いとうせいこう ダースレイダー 日本語ラップ対談 後編

いとうせいこう・ダースレイダー 日本語ラップ対談 前編 J-WAVE

いとうせいこうさんとダースレイダーさんがJ-WAVE『The Music Special』で日本語とラップについて対談。日本語ラップの進化の歴史などについて話していました。

(いとうせいこう)『建設的』っていうのは30年前で。『東京ブロンクス』っていうすごく、割とみんな歌えて……客も歌っているラップっていうのはこれが初めてだったと思うんだけど。

(ダースレイダー)うん。

(いとうせいこう)それぐらいが俺の最初のラップなのかな?って自分でも思い込んじゃっていたわけ。でも、この『建設的』の1年前か2年前に『業界くん物語』っていうふざけたコントとかがいっぱい入っているアルバムを俺がプロデュースしたわけですよ。まだ講談社にいた時期ですけど。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)で、そこに『業界こんなもんだラップ』っていうのがあるんだよ。

『業界こんなもんだラップ』

(いとうせいこう)それは、リズムトラックはZ-3MC’sっていうのが当時やっていた「ダッツッ、ダダダダッ!」っていうのがすごくかっこよかったんだけど。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)ラテン・ラスカルズ(Latin Rascals)とかああいう連中一派の。そのリズムをヤン(富田)さんが組んできたの。「ラップをやりたい」って。で、そこにもう、「ズールーキングならヘマしねぇ なんせナンバーワンDJ in 東京ブロンクス」って。「東京ブロンクス」っていうのがもう入っているわけ。

(ダースレイダー)もう言ってるんですね。

(いとうせいこう)で、この(言葉の)乗せ方自体ももう、乗ってるの。だから俺、つまりそのリズムトラックが上がってきて書いているうちにハマっちゃったんだね。もう、それが。だからいろいろ考えたっていうよりは。で、またこれが「ズールーキングなら、ヘマしねぇ、はい、ナンバーワンDJ、 in 東京ブロンクス」だったら音頭じゃん?

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)それをやっぱり食いながら入っているよね。「ズールーキングならヘマしねぇ なんせナンバーワンDJ in 東京ブロンクス」って。これが最初のたぶん日本語に乗せた一行目なんだよ。

(ダースレイダー)うんうんうん。それこそ、ECDがその後に「業界くんから数えて10年」っていうラインをつけるんですよね。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)だからそれが、たぶんECD的な認識でも『業界くん』がスタート。で、そっから10年たって……っていうのからまた20年たっているんですけども(笑)。

(いとうせいこう)そうだよ。だから意外にそういう風に……まあとにかく5・7・5をいかに「タタタタタ、タタタタタタタ、タタタタタ」の音頭にならないようにするかの……この休符をどう埋めるか? の問題。休符のところより前に少し食って入っちゃう。あるいは、「……編集長(マネーマネー!)」って誰かが後ろで言うっていうラップスタイルだね。

(ダースレイダー)うんうんうん。

(いとうせいこう)これはそのレコーディングの時に(高木)完ちゃんが勝手にやったのかもしれないし。もうみんながその休符をどうごまかしていくか?っていうことに全力を注いだら、できちゃったんだよね。たぶん。だから、乗れちゃったんだよ、自転車に。

(ダースレイダー)うんうんうん。まあ、逆に言うとその5・7・5・7・7っていうリズムが日本語になんでこんなにフィットするのか?っていうのもこのタイミングで逆に考えてみたらね、結構……

(いとうせいこう)そうだろ? ああ、お前も考えてるんだ。やっぱ。俺もそれ、考えてるんだよ、ずっと。

(ダースレイダー)ちょっとこの間発売になった『ユリイカ』で「短歌を書いてくれ」って依頼があって。で、書いたことなかったんですけど、書いてみたら「ああ、こうやっていくとこの単語の長さとこの単語の長さで、この後にまたこれが来ると……あっ、語呂がいい!」みたいな。この「語呂がいい」っていう感覚っていうのは日本の言葉がずーっと積み上げてきたなにかしらなんですよね。

