宇垣美里 NHK朝ドラ『虎に翼』の素晴らしさを語る

大島育宙 NHK朝ドラ『虎に翼』を語る アフター6ジャンクション

宇垣美里さんが2024年5月6日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でNHK朝ドラ『虎に翼』の素晴らしさについて話していました。

(宇多丸)何の話をさっき、してたかと言いますとNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』。

(宇垣美里)そうなんです。ハマってしまいまして。

(宇多丸)実はリスナーの方からも「宇垣さん、絶対好きそうだから」っていうメールを……すいません。ちょっと今すぐ出てないんだけど。何週間前かにいただいていて。

(宇垣美里)いただいていました。だし、ちょうど海外に行ってる時も友達が「すごいいいよ!」とおすすめてくれたんですけど。海外だと見られなくって。だからもう帰ってきて。「ちょっと1話か2話ぐらい、見てみようかな」と思ったら、U-NEXTで全部見られるようになっていて。気づいたらもう、朝。

(宇多丸)ああ、もうぶっ通しで?

(宇垣美里)ぶっ通し。

(宇多丸)連続テレビ小説、1話が15分ぐらいですか? で、1週がワンセットっていう感じですもんね。

(宇垣美里)月火水木金と5話ですね。それで今、5週目とかですね。

(宇多丸)火曜の放送作家の古川さんが2週目だか3週目がやばいって言っていて。

(宇垣美里)でもね、全部やばいです。

(宇多丸)伊藤沙莉さんの。

(宇垣美里)伊藤沙莉さんがやっぱり素晴らしくて。実在の、日本で初めて弁護士になった女性。そして後に裁判官になった方をモデルに描かれていて。「寅子」って書いて「ともこ」っていう風に読む、猪爪寅子という役なんですけれども。もう本当に……本当に良くてですね。今までも、もちろん女性が主人公で。彼女たちがいろんな苦難を乗り越えていくという、朝ドラってそういうものだと思うんですけど。より、なんて言うんでしょうね? 柳のように受け流すんじゃなくて「はて?」って寅子は言うんですね。「なんか、おかしいな?」って思ったら彼女は「はて?」って。「それ、おかしくないですか?」って。

たとえば「弁護士の勉強がしたい。法律の勉強がしたい」と寅子が思っても、お母さんは子供の幸せを考えて。「結婚した方がいい」って言うんですね。「バカなふりをするのが一番のあなたの幸せなの」って。お母さんはすごく子供の幸せを考えて、言ってるんです。「でも、お母さんが言っていることは私にとっては地獄に思える」って彼女は思ってる。で、たまたま出会った今、裁判官をしている方に「今、母にこうやって言われていて。でも私は勉強がしたくて」っていう話をしたら、その裁判官の人が「これから君はどんどん、優秀な男性とも戦わなきゃいけないのに、お母さんすら説得できていないようじゃダメだね」って言われて。

そこで寅子は「はて?」って言うんですよ。「言っておきますが、私の母は非常に優秀な人です。かなり頭がいいです。私がこの後、男性と戦わなければいけない話と、母親を説得できないという話は別ですよね? えっ、うちのお母さんのこと、なんかなめてます?」みたいな。彼女は本当に思った瞬間、それを言うのがもう気持ちがよくって。「ああ、ついにここまで来たか!」っていう気持ちになりながら見ていますし。

主人公・寅子の「はて?」

(宇垣美里)やっぱり女性が、かつてはその権利すら持っていなかった。結婚したら無能者っていう……。

(宇多丸)いわゆる財産とかをコントロールする能力がないとされていて。

(宇垣美里)『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』におけるアメリカ先住民の人たちが言われていた言葉ですよね。私、それを知らなくて。「えっ、日本人の女性も同じことを言われていたの!?」って思って、すごいびっくりしたんですけれども。そう言われていて。「でもやっぱり、結婚ってやばくない?」って思いながらもどんどん勉強するうちに「じゃあ、そういう時にはどういう弁護をしたらいいんだろう?」とか。いろんな現実にぶつかりながら、寅子が成長していく姿を見ていても、すごく気持ちがいいですし。もう本当に3回に1回ぐらい、ズキュンと刺さるセリフが出てくるんですね。なのでもう本当に1週間の半分ぐらい私、泣いています。でも、エンタメなんです。ものすごく面白い。

で、いわゆる判例がたくさん出てくるので、それをちょっとした劇みたいな感じで。「こういった事件があって」っていうのを展開していくので、見ていて面白いし、わかりやすい。それで本当に展開が早くて、もう寅子は学校を卒業しそうなんですよ。試験を受けていて。つまり、ここじゃないっていう。

