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町山智浩 2017年アカデミー賞 有力候補を語る

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町山智浩さんがBS朝日『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の中で2017年2月に開催される第89回アカデミー賞の有力候補について話していました。

(ナレーション)年が明けた1月20日、トランプ大統領が誕生。新政権が本格始動し、アメリカが大きな転機を迎えます。そんな中、翌2月に行われる第89回アカデミー賞授賞式ではどんなメッセージが発信されるのでしょう?

(町山智浩)年明けですぐにアカデミー賞のノミネーションが発表されると思うんですね。で、アカデミー賞授賞式が2月とかにあると、たぶんね、役者さんたちは賞をとった後になにか言うでしょうね。そういうのが好きだし。みんな。

(黒沢レイラ)そうですね。今年は見逃せないですね。そういう意味でも(笑)。

(町山智浩)「なにを言うだろう?」っていう感じなんですよね。昔から言ってブーイングを浴びたりね、拍手があったりとか。

(黒沢レイラ)音楽で消されちゃったりね(笑)。

(町山智浩)音楽で消されるっていうのが(笑)。あれはすごいですよね。「音楽! 音楽!」って横でディレクターがやっていたんですよね。あれ、面白いんですけどね。そう。いまね、オーケストラってその場にいないんですよ。アカデミー賞の授賞式って。

(黒沢レイラ)えっ、いつからいなくなったんですか?

(町山智浩)ええと、2年ぐらい前かな? いままではあったんですよ。オーケストラボックスに。で、あると、俳優たちが彼らに向って「演奏をやめて! やめて!」って言った時にやめちゃうんですって。「俺はしゃべりたいんだから、演奏をやめて!」って言うとやめちゃうから。

(黒沢レイラ)それが理由で?

(町山智浩)そう。別部屋に置くことによって強制的に演奏が入ってくる状態なんですよ、いま。

(黒沢レイラ)ええっ? そんな裏話があったんですか?

(ナレーション)アカデミー賞有力候補はミュージカル?

(町山智浩)ミュージカルってお好きですか?

(黒沢レイラ)昔……もともと宝塚を目指していて。小さい頃に。

(町山智浩)ああ、本当に?

(黒沢レイラ)はい。声楽とバレエを昔やっていたので、当時はよくミュージカルを見ていました。

(町山智浩)そうなんですか。でも、ハリウッドってもうミュージカルをずっと作らなくなっているんですよ。

(黒沢レイラ)ミュージカル映画をっていうことですか?

(町山智浩)映画をね。だから1950年代、60年代のはじめぐらいまではミュージカルの黄金期だったんですけども。ただね、今年ね、アカデミー作品賞にたぶんなるだろうと思われる映画があって。『ラ・ラ・ランド』っていう映画なんですよ。

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『ラ・ラ・ランド』


(黒沢レイラ)はい。ええ、ええ。

(ナレーション)町山が本年度のアカデミー賞作品賞の本命と語るのが『ラ・ラ・ランド』。女優を目指すカフェのバリスタとジャズ音楽家を目指すバーのピアニストの甘美な恋愛を描いたミュージカル。アカデミー賞間違いなしというその理由は?

(町山智浩)『ラ・ラ・ランド』っていうのは『La La Land』って書いて、LAについての……

(黒沢レイラ)よくLAのことを「La La Land」って言いますよね。

(町山智浩)言いますよね。あれ、どういうイメージなんですかね? 「La La Land」って。

(黒沢レイラ)ええっ、私の中ではちょっと浮世離れした、みたいな?

(町山智浩)はいはい。

(黒沢レイラ)ハリウッドの中に……っていうイメージだったんですけど。

(町山智浩)「夢の街」みたいなね。全くそういう話ですよ。『ラ・ラ・ランド』って。なんたって主人公がいまここで撮影しているすぐ近くにワーナー・ブラザース・スタジオってあるじゃないですか。あそこにカフェがあるじゃないですか。スタジオの中に。

(黒沢レイラ)ええ、ええ。

(町山智浩)あのカフェのコーヒーのバリスタなんですよ。主人公のヒロインが。

(黒沢レイラ)へー。アクターを目指しているとか、そういう?

(町山智浩)そうなんです。そうなんです。まあ、ハリウッドはみんなそうですが(笑)。ハリウッドはウェイトレスの人もみんな……

(黒沢レイラ)だからみなさん、きれいなんですよね。レストランに行くと(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。で、なんか話しかけて話すとかならず名刺をくれますよね。ウェイトレスの人とか。

(黒沢レイラ)自分の写真が入った(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。で、エージェントの電話番号が書いてあるんですよね。で、僕らが何者か知らなくても、とりあえず配っておくっていう感じでね。全くそういう話ですよ。エマ・ストーンっていう女優さんが……『魔法使いサリー』っていうアニメをご存知ですか?

