ジェーン・スーさんがTBSラジオ『生活は踊る』の悩み相談コーナーの中で、リスナーの「応援しているバンドが人気が出て、ライブ会場が大規模になったためにあまり近くで見れなくなり、寂しい」という相談に対して回答をしていました。
(長峰由紀)今日は通算1072件目。女性からの相談です。「スーさん、長峰さん、こんにちは。私はとあるバンドのファンです。デビュー当時からライブに通い、メンバーに顔を覚えてもらうまでになりました。まだデビュー数年のため、ライブ会場の規模が小さく、メンバーの額の汗が見えるくらいの距離でライブを楽しんできました。年月とともにファンも増え、会場の規模も徐々に大きくなっていましたが、幸運なことにチケットを運に恵まれ、これまで前から5列目より後ろで見たことはありません。が、ついにこれまでで最大規模の会場でコンサートを行うことが発表されました。
東京ドームなどに比べれば、まだまだ小さな会場ですが、いままでのようにメンバーと目を合わせて歌うような楽しみはなくなってしまいます。歌手であれば、大きな会場でたくさんのお客さんの前で演奏することが夢でしょうし、喜んでいるだろうメンバーのことを思うと、お祝いしたい気持ちはあります。が、それと同じくらい悲しいのです。もうこれからは、私がコンサートに行っても行かなくても、メンバーにはわからず、『ああ、今日も来てくれたね!』と目で挨拶を交わすこともないのかと思うと、寂しくてたまりません。
どんな会場であっても、彼らの音楽は素晴らしいし、きっと楽しいコンサートをしてくれると思うのですが、気がついてもらえないなんて。近くで見られないなんて。あの一体感が味わえないなんて。と、思ってしまう気持ちを拭えません。また、そんなことを考えてしまう自分はファン失格だと落ち込んでしまいます。どんどん人気バンドに成長している彼らの成功を素直に喜び、会場が大きくなってもコンサートを楽しむにはどうしたらいいでしょうか? くだらない相談ですがアドバイスをいただけますと幸いです」。
(ジェーン・スー)なるほど。お気持ちはわかりますが……っていう。「認知厨」って呼ばれるやつですね。
(長峰由紀)なんですか、それ?
認知厨
(ジェーン・スー)アイドルのファンなんかで、たとえば女性がアイドル、男性がファンの場合……まあ、女性のファンもいらっしゃいますけどね。「接触」と呼ばれる、いわゆる握手だったりお渡し会みたいなのがあるんですよ。
(長峰由紀)ありますね。
(ジェーン・スー)そういうところで、自分のことを覚えてもらってるかどうかっていうことが、何よりも気になる人のこと。それを「認知厨」というんですけれども。まあ認知厨の一環ですね。これ、何が目的だだんだんわかってこなくなる。でも、こういう人のことを「どうせ、音楽じゃなくて認識してもらいたいっていうだけでしょ?」って揶揄するのは簡単だからね。だけど、逆に言うと気持ちも分かるしねっていうね。
(長峰由紀)そうですね。
(ジェーン・スー)新しいファンがさ、バーッと入ってきた時に、いままでのルールとかムードが壊れるの間違いなくあるわけじゃないですか。で、自分より好きになった人が自分よりもちょっと知っている振りをしたりすると、その古参っていうんですか? 古参がちょっと言いたくなったりとかね。気持ちはわかる。気持ちはわかるけど、さあどうしよう?
(長峰由紀)スーさんはわかる。音楽とかも詳しいし。
(ジェーン・スー)まあ、「お気持ちはわかるし、お察しします」っていう感じなんですけど、まあでもね、これ……私は逆転の発想で。「どんどん人気バンドに成長している彼らの成功を素直に喜び、会場が大きくなってもコンサートを楽し”まない”」っていう……。
(長峰由紀)どういうことですか?(笑)。
(ジェーン・スー)つまりですね、「心の親方」ってよくおっしゃってますけども。
(長峰由紀)はい。私が。
(ジェーン・スー)相撲を例にたとえておっしゃってますが。私の場合は、もう「心のパトロン」みたいなもんで。ライブハウスで客が3人ぐらいしかいないバンドをどんどん、かたっぱしから見つけていって。その客がどんどん増えてく。「増員までが私の仕事」みたいな。
(長峰由紀)ああ、そのあたりまで育てるっていうことね?
「増員までが私の仕事」
(ジェーン・スー)なんか、地上に上がったら「もう私の仕事は終わりだわ」って言って、次の若手を探して。なんか知らないけど、5年後、10年後に売れたバンド全員が「あっ! 俺のところにもあの人、いたんだよ」「俺のところにもいたんだよ」って。「あの人が来ていると売れる」みたいな存在に。
(長峰由紀)すごい! もう伝説になるわけ? 伝説心の親方みたいになるんだ。
(ジェーン・スー)そうそうそう。っていうのを逆に目指せば? とも思ったんですけど。
(長峰由紀)じゃあ、このバンドに対してはちょっとここらへんで……。
(ジェーン・スー)卒業。
(長峰由紀)次へ行くと。その発想は私にはなかったな。
(ジェーン・スー)親方はいかがですか?
心の親方・長峰由紀の体験
(長峰由紀)私はね、この相談者さんの気持ちはすごいよくわかって。「ひと仕事終えたね」って肩を叩いてあげたい気持ちがすごくしたの。というのは私もね、心で育ててきた石浦関。あの序二段とか三段目の頃なんてね、館内は人、まばらなんですよ。静かなんですよ。そこで本当に私も、「私一人が彼を見つめて育ててる」っていう、すごく幸せな時間を過ごしてきたの。でも、どんどん彼が力をつけていって。どんどん上がって十両、幕の内といって、ふと気がついた時に彼が大歓声を浴びてたわけ。で、その時に……寂しかった! それで……。
(ジェーン・スー)「私なんかがいなくても、いいんだ」って思っちゃうわけですね。
(長峰由紀)本当になんか、心の土俵にひとりぼっちで取り残されて、彼が巣立っていったような気持ちになって。だけど、私は相談者さんと違うところは、「ちょっと待てよ。私が目指していたのはこの歓声だろ? この声援だろ? そこまで成長することを待っていたんだろ?」と。それで、涙を拭いたの。
(ジェーン・スー)フフフ(笑)。拭きました?