(いとうせいこう)そうそう。なにかしらなの。

(ダースレイダー)で、それはじゃあなんでそうなったか?っていうのと、まあヒップホップのビートっていうのは、やっぱりそれじゃなくしようっていうのが最初の日本語をラップにするっていう時に5・7・5にならないようにしようっていうモチベーションが最初にすごいやっぱり……

(いとうせいこう)そう。あった。

(ダースレイダー)だから、おばちゃんに「ラップしてみて」っていうと5・7・5になっちゃうみたいな。「ナントカナントカナントカでー……」っていう(笑)。

(いとうせいこう)「あ、ホイ!」ってことになっちゃう。

(ダースレイダー)そうですね。それじゃないリズムに構築しようっていうのが最初の。で、いまはたぶんもうそれができるようになったっていう後で、その5・7・5とかがそもそも持っていた意味合いだったりっていうのを考えると結構面白いかなって。

(いとうせいこう)うん。そうなんだよ! 俺はそこに重点を置いて……もちろん5・7・5のままだとやっぱり音頭になっちゃうけど、ほんのちょっとだけズレているだけでこれだけ5・7・5が乗ると。休符を恐れないということを、定形とはなにか?っていう問題と一緒にやっていこうと思っていて。で、いま気づいていることは少なくともラップだのなんだのっていうのはだいたいジャマイカからすごい大きい影響を与えられているわけだ。ダブミュージックもそうだし。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)そうするとさ、ジャマイカの場合はトースティングって言うけど。ラップみたいに乗せるのをね。完全に5・7・5に乗っていくわけよ。「タララララ、タララララララ、ダララララ……」って、5・7・5じゃん、これ。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)だからジャマイカは5・7・5が乗っているわけ。で、英語になると乗らないわけ。じゃあこのジャマイカン・トースティング的な5・7・5をもっと日本語に……まあ日本語でね、この「タララララ、タララララララ……」に乗せていくと、たぶん日本語の発音とこのメロディーが合わないから、ちょっとわざとらしくなるの。じゃあ、どうしたらいいんだろう?「タララララ、タララララララ、ラララララ……」ってメロディーを消していけば、ダブを飛ばしたら結構染みてくるんじゃないか?っていうところまでいま来ていて。

(ダースレイダー)なるほど。

(いとうせいこう)俺はいま、ダブフォース(DUBFORCE)っていうバンドで……まあ一緒にやっていたダブマスター・X(Dub Master X)が音響だけど。ここにダブをかけてもらうことによって、ダブによって間を埋めていくっていうのをすると、意外に「菜の花や月は東に日は西に」って(与謝)蕪村のを言ったり、「閑さや岩にしみ入る蝉の声……声……声……(ズダン、ダララッ、ドッドッドッ……)」って、ハマるんだよね。これが。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)これは何事であろうか?っていうことがいまの考える主眼で。これはラップを自分が始めた時と同じような、どっかで常になにかそのことを考えてっていう状態になって。そしたらさ、人に聞くと、まあいまダースが言ってくれたけど、他の連中も「いまのラッパーはもう5・7・5をもう恐れないから平気で俳句的に乗せてくるやつらもいますよ、若いやつは」とかっていうわけよ。

(ダースレイダー)うんうん。それはやっぱりそこはフラットになったっていう意味では、対抗して、そうじゃなくしよう。アンチっていうのから、次のステージに上がるっていう段階には日本語的に来ているのかなっていう気がしましたよね。だから、やっぱりそうじゃないもの、そうじゃないものっていうのを求めてきたのから、そうじゃないもののレベルが1個上に上がったっていうか。

(いとうせいこう)うんうんうん。

(ダースレイダー)まあ日本語でやれることっていうのの可能性が……同時に、ラップっていうことの縛りで言うと常にアメリカっていう軸との距離感っていうのが……

(いとうせいこう)はいはい。そうだ、そうだ。

(ダースレイダー)で、それはいまの若い子でも、いわゆる日本語を日本語として発音するのか? 英語として発音するのか?っていうので。で、それも昔はNGっていうか。「日本語じゃないじゃん、それ。横文字多すぎて、どうすんの?」っていうのも、でもいまの子はそういう葛藤がなくて。かっこよければ、日本語の発音を語尾とかも伸ばしちゃったりして英語っぽくしちゃっても全然ありっていう。