(黒沢レイラ)『魔法使いサリー』って、日本のですか? ええ、はい。サリーちゃん。

(町山智浩)あのサリーちゃんのお友達のよし子ちゃんっていう子がいましたよね。

(黒沢レイラ)ああ、それと声が一緒だっていう?(笑)。

(町山智浩)そうそう、声がおんなじなんですよ。よし子ちゃんの声なんですよ。「あのね、あたしはね……」っていう声なんですよ。ガラガラでね。で、そのエマ・ストーンが俳優を目指してコーヒーのバリスタをワーナー・ブラザースのスタジオでやっているんですよ。で、スターたちにコーヒーを出す仕事なんですよ。スターになりたいんだけど。それでオーディションに出まくっているんですけど、片っ端から落ちているんですね。で、彼女が出会うのがライアン・ゴズリングです。

(黒沢レイラ)はいはい。日本ではそんなに知名度が?

(町山智浩)いや、そんなことないですよ。

(黒沢レイラ)あ、いまもう人気なんですか?

(町山智浩)人気はすごいですよ。すぐ脱ぐしね(笑)。

(黒沢レイラ)『Crazy, Stupid, Love.(邦題:ラブ・アゲイン)』の。

(町山智浩)そう。あれでエマ・ストーンと一緒に出ているじゃないですか。

(黒沢レイラ)ああ、そうですね。はいはいはい。

(町山智浩)覚えてます? エマ・ストーンとベッドに行ってライアン・ゴズリングがバッと脱いだらすごい筋肉なんで、それを見て「フォトショップでいじってるの?」っていうギャグがあったじゃないですか。ねえ。

(黒沢レイラ)ええ、ええ(笑)。

(ナレーション)エマ・ストーンとライアン・ゴズリングが初めて共演したラブコメディー『Crazy, Stupid, Love.(邦題:ラブ・アゲイン)』。こちらが町山が語ったそのシーン。



(町山智浩)で、その後も結構一緒によく共演をしていて。息がすごく合っているんですよ。エマ・ストーンとライアン・ゴズリングは。そのライアン・ゴズリングがこの『ラ・ラ・ランド』でやる役はピアニストなんですね。ジャズ・ピアニストなんですけど。

(黒沢レイラ)またロマンチックですね(笑)。

(町山智浩)すごいロマンチックでしょう? で、しかも彼が働いているクラブっていうのはハリウッド大通りにほら、マリリン・モンローとかチャップリンとかが壁画で並んで映画館の席に座っているっていうのがあるじゃないですか。で、あなたもそこに立つとスターの中に入れるよっていう壁画があるじゃないですか。

(黒沢レイラ)はいはい。私も写真、撮りました(笑)。

(町山智浩)あそこにところにクラブがあるんですよ。その話の中では。で、オーディションに落ちてがっくりしたエマ・ストーンがそのクラブの中に入っていく。クリスマスで彼氏もいないし。するとそこでライアン・ゴズリングがピアノを弾いているのを見る。そこで恋に落ちていくっていう話なんです。すっごいロマンチックな。『ラ・ラ・ランド』が面白いのはこれね、監督がデミアン・チャゼルっていう監督なんですけど、31才なんですよ。

(黒沢レイラ)31才!? つい数年前まで20代?(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。子供みたいだった人がね、この前に日本語タイトルは『セッション』っていうタイトルなんですけども、『Whiplash』っていう映画で、もう制作費がこんなにちっちゃいのにもう大当たりして。

(黒沢レイラ)ええ、話題になって。

(ナレーション)『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼルが脚本・監督した長編デビュー作『セッション』。ジャズドラマーを夢見て名門音大に入学した青年と、伝説の鬼教師。その狂気のレッスンと確執をスリリングに描き、アカデミー賞三部門をを始め、51もの賞を受賞した傑作。

(町山智浩)彼、映画二作目なんですよ。長編は。

(黒沢レイラ)映画二作目で両方アカデミー賞? アカデミーに行くかもしれないと?

(町山智浩)アカデミー作品賞をとりそうです。超天才なんですよ。で、彼自身がもともとジャズミュージシャンになりたくて。でも、上手くいかなくて映画監督になったと。映画監督になるのも大変じゃねえかという(笑)。「お前、上手く行かなくて映画監督かよ?」って思うんですけど。その音楽家として上手く行かなかったっていう気持ちが前の『セッション』っていう映画にも反映されていて、今回も音楽家として苦しんでいる主人公なんですよね。それと俳優になりたくて苦しんでいる彼女とが出会って恋に落ちていくんですけども。とにかくね、LAのあらゆるところが出てくる映画なんですよ。

(黒沢レイラ)ああ、そうなんですか!