(長峰由紀)で、「ひと仕事」ってさっき言ったけど、ニ仕事目に着手したの。
(ジェーン・スー)由紀はニ仕事目に着手した! 具体的になにをやったんですか?
(長峰由紀)それはなにか?っていうと、さらに上を目指す。で、技術的指導をすることにしたの。
(ジェーン・スー)なにを言ってるの?
(長峰由紀)フフフ(笑)。あの、ダメ出しをするハードルを上げていって、もっと強くなるために、どうしたら負けないのか?っていうことを。いままではただ「がんばれ、がんばれ!」だったのが、本当の親方になれた気がしたの。
(ジェーン・スー)これからは、ここをもっとこうした方がいいよと。
(長峰由紀)そう。だから音楽でしょう? もっと音楽性を高めるため、実力のあるバンドになるためにどうしたらいいのか? 一緒に考えたらどうなのよ?
(ジェーン・スー)「一緒に考える」ってどういうこと?
(長峰由紀)心の中で、ですよ。
(ジェーン・スー)全ては心の中で。
(長峰由紀)だから「見つめてくれなくなった」とか「目と目を合わせてくれなかった」っていうのは私には最初からない。
(ジェーン・スー)まあ、そうですよね。
(長峰由紀)見返りを求めてないもん。
(ジェーン・スー)やっぱりね、人間居場所がほしいんですよ。全ての悩みはそうだなって最近、よーくわかってきて。居場所があるかないかで生き死ににもかかわるぐらい、人間にとっては大事なことだと思うんですよ。っていうのは、他者がいないと自分って認識できないでしょう?
(長峰由紀)そうですね。他人によって。
(ジェーン・スー)で、他者と自分の間にしか自分って成立しないんですよ。存在しないんですよ。だから、長峰さんと私の間にいる私と、堀井さんと私の間にいる私っていうのは別人で。他者がいることによって自己の存在っていうのが立ち上ってくるわけですから。それがなくなっちゃうのが寂しいという気持ちもわからいでもない。
(長峰由紀)だけど、心の中にはいるんですよ。その心、さらに育てていくっていう風にいかないのかな?
(ジェーン・スー)直接の接点がないっていう……。
(長峰由紀)でも、見られるじゃない。目の前に生きたその人が、好きなことをやって輝いているわけでしょう? それでは、ダメなの?
(ジェーン・スー)自分も楽しませてもらっているしね。だからちょっとやっぱり……寂しいんだよね。いまね。単純に。
(長峰由紀)だからそこを乗り越えたよね。私も。
(ジェーン・スー)そうね。だから、このバンドを石浦とすると……長峰さんになれるかどうか?っていう。
(長峰由紀)そうね。で、やっぱり仕事は終わらないもん。
(ジェーン・スー)フフフ(笑)。親方としての仕事は(笑)。
(長峰由紀)彼が引退するまで、私の親方の仕事は終わらない!
(ジェーン・スー)「心の断髪式」とかありそうですね。
(長峰由紀)切るよ!(キッパリ)。
(ジェーン・スー)フハハハハッ!
(長峰由紀)もちろん、心で切りに行きますよ。最後に。最後に切る。
(ジェーン・スー)そうか。ちょっと相談者さんも……心の断髪式まで(笑)。まあ、どういうバンドかわからないですけどね。ちょっといろいろと心で育ててみるか、または新しい青田刈りをするか。
(長峰由紀)そう。スーさんのそっちは現実的でいいと思う(笑)。
(ジェーン・スー)いえいえ。どちらかお好きな方を選んでみてはいかがでしょう?
(中略)
(長峰由紀)時刻は12時18分。この後は、すすめて小森谷さん!
(小森谷徹)僕はこの相談者さんが応援しているバンドみたいにすごい大きな会場でやったわけじゃないけど、小劇場という、本当に目の前にお客さんがいて、汗がお互いに飛び散るようなところでお芝居をやっていたから。そういう毎回来てくれる目の前のファンの方ってよく覚えているんですよ。で、そういう方と帰りに出待ちっていってね、楽屋口のところで待っていてくれてちょっとお話をしたりとかっていうのも楽しい一時だったりして。それがたとえばだんだん大きい会場になって、そのファンの方の顔もちょっと離れて見えないような会場になったとしても、そういう方がいるのってわかりますよ。
(ジェーン・スー)ああ、そう?
(小森谷徹)結構遠くまでわかる。もちろんドーム公演やってそのドームの外野席にいるのはわからないかもしれないけどさ。だったり、あとはたとえば出待ちしていてね。忙しくなってもバスにババッと乗り込んでいったとしても、その一瞬でやっぱりわかるものだから、応援を僕は続けてあげたらいいと思うし。それから、たしかに親方になったつもりで、今後はこういう音楽性になったらいいんじゃないか、みたいに考えるのも大事だよ。
(長峰由紀)勝手にね(笑)。
(小森谷徹)そうそう。ただ、気分を変えることが大事ですよね。いつも同じように小さいライブハウスで一緒にやっているのから、少し自分は引いた、大人の余裕だということで。だからやっぱりコーヒーでも一杯飲みながら……ブルックスのコーヒーとかを入れちゃってさ。
<書き起こしおわり>