町山智浩『レヴェナント:蘇えりし者』を語る

町山智浩『レヴェナント』とディカプリオのアカデミー賞受賞の可能性を語る たまむすび

映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で2016年アカデミー賞の最有力候補『レヴェナント:蘇りし者』を紹介。アカデミー賞主演男優賞を逃し続けるレオナルド・ディカプリオの受賞の可能性について話していました。

レヴェナント:蘇えりし者  (字幕版)

(山里亮太)町山さん、僕、『ブリッジ・オブ・スパイ』、見させていただきまして。

(町山智浩)あ、いかがでした?

(山里亮太)面白かったです。トム・ハンクス、かっこいいっすね!

(町山智浩)あの、お酒を、ウィスキーを飲む時に『ちょっとだけ水を入れてくれ』っていうシーン、わかりました?あれね、ウィスキーはそのまま飲むのが通だと思っている人が多いんですが、ちょっとだけ水を入れた方が美味いんですよ。

(赤江珠緒)おおー!

(山里亮太)そんな、豆知識(笑)。

(町山智浩)どうでもいいことでしたけど(笑)。香りが引き立って、甘みが出るんですけど。どうでもいいですね。あれ、トム・ハンクスは・・・

(赤江珠緒)そうだ。バーテンダーの人が『口の中にちょっとだけ水をふくんでから飲みなさい』って。

(町山智浩)そうなんですよ。あれは『通だ』っていうシーンなんですけども。どうでもいいですね。すいませんでした(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。あれも実話でしたけど、今日も実話のお話だとか。

(町山智浩)そうなんです。その前にね、イーグルス(Eagles)っていうアメリカのロックバンドのギタリストのグレン・フライ(Glenn Frey)さんが亡くなりまして。

(赤江珠緒)今日、訃報が。

(町山智浩)先週、デビッド・ボウイさんの話をしたんですけども。なんかね、僕が中学ぐらいでロックを聞き始めたころの人たちが次々と亡くなるんでね。なんかもう本当に歳とったなと思いますね。自分が(笑)。

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(赤江珠緒)こういう時、なんか続いたりしましてね。余計、寂しくなりますね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、まあそれは置いておいて、アカデミー賞の話をしたいと思いますけども。また実話でですね。『ブリッジ・オブ・スパイ』もアカデミー賞にノミネート、いくつかされていましたけども。今回は最多ノミネートのですね、『レヴェナント:蘇りし者』という映画を紹介します。

(赤江珠緒)はい。

アカデミー賞12部門ノミネート

(町山智浩)これはですね、12部門ノミネートですね。これはすごいですよ。だって、これ監督がですね、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥっていう監督なんですけど。この人、去年『バードマン』でアカデミー賞をとっているんですよ。

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(赤江珠緒)うん!『バードマン』の人か。

(町山智浩)で、下手すると2年連続とりそうなんですよね。そういう例はね、過去にもほとんどないですね。その他、監督賞と作品賞、主演男優賞レオナルド・ディカプリオ。ノミネートされましたね。あと、助演男優賞でトム・ハーディ。この人、『マッドマックス』の人ですね。今回、悪役ですけど、ノミネートされていまして。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)あと、撮影賞。この人もすごいんですよ。今回の『レヴェナント』の撮影はですね、エマニュエル・ルベツキっていう人なんですけど。この人、去年も一昨年もとっています。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)一昨年『ゼロ・グラビティ』でとってますね。で、去年『バードマン』でとってますね。で、今年、確実に予想しますね。この『レヴェナント』で確実にとります。ルベツキさんは。3年連続アカデミー撮影賞をとると思います。この人。

(赤江珠緒)えっ、すごいな。

(町山智浩)これ、始まって以来だと思います。アカデミー賞。これは断言していいと思います。あと、音響編集賞ですね。録音賞。編集賞。視覚効果賞。美術賞。メイクアップ賞。衣装デザイン賞の12部門ですね。