(町山智浩)LAの観光ガイドみたいなんですよ。で、それが本物のLAよりも何十倍も素晴らしく見えるんですよ。色がきれいで。本当は結構汚かったりするところをものすごくきれいに撮っていて。だから、LAに住んでいる人とかはね、この映画を見てもう最高だと思うんですよ。みんなたぶんデートをしたところが映るので(笑)。で、アカデミー賞はLAに住んでいる人たちが投票しますから(笑)。

(黒沢レイラ)そうですね。やっぱりアカデミーって問題提議みたいな映画が好きじゃないですか。だけど、こういう夢を与えるっていう……うちの父(黒沢年男)も昔、よく言っていたんですけども。「映画が終わって歩き出した時に主人公になったみたいな気分になる。それが映画だ」って。そういう映画?

(町山智浩)全くそういう映画ですよ。その夢を目指している男と女の話なんで。まさに夢がテーマになっているんですよ。これさ、だって(アカデミー賞は)俳優さんたちが投票をするわけじゃないですか(笑)。もう絶対に賞とるに決まってる。もうみんな泣くんだもん。これを見て、もう(笑)。「俺だよ、これ!」「これ、私よ!」なんだもん。これ、ズルいんだもん(笑)。

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(黒沢レイラ)(笑)

(ナレーション)どん底俳優の復活劇をアカデミーが賞賛?

(町山智浩)アカデミー主演男優賞をとりそうな人は今回、ケイシー・アフレックという俳優さんだと思うんですよ。

(黒沢レイラ)あのベン・アフレックの?

(町山智浩)そう。あの目立たない弟(笑)。地味な、話題になかなかならない。で、彼が出た映画で『マンチェスター・バイ・ザ・シー』という映画がありまして……

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』


(ナレーション)ボストンの港町マンチェスター・バイ・ザ・シーで便利屋で生計を立てながらひっそりと暮らす男。彼の抱えている過去の秘密が少しずつ明らかになっていく。主演はベン・アフレックの弟、ケイシー・アフレック。彼が主演男優賞と予想するその理由は?

(町山智浩)ケイシー・アフレックって全然俳優としての仕事もないし、その前に監督として、見ました? 『容疑者ホアキン・フェニックス』っていう映画を作ったんですよ。どういう映画か?っていうと、数年前に突然、ホアキン・フェニックスが「俳優をやめる」って言い出したのを覚えてます?

(黒沢レイラ)ありましたね。

(町山智浩)で、テレビのトークショー、『デイヴィッド・レターマン・ショー』に出て、なにを聞かれても「ううーん、ううーん、うーん……」とか言ってて、完全にイッちゃっている状態で。それをドキュメンタリー映画にしたのがその『容疑者ホアキン・フェニックス』という映画で。



(黒沢レイラ)ドキュメンタリーなんですか?

(町山智浩)ドキュメンタリー映画で、彼がどうして崩壊していったのか?っていう。それを撮っていたのがケイシー・アフレックなんですよ。

(黒沢レイラ)ええーっ? で、実際に彼は崩壊していたんですか?

(町山智浩)実際に崩壊していたか? というと、していなかったんです。全部ジョークだったんですよ。

(黒沢レイラ)ええっ?

(町山智浩)それを知っていたのはホアキン・フェニックスとケイシー・アフレックだけだったんです。家族にも言っていなかったんです。

(黒沢レイラ)すごいですね。その、ハリウッド自体を巻き込んだ……

(町山智浩)全員巻き込んだ。1年間かけてホアキン・フェニックスが精神的に崩壊するっていう芝居をやっていたんですよ。ドッキリですね。で、それを映画にして当たると思ったんですね。ジョークとして。

(黒沢レイラ)当たらなかったんだ?(笑)。

(町山智浩)みんな怒っちゃって(笑)。「やっていい冗談と悪い冗談があるだろ!」っていう。で、ケイシー・アフレックは特にヤバくて、仕事がなくなっちゃった。

(黒沢レイラ)ああ、そういうことがあったんですか!

(町山智浩)そう。ショボーンとしていたんですけど、今回のこの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』はもともとマット・デイモンがやるはずだったんですよ。

(黒沢レイラ)で、マットが「やらない」って降りたんですか?

