、小松政夫さんでもいいけどさ、やっぱりモリカケ問題のあの出てくると俳句を読む面白い人。あの人、顔からやることからなにからなにまで植木等そっくりだよね! 残念ながらあの人が平成の植木等っていうことにならないと困っちゃうんで。文化を引っ張る方、オピニオンリーダーですから。大友さんは。

(大友良英)っていうか、もう平成じゃねえけどね(笑)。

(菊地成孔)まあ、そうですけどね。そのへんはNHKを通じて文化を引っ張るオピニオンリーダーとしての自覚を持ってもらいたいっていうね。ただ、モリカケ問題の人を出すわけにもいかないからね。

(大友良英)フフフ、相変わらず……まあいいや(笑)。今度、ゆっくり話そう(笑)。

(菊地成孔)あの人が植木等ですよ、はい。

(藤井彩子)大友さん、ありがとうございました。

(高橋源一郎)ありがとうございました。

(菊地成孔)ありがとうございました。また。

(大友良英)はいはい、どうもどうも。

(藤井彩子)音楽家の大友良英さんでした。電話でのご出演でした。普段、どんなことを話してらっしゃるんですか?

(菊地成孔)いまみたいな感じですね。

(藤井彩子)いまみたいな感じ(笑)。そうなんですか?

(高橋源一郎)長い付き合いなんですよね?

(菊地成孔)相当長いですよ。彼も僕もまだ全くネームバリューがない頃から。

(高橋源一郎)どこが気が合ったんですか?

(菊地成孔)全く正反対なんで。

(高橋源一郎)ですよね。大友さん、ゆっくりしてますもんね。

(菊地成孔)いい意味でね。

(高橋源一郎)シャイだし、いい人だし。

(菊地成孔)ものすごい善人ですよ。とんでもない善人なんで。まあ、とんでもない善人が持っている悪っていうのもね(笑)。

(高橋源一郎)フフフ、そこがあるね。まだ聞いていると思うけども(笑)。

(藤井彩子)はい(笑)。

<書き起こしおわり>

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