(いとうせいこう)はいはい。

日本語・英語論争

(ダースレイダー)だからそこに葛藤なくやれている以上、もうやった方がいいなとは思うんですよね。やっぱり葛藤があってブレーキかけながらやっていると、なんか中途半端なものになっちゃうんですけど。もう10代の子とかは、「えっ、そのかっこいい感じ、なに?」っていう。もう、聞いた感じは英語なんだけど、実はよく見ていくと日本語だったみたいなところっていうのの行く先っていうのが結構あって。

(いとうせいこう)じゃあ両方行ってるんだ。

(ダースレイダー)両方行ってるんですよ。ある種日本語的なものの可能性も当然やっているやつもいるんですけど、やっぱり音ありきっていうか。聞いた感じを世界標準にしたいみたいな。

(いとうせいこう)うんうんうん。いや、それはまさにさ、桑田(佳祐)さんが出てきた時と同じだよね。「桑田佳祐は日本語じゃない。全然日本語に聞こえない!」って言われたけど……

(ダースレイダー)それこそがやりたかったっていう。

(いとうせいこう)そうそうそう! そういう形で日本語を自分のものにしたかった。ロックにしたかった。つまり、日本語論争に別の軸を与えちゃった。「(ロックを)日本語をでやるか? 日本語でやらないか? いや、日本語なんだけど英語に聞こえる」っていう。

(ダースレイダー)だからラップもまさにそれが論争としてもあったし。やっぱり英語をどれだけ入れるのか? とか。さっき言ったファンクの定番フレーズの「Clap your hands」とか、「Stamp your feet」とか、そういう定番フレーズはいいけど……

(いとうせいこう)「Hey, Everybody!」はいいんだけど……

(ダースレイダー)いいんだけどとか。じゃあ、そこまではいいけど、その先の言葉も……で、ブッダブランド(BUDDHA BRAND)とかが出てきた時に、要はニューヨークから帰ってきたから平気で英語がどんどん入っていて。「でも、あの人たちはニューヨーク帰りだから……」みたいな。なんかそういう葛藤があったのが、いまの若い子はもうそんなのはなくて。

(いとうせいこう)うんうん。

(ダースレイダー)普通に使いたかったら、なんかカタカナ英語なんだけど。全然それ、アメリカ人には絶対に伝わらないぞっていうのも平気でかっこいいからやっちゃうみたいな。

(いとうせいこう)ああー。

(中略)

日本の英語教育の弊害

(ダースレイダー)ここに来て、僕は日本語教育っていうのとは別にやっぱり日本の英語教育の弊害っていうのを真剣に考えなくちゃいけないっていうか。日本って世界レベルで見れば英語教育にかける時間がすごい多いんですよ。まあ、文法だなんだって。でも、しゃべれる人の数は本当に少ない。

(いとうせいこう)本当に少ない。

(ダースレイダー)つまり、コミュニケーションのツールとして英語が使えてないんですよ。だけど、たとえばタイとか、まあ韓国もそうかもしれないし、香港、台湾でもそうかもしれないですけど。みんなやっぱり英語を第二言語として使っていて。でも、やっぱりその国ごとの訛りっていうのはあって。

(いとうせいこう)そうなんだよ! 訛りを恐れない国の方がしゃべっているんだよね。

(ダースレイダー)そうなんです。だからインド行ったらインド訛りの英語だし、ジャマイカだったら……

(いとうせいこう)そうそう。「トゥリーハンダレッダラー(Three Hundred Dollars)!」だからね。

(ダースレイダー)で、どこに行っても、アフリカに行ったらアフリカの英語があるんですよ。だけど、日本は日本の英語がないんですよ。だけど、このラップが広がっていくことによって日本の英語っていうのが確立される可能性があるんじゃないかな? と。