(町山智浩)そもそもマット・デイモンの企画で、マット・デイモンのために書かれたシナリオで。完全にマット・デイモンがプロデューサーとしてやっていて。これ、だってストーリーを聞いて分かるんですけども、これ主演した人はかならずアカデミー賞をとるような話なんですよ。上手く演技できれば。だからマット・デイモンって実は俳優としてあんまり評価されていないので。あの人はいろんな映画に出ているけど、意外とそうじゃないですか。

(黒沢レイラ)まあ「演技派」っていうイメージではないですよね。

(町山智浩)で、これで彼は演技派になることができるということで、彼自身がお金を出してこの企画を動かしていたんですよ。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を。でも、彼はケイシー・アフレックに譲ったんですよ。ベン・アフレックがマット・デイモンと子供の頃から一緒に育って、2人で脚本を書いて『グッド・ウィル・ハンティング』で。それで2人でハリウッドで有名になっていったんですけども、その弟のためにマット・デイモンは……

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(黒沢レイラ)マット、いい人!

(町山智浩)そう。結構いい人。いいやつなんですよ。ハリウッドって結構義理堅いところで、なんか失敗したりするとみんな助けるんですよね。

(黒沢レイラ)セカンドチャンスなりを。

(町山智浩)そう。

(ナレーション)ハリウッドは義理堅い?

(町山智浩)人助けをやっているのだと有名なのはシルベスター・スタローンですね。

(黒沢レイラ)シルベスター・スタローンですか?

(町山智浩)シルベスター・スタローン、いい人なんですよ。あの人は『エクスペンダブルズ』シリーズっていうのをプロデューサーとしてずっと作っているんですね。あれは出てくる人たちがほとんどは前科者なんですけど(笑)。

(黒沢レイラ)そうなんですか!

(町山智浩)俳優たちが。だからウェズリー・スナイプスっていう俳優がいて。黒人の俳優さんですね。あの人は脱税で捕まったんですよね。刑務所から出てきたらすぐに『エクスペンダブルズ』に出してあげたりとか。それでジャン・クロード・ヴァンダムも次々と事件を起こして破産して、お金がなくて。それで娘さんの養育権まで裁判で取られちゃったりしているんですよ。そうすると、出してあげる。でもみんな、スタローンの80年代の筋肉アクション映画のライバルたちなんですよ。

(黒沢レイラ)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)そうなんです。あと、シュワルツェネッガーですよ。お手伝いさんを妊娠させてしまって役がなくなってしまって。スタローンと昔はライバルだったのに、『エクスペンダブルズ』に呼んであげて。そういう逮捕とか離婚とかで困っている人をみんな集めて。みんな自分の敵だったのに。で、『エクスペンダブルズ』という劇団みたいなものをやっていますね(笑)。

(黒沢レイラ)へー! そうなんですか。それは知らなかったです。

(町山智浩)すごいいい人ですよ。だから彼らに話を聞くと、「本当にスタローンには感謝しているよ」って言うんですよ。ドルフ・ラングレンとか。

(黒沢レイラ)セカンドチャンスをあげようと。

(町山智浩)セカンドチャンスをくれる人なんですよ。だから本人は大変だと思いますけどね。変な人がいっぱいいて。

(黒沢レイラ)でも本当、ハリウッドの人って自分が成功しているからそれを分けてあげたいっていう人が……

(町山智浩)多いですね。マーク・ウォルバーグとかもそういう人ですよね。彼も結構いろんな人を助けているんですよ。デヴィッド・O・ラッセルっていう監督がいるんですけど、『世界にひとつのプレイブック』っていう映画で。ジェニファー・ローレンスがアカデミー賞をとった……

(黒沢レイラ)はい。『Silver Linings Playbook』ですね。

(町山智浩)そうそう。あれを作った監督なんですけど。あの人、ハリウッドで仕事がなかったんですよ。現場でリリー・トムリンっていう大女優にヒステリックに怒鳴り散らして、それをスマホのビデオで撮られかちゃって。それをYouTubeに流されたんで。

(黒沢レイラ)怖いですね。ソーシャルネットワーク(笑)。

(町山智浩)怖いですよね。本当に怖いですね。で、仕事がなくなっちゃったんですよ。で、クリスチャン・ベールもその時に『ターミネーター』シリーズで撮影中にカメラマンを「バカヤロー!」ってやっているところをやっぱり撮られて、それが流れて結構ヤバくなっていて困っていたら、マーク・ウォルバーグが『ザ・ファイター』っていう映画で……自分がずっと映画権を持っていた実在のボクサーの映画なんですね。

(ナレーション)マーク・ウォルバーグは自らがプロデュースするこの『ザ・ファイター』でデヴィッド・O・ラッセルを6年ぶりに監督で起用。結果、アカデミー賞で見事に7つのノミネートを獲得。さらにクリスチャン・ベールは助演男優賞を受賞。マーク・ウォルバーグはこの映画で2人の映画人を復活させたのです。

(町山智浩)マーク・ウォルバーグはすごく義理堅い人なんですよ。だから上手くトントン拍子にスターになった人ってそんなにいないですよね。ウィル・スミスとかはいますけどもね(笑)。なにも苦労していないですけどね。あの人は。

(黒沢レイラ)そうなんですか?

