近田春夫さんが2026年10月30日放送のInterFM『TOKYO CULTURE BUZZ』の中でジュン池内・すずらん姉妹で『一目惚れ小唄』を選曲。自身が作ったジューシィ・フルーツの楽曲『ジェニーはご機嫌ななめ』のインスパイア元だと話していました。
(近田春夫)さて、次の曲にいきましょうか。話もだんだん外れてきちゃったんで。今回ね、私が一番その印象に残っている……そのへんてこりんっていうか、なんて言うのかな? とにかく。
(菊地成孔)まあ、いわゆるキッチュお座敷歌謡ですね。
(近田春夫)もしかして菊地が聴いてなかったら嬉しいなということで味わっていただきたいんですけれども。ジュン池内・すずらん姉妹で『一目惚れ小唄』。
ジュン池内・すずらん姉妹で『一目惚れ小唄』。
ジュン池内・すずらん姉妹『一目惚れ小唄』
(近田春夫)これ別にね、曲がどうってことじゃなくて。この延々の「ひとめぼれぼれ」ですよね。
(菊地成孔)これは、すごいですよね。まあ合いの手。
(近田春夫)合いの手にしてもこれ、すごくない?
(菊地成孔)合いの手が癖が強すぎるっていう。「ひとめぼれぼれ」っていうね。
(近田春夫)これがとにかくね、すごく印象に残っちゃって。
(菊地成孔)これって何年ぐらいですか?
(近田春夫)68年とか、そのぐらいだと思う。俺がだから高校1、2年とかそれぐらいだと思うんだけど。
(菊地成孔)リアルタイムで聴いてたんですか?
(近田春夫)聴いて。これ、すごくなんかある種の新しさを感じたんですよ。この合いの手の……。
(菊地成孔)そうですね(笑)。なんか今って結構、いい意味で何でもありじゃないですか。ヒップホップとかもそうだし、エレクトロとかも。で、これってもう長い間、まあ日本人がまだ脳が平成ぐらいだった時。令和になってない頃に聴くと、もうなんか演算的に決まっちゃって笑える、コミカルってなってますけど。これ、聞きようによっちゃワールドミュージックみたいにも聞こえますよね。アフリカの音楽みたいにさ。
(近田春夫)そうですよね。なんかそういうだから……これをプロデュースした人がこの「ひとめぼれぼれ」っていうのをこうやってずっと何度も何度も挿入していくっていう、そのセンスっていうの? それはものすごく意識してこうやっていたと思うんですよ。で、それはやっぱりおそらく新しさってことを絶対に意識してたんじゃないかなってことをすごく思ったんですよ。
(菊地成孔)そうですね。あとはあの事故……「事故」っていうか、「ひとめぼれぼれ」ってすごいのが跳ねちゃったですけど。これって結局、アーティストはジュン池内で。しかも早すぎたSSWというか、作詞・作曲じゃないですか。
(近田春夫)そうなんですよ。
(菊地成孔)で、今はもう完全になくなっちゃった後ろで合いの手をやる……もともとあれはお座敷から来てるはずなんですけど。花柳界っていうか。すずらん姉妹が言ってるんだよね。「ひとめぼれぼれ」って。「ズビズバー、パパパヤー やめてけれ」ってありましたよね。ああいう……あれが最初かな? ひまわりシスターズとか言って。
(近田春夫)あったね。
(菊地成孔)要するに花柳界から来てる、真ん中でいい調子で。まあ、ほぼ飲んでるぐらいの感じでいい気分で歌ってる人の後ろに女の、まあ言ってみれば芸妓さんが2人ぐらいいて。こう、合いの手を入れていくっていうのが当時、フォームとしてあった。と同時に「ひとめぼれぼれ」はヤバかったっていうことじゃないですか?(笑)。
(近田春夫)だからなかなかセンスだって。で、ジューシィ・フルーツってあったじゃないですか。あれの『ジェニーはご機嫌ななめ』って曲、作ったでしょう? あのさ、「君といちゃいちゃ」っていうのはこの「ひとめぼれぼれ」から自分の中で実はずっとそれに……「ここから印象を受けて作ったんだな」っていうのをずっと後になって思ったんですよ。
(菊地成孔)すごいな……。なんかもう今、真実ではあるが聞いてはいけないような話を聞いてしまってる感じですね(笑)。
ジューシィ・フルーツ『ジェニーはご機嫌ななめ』
(近田春夫)あの曲自体のその「君といちゃいちゃ」ってところはあれ、本当言うとブロンディのね、『One Way Or Another』っていう。後にワン・ダイレクションのやった曲だと思うんですけど。そのイメージもあったんですけど。一番元はね、この「ひとめぼれぼれ」っていう、あの感じっていうのが実は自分の中で強くあったんだなってことを後になって思い出して。
なんとかこの曲を……タイトルを思い出せなかったんで。ずっとその「ひとめぼれぼれ」だけずっと残っていて。「君といちゃいちゃ」「ひとめぼれぼれ」って、その「ぼれぼれ」のところね。そこは絶対、あそこから来てる。それとその……。
(菊地成孔)声質とかですね?
