町山智浩さんが2026年5月26日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で韓国映画『君と僕の5分』について話していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。
(町山智浩)今日はですね、韓国映画を紹介します。今日は『君と僕の5分』という韓国映画を紹介します。はい。5分とは一体何でしょう?ということで、まずはこの曲を聴いてください。globeの『DEPARTURES』です。はい。
(町山智浩)僕はこれはね、日本を出る……日本出たのが97年で。その前年にね、大ヒットした曲ですけども。まあスキーのコマーシャルでね、もう死ぬほどかかってたんですけど。もうこれ、名曲なんですけど。この『君と僕の5分』という映画のタイトルの「5分」というのはこのglobeの『DEPARTURES』の演奏時間のことです。約5分間なんですね。
この映画は2001年の韓国が舞台なんですけれども。主人公は高校生でね、ギョンファンくんというなんというかですね、運動があんまり得意じゃなくて。漫画とかアニメが大好きで。で、ヒョロヒョロの男の子で。彼がこのglobeの『DEPARTURES』が大好きなんですよ。で、いつも聴いてるんですけど。ただ、MP3プレーヤーで聴いてるんです。
当時、いろんなMP3プレーヤーありましたね。今はまあ、スマホになっちゃって消えちゃったんですよね。それでいつもヘッドホンで聴いてるんですけども。このギョンファンくんが。ただ、これは違法ダウンロードなんですよ。なぜならば2001年当時、韓国では日本の歌謡曲とか日本の歌を聴くことが禁じられてたからです。アニメとか漫画は解放されてたんですけども、音楽だけはダメだったんですよ。まだ2001年当時は。
2001年当時、日本の音楽を聴くことが禁じられていた韓国
(町山智浩)当時、韓国では禁止されてたけどもカセットテープが……要するにトラックの運転手さんとか聞くようなカセットテープがドライブインとかにいっぱい置いてあるんですけど。それは全部、日本の歌だったりするんですよ。勝手に歌ってたりするんですよ。無断カバー曲だったりして。だから最近になって松田聖子さんとか中森明菜さんの歌が韓国ですごく聞かれてたり、みんな歌えたりするじゃないですか。「おかしいだろ?」と思うんですよ。
「なんでみんな歌えるの?」みたいなね。松崎しげるさんがね、韓国に行って『愛のメモリー』を歌っていたら、会場のみんなが歌ってるのね。「おかしいだろ、それ? 禁止してただろ、韓国」っていう(笑)。まあ、みんな聞いてたんですよ。で、それを聞いてるわけですが。その男の子、ギョンファンくんが。で、彼が大邱という街に転校してくるんですね。ただ、友達とかはできなくて。彼、内気な子なんでね。で、1人でこっそり聞いてると、音漏れしてるわけですよ。そのglobeが。
そしたら隣の席に座ってるスポーツマンで勉強もできて顔もいい、学校中の人気者のジェミンくんが「お前が聞いてんの、globeだろ?」って言うんですよ。で、「ええっ?」っていう感じなんですよ。っていうのは一応、聞いちゃいけないものでもあったし。わざわざ日本の音楽を聴いてるっていうのはまあ、はっきり言ってオタクなんですよ。で、漫画はその頃、人気だったから。それこそ『ONEPIECE』とか『ドラゴンボール』とかみんな、読んるでんだけど。そういうことばっかりやってるんで、そのクラスの子からは「オタク」って言われるんですよ。日本語でオタクって言われるんですよ。
これ、韓国ではオタクはオタクです。っていうか今、世界中でオタクはオタクです。アメリカでも。で、この時代は女の子はね、「オタク、キモい」って言ってんですよ。「チンチャ、チングロッタ」て韓国語で言うんですけど。「すげえキモ」って言うんですけど。で、そういうこと言われてるのがこの主人公の男の子、ギョンファンくんなんですね。で、まあ体育の時間とかも得意じゃないわけですよ。ダメなんですよ。