(山里亮太)すごいなー・・・

(町山智浩)で、たくさん部門賞にノミネートされている作品っていうのは、それだけ・・・アカデミー賞っていうのはハリウッドの映画業界人の内輪の投票なんで。各部門ごとに、それぞれの職業の人たちがいるわけですよね。メイクさんとか、照明さんとか、カメラマンとかね。で、その人たちの投票がたくさん集まるってことになるんですね。各部門賞にたくさんノミネートされている作品は。

(赤江珠緒)同業者から認められると。

(町山智浩)そうなんですよ。だから、この『レヴェナント』が作品賞にいちばん最有力候補だろうって言われているんですよ。で、まあ2年連続なんで、すごいなと思いますけど。監督はね。で、ただこの映画は撮影途中からいろんな噂を聞いていたんですよ。『レヴェナント』っていう映画は。『レヴェナント』っていうタイトルがよくわかんないんで、ちょっとそれを先に説明しますね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これは『帰ってきた人』っていう意味なんですね。で、これ『蘇りし者』っていうタイトルなんで、『地獄から生還して、死ぬ寸前までいって帰ってきた男、地獄から帰ってきた男』っていう意味です。『レヴェナント』は。

(赤江珠緒)なるほど。はい。

(町山智浩)まあ、アメリカ人もあんまり聞き慣れない言葉らしいですけどね。で、これはですね、実際にあった話で。1823年。だからすごい昔ですよ。まだアメリカの西側がアメリカ人によって移住が済んでいない。まだ先住民の、いわゆるインディアンの人たちが住んでいた時代です。はい。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、その西部のイエローストーンっていう、いま国立公園がありますけども。ロッキー山脈の方ですが。そこの方にですね、トラッパーと言われる、毛皮をとる狩人の人たちが、猟師の人たちがすごい探検隊みたいなのを作ってそこに入り込んでいたんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)っていうのは、そこは先住民の土地だから、勝手に入っているわけですよ。彼らは。まあ、強盗みたいなもんですね。人の家に行って。特に先住民が食料としているバッファローであるとか・・・アメリカの先住民の、この地域の人たちはほとんど動物の骨から家まで作って。服も作って、食べ物も食べて。何もかも、動物にたよって生活してるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それをその、白人たちが来て、大量に大虐殺したわけですね。動物たちを。したら、生活できなくなっちゃうんですよ。先住民は。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、先住民はみんな敵対してるんですよね。白人の猟師たちに。で、そこに入っていった猟師の中のグループの1人が今回のディカプリオ演じる主人公のヒュー・グラスという実在の人物です。で、彼らがイエローストーンの国立公園があるあたりに入っていった時に、熊に襲われちゃうんですよ。ヒュー・グラントさん・・・あ、ヒュー・グラスさんは。ごめんなさい。ヒュー・グラントは俳優でした(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)熊じゃなくて道端で変な女の人を買って襲われた人がヒュー・グラントでしたね(笑)。

(赤江珠緒)いやいやいや(笑)。

(町山智浩)で、ヒュー・グラスさんがね、襲われるわけですよ。その、猟師が。ディカプリオ演じる。で、熊にボッコンボッコンにされちゃうんですよ。で、子供を連れていた熊なんで、子供を守るために何でもするんですけどね。はい。で、ボコボコになったんで、足とかも折れてるし。喉は食い破られてるし。で、『これは死んだだろう』と思って、仲間の猟師たちが『これ、どうしよう?』ってことになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)はあ。

(町山智浩)でも、死んでないから殺すわけにはいかないし・・・と。

(赤江珠緒)息も絶え絶えっていう感じですか?