(町山智浩)あの人はもういきなりMITの特待生で、それを蹴って役者になってとかね。なんか恵まれすぎているんですけど。恵まれすぎているからね、彼、『マトリックス』っていう映画に最初主演するはずだったんですけども、ダメだったんですよ。『マトリックス』っていう映画は「この世の中、社会というのは実はまやかしであって。バーチャルリアリティーで現実ではないんだ」っていう話なんですけど。それを脚本を書いて監督したウォシャウスキー・ブラザーズが「そういう話なんです。ウィル・スミスさんに出てほしいんです」って言ったら、「うーん……全然わからないね、この話。現実に俺、なにも不満ないから」って言ったという(笑)。

(黒沢レイラ)全部上手くいってると?(笑)。

(町山智浩)それでダメだと思って、その後にキアヌ・リーブスに話を持っていったんですね。で、「これはこの現実というのはまやかしで、インチキだっていう話なんですよ」っつったら、「うん、そう思うよ!」って言ったんでキアヌ・リーブスになったんですよ。

(ナレーション)町山が注目する本年度アカデミー賞ノミネート候補作。続いては、日本の名作と密接に関係するこの映画。

(町山智浩)『ハクソー・リッジ』っていう映画があるんですね。これはね、沖縄戦についての映画なんですよ。

『ハクソー・リッジ』


(ナレーション)アメリカが描く沖縄戦の真実。

(町山智浩)岡本喜八監督が『日本のいちばん長い日』と並んで撮ったのが『(激動の昭和史)沖縄決戦』っていう映画なんですよ。『沖縄決戦』はすごい映画なんですよ。沖縄の戦争っていうのはアメリカ軍が入っていって、沖縄の人たちが一般民衆も含めて戦闘に参加させられて。それで沖縄人の4人に1人が死ぬっていう大変な事態になったんですね。ただ、東宝が作った時はアメリカ兵側は出てこないんですよ。まあお金の問題もあるし、日本兵側の話しかないんですが、丹波哲郎さんがやっている長という名前の司令官がいまして。長司令官が「我々日本軍は徹底的に戦ったから、アメリカ兵側には精神異常者が続出したらしい」っていうセリフが出てくるんですよ。

(黒沢レイラ)はい。

(町山智浩)で、それだけ日本兵は強いんだって丹波さんが自慢をするシーンが有るんですね。どれほどひどい戦闘だったのか?っていうのを実際に映像で見せるのが、この『ハクソー・リッジ』なんですよ。

(黒沢レイラ)なるほど!

(ナレーション)アカデミー賞の前哨戦とも言えるゴールデングローブ賞で三部門にノミネート。銃なしで激戦地に赴き、一晩に多くの負傷兵を救ったデズモンド・ドスの実話からハクソー・リッジ(弓ノコ崖)での狂気に満ちた戦闘シーンを描いた衝撃作。

(町山智浩)すごい映画で、もう……

(黒沢レイラ)いい映画?

(町山智浩)いや、ただもう強烈なんですよ。『プライベート・ライアン』っていう映画はご覧になりました?

(黒沢レイラ)はいはい。見ました。

(町山智浩)ものすごい残酷だったでしょう? 頭が吹っ飛んだり、腕が飛んだり。

(黒沢レイラ)もう本当に、ビジュアルというか。

(町山智浩)ビジュアルが。あれを5倍増しぐらいにしています(笑)。

(黒沢レイラ)ええっ!?

(町山智浩)もうひどい……バーン! グチャ、バーン! ですよ、ずっと。

(黒沢レイラ)でも、アカデミー賞に引っかかりそうっていうのは、メッセージ性ですか?

(町山智浩)いい話なんですよ。これね、主人公はデズモンド・ドスという実在の人物で、その戦闘に参加しているんですけど。彼は決して銃を持たなかったんですよ。アメリカ兵ですが。彼はキリスト教原理主義者だったんですね。で、キリスト教原理主義者の人たちは聖書に書いてある言葉を全部守るんですよ。で、その中に十戒の教えがあって「汝殺すなかれ」って書いてあるんですね。で、それを絶対に守るんですよ。「絶対に殺さない」と。キリスト教徒の人たちの多くは「私はキリスト教徒です」って言いながら、人を殺したりしているわけですよ。戦争に行って。でも、彼は戦争でも絶対に殺さないって言って。ただ、戦争は若い人たちが死ぬものだから、それはなんとかしてその若い人たちを助けたいと言って戦場に行くわけですけど……

(黒沢レイラ)ええ、ええ。

(町山智浩)そうするとね、まず味方からボコボコにされるんですよ。ドスさんが。

(黒沢レイラ)そんなことを言っている場合じゃない!っていうことですか?