で、みんなから「なんだ、あれ」って言われてるんですけど、この隣の席のジェミンくんが「お前、バスケットとか下手なんだったら俺、教えてやるよ。放課後」って。それでみっちりついて、シュートの仕方とかドリブルとか、教えてくれるんですよ。で、すごく優しくていつもその放課後、そのギョンファンくんは友達がいないからジェミンくんとバスケットをするのがもう彼の本当に楽しみになってくるんですよ。
で、実はギョンファンくんはものすごく勉強ができて。で、中間テストかなんかがあってですね、成績でトップになるんですよ。それで韓国って今もそうだと思うんですけど、成績を全部、順位発表しますからね。これ、一番下まで発表しますね。日本でも一部の学校はそういうこと、やってますね。宇多丸くんが言ってた巣鴨学園っていうのはそれで有名ですね。
僕の友達の石丸くんっていうのも巣鴨高校に行ったんですけどビリを取りましたからね。ビリまで貼られちゃうっていうね。で、それをやられたらギョンファンくんはトップだったから。それまで「キモ!」とか言われてたんですけど「ちょっとあれ、すごいんじゃないの?」って話になるんですよ。で、しかもその友達、ジェミンくんに教えてもらったからバスケットでシュート入るんですよ。
それでちょっとクラスで「ギョンファン、ノート見せて」とか女の子に言われるようになるんですよ。急にみんなから見直されたところでこの曲がかかります。モーニング娘。はい、どうぞ。
(町山智浩)いわゆるサビのところの一番の盛り上がるところがかかるんですけど。ここで彼が友達がいっぱいできて。ギョンファンくんが。それでみんなで遊びに行くんですよ、街に。そこで見る映画がその2001年当時、大ヒットした……日本でも大ヒットしました。『猟奇的な彼女』っていう映画なんですよ。これ、韓国、日本だけじゃなくてヨーロッパやアメリカでも大ヒットして。それぞれの国でリメイクが作られるっていう事態になった映画なんですが。これはその女の子がね、すごい乱暴な女の子で。口癖が「ぶっ殺されたいの?」って言うんでね。
すぐ人をぶん殴る美少女に恋したヘタレな大学生が振り回されるラブコメなんで、みんな映画館でゲラゲラ笑ってるんですけど、ギョンファンだけボロボロ泣いていて。その後、映画館に通って、もう毎日のようにこの映画を見るんですよ。これ、どうしてかっていうとこの『猟奇的な彼女』って後半、すごい切ないラブストーリーになっていくんですよね。前半はめちゃくちゃですけど、後半はこの2人がなかなか巡り会えなくなってくるんですよ。何年もかけて、なんとか会おうとするんだけども行き違いとかで会えないっていうのがずっと続いていくんですね。
それを見ながらこのギョンファンくん、高校生はボロボロ泣いてるんですけど。これは実は伏線になってるんですよ。この映画の。これ、すごい複雑な映画で。で、まあこの彼が友達のジェミンくんと一緒に毎日、学校から帰るバスの中で『DEPARTURES』とかglobeの話をするわけですよ。そうするとジェミンくんは「俺はglobeは好きだけど、本当は『DEPARTURES』よりも『FACES PLACES』の方が好きだな」って言うんですよ。
で、ギョンファンくんは「そうなのか。でも僕はね、『DEPARTURES』が好きなんだ。これ、君にちょっと聞いてみてほしいんだ」って言うんですよ。で、それをなんで聞かせたかというと、歌詞がこういう歌詞だからですね。ちょっともう1回、サビをお願いします。これね、ギョンファンとジェミンくんは一つのヘッドホンを二つに分けて左右で聴いてるんです。で、たくましいジェミンくんの手の甲がギョンファンの手の甲に触るんですよ。
この歌詞、日本語なんですよ。ギョンファンはオタクだから日本語の意味がわかって。で、自分の気持ちを伝えたくてジェミンくんに聞かせようと思ってヘッドホンを彼の耳に入れるんですけども。でも、ジェミンくんはそのままバスの中に眠り込んじゃうんですよ。伝わらないんですね。その切ない感じ。でも、体を動かすとせっかく手の甲が触ってるのが離れちゃうから、離れられないの。っていう切ない話なんですが。途中でですね、この2001年当時に韓国でハ・リスという女性歌手が大人気になるんですね。
コマーシャルとかに出るんですけど、これが大変なセンセーションを韓国で起こしまして。っていうのは、このハ・リスという人は美女なんですが。写真にある通り。彼女、トランスジェンダーの人なんですね。元男性だった人なんですよ。で、コマーシャルとかに出て、すごい人気になるんですが当時、これが韓国では大問題になってくるんですよ。