(町山智浩)息はね、してるんですけども、しゃべれないんです。喉をやられちゃっているからね。で、全身、要するに200キロ、300キロある熊に乗っかられたんで、もう内臓がどうなっているかわかんない状態なんですよ。で、どうしよう?でも、ここでこの人を抱えていたら、要するに先住民から追われている、狙われているわけだから。不法侵入者としてね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから脱出しなきゃならないんだけど、どうしよう、これを?ってことになって、その隊員の中の2人に猟師の隊長が、『すごいお金をあげるから、このヒュー・グラスが死ぬまで見届けろ。この場に居残って。死んだら、埋めてやれ。そして、俺たちに追いつけばいい』と言われるんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、2人がそのお金を受け取って、ずっと待つんですよ。死ぬのをね。ヒュー・グラスが。ところがなぜかね、熊にボコボコにやられているのにね、5日ぐらいたっても死なないんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、『参ったな。じゃあ、生きたまま埋めちゃおう』って埋めちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)でも、そうしないと本隊に追いつけなくなっちゃうから。で、ずっと意識があるんで、『この野郎、埋めやがって!』って思っていても、しゃべれないまま埋められちゃうんですね。彼は。で、その時、ロッキー山脈で零下20度ぐらいの寒さの中なんですね。真冬で。その後、その穴から蘇ってですね、320キロ這って進んで生き延びたっていう実話が元になっているんですよ。

(赤江珠緒)実話!?これ、ええーっ!?

(町山智浩)本当の話なんですよ、これ。

(赤江珠緒)すごい話ですね。

(町山智浩)すごい話なんですよ。で、今回この映画がすごく噂になったのは、撮影途中から撮影がトラブっているっていう噂がずーっと流れていたんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)どうしてか?っていうと、まず最初に、冬のイエローストーンで実際に撮影をしようとしていたんですよ。で、このイニャリトゥっていう監督は・・・この話っていうのはすごく有名な話なんで。このヒュー・グラスの熊に襲われた話っていうのはすごく有名なんで、過去に映画になっているんですね。すでに。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、1972年に『荒野に生きる』っていうタイトルでリチャード・ハリス主演で映画になっていて。話、ほとんど同じです。この1972年の『荒野に生きる』と今回の『レヴェナント』は。

(赤江珠緒)そうなんですか。じゃあ、アメリカの方はみんな知っているようなお話。

(町山智浩)アメリカの人は結構、歌にもなっていたり。学校で先生が話したりするような内容なんですよ。で、すごく有名なんで、今回ぜんぜん違う映画にしようとしたんですね。このイニャリトゥ監督は。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)どういう風にしたか?っていうと、実際に起こった場所で、おんなじ状況で、一切のスタントとか特殊撮影、CGを使わないで撮るっていうのがコンセプトだったんですよ。

(赤江珠緒)同じ場所で?

トラブル続きの撮影

(町山智浩)それが・・・大変な事態になっていったんですね。まず、実際に起こった場所で撮ろうとしたら、上手く撮れなかったんですよ。雪不足だったり景色が変わっていたりして。で、じゃあもっと広いところに行こうってことで、カナダのカルガリーの方に移動するんですよ。で、そこで撮るんですけど、まず零下20度から40度ぐらいにまで下がるらしいんですよ。そこが。

(赤江珠緒)うわー・・・うんうん。

(町山智浩)で、低体温になっちゃうし。スタッフもキャストもディカプリオも。しかもですね、機材が凍って動かなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)過酷すぎる!

(町山智浩)過酷なんですよ。で、それだけじゃなくて、撮影監督。このルベツキっていう人は、すごく広角レンズでもって、手前のディカプリオをギリギリの、顔の5センチぐらいのところにカメラを置いてですね。それと風景を同時に撮ろうとするんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)っていうのは、すごく絞り込んで広角レンズで撮るとですね、すごく近くとすごく遠くの両方にピントが合うんですよ。

(赤江珠緒)なんか、虫の映画とか、時々ね、そういう感じで撮ると迫力があるって。

(町山智浩)虫の映画、そうなのかよくわからないですけど(笑)。

(赤江珠緒)あるんですよ、あるんですよ(笑)。

(町山智浩)まあ、そうやって撮ると撮れるんですが、絞り込むっていうことと、あと、ライトを使うと振り回せなくなるんですよ。光源がはっきりしちゃうから。だから、光がグルーッと回っている状態っていうのは、夜明けの日暮れだけ、光が全部回るんですよね。空に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)すると、影がなくなってカメラがブンブン振り回せるんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)しかも、絞り込めるからピントは合うし、空はものすごく美して、もう天国のような風景になるんですね。光が落ちる寸前。それしか撮れないから、1日1時間ちょっとしか撮影ができないんですよ。

