町山智浩 悪魔教寺院を語る

町山智浩 悪魔教寺院を語る たまむすび

(町山智浩)そう。だから裁判で勝ったんですよ。それで、その次に今度はアーカンソーという州でまた、その十戒の石碑が州庁舎の前に立てられたんですよ。それで、今度は……オクラホマにはそのバフォメットの像は持って行かないで済んだんですよ。裁判で勝ったので儀式をやらなくて済んだので。ところが、アーカンソーではもう石碑をぶっ立てちゃったんで、もう本当にこの魔王像を持っていって、その議会の前で悪魔教の大イベントをやったんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)これ、そっちに写真がありますよね?

(赤江珠緒)ああ、結構大きな銅像ですね!

(町山智浩)すごいんですよ(笑)。ねえ。というね、すごいことをやっている人たちなんですけども。で、なんでこういうことをして戦っているの?ってそのグリーブスさんに聞いたんですけども。そしたら、もともと彼が1985年ぐらいに中学生ぐらいで。ヘビメタとかを聞いていたんですね。だからいま、ヘビメタをかけているですけども。で、1985年っていうと聖飢魔IIが流行っていた時なんですよ。僕はだから、デーモン閣下もそうですけども、大学を卒業する頃ですけども。その頃ってね、音楽で悪魔系の音楽がすっごい流行っていたんですよ。

(山里亮太)へー! 悪魔系の音楽?

(町山智浩)そう。聖飢魔IIだけじゃないっていうか、もともとイギリスやアメリカで流行っていて。オジー・オズボーンとかジューダス・プリーストっていうヘビーメタル系のミュージシャンがステージで悪魔の儀式みたいなことをやったり、悪魔について歌っていたりしたんですよ。それがすっげー売れていたんですよ。中学生とか高校生に。で、親が結構パニックを起こしちゃったんですよ。「うちの子はなんでこんな恐ろしい音楽を聞いて、悪魔の格好をしている人たちのステージとかを喜んで見ているの?」っていうことになって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも日本だと別にそんな、デーモンさんだってお茶の間の人気者じゃないですか。

(赤江珠緒)コメンテーターとかされていますよね(笑)。

(町山智浩)しているでしょう? アメリカでは、そんなことは許されないわけですよ。田舎の方に行ったら。本当にみんな真剣に神様を信じているわけですから。でも、子供たちはそういう音楽を聞くでしょう? 聖飢魔IIみたいなものを。で、「本当に悪魔に取り憑かれているんだ」っていう風に親は思っちゃったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)という事態があって。で、まあ子供だから時々変なことをして、自殺したりする子だっていますよね? で、自殺事件が起こって。そしたら親が「うちの子はずっとジューダス・プリーストとオジー・オズボーンを聞いていたんで自殺したんだ!」って彼らを訴えたんですよ。ミュージシャンを。

(赤江珠緒)へー!

ヘビメタ系ミュージシャンが訴えられた

(町山智浩)で、大変なことになりまして。その時にその裁判でジューダス・プリーストのアルバムを逆回転させると「自殺しろ」という悪魔のメッセージが入っているという風に言いだしたんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)そんなこと、やってるわけないんですけど(笑)。

(赤江珠緒)サブリミナル効果みたいに?

(町山智浩)そうなんですよ。サブリミナル効果っていう言葉がすごく流行っていて。その頃、日本でもベストセラーになった本でウィルソン・ブライアン・キイという人がいろんなものに……レコードとか広告とかにいろんなサブリミナルのメッセージが入っているという本を出したんですよ。日本でもこの本、売れました。「メディア・セックス」というタイトルでしたけども。で、広告とかには密かに、普通のビールの広告のように見せるんだけども、そのビールの中をよーく見ると中にちんちんが見えるとかですね。そういうバカげた本があったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これが売れてみんな結構信じたんですけども。で、その中でレコードを逆回転させると死のメッセージが入っているというのがあったんで、このウィルソン・ブライアン・キイはその裁判に証人として呼ばれているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! そこまでの事態になったんだ。

(町山智浩)そこまでの事態になって。あと、ジューダス・プリーストのリーダーのロブ・ハルフォードさんも呼ばれているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、大変な事態になって、もう国を揺るがすような裁判になったんですけども。もちろん、証拠なんかなにもないわけですよね。逆回転をみんなで裁判所で聞いたりしたんですよ。で、「うーん、そう聞こえるかもしれないけど、聞こえないかもしれないな」みたいな感じで。で、無罪になったんですけども。ただ、別の裁判では有罪にもなっているんですよ。ちょっと後、1994年にはアーカンソー……だからアーカンソーなんですよ。そこで3人の男の子が子供たちを悪魔のいけにえにして殺したんだということで、なんの証拠もなく逮捕されて死刑宣告を食らったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、証拠はなにもなかったんだけども、メタリカとかを聞いていた。ヘビーメタルを聞いていたっていうだけだったんですよ。