(町山智浩)で、高校の保健体育の授業がありましてこのハ・リスさんの話になるんですよ。すると学校の先生は「あんなものは許せん! 男と女は違うんだ! ゲイっていうのはな、共産主義のスパイだ!」って言うんですよ。で、これには実はすごく深い意味があるんですよ。これ、大邱っていう街なんですが。実は僕は昔、本籍地が大邱だったんですけど。父の故郷がそうなんでね。で、大邱というのは韓国で最も右翼的な街なんですよ。
保守的な街、大邱
(町山智浩)ものすごい保守的なんですよ。っていうのは、そこは朴正煕大統領の出身地なんですね。で、朴正煕大統領っていうのはご存知のようにクーデターを起こして政権を取って、韓国を軍事独裁政権にしたという、なんというかファシストだった人なんですけれども。日本の文化を禁じたのも彼です。
日本も昔、占領されていたから。いろんな影響が残ってるからそれを全部切るんだということで、日本のものは漫画から何から何まで全部、禁止にしたのがこの朴正煕大統領なんですよ。で、彼は結局、暗殺されてしまって韓国は軍事独裁政権じゃなくなっていくんですけれども。ところが、その大邱ではずっと朴正煕大統領をみんな、信奉してるんですよ、今も。
で、この保健の先生は「ゲイとかが出てくるから共産主義が出てきて。それで朴正煕大統領は失敗したんだ!」って言うんですけど。そんなの、関係ねえよと思うんですけども。何の因果関係もないんですがこれはね、アメリカでもあって。僕はトランプ大統領を信じてる人たちにアメリカの田舎とかでいっぱい会うじゃないですか。そうすると、こう言うんですね。「トランプ大統領様は共産主義と戦ってるんだ」って言うんですよ。で、「ちょっと待ってください。アメリカに共産主義って別に存在しないでしょう?」って言ったら、あるおじいちゃんは「LGBTだ!」って言ったんですよ。そんなの、関係ないよっていうね。
ロジックなんて何もない。要するに「LGBTが嫌いだ、ゲイが嫌いだ、共産主義が嫌いだ。たぶん、くっついてるんだ」っていう考えなんですよ。でもこれ、韓国の大邱で全くそういうことを言うんで「ああ、どこに行っても同じだな」と思いましたが。まあ、そういう状況なんでこのギョンファンは大変なことになっていくんですよ。彼、もともと転校したのも前の学校で「ゲイだ」ってことでいじめられたことが原因だったんですよ。
で、もしバレたら……って話になってくるんですね。大変なことになってくる。で、その中でですね、ジェミンは一体何を考えてるのか? はっきり言うとギョンファンくんが恋してるジェミンは何を考えてるんだ?ってことになってくるんですよ。ただ、このジェミンが「好きだ」って言ったこの『FACES PLACES』という曲。これ、日本語の歌詞や英語の歌詞の部分もそうですが。これ、どういう歌かっていうと「その場所を探してる」っていう歌なんですよ。「場所を探してるんだ」っていう歌なんですよ、ずっと。
これをジェミンが聴いてるってことの意味がわかってきます。ということでね、まあちょっと後半、ものすごいキツい話になってくるんですけど。この映画が面白いのは、その日本の音楽を聴くっていうその当時、禁じられていて。全くその少数派であって許されないことだったことがやはり当時、韓国で許されなかったその同性愛ということとつながってくるんですよね。で、しかもその25年前の韓国の少年たちがその日本語の歌に支えられてたっていう事実が分かってくるんですよ。
これはすごいなと。いや、もちろんオタクな話も出てきますけど。いっぱい。『ドラゴンボール』がどうしたとか『コナン』がどうしたとかね、そういう話も出てくるんですけど。その裏側にこういう話があったんだなというね。
globe、中国では当時、大ヒットしてるんですよね。でも韓国では禁じられたものとしてね、こっそりみんなが聴いていたっていうのが。それがまた彼がこっそり、その男性を愛していることと結びついていくんですよ。というね、ものすごいちょっと知られざる韓国の2000代の話。もちろん現在の視点から見てるんで、最後はあっと驚く展開になってきますけど。タイムカプセル的なね。『君と僕の5分』、ぜひご覧ください。