(いとうせいこう)なるほど。面白いことを言うね。つまり、クレオールという言語なんだけど。言語と言語が交じることによって別な言語ができていくっていう。それはたしかに日本語のクレオールって、まあプラスチックス(Plastics)がね、ちょっとだけやって。「コピー、コピコピ、コピー」とか言っていた時には、「あっ、日本語の英語だな」っていうのはあったけど。

(ダースレイダー)うんうん。

(いとうせいこう)それはあるパロディーとしてだけ残って、実際の英語にはならなかったけど。でも、実際にいまから俺たちが若い子たちが平気でしゃべる日本語的な英語によって新しいクレオールを得ると。

(ダースレイダー)たとえば、ヒップホップの定番挨拶「What’s Up?」ってあるんですけど、それを結構若い子は「ワッサ、ワッサ?」みたいな。あるんですよ。それも、日本語のカタカナになっちゃってるんですけど、「ワッサ、ワッサ?」みたいなので。でも、それはたぶん日本語英語の走りなんですよね。

(いとうせいこう)そうかそうか。

(ダースレイダー)まあ、もしかしたらそういうことを「コーヒー」とかそういった和製英語。「ミックスジュース」じゃないけども。そういったものとかも可能性としてはあるんですけども。たぶん、よりコミュニケーションツールとしての英語と日本語が混ざったものっていうのがヒップホップスラングとかの日本語化によって。もう「フレッシュ」とかもそうなんですけども。より、日本の日常の中に溶け込んでいくことによって、そういったクレオール的な日本語英語っていうのが……「ジャングリッシュ(Janglish)っていうんですかね?

(いとうせいこう)ああ、ジャングリッシュだね。

(ダースレイダー)もしかしたら、そのジャングリッシュが確立されることで、日本がようやく世界のポップフィールドにちゃんと参入できるようになるんじゃないかな?って思うんですよね。

(いとうせいこう)それでメロディーで歌えたらね。

(ダースレイダー)で、スリランカの人がポップソングを作っても世界の人がわかるんですよ。英語だから、一応。訛っているとはいえ、英語だから。だけど、日本語の完全な日本語でポップソングを作っても、やっぱりわかってもらえないっていうところが、ジャングリッシュが確立されれば、そういった方向に行くんじゃないかな?っていうのが、実はその日本語ラップのある種ひとつの方向性として可能性が……

(いとうせいこう)このフィールドを開く可能性があると。

(ダースレイダー)そうなんですよね。

(いとうせいこう)そうなると、やっぱりその日本語を使っている人間が脳の中でなにか新しいフィールドを実はいま、シナプスを繋いで、それを広げている。と、同時に、外に出て行った言語として、もしかしてジャングリッシュみたいなものができていきつつあることによって、実際にリアルな世界でも日本語ってういうものが違う形で世界に出て行く。

(ダースレイダー)そうなんですよ。だから逆にジャングリッシュになることによって、日本の単語が世界に紹介されていくとか。まあ、「カタナ」とか「ニンジャ」とかそういうのはいまも……

(いとうせいこう)大好きだからね。

(ダースレイダー)だから、そういうのがいわゆる公用語的なところに仲間入りしていくっていう意味のグローバル化みたいなのが。結構、しかもラップでそれが生まれるのって、やっぱりバトルって相手がいて。相手とのやり取りだから、そこでコミュニケーションとして成立していないと決まり手にはならない。

(いとうせいこう)そうだよね。

(ダースレイダー)だから決まり手になるっていうことは、コミュニケーションとして成立していて。そこに観客も沸くっていうことは、観客とのコミュニケーションも成立しているというもののレベルがいま1個ずつ上がっているから。だからそこが上がったものっていうのをちゃんと定着していけば、そこから新しい日本語っていうのが……

(いとうせいこう)うん。ディベートの文化があまりになさすぎるから。やっぱり、テレビとかで見ているディベートもさ、ただ一方的にものを言うだけでしょ? でも、あんなの『フリースタイルダンジョン』に出てきてたら全然点、入らないよ。

(ダースレイダー)そうなんですよ。

ディベート下手な日本人

(いとうせいこう)相手の言うことをどうひっくり返すか? で、決めて相手がもうボロボロになっていく。そうするとみんなの手が上がる。これはちゃんとした論理で、ユーモアで語るっていう、世界的なレベルのコミュニケーションが日本がすっごく下手くそだから。

(ダースレイダー)政治家の討論とかを見ていたり、まあ政治家じゃなくても、『朝ナマ(朝まで生テレビ!)』とかでもなんでもいいんですけども。やっぱりアンサーがないみたいな(笑)。

(いとうせいこう)そう! アンサーがないんだよ!