(赤江珠緒)それだけで? 怖いな。

(町山智浩)なんの物的証拠もなし。だから、魔女裁判って1600年代にアメリカで起こっていたんですけども、なんの証拠もなしに魔女とされていた人たちが死刑になっていたんですが。これが1980年代、90年代のアメリカでも起こっているんですよ。

(赤江珠緒)本当だ……。

(町山智浩)で、それを見ていたんで、グリーブスさんも悪魔っぽい文化が彼は好きだったんで。「これは恐ろしいことだ。アメリカはなにも進歩していないじゃないか」ということで。この人、実はハーバードを卒業しているインテリなんですよ。それで始めたのがこの悪魔教寺院(サタニック・テンプル)なんですよね。

(赤江珠緒)そういうことか! なるほど。

(町山智浩)そう。だから、あの教義なんですよ。他者の自由を尊重するとか。

(赤江珠緒)ある意味、一神教の脆さみたいなものを突いているというか。ひとつの価値観しかダメだっていう風になると怖いっていう。そういう概念で始められたんですね。悪魔教っていうのを。

悪魔教寺院の教義の意味

(町山智浩)全くそうなんですよ。だからこの教義っていちばん最後の教義は「まあ、いろんな教義があるけども、言葉で書かれた掟とかそういうものよりは良心を信じましょう」っていうようなものがついているんですよ。ものすごく常識的なんですけども。でね、そういうことをやり続けている人なんですが、やっぱり彼の話を聞いていて面白いなと思ったのは、やっぱり聖書を読んでいると「悪魔がキリストを誘惑した」とかって書いてあるけど、それは砂漠で苦行をしているキリストに「そんなことをしてもしょうがないよ」って言っているだけだったり……。

(赤江珠緒)ああーっ!

(山里亮太)そんなに悪いことじゃないかもしれない(笑)。

(町山智浩)イヴにりんごを食べさせたっていうのも、あれは知恵の実なんだから。人間はそれから利口になって大文明を築いたじゃないですか。だから結構サタンっていいやつなんですよ。

(赤江珠緒)ああー、聖書の中の。へー。

(山里亮太)たしかにデーモン閣下もすごい番組一緒になったら優しいですもん。

(町山智浩)閣下、いい人でしょう?

(山里亮太)めちゃくちゃいい人です。

(町山智浩)だからね、結構悪魔はみんないい人……まあ、また「いい人」って言うと「人じゃない!」って怒られるんですけども(笑)。

(山里亮太)人じゃないですから。悪魔ですから。そこは。

(町山智浩)フフフ、そう。「違う!」って言われるんですけども。結構ね、悪魔教寺院に言ってほのぼのしましたよ。

(赤江珠緒)いやー、ちょっとびっくりしました。

(山里亮太)最初、タイトルだけ聞くと「怖い! 大丈夫だったのか?」って思ったんですけども。

(町山智浩)ねえ。

(赤江珠緒)ジェーン・スーさんも「悪魔教寺院に町山さんが取材に? ええっ?」みたいになっていたんですけども。入り口と出口がびっくりするぐらい違いましたね。

(町山智浩)そう。全然違うんですよ。ただね、アメリカは宗教と政治の癒着はもうどんどん進んでてい。特にトランプ大統領が「エルサレムがイスラエルの首都だ」って言ったのは、それは非常に宗教的な意味があって。キリスト教福音派の人たちがそうなることでハルマゲドンが近づくというような予言を信じていたりするのでね。あれ、実は非常に宗教的な選択だったんですよね。政治的であると同時に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからね、結構そういうのはまだ政治と宗教の癒着って結構続いているんですよ。日本も全然他人事じゃないですけどね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)日本だって昔ね、天皇陛下を現人神と信じて、戦争で死ぬと靖国神社に祀られて神になるということを信じて戦争に突き進んだんでね。だからね、本当に政治と宗教の分離だけは今後も守っていってもらいたいと思いますよ。はい。

(赤江珠緒)本当にそうですね。うん。

(町山智浩)ということでこの『Hail Satan?』という映画は日本未公開なんですが、悪魔教寺院の取材はBS朝日で放送しますんでお楽しみに! 宣伝でした。ワハハハハハハハッ!(笑)。

(山里亮太)最後、悪魔に取り憑かれた!(笑)。

(赤江珠緒)同級生ということでね(笑)。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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