(宇多丸)まだここが勝負じゃない。これから話をまだ……。

(宇垣美里)そう。ここから。それで今、ちょうど「旦那が日中戦争に招集されて」っていうことを言ってるみたいな。一緒に勉強を頑張っている女性の学生の中には、そういう人がいて。「ああ、ここ戦争がやってくるのか……」って。どんな思いをするだろう?ってなって。さらに、その一緒に学校で女性ながらに弁護士の勉強を頑張っている女の子の中には、朝鮮人の子もいて。「この子はこの後どんな目に遭うんだろう?」って……私はその歴史的な背景から、多少のことは知っているから。今からちょっとゾクゾクしながら見ていて。でも、その非常に厳しい現状の中で「私たちが道を切り開いていくんだ!」っていう姿が非常に眩しいのと同時に「まだこれ、あるな」って思うんですよ。つまり、同じこと……たとえば男性が試験に失敗した場合、「また頑張ろうね」ってなるのに、女性は「1回やって無理だったんだから、じゃあもう結婚しなさい」って言われるとか。

(宇多丸)「ほら、言わんことか」みたいな。

(宇垣美里)もしくは「ああ、できないんだ。結局、受からないんだ。じゃあ、もう女子部は廃止しようか」とか言われちゃう。なんで全部がこの少ない人数の肩に……でも、そういう人たちが道を切り開いてくれたから、たぶん今の私がいて。私たちの仕事の形があって。もちろん、これから私たちも切り開いていかなきゃいけないんだけど。「こういう先人たちがいたんだな」ってことにもすごくグサリと来ますし。またその勉強をして……一番インテリの男性の中にはちょっとそれを内面化しているというか。「うわあ、嫌な感じ。一見、女性に優しいんだけど、嫌な感じ」みたいなキャラクターもいて。でも、その彼の苦しさもみたいなものもちゃんと描かれているんですよ。だから、誰も取りこぼさない。「本当によくできてる!」って思いながら、ずっと見ていて。とにかく面白いし。芸達者が揃っていて。

芸達者が揃う出演者たち

(宇垣美里)演技がとにかく皆さん、伊藤沙莉さんはもちろんのことなんですけれども。お母さんのはるさんが石田ゆり子さん。「お母さんの気持ちもすごいわかるけど、でもあなたの思うようには生きられるない……」っていうその感じとか。あと、主人公とすごく仲いい親友なんだけども、伊藤沙莉さん演じる主人公とは全然違う道を選ぶっていう。「奥さんになりたい」っていう花ちゃんは森田望智さんがやられていて。あの『シティーハンター』に香役で出られていた方ですね。とか、もう本当に芸達者な方ばっかりで。ぜひ見ていただきたい……。

(宇多丸)先週、ムービーウォッチメンで扱った『辰巳』で主人公・辰巳を演じた遠藤雄弥さんが、まあそんな大きな役じゃないかもしれないけど。すごいクソ夫役で……。

(宇垣美里)すごい嫌なやつでした! つまり、結婚をして、自分にその権利があるのをいいことに、ちょっと奥さんに乱暴をして。乱暴をした挙げ句に奥さんが逃げて。で、離婚は成立しているんですよ。それで「だから、私のお母さんとおばあちゃんの形見を返してください」って奥さんが言ったのに……。

(宇多丸)ああ、さっきの「無能力者だから」みたいな。

(宇垣美里)そう。「一緒にいた時の財産は自分のものだから」みたいな。で、その時にそれぞれの川の弁護士をシソンヌのお二人がやっていたりして。そういう演じている方を見る楽しさもあったりとか。あと、松山ケンイチさんがね、甘味好きで。厳しいことも言うんだけれども。「この人きっといいバディになるんだろうな」っていう感じの先輩裁判官役で出てらっしゃったりとか。もうね、見どころ多すぎて! あと、男装の、非常に苦しい環境から出てきて。だから男装をして。「私は絶対に負けないんだ! お前らとは気持ちの入れよう違うから!」みたいな感じの、非常に厳しいことを言うの同級生がいたり。と思ったら、華族のお嬢様がいたりとか、いろんな人がでも、自分の身ひとつで生きていきたい。いろんな気持ちがあって、その弁護士になりたいという道を選んでる。その人たちがシスターフッドを形成していく感じもまた、最高なんです!

(宇多丸)もう5週目にしてこの感じだから。皆さんまだ、私も含めてですよ。まだ間に合うということで。『虎に翼』の話を伺いました。

(宇垣美里)あとお父さん役が岡部たかしさんなんですよ。『エルピス』のプロデューサー役も素晴らしかった岡部たかしさんがお父さん役で。これもまた素晴らしい演技で。ぜひ見ていただきたいなと思います。

(中略)

(宇多丸)ということで、オープニングで『虎に翼』の話を。

(宇垣美里)よき!