(ダースレイダー)それは言ってることを的確につかんで、そこの、「言っているこの単語でこういう文脈で言ったんだったら、これはこういう意味で……」っていうやり取りを……

(いとうせいこう)「こういう風になっちゃいますよ、あなた」って言えないじゃん。

(ダースレイダー)で、もし、ああいった人たちがヒップホップ経由のフリースタイルっていうものをちゃんとわかっていたら、もっと上手くできるのにな……っていうのは、制作発表の演説とか。やっぱりそれってアメリカの政治家とかのスピーチライターとかが。

(いとうせいこう)そうなんだよ。やっぱりかっこいいんだもん。オバマの演説とか、やっぱりなんだかんだ言ってもさ。

(ダースレイダー)それはリズム感だったり、別にそんなばっちりラップっていうわけじゃないんですけども。やっぱりそれを経た後の考え方っていうか。スピーチライターがやっぱりそういったものを知った上で、「ここでこういう言葉を言って、そしたらパンチラインがこれです」っていってお客さんが「ワーッ!」ってなるっていうのがちゃんとできていて。それってやっぱり、別に海外を褒めまくってもしょうがないんですけども、やっぱり向こうである種のポジションにいる政治家っていうのはそれをちゃんと自分の言葉として……

(いとうせいこう)言葉の力っていうね。

(ダースレイダー)で、自分の言葉としてなにも見ないでバシッとしゃべれるっていうのは、ある種土壌がもうあるっていうことなんですね。

(いとうせいこう)だからもう、そもそもラップ自体が絶対にスピーチから来ているからね。

(ダースレイダー)だからマーティン・ルーサー・キングとか。

(いとうせいこう)そう。演説から来ているから。

(ダースレイダー)牧師さんの説教とかっていうのもひとつのラップの雛形だし。なんか、そうやって相手に言葉を投げかけるっていう文化が日本に先行している場所がいままであったのが、いまは日本でもブームになっているおかげで相手にものを言うっていうことのレベルが上がりつつあるんじゃないかな?って……

(いとうせいこう)じゃあ、やっぱりラジオで(フリースタイルバトル番組を)やった方がいいんじゃないか?

(ダースレイダー)そうなんですよね(笑)。

(いとうせいこう)お前、やれよ!

(ダースレイダー)(笑)。もう、聞かないと始まらないですからね。

(中略)

(いとうせいこう)ダースレイダーがやっぱりビジョンを持っているっていうことがわかったら、もう任すわ!

(ダースレイダー)任されたんすか?(笑)。まあでも、やっぱり日々これって考えるきっかけっていうか。

(いとうせいこう)そうなんだよ!

(ダースレイダー)あと、やっぱり刺激がないことをやってもしょうがないですよねっていうことはあるから。じゃあ、なんでずっとやっているんだ?って言ったらやっぱり、まだやっていないことがありそうだなっていう。

(いとうせいこう)そうなんだよな。

(ダースレイダー)日本語を使って。まあラップっていうのはボーカルテクニックだから。でもこれって、たとえばニューヨークのすごいイケてるラッパー、たとえばラキム(Rakim)でもナズ(Nas)でもいいんですけど。聞いていてすごいラップも上手なんだけど、「日本語でラップしたら俺の方が上手いんじゃないの?」っていう可能性があるわけじゃないですか。

(いとうせいこう)そうだね。

(ダースレイダー)で、それがテクニックとかボーカルの演奏方法っていうだけじゃなくて、日本語っていう扱っている素材そのものにも相互影響していくっていうのはすごくワクワクすることだし。「あ、こんな言葉の使い方、あったんだ!」っていう。