(山里亮太)ああー!そういうことか。

(町山智浩)だから、ズルズルズルズル撮影が遅れていって。で、もうそうするとスケジュールが合わなくなるから、スタッフは『もう降りるよ』っていう話になるわけですよ。『次の仕事が入っているし・・・』とか、『家に帰んなきゃならないし・・・』とか。で、しかも撮影場所がホテルとかあるところから全然遠い、氷河とかあるところなんですよ。6時間ぐらい車で走るところだったらしいですけどね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、結局もうケンカになって、監督はスタッフを降ろしたり、スタッフが勝手に降りたりして、グチャグチャになっていったらしいです。で、しかもお金が途中でそうすると、ズルズル延びているからなくなっちゃって。最初、予算が9500万ドルっていう、まあ約95億円ぐらいだったらしいんですけども。それがどんどんズルズル跳ね上がって、40億円以上オーバーしちゃったらしいですね。最終的に。お金が。

(赤江珠緒)すごいですよ。その舞台裏が映画になりそうな話になってますね(笑)。

(町山智浩)なりそうなんですよ。で、中ももうケンカばっかりだったらしいし。で、40億円っていうのは日本映画の大作4本分ですからね。オーバーした額だけで。で、内部もケンカでもってもうすごい悪い状態になって。しかもトム・ハーディとか次の映画を降りたりして。スケジュールをオーバーしちゃうから。で、しかも雪がなくなっていっちゃうんですよ。ズルズル撮影が延びてっていうか、お金がなくなって撮影ができなくなっちゃって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、今度は『雪がなくなったけど、どうしよう、追加撮影は?』ってことになって。『じゃあ、夏と冬が逆になっている南半球で撮ろう!』ってことでもって、追加撮影をアルゼンチンでしてるんですよ。

(赤江珠緒)ええ~っ!?

(町山智浩)すごい地獄のようなことになっていて。で、さらにすごいのはディカプリオはこれでもう凍った川に落ちたり、崖から突き落とされたりですね。もうずーっといじめられているだけなんですよ。映画の中で。

(赤江珠緒)うわー・・・

(山里亮太)スタントなしで。

(町山智浩)そう。スタントなしで。まあ、服はね、ドライスーツっていう暖かくなる服を着ているらしいですけどね。服の下に。ただね、喉を食い破られているから、喉が穴が開いている状態で、水を飲むと喉からピューッ!って水が漏れたりね。大変なことになっているんですけど。それはまあ、特殊メイクでやっていますけども。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)で、要するに栄養がなくなっちゃうわけですね。たった1人で生き残らなきゃならないから、まず身体を回復させるには何か食うしかないじゃないですか。で、犬に襲われたバッファローの肝臓を食べるんですよ。

(赤江珠緒)はあ。ええ。

(町山智浩)肝臓は栄養があるでしょう?でもね、ディカプリオね、ベジタリアンなんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)(笑)。でもね、役に入っているから本当に肝臓を食ったらしいんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、そのシーンがちゃんと映画の中に残っているんですけど。ディカプリオ、ゲロ吐いてますからね。思いっきりね。気持ち悪くなって(笑)。

(赤江珠緒)いや、そりゃそうでしょう。普段ベジタリアンの人がいきなり・・・

(町山智浩)いきなり生肝臓ですよ?

(山里亮太)えっ?吐くところもちゃんと撮っているんですか?

(町山智浩)ちゃんと撮っています。で、吐いてもまた食ってるんですよ。生きるために食うしかないから。

(赤江珠緒)過酷!ええーっ!?

(町山智浩)すっごい撮影をやっていて。まあ、内部トラブルだらけでグチャグチャで本当に撮影が終わるのかどうかわからないみたいなね。すごいことになっていたみたいですけども。はい。でね、今回さすがにこれはディカプリオはアカデミー賞をとるだろうと言われてますね。

(山里亮太)なんかここまで結構ディカプリオってアカデミー賞ね、いい映画に出て、いい芝居しても全然とれないっていうね。なんか、ありましたよね?

