町山智浩さんが2025年12月30日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で『無名の人生』について話していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。
(町山智浩)ずっと今まで映画を紹介してたんですけど、日本映画ってあんまり見れなくて。たぶんすごく重要な映画もいくつも見逃してるんですけど。で、それをちょっと追っかけで見てるんですね。で、映画紹介をネットでやっている僕の友達、Dr.マクガイヤーという人がいまして。で、彼と話していて「これ、見た方がいいですよ」って言われた映画をね、慌てて見たんですけど。それがね、『無名の人生』というアニメーションなんですよ。
これね、鈴木竜也という人がたった1人で全部、絵を描いて。全部、自分で作った個人アニメーションですね。しかもこの人、アニメーションのちゃんとした修行はしてない人なんですよ。独学で。だからね、基本的に出てくる人たちは真正面を向いて、両手を下にぶら下げて無表情で突っ立ってる状態なんです。たいていのシーンが。
動かないんです。これは技術的な問題です。それで全員が真正面を向いて並んで立っていて。しゃべる時でも。で、歩いていくところは大抵、横向きで歩いてるんですけど。それも膝が伸びたままだったりするわけですよ。これ、『サウスパーク』っていうアニメがそれに近いですね。本当にだからアニメーションの修行をしていない人のアニメだなと思うんですけど、この作品においてはそれがすごく機能してるんですよ。
「だからいい」っていう感じになってて。これね、東北の仙台が舞台なんですけど。1人のいじめられっ子の少年がアイドルを目指して。それでアイドルになるんですね。で、東京の原宿の合宿所に入るんですよ。で、その合宿所にはおじいさんの社長さんが住んでいて。で、その部屋に行くと……まあ、レイプされるんですね。で、どうするか?っていうとそのじじいの社長をボコボコにぶん殴ります。パイプ椅子で。もう、この落ち着いた絵から想像する内容じゃないんですよ。
で、芸能界を干されて歌舞伎町で半グレのホストになるんですね。すると、今度はそのホストたちにリンチされて、殺されて山奥に埋められます。捨てられます。そしたら、死んだわけじゃなくて生きていて。それで山奥の動物を殺して、食って生き延びて野生化していきます。
これ、ふざけんなよと思いますよ(笑)。で、この映画はその調子でどんどん転がっていくんですよ。すごいでしょう? これ、ビジュアルとかタイトルからだと仙人みたいなね、それこそ森の中の静かな家に住んで淡々と暮らす人の話かと思うじゃないですか? もうとんでもない。セックス、ドラッグ、バイオレンスですよ。この絵ですけど。すごいですよ。
まあ、見てくださいよ。すごいですから。ちゃんと歌のシーンとかもあるしね。で、そこからだんだん戦争になってくるんですよ。で、日本が戦場になっていきます。もう何を言ってるんだ?って思うでしょう。これ、すごいですよ。で、最後は地球人類の進化に至っていって。『2001年宇宙の旅』みたいにして終わりますよ。すごいですよ。これ。どうかしてますね。まあ、そういう超どうかしてる映画が『無名の人生』で。まあ、これはすごかったですね。