(いとうせいこう)そうだよ。だからダースは自分のバンドを立ち上げてさ。俺も見に行ってるけど。やっぱりファンクで日本語を扱っているじゃん。

(ダースレイダー)これなんかも僕、いまThe Bassons(ザ・ベイソンズ)っていうバンドでいま、ツアーをまさに回っていて。せいこうさんにも来ていただいて。それこそ、せいこうさんと最初のそのインクスティックに出ていたダブマスター・Xさんが第四のメンバーとしてPAについていてくれているんですけど。やっぱりドラムとベースに日本語を乗っけるっていうのって、結構言葉がむき出しになるから。

The Bassons

(いとうせいこう)そうなんだよ。

(ダースレイダー)だからそれって、すごい刺激があって。やっぱりごまかせないというか。もう言ったことがそのまま入ってくるから。「よく恥ずかしくないね」みたいな。

(いとうせいこう)言葉が楽器同様だからね。

(ダースレイダー)まあそういったところでの反応だったり、そういったところの受け答えっていうか。お客さんとかにも、「えっ、こんなに言葉、聞こえちゃうの?」みたいな。「恥ずかしいわ」みたいなところも含めて、やっていて面白いっていうのもあるし。

(いとうせいこう)うん。

(ダースレイダー)その先になんかあるんじゃないかな?っていうのもやっぱり、ダブフォースで5・7・5的なものを……

(いとうせいこう)俺がやっている一方で、ダースはダースでこういう日本語をよりダンサブルなところに乗っけていく日本語でダースはやっていると。俺はそこを1回外したところ、ダンサブルなところを外しながら、ちょっとリズムに乗ったり外したりのところで、朗読的にやってみて。結局、言っているように刺激がほしいっていうのと、なにか見つけたい。

(ダースレイダー)そうですね。なにかがあるかな?って、そうやって箱を開け続けるっていうのが、こういうことをやってしまったことの宿命だと思うんですけど。まあ、ずーっと開けた結果空だったとしても、実は開けている作業の中にもうすでに発見があるから。開け方を考えたりとか(笑)。

(いとうせいこう)見ている若いやつはいる。まあ、別に老いた、俺より年上の人がなにかに気づいて始めてくれてもいいわけだ。

(ダースレイダー)うんうん。それもやっぱり常にありますからね。さっきも言ったように、70才の人の方が言葉をいっぱい知っているわけだから、そのいっぱい知っている言葉を全開で出してこられたら、もう全然若造は敵わない!っていうような(笑)。

(いとうせいこう)敵わないよ。もうすげーことわざラップとか出してきたら。「うわっ!」みたいな。

(ダースレイダー)だから、そういうった可能性も常にあるし。

(いとうせいこう)あるんだよな。

(ダースレイダー)そのひとつの起爆剤というかエネルギーが集まる可能性として、いまのフリースタイルブームってやっぱり肯定的にとらえるとしたら、こうやってブームになっている間にそういった相互作用が起こり得るから。それをどれだけつなげていくか?っていうことになると思うんですよね。

(いとうせいこう)俺はこのことをきれいに収束させる必要は全くないから、もう爆発的にいけるところまでいけばいいと思っているわけ。このブームが。

(ダースレイダー)まあ破片がいろんな形でいろんな人に刺さると思うし。

(いとうせいこう)そういうこと。だからもう、それは全然恐れることも何もなく。ただ、面白がってくれたらどこにでも出て行って、面白いことをやってみせる。で、さらにそこにムーブメントを作っていく。きっとその先に想像もしなかった面白いことがいろいろ残っていく。これだけはまあ、たしかな……

(ダースレイダー)特にブームっていう言い方をする時にブームっていう言葉に対してのアンチ的なスタンスで「興味ないよ、ブームなんかつまんないよ」とか「ブームには乗らないのが俺のスタイルだ」みたいになると思うんですけども。まあそれって、「ニワカが増えてつまんなかくなった」とかっていう……