(町山智浩)そうそう(笑)。「お前、なに言ってんだ? 戦争だぞ、この野郎!」って。

(黒沢レイラ)生き延びなきゃいけないから。

(町山智浩)そうそう。ものすごいイジメられるの。訓練中ももうボコボコにされるんですよ。ところが、いじめられてもいじめられて、「僕は君を助けるために来たんだ」とか言って。まあ、どうしてそうなったか?って言うと、聖書の教えと、あとお父さんがものすごく暴力的だった人なんで、暴力が嫌いになっちゃうんですね。で、酒に酔った親父にずっといじめられていたアンドリュー・ガーフィールド扮するデズモンド・ドスがみんなに嫌われて殴られながら沖縄戦に行くと……もう死屍累々たる状態になるわけです。日本軍が強すぎて。アメリカ兵はボロ負けで。で、そこからドスの戦いが始まるわけですね。彼はたった1人で負傷兵を全員助けるんです!

(黒沢レイラ)はー!

(町山智浩)たった1人で。っていう実話を描いた映画なんで、まあこれは感動の実話系っていうことでアカデミー賞に引っかかってくるだろうと。これはね、監督がメル・ギブソンなんですよ。

(黒沢レイラ)監督がメル・ギブソンですか。

(町山智浩)メル・ギブソンはアルコールでしょっちゅう問題を起こして。で、DVで訴えられたりとか。自分のことですね、これはお父さん(笑)。反省をしたんだと思うんですけど。

町山智浩 メル・ギブソン監督 沖縄戦映画『ハクソー・リッジ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でメル・ギブソン監督が第2次大戦の凄惨な沖縄戦を描いた映画『ハクソー・リッジ』を紹介していました。 (町山智浩)で、今...

(黒沢レイラ)なるほど。そのメル・ギブソンが監督。

(町山智浩)監督したんですよ。ちなみにメル・ギブソンもシルベスター・スタローンの互助会に助けられて『エクスペンダブルズ』に出ていますね。

(黒沢レイラ)なるほど。みんなつながっているんですね。

(町山智浩)困った人はとりあえずスタローンのところに行くとなんとかしてくれるっていう。

(黒沢レイラ)スタローンさんはとりあえず怒らせちゃいけないと。いい関係で(笑)。

(町山智浩)そうそう!

(町山智浩)『ラ・ラ・ランド』の方はアカデミー賞をとるだろうと思うのは、アカデミー賞を投票する人たち向けの映画だからなんですけど。それと別に、批評家賞っていうのがあるんですね。映画賞で、各地で。ロサンゼルス批評家賞とかニューヨーク批評家賞っていうのがあるんですが。そっちの方ですごく評価されて賞をとっている映画がありまして。それは『ムーンライト(Moonlight)』っていう映画なんですよ。

『ムーンライト』


(ナレーション)ニューヨークとロサンゼルスの批評家協会賞で多くの部門を受賞。ドラッグ、イジメ、虐待などの中で生きながら自分の居場所とアイデンティティーを探す少年の成長を3つの時代構成で描き出す感動作。町山曰く、この作品は今後の映画作りを変える重要な要素が含まれているというのです。

(町山智浩)話はすっごく真面目な、地味な話なんですね。で、個人的な体験がもとになっていて、2人とも同じフロリダの貧民街で育っていて、母親の虐待を受けた経験のある人たちなんですね。監督と脚本を書いた人が。ただ、この『ムーンライト』っていう映画は撮影がすごいんでびっくりしちゃったんですよ。僕。

(黒沢レイラ)撮影?

(ナレーション)映画の作り方が変わる?

(町山智浩)見たらね、とにかく……フロリダってすごく緑が多いところじゃないですか。それで光がさんさんと照っているんですけど、現実じゃないぐらいきれいなんですよ。葉っぱとか太陽の光の感じが。最近、日本ですごく評価されているアニメーション映画監督で新海誠という監督がいるんですね。で、その人の風景は全くそういう感じなんですよ。きらめいているんです。全てが。それが実写で、全くその新海誠の風景のようにきらめいているんですよ。

(黒沢レイラ)へー!

