（町山智浩）あとは地球環境問題とかで今、地球温暖化が進んでるんですが。トランプ政権だけじゃなくて、地球温暖化とか環境破壊、今まであれだけ盛り上がっていたのにそれをもう、やめちゃおうっていう人たちが世界的にまた票を伸ばしてるんですよ。それに対しても「地球は神がお作りになったんだ。地球にとって人間っていうのは別に王でも神でもないんだから、神がお作りになった地球を破壊してはいけない」という風にメッセージを出していて。で、ものすごく政治的になんというか、非常に鋭い発言をし続けてる人なんですよ。だから反発する人もすごく多くて。もうアメリカのカトリックでは反発する人もかなりいます。保守的な人たちはね。
で、特にフランシス教皇が激しい反発を呼んだのはLGBTQの人たちに対する意見なんですよ。まず、カトリックとかキリスト教は「そういう人たちを神は許さない」という風にずっと言ってきたのをフランシス教皇は「そうではない。神はそういう人たち、LGBTQの人たちも愛します。なぜならばみんな、神の子だから」っていう風に言っちゃったんですよ。それで、大問題ですよ。なぜそれが大問題になるんだ？って僕は思いますけど。聖書の中にはそういうことに対して、同性愛に対して批判的な文章もあるんですけど。ただ、キリスト自身は何も言ってないんですよ。聖書は複数の著者がいるんで。
あと、もっと大きい改革をしちゃって。「カトリックの神父は求められた場合、同性愛の人たちのカップルを祝福をしてもいい」って言っちゃったんですよ。これも大変な問題になった。要するに、カトリックの教会で同性婚ができることになっちゃうから。で、そういうことをずっと言い続けてるだけじゃなくてもうひとつ、大きい改革を今していて。今、病床にあられるんですけど。フランシス教皇は。要するに神父って、男しかいないじゃないですか。これはおかしいだろ？ってことですよね。女性は尼さんにはなれるんですけど、聖職者にはつけないし。さっき言った、教皇にもなれないし。一切、神父になれないんですよ。それに対しても「おかしいだろ？」って言ってるんですよ。だから、みんな怒ってるんですよ。
なぜ、フランシス教皇は改革を進めるのか？
（町山智浩）これ、どうしてフランシス教皇がそういう風になったか？っていうと、この人はアルゼンチンにいた時、軍事独裁政権がものすごい弾圧をしてたんですよ。その時に、この人は1回、権力に負けちゃったんですよ。戦わなかったんですよ。教会を守るために。で、周りの神父さんたちは軍事政権と戦って、処刑されたりしたんですよ。前にペトロというキリストの第1使徒の話もしましたけども。あの人、キリストを1回、裏切ってるんですよね。でもだからこそ、2度と裏切らないっていうことで。フランシス教皇はもう絶対に自分の信念を裏切らないということで、非常に激しい戦いをしてる人なんですけどね。
それで今、危篤なんで非常に心配なんですが。でもその人が亡くなってしまったら、絶望ですよ。また元に戻っちゃうんですよ。バチカンでは女性を聖職者にすることは禁じられてるんで。だから女性を事務職とかで非常に高位に上げてるんですよ。今、フランシス教皇は。そうそういうのも全部、ひっくり返されちゃう可能性もあるし。同性愛の人たちに対する扱いも全部ひっくり返っちゃう可能性があるんですね。彼が教皇でなくなって、次の教皇は保守派になっちゃうと。
だから、すごく絶望的な気持ちになってるのがこの主人公なんですが……ここからすごくてですね。じゃあ、亡くなった教皇は何のメッセージも残さなかったのか？っていうことになるんですけど。推理小説にはダイイングメッセージっていうのがあるんですよ。亡くなった人がすごい手がかりを残していくんですよ。ローレンスは導かれていくんです。亡くなった教皇に。これ、俺、だいぶ言ってるな（笑）。
10分おきにあっと驚く展開
（町山智浩）この映画のすごいのはね、ほとんど10分おきにあっと驚く展開が続くんです。ちょっとね、逆転に次ぐ逆転なんでやりすぎって言ってる人もいますが。でも面白いからいいじゃんと思うんですけど。だから全然、キリスト教に興味ないっていう人でも面白いし。ミステリーとしても面白いし。その裏には、このコンクラーベというものが実は現在の分断された世界の縮図になってるんですよ。現代の世界の象徴にもなってます。そういうことでね、深さはあるし、面白さとスピード感はすごいし。本当にこれは圧倒的に僕は……本当は今年のアカデミー賞の作品賞はこっちが取ればよかったと思ってるんですけど。僕、これを見たのが去年の秋なんですよ。それでもう、バチカンに行くぞ！って決めて。
これ、バチカンから一歩も出ない映画なんで。密室だから。でも、それもすごいですよ。全部セットですよ。現地では撮らせてもらえないから。それもすごいんですけども。だからこれは今、バチカンで何が起こってるかとか、フランシス教皇はどういう人なのかってことを知ると、ものすごく胸に迫ってくる、非常に……もうこれは単にカトリックの問題じゃないんだ。今、世界の問題なんだ。宗教ｊは関係ないよって話になってきてるんで。これはもうぜひ、見ていただきたいと思います。