(いとうせいこう)うん。かならず言うからね。

(ダースレイダー)で、それもそのことを、じゃあ乗らないんだったら乗らない分の反対側の表現っていうのを探求していればいいと思うんですね。「こういうやり方じゃないんだよ。いま流行っているこんなの、つまんねーんだ。本当はこっちが面白いんだ!」っていうのを出していくタイミング。やっぱりそれだけデカいブームっていうのがあれば、逆サイドがドーンと空いているっていう考え方もあるから。

(いとうせいこう)インストゥルメンタルが空いてるよ、いま。日本が溢れすぎているから。インストやれよ。

(ダースレイダー)なんかそういった発想も、ブームだからこそ生まれると思うんですよ。やっぱりメジャーがドーンとなったらアンダーグラウンドが広がるし……っていう意味では、やっぱりこういう状況っていうのはいろんなものが生まれてくる。じゃあその後、「こんな焼け野原になっちまったよ。ブームの後は……」って言うけど、「焼け野原だったらなんでも作れるじゃん!」っていう発想も。

(いとうせいこう)草が生えるじゃねえか。なあ。

(ダースレイダー)だからそういったことがいま現象としては起こっているから、そこからなにをやっていくか?っていう可能性がすごいいま、広いと思うんですよね。

(いとうせいこう)全くだ。

(中略)

(いとうせいこう)じゃあな、俺の活動のお知らせをして終わるわ。

(ダースレイダー)(笑)

(いとうせいこう)そのデビューアルバム『建設的』から30周年たって、他のアルバムからのカバーもあるんだけど、いろんな人がカバーをしてくれて。それこそ、ラップ界だとMCUとか……

(ダースレイダー)それ、MCUとTAICHI MASTERが制作日記みたいなのをFacebookで書いてあって。最初にこの曲をやったのは10代のあの時で……みたいな。それを含めて聞くと、この曲、あの時になにも考えずにカバーしていた曲が、まさかこのタイミングで本録りするの? みたいな(笑)。

(いとうせいこう)あいつら、中学の時に彼らがやったのは『BODY BLOW』っていう曲だけど。中学の時にまさにカバーしていたっていうのを今回、実際に自分たちでカバーしたと。それで、サイプレス上野とロベルト吉野は『マイク一本』っていう曲をやってもらったり、RHYMESTERにも『噂だけの世紀末』。スチャダラパーとロボ宙に『MONEY』をやってもらって。で、俺とヤンさんはまた『東京ブロンクス』をセルフカバーしているから。

(ダースレイダー)はいはいはい。

(いとうせいこう)この音、すごいよ! 15分以上あるからね(笑)。

(ダースレイダー)(笑)。いまのヤン富田サウンドでやっているわけですね。

(いとうせいこう)そう。完全にもう現代音楽とヒップホップが融合して、しかも、ただ頭だけでやっていない。ものすごい肉体性のある新しいものをやっているし、もちろんそれ以外にも、(高橋)幸宏さんだ、竹中(直人)さんだ、岡村(靖幸)ちゃんだ、それこそ(須永)辰緒だ、真心ブラザーズ、大竹まこと、いろんな人たちがやってくれて。しかも、9月30日と10月1日にはフェスをやると。

(ダースレイダー)はい。これが、東京体育館で。

(いとうせいこう)東京体育館でやらかすよ。全日、人が違うからね。で、キョンキョンも出ることになったから。しかもキョンキョンは、それこそいま俺が言っていたダブフォースっていうダブのバンド。屋敷豪太、増井(朗人)くん。つまり、昔のMUTE BEAT。ダブマスター・X。こういう人たちと一緒に……まあ小泉さんはダブアルバムを出したことがあるからね。で、その中に『La La La…』っていう曲があるんだけど。たぶん、『La La La…』は歌わざるを得ないと思うんだよね。

(ダースレイダー)歌わざるを得ない(笑)。

(いとうせいこう)みたいなことも。あと、KICK THE CAN CREWも10月1日にやるし。まあこれはもう、誰が出るかはホームページで見てくれれば。もうとんでもない祝賀会になっておりますんで。