アカデミー主演男優賞を逃し続けるディカプリオ

(町山智浩)そうなんですよ。それで、ずいぶん前からね、アカデミー賞に彼が出た映画が他の人たちはたくさん賞を取るのに、ディカプリオだけとれないっていう状態が続いてるんですよね。たとえば、『ディパーテッド』っていう映画がありましたけど。あれは作品賞をとりましたよね。でも、主演のディカプリオはとれないんですよ。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)で、あと『アビエイター』っていう映画があって。それは強迫神経症になった実際の大富豪のハワード・ヒューズ役を演じたんですけども。かなり、もう映画を見ると笑っちゃうような強迫神経症なんですね。まあ、潔癖症なんですけども。で、その演技をやったけれども、それもダメでですね。その後、また実在の人物で・・・あの、『実在の人物を演じるとアカデミー賞をとりやすい』って言われてるんですよ。

(赤江珠緒)ええ、ええ、ええ。

(町山智浩)あと、とりやすいのはね、同性愛のゲイの人を演じるととりやすいと言われてますね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)あと、病気の人とかですね、身体になんか障害があったりする人をやったりするととりやすいっていう、嫌なジンクスがあるんですよ。アカデミー賞って。で、それを片っ端からやっているんですよ。ディカプリオさんは。ディカプーちゃんは。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)もともと最初にアカデミー賞で助演男優賞にノミネートされた時も『ギルバート・グレイプ』っていうちょっといろんな障害のある男の子の役を演じてノミネートされているんですけども。その後、『J・エドガー』という映画ではですね、実在の人物でFBIの長官のエドガー・フーヴァーを演じました。その人の場合には、性同一性障害プラス女装趣味のあるハゲでデブの老人っていう役でした。

(赤江珠緒)へー!あ、そういう役も。

(山里亮太)難しい。ディカプリオとだいぶかけ離れた感じの。

(町山智浩)そう。だからものすごい老けメイクで、しかもハゲでデブでネグリジェを着るという、とんでもない役をディカプリオさん、演じてまして。男性同士のラブシーンもやっていましたけど、それでもダメでした。

(赤江珠緒)なんでなんでしょうね?本当。うん。

(町山智浩)そう。だからその後ね、『ジャンゴ 繋がれざる者』っていう西部劇で今度はものすごい悪い人種差別主義者の、奴隷を徹底的にサディスティックにいじめる、もう本当に嫌な嫌な悪役を演じて、ダメでした。アカデミー賞。これ、全部やってるでしょ?

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その次、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で今度は大金持ちのすごい嫌なやつで。しかも、ドラッグ中毒で。しかも、コールガールにお尻をレイプされるっていう役をやってましたね。これでもダメでした。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)いま言った話を全部総合すると、おそらく人間が嫌だと思うことを全部やってますよ。ディカプリオ。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)でも、とれない。だからこうなったらもう何でもいいからいじめて!の世界に入ってますね。

(山里亮太)あ、まさに『レヴェナント』の今回の、もうめちゃくちゃな。

(町山智浩)今回の『レヴェナント』はだって、喉を食い破られているからほとんどしゃべれない状態ですから。で、崖から突き落とされたり、臓物を食ったりですねん、冷たい川に放り込まれたりして。ただひたすら、ディカプリオいじめが続くんですよ。

(赤江珠緒)はー!これ、ノースタントっていうともう、体当たり演技と言っていいですよね。

(山里亮太)これでとれなかったら・・・

(町山智浩)そうなんですよ。これでもうとれなかったら、もう後、何をすればいいのか。どうしたらいいと思います?山里さん。

(山里亮太)僕?ディカプリオのこれからを!?もう、やり尽くした感じ、しますよね?