(宇多丸)よきで。もう熱く語っていただいたじゃないですか。で、やっぱり皆さん、激烈な反応がさらに返ってきておりまして。こちら。「宇垣さん、宇垣さん! 私も『虎に翼』、大好きです! 毎朝8時15分まで朝ドラを見て、見終わったらすぐに幼稚園に子供を送るというルーティンなのですが、何度も朝から泣かされています。最近、ロケ地になっている名古屋市市政資料館に行ってきました。ドラマの中では裁判所として使われているのですが、この場所は実際にモデルとなった三淵嘉子さんがお仕事をされていた際、名古屋地方裁判所だった建物なのですよ。あの素晴らしい階段で『ちょっと待った!』ごっこを娘としました。他にも鶴舞公園や名古屋市役所もロケ地なのです。宇垣さん、ぜひ名古屋にいらしてください」ですって。

(宇垣美里)うんうん。行きたくなっちゃった。

(宇多丸)あと、こちらの方も。「『虎に翼』、面白いしものすごい切れ味のセリフが結構な頻度で飛び出してきて、見応えがすごいです。私は学生みんなでハイキングに行っていろいろ大変なことになる週での平岩紙さん演じる梅子さんが……」。

(宇垣美里)泣いちゃったよ、あんなの!

(宇多丸)「謝罪する岩田剛典さん演じる花岡に対して告げる言葉のその凄さに『こんなとんでもないもの、朝からドラマでやって大丈夫なのだろうか? 凄すぎる。最高だ!』と思いました」。

(宇垣美里)ねえ。ちょっとひどいことをして。「あんなの、僕じゃないのに!」って言ったところに「違うよ。全部あなただよ。でも、だからこそ、なりたいあなたにならなきゃダメなんだ」って。それはたぶん、自分の息子さんには言えなかったことを彼に言うんですね。というのも、彼女は旦那さんが弁護士なんですけども、なんかいるじゃないですか。自分の家族を下げるやつ。「すいませんね」って。「死ね」って思うんですけども。

(宇多丸)「愚妻」とかね。

(宇垣美里)それで、長男もそういう風に奥さんのことを「間抜けだな」みたいな、そんな扱いをし始めていて。「ああ、もうこの子のことはどうもしてあげられないかもしれない。でも次男、三男にはああいう風な人間にはしたくない。だから、私は勉強をするんだ」っていう。これがまたね、苦しいんですけども。だからこそ、そんな彼女だからかけられた言葉で。たまらんシーンでした。良い!

(宇多丸)ありがとうございます。皆さんもね、いただいたメールの全てが結構な熱量で。どれだけすごいのかっていうのが伝わりますね。

(宇垣美里)今ならまだ間に合う! 全然行ける。一晩で行けた。

(宇多丸)一晩……。

いまなら一晩で最新話に追いつける

(宇垣美里)『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と一緒よ。あれも一晩だったから。

(宇多丸)私も『Rise of the Ronin』で……俺の一晩って結局、プラチナトロフィーを取るためのね、その無為なその一晩に比べればそっちのがいいですもんね。

(宇垣美里)だってU-NEXTを勝手に流していれば、気づいたら……。

(宇多丸)プラチナトロフィー、4本目もらいました。4本目、なかなかね。

(宇垣美里)その時間で、ぜひ(笑)。

(宇多丸)あのね、そうなのよ。リスナーメールもあったし。ちょうど先週の『アド街ック天国』が御茶ノ水が舞台で。要するに『虎に翼』の……一応、他局なんで。はっきりとは言わないけど、その元になった三淵嘉子さんとかのゆかりの場所という。明らかに『虎に翼』フィーチャーという感じで御茶ノ水をやっていて。私が行っているカレー屋をはじめ、知らない店もいっぱいやっていて。だからさらにですね、ちょっと『虎に翼』、どんどんお堀が埋められてる状態で。

(宇垣美里)ぜひ。もうみんな、いいんだよ。語り出したら止まらんのだ!

(宇多丸)あと思えばさ、『鎌倉殿の13人』も宇垣さんでしたし。このぐらいのタイミングにおける宇垣さんの熱。これを受けて見て、「ありがとうございました」ってことだったわけだから。そうだよね。

(宇垣美里)これはいいと思います。ここからどうなっていくのか、すごいドキドキしてますけれどもね。戦争が待っているので。そこはちょっと楽しみというか、怖い半分で。楽しみにしております。

(宇多丸)もう既にしてから、この時点でもう今回は大傑作という評判が高いんで。

(宇垣美里)だって、医学部でも同じようなことが平成にあったのに! それと同じことが、この時代の弁護士の世界で……。

(宇多丸)そうですよ! あの医学部の問題は誰かが牢屋に入らなきゃいけない話だと思うのよ。マジで。本当にね。

(宇垣美里)勉強しても、なかなかなれないって……私、これは果たして本当に勉強が足りなかったのか? 絶対に「女性だから落とした」っていうやつ、いただろうと思いながら見てしまっていて。やっぱりそれは、私の中にあの医学部のことがあったからというのはあるんだけど。

(宇多丸)現代において、それが行われてたということは何をかいわんやですよね。

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(宇垣美里)どれだけ厳しい道をこの人たちが切り開いてくれたんだろうと思いながら、ギュッて手を握りながら見ています。

(宇多丸)『虎に翼』、NHKで朝8時から。

(宇垣美里)あと、いろんな形で見ることもできますし。

(宇多丸)いろんな、NHKパックとかで見てくださいということでございます。

<書き起こしおわり>

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