(ダースレイダー)はい。もう30年たったということですからね。

(いとうせいこう)そうなんだよ。そしたら、ちょうどこういう節目になって。まあ、良かったなと思って。僕、こういう時にさ、たまたま初期にいましたっていう人間として出ていって、なんとなくそのままだと嫌だから、やっぱりこのフェスで1回区切りをつけて。俺は新しいことをしたいし、もっと新しくヒップホップ、ラップをする人にも増えてほしいし。トラディショナルをやる人だって、もちろん上手ければそれでいいと思うし。でもたぶんまあ、区切りがあってよかったなと思う。

(ダースレイダー)うんうん。なるほど、なるほど。

(いとうせいこう)ダースもファンクバンドやっているし。

(ダースレイダー)ねえ。僕のバンドもこの『建設的』に本当は参加したかった(笑)。

(いとうせいこう)本当だよな! お前、もうちょっと早く始めとけや(笑)。

(ダースレイダー)ちょっとね、かぶっちゃってね。時間が(笑)。まあ、僕はThe Bassonsっていうバンドをいま、ツアー回っているんですけども。この1週間前の9月23日に新宿のANTIKNOCKでツアーファイナルを予定しています。

(いとうせいこう)ツアーオープニングは俺もその場所で見てるよ。

(ダースレイダー)そっからグルグル回って、どう着地するか?っていうところでやっているんですけども。これも、僕、Twitterをやっていたりとかするので。「The Bassons」で……「ベース音」から「ベイソンズ」って。

(いとうせいこう)あ、そうか! そういう意味なのか。

(ダースレイダー)そうですね。

(いとうせいこう)俺は近頃のバンドではThe Bassonsだね。

(ダースレイダー)ありがとうございます。

(いとうせいこう)すごいいい、面白いことをやっていると思う。

(ダースレイダー)最近、ダブさんの車でライブハウスを回っているんで。その行きと帰りにダブマスター・Xさんに「お前、『ULTIMATE BREAKS & BEATS』をみんなにちゃんと聞かせてんのか?」みたいな、そういう話とかを(笑)。

(いとうせいこう)上からの抑圧が(笑)。「はい、先輩!」っていう(笑)。

(ダースレイダー)「もうちょっと少なく音を出せ。その方がいい。隙間を恐れるな」とかっていう話も。言葉を出す時に、さっき言った「休符を恐れるな」っていうのが実はすごい大事で。やっぱり言わないと不安になるっていうのは職業病なんですけど。僕らみたいな。「なんか言ってないとダメじゃないか?」って思うけど、「いや、言わないことで伝わることもあるんだよ」とか、「そこで止めるんだ」とかっていうのも……

(いとうせいこう)いや、さすがダブマスター・Xだね。ダブっていうものはそういうものだから。ON/OFFだよ。

(ダースレイダー)ON/OFFっていうのの快感っていうのを日本語でどうやるか?っていうのを、The BassonsはBassonsで追求していくっていうバンドなので。

(いとうせいこう)やられたなと俺は思っているよ。

(ダースレイダー)本当ですか?(笑)。

(いとうせいこう)まあ、ちょっと修行してくれよ。もっとダースがすごい……僕はやっぱり、結局リズム隊が好きだから。ドラムとベースと、そして声っていうものが作りだすリズムっていうのがいちばん原初的で強いから。やっぱり俺がいちばん最初に聞いたヒップホップも「ドーン、ダッ、ドーンドーン、カコーン!」っていっていただけだもん。

(ダースレイダー)ドラムだけですからね。

(いとうせいこう)ドラムだけだもん。後、なにも楽器鳴っていないもん。それで「ジギジギ……」とか言ってるだけだもん。それのなんとかっこよかったことか!

(ダースレイダー)うんうんうん。

(いとうせいこう)それをぜひ、みなさんにも見てほしいですね。

(中略)

(いとうせいこう)まあ以上、今後もダーストはいろいろこういうのがあるだろう。たぶん。

(ダースレイダー)はい。ちょっとそういった意味で、いきなりいろいろなお話を……

(いとうせいこう)理論編だよ。これが。まだまだあるぞ!

(ダースレイダー)(笑)。次回、乞うご期待で。ありがとうございます。

(いとうせいこう)よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/39227

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