(近田春夫)あと、そのブロンディの『One Way Or Another』とこの「ひとめぼれぼれ」の両方を足してあれになったっていうことを一応、なんかお伝えしたいなと思って今日……。
Blondie『One Way Or Another』
(菊地成孔)めちゃめちゃ重要な話じゃないですか、これは。
(近田春夫)いや、そんな重要じゃない……。
(菊地成孔)イリアさんのボーカルを最近の、それこそオタクの人々なのかな? その、ボーカロイドの元祖であるのだっていう風な……。
(近田春夫)人間ボーカロイド。
(菊地成孔)そうそう。ボーカロイドの先駆っていうかね。人間が求めていた……結局、初音ミクに着地するんだけど。ずっと昔から求めてたものがあって。そういうものの先駆のひとつで、近田さんってのはそういうものを嗅覚で要するにある意味、無駄なくらい早くから掴んでいたっていう論法の中に持っていこうとする人が多いんですけど。
(近田春夫)でも、結局あの曲っていうのは要するにテクノっていうことでさ、言われてたけども。あれ、ほとんど全部手弾きだしね。そういう意味ではさ、全然その感じではないんだけども。その全体的な印象で、そのボーカルがね、なんか人間っぽくないって感じ。っていうので、しかもその早回しでもないような。生で歌った声でなんか、そのアーティフィシャルな感じを出したいっていうことの究極のところに、本当にそのアーティフィシャルなボーカロイドっていうもの。最終的にそこに到達したって感じっていうのは最初にボーカロイドを聞いた時に全く勝手なね、自分の思いだけど。何か共通するものがあるのかもしれないなってことはチラッと思ったことがあったんで。そういうその好事家のみなさんのそういう、なんていうんですかね? 想像も嬉しいですね。
(菊地成孔)その結構好事家の……好事家って興奮して何でも結びつけたがるじゃないですか。で、もしあの今の近田さんの発言を「言質を取りました!」ってなって『ジェニーはご機嫌ななめ』の「ひとめぼれぼれ」と「君といちゃいちゃ」っていうのが実はイマジネーションが同じなんだよねっていう一言をもって、イリアさんがボーカロイドに到達してる始祖ではなく中興の祖で。本当はお座敷の……あの人たち、ロボットじゃないですか。簡単に言うと。自我がないし、思想もないですよね。同じ衣装に同じメイクして。2人して同じ振り付けでコーラスしてるわけで。それってソウルのコーラスガールとかにやっぱり非人間性って設けないじゃないですか。あの人たちもあの人たちも人間だっていう感じがしますよね。だけど日本のお座敷物ってこう、後ろの合いの手の人たちはね、正式にはどういう名前がつくのかわかんないですけど。この「ひとめぼれぼれ」ってサンプリングみたいな感じだし。
(近田春夫)モロにサンプリングですよね。
(菊地成孔)サンプリングですよね。しかも繰り返してるしね。だから、人間のその高めの女の子の声でそれが人間じゃないんだっていう風に聞きたい欲望みたいな……なんて名付けたらいいかわかんない欲望の大本はやっぱりお座敷にあったんじゃないの、みたいな。
(近田春夫)それはすごく聞いてる人も納得するんじゃないかな? そうそうそう。
(菊地成孔)納得するかもしれないですね。話だけ聞くと。すごいなー。
(近田春夫)でも本当にさ、曲を聴いててさ、そこからいろんなことにさ、考えが広がるって楽しいですよね。だからいつも思うんだけど。音楽は聴くのも楽しいし、自分が演奏したり作るのも楽しいけど。音楽っていうのは語るのも楽しいってことを本当に……お前とこうやって番組をやってると、本当そう思うもん。
(菊地成孔)いやー、でもそんなことを言われたら泣いちゃいます。もう涙をこらえながらね……(笑)。
(近田春夫)泣いてねえじゃねえかよ(笑)。
(菊地成孔)涙をこらえながら続けなきゃいけないんですけど。でも『考えるヒット』っていうのを……あれは結局、ロダンの「考える人」じゃないですか。だからもう考える……。
(近田春夫)いや、あれは違うの。『考えるヒント』なの。小林秀雄の。
『考えるヒット』の元ネタは小林秀雄『考えるヒント』
(菊地成孔)ああ、小林秀雄の方だ。だからロダンにしても小林秀雄にしても、悩み深いじゃないですか(笑)。だから音楽って楽しく聞いてればね、それっきりのもので。なんかこう、なんつったらいいんだろうな? まあまあ、バックグラウンドミュージック。いい意味で。じゃなくて、ちゃんと考えるんだっていう。そうすると、ちょっと辛いっていうか、重いわけじゃないですか。だけど、面白いよねっていうことをまあ『考えるヒット』っていう言葉で堂々と。まあ、もうこの際、ダブルミーニングっていうかね、「考える人」と「考えるヒント」だっていうような(笑)。
(近田春夫)あれはね、でもね、名付け親は俺じゃなくて。あの企画を考えた下井草秀ですから。
(菊地成孔)なるほど。それもあるパターンですよね。でもやっぱり、その人の才覚が近田さんにヒット曲について考えさせようっていうさ(笑)。そう思わせたところがやっぱりすごいですよね。それが、なんていうか、プロダクトワークっていうかね。本当に。
(近田春夫)まあでもおかげさまでね、なんかその屁理屈を考えてさ、原稿にするっていうことでさ、相当頭のトレーニングになったから感謝しますけどね。
(菊地成孔)ああ、なるほど。
近田春夫さんにずっと刷り込まれていた「ひとめぼれぼれ」というワードとリズムがジューシィ・フルーツ『ジェニーはご機嫌ななめ』に知らぬ間にエッセンスとして入れ込まれていたというお話、面白すぎる。お二人のお話、いつまででも聞いていたい!