(町山智浩)あと、黒人しか出てこないんですけども、そのアフリカ系の人たちの肌の色がものすごくきれいなんですよ。

(黒沢レイラ)へー! そこですか!

(町山智浩)そこがすごいんですよ。黒いところはものすごく黒く潰れていて。で、光っているところがきらめいているんですよ。で、肌の質感がもうブロンズとかの彫刻のように見えるんですよ。

(黒沢レイラ)じゃあ映画を見ている時にちょっと浮世離れしたというか?

(町山智浩)そう! そうなんです。ファンタジーみたいなんですよ。夢のようなんですよ。フロリダで普通に撮っているのに。で、これっていったいどうやって撮影したんだろう?って思ったんですけど、それは撮影でやったんじゃなかったんですね。

(黒沢レイラ)なんだったんですか?

(町山智浩)いまね、そういう技術があるんですね。カラリストっていう、「カラーリング」っていう技術があるらしいんですよ。

(黒沢レイラ)撮ったフィルムの上にカラーを重ねるということですか?

(町山智浩)そうなんです。デジタルデータで撮影されたものを、アレックス・ビッケルという人がカラリストっていう人なんですけども。この人が全部コンピューターでいじって、色とかを全部調整しているんですよ。まあとにかく、木漏れ日とかが全部光が透過光のように直接真っ白な光で来るように全部調整しているんですよ。コンピューターで。だから本物の木漏れ日を見ているように見えるんですよ。

(黒沢レイラ)へー!

(町山智浩)本当はノイズが入っているわけですよ。実際の映像っていうのは。光のように見えても向こう側にはいろんなものがあるんですけど、それを全部取っちゃっているんですよ。いちいち、全シーンで。で、肌も実際の肌よりも黒く見えて、すごく陰影が濃く見えるのは、実際にそこに存在しない青い色を重ねているらしいんですよ。


(黒沢レイラ)なるほど。なんか最初、映画のお話だけを聞いていたら、重い映画、暗い映画なのかなって。でも、そのイメージと全く異なりますね。

(町山智浩)全く違うんですよ。映像だけを見ていると、本当に。だからたぶんね、いままで全然気がつかなかったアフリカ系の人たちの肌の美しさっていうものがわかる映画なんですよ。これ、ちょっと画期的なんで。ただ僕、これはアカデミー賞に引っかかってくるとは思うんですけども、いったいどこに引っかかってくるのかがわからないんですよ。

(黒沢レイラ)編集……ですか? エディティングみたいな?

(町山智浩)そう。わからないでしょ? これ、ジャンルがないんですよ。この技術に関しては。

(黒沢レイラ)なるほど。新しいですね。カラーリングっていう。

(町山智浩)カラーリング。ねえ。だからこれはすごい、ハリウッド映画が変わるなと思うんですよ。で、実はその仕事はいままでもずっとあったんですけど、あまり目立たないものだったんですね。いま、ハリウッド映画って実は全部カラーを調整しているんですよ。その人の服の色とかを全部変えていて。

(黒沢レイラ)服までですか?

(町山智浩)服とか、全部変えているんですよ。だからここまでやれるとなると、今後ハリウッド映画ってどうなるんだろう?って僕は思っちゃうんですよ。『ゴーン・ガール』ってご覧になりました?

(黒沢レイラ)はいはい。

(ナレーション)失踪した妻と、その妻の殺害を疑われた夫。メディアによって暴かれる夫婦の秘密。鬼才デビッド・フィンチャーが監督した予測不可能なサイコ・サスペンス。舞台として描かれているのは現代のアメリカの風景ですが、そこにはある秘密が……

(町山智浩)『ゴーン・ガール』ってほとんど特撮なんですよ。

(黒沢レイラ)特撮なんですか!?

(町山智浩)ほとんど特撮なんですよ、あれ。たとえば、すごい家に住んでいるじゃないですか。あの家って全部セットで。外から見える風景は全部コンピューターでつけているんですよ。

(黒沢レイラ)全然気づかなかったです。

(町山智浩)全然気がつかないでしょう?