(町山智浩)もう、だってコメディーもやっているわけですからね。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でね。もう、やることないよ、もうこれ。

(赤江珠緒)意外と正当にかっこいいことをやって。グルッと回って。

(山里亮太)いや、それはだって『タイタニック』でやっているじゃないですか。

(赤江珠緒)ああ、そうだね。『タイタニック』でね。

(町山智浩)そう。もう何もないというね。これでとれなかったら、ディカプリオ、何をするかわからないから。アカデミー賞の・・・まあ、俳優仲間ですよね。投票するのはね。やっぱり、散々、もうここまでいじめたから許してやるかってことで、アカデミー賞をあげた方がいいと思うんですよ。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)もう、何をするかわからないですよ。この人、これまで何度もアカデミー賞、あんまりにもとれないから休業宣言を何回もしてるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうでしたね。うんうん。

(町山智浩)もう、辞める辞める詐欺みたいになっているんですけど。この人。

(山里亮太)今回はさすがに本当にそれ、言っちゃうかもしれないですね。

(赤江珠緒)もうそろそろ、みんな。

(町山智浩)そうなんですよ。大変なんですよ。ディカプー。だから、今回のこの『レヴェナント』っていう映画は監督は違うんですけども、撮影監督のルベツキさんはですね、『ゼロ・グラビティ』で宇宙空間にたった1人で放り出される。あれをやっていたけど、あれとほとんど、今回の映画は同じです。宇宙じゃなくて、雪山になっていますね。

町山智浩映画解説 『ゼロ・グラビティ』
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(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)まあ、大変なことになっているんですけど。

(赤江珠緒)これが実話というのがすごいですね。

(町山智浩)まあそういうね、何でこんな苦しいものを見なければいけないのか?っていう、よくわかんない映画だなと(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)いう気もしますけどもね。ただ、すごいなと思うのは、いま、コンピューターグラフィックスが進みすぎちゃったから、逆にそれから離れようっていう方向になってきてますね。アメリカ映画。

(赤江珠緒)うーん。CGとかあんまり使わないと。

(山里亮太)当たり前になってますもんね。CGが。

(町山智浩)そうなんですよ。もう逆に、元に戻ろうよ、命がけの映画を撮ろうよっていう方向になってきて。で、映画の出来はどうこうじゃなくて、これだけ命がけでやってるんだから褒めてくれ!みたいな世界ですよね。今回のディカプリオは(笑)。

(赤江珠緒)(笑)。不思議なもんですね。振り子が戻るんですね。

(山里亮太)目的を・・・なんかよくわからなく。

(赤江珠緒)なんかよくわからなくなりますね。

(町山智浩)よくわからなくなってます。ということで、『レヴェナント』。日本公開は4月ぐらいですね。アカデミー賞をまあ独占するかな?というところですけど。はい。で、いまかかっている曲はですね、これはグレン・フライさんの『Desperado』ですね。亡くなった。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)この歌がね、こういう歌詞なんですよ。『Desperado』っていうのは『命知らずのやつ・死に急ぐやつ・必死なやつ』っていう意味なんですよ。で、それに話しかけているんですよ。『君は手に入らないものばかり求め続けるんだね』って。

(赤江珠緒)ディカプリオに贈る曲みたいになってますけども(笑)。

(町山智浩)誰に向かって歌ってるんだ!?って思うんですけどね(笑)。『君は自分の牢獄に捕らえられて孤独にこの世界を彷徨っているんだ』って。ますますディカプリオになってますけどね。

(赤江珠緒)今日ね、この話でかけるとね(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。今日、この話の主題歌みたいになってますけどね。で、まあこれ、いちばん泣ける・・・グレン・フライはイーグルスでは彼はボーカルを取ってなかったんですけど。これは彼のライブから、彼のボーカルで泣ける歌。『Desperado』を聞いてお別れということで、お願いします。

(赤江珠緒)はい。ねえ。67才で亡くなったということです。いやー、『Desperado』も名曲ということで。アルバム・シングルの売上を合わせて1億枚を越えた。グラミー賞も6回も受賞されたという曲です。今日は映画『レヴェナント』のお話でした。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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