(黒沢レイラ)しかも、特撮をするような映画じゃないじゃないですか。

(町山智浩)じゃないんですよ。普通に撮りゃいいじゃん!って思うじゃないですか。あと、バーをベン・アフレックが経営しているじゃないですか。バーの外側とか全部作り物なんですよ。

(黒沢レイラ)ええっ? いままでだったら運転している後ろとかね、ちょっとだけ。

(町山智浩)でもそれって逆に、撮影監督の権限ってどうなるんだろう?って思うんですよ。

(黒沢レイラ)そうですよね。このちょっとのところでこう……

(町山智浩)いま4Kとか5Kとかで撮影しているので。そうなるとデータのデジタル量が多いから、アップにするかロングにするかは後で決めていいんですよ。基本的に全部、いわゆるマスターっていうやつを……要するにグッと引いて全部撮っておいて、後で自由自在に。クローズアップにしても全く画質が荒れないんですよ。

(黒沢レイラ)はー! そうか。「このショット」っていうのがね。

(町山智浩)そう。フレーミングは全部後でいじれるから。

(黒沢レイラ)じゃあそのフレーミングをやるのはカメラになってくるのか、誰になってくるんでしょうね。監督さんになってくるのか……

(町山智浩)わからないですね。誰がこのシーンを作ったのか?っていうのがもうわからない感じですよ。

(黒沢レイラ)そうですよね。もう権限が。

(町山智浩)もう映画の作り方自体が急激に変わっているんですよ、いま。だからその『ムーンライト』という映画はものすごい低予算であるにもかかわらず、見たこともない映像で。それがしかも、監督の手によるものでもなくて、カメラマンの手によるものでもなくて、カラリストといういままで知られていないジャンルの人の手によるっていうのは、これはすごい新しい時代の映画だなと僕は本当に思いましたね。

(黒沢レイラ)変わってきますね。これから。

(町山智浩)はい。

(黒沢レイラ)ちなみに、町山さんの2016年のベスト映画は?

(町山智浩)はい。これがね、ずっとアメリカの話をしていて申し訳ないんですが、日本映画なんですよ。

(黒沢レイラ)日本映画なんですか?

(町山智浩)しかも映画っていうか、アニメーションなんですよ。

(黒沢レイラ)アニメーション!

(町山智浩)ここまでハリウッドの話をしていて(笑)。ええとね、『この世界の片隅に』というアニメーションなんですね。

(黒沢レイラ)ええ。

町山智浩2016年ベスト映画『この世界の片隅に』


(ナレーション)町山が2016年の映画の中でナンバーワンと言う『この世界の片隅に』。11月の公開から口コミで評判が広がり、異例のヒットで上映館も大幅に拡大。実はこの映画が見たいというファンのクラウドファンディングによって支えられているのです。

(町山智浩)クラウドファンディングという形で、見たい人たちからお金を募って、それで少しずつ作っていった本当に手作り映画なんですけども。まあ、これがすごいいい映画なんですよ。普通の戦時中の若い女性の、お嫁さんとしての苦労話なんですけども。

(黒沢レイラ)ええ。

(町山智浩)表向きはそう見えていて、その裏に何重もいろんな話が重なっていて。めくっていくと違う話が出てくるっていうような話で。1回見た時は、そのお嫁さんの話として見て。2回目に見る時には、呉で起こった海軍とアメリカ軍との戦いが見えてくるんですね。で、もう1枚めくると、そのお嫁さんが実は妊娠できなくて。で、すごく小姑にいじめられて苦しんでいて。やりたいことは他にあったのに、それも失われていって、しかも旦那には他に女がいたっていうことがわかってくるというのがチラッチラッと見えていて。実はすっごい地獄のような苦しみを……彼女は苦しんでいたっていうことが見えてくるんですね。

(黒沢レイラ)へー!

(町山智浩)ただ、表向きの話は『サザエさん』みたいなほのぼのとした……

(黒沢レイラ)なるほど。嫁いでいって……

(町山智浩)そうそう。ギャグがいっぱい詰まっていて、笑えるんですよ。映画館、みんな笑ってばっかりなんですよ。もうぜひ見ていただきたいので。

町山智浩 『この世界の片隅に』徹底解説
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で映画『この世界の片隅に』を徹底解説。すでにこの映画を見た赤江珠緒さん、山里亮太さんとその素晴らしさや隠された意味について話していました。 ...

(黒沢レイラ)こちらでは?

(町山智浩)たぶんアメリカで公開します。で、そのアメリカで公開するための宣伝費用もファンから集めているんですよ。

(黒沢レイラ)それも、そこも新しくて。これからの新しい新人監督に夢を与えますよね(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。後ろに大資本がついていないんで。で、ハリウッドにこれを持ってきて、いろんな人に見せるっていうのもみんながお金を出し合っているという映画です。

(黒沢レイラ)本当にやりたいという気持ちがあったら、ここまでできるんだっていう話も後ろにあるという?

(町山智浩)まさにそういうことですね。だからこれもひとつの夢の話ですね。

(黒沢レイラ)今日、お話を聞かせていただいて、映画を違う面から見れるようになる気がしました。

(町山智浩)そうであれば、うれしいです!

<書き起こしおわり>

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