町山智浩 『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で27才の若さで亡くなった伝説の女性シンガー、ジャニス・ジョプリンを描いだドキュメンタリー『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』を紹介していました。



(赤江珠緒)町山さん、今日はなにをご紹介いただけるんでしょうか?

(町山智浩)今日はね、オリンピック絡みってことじゃないんですけど。オリンピックで開会式を演出した映画監督がいるんですね。ブラジルの映画監督でフェルナンド・メイレレスという人なんですけど。この人がずーっと作ろうとして、のたうち回ってなかなか作れない映画がありまして。それが、ジャニス・ジョプリンという1960年代終わりのアメリカの女性ロックシンガーの伝記映画を作ろうとしているんですよ。このメイレレスさんが。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)でも、なかなかできなくてズルズルいっていて。キャストが変わったりですね。ジェニファー・ローレンスをヒロインにするとかいろいろ言ったり、また変わったりとかしていて、のたうち回ってるんですけど。その間に、ジャニス・ジョプリンのドキュメンタリー映画が去年の終わりに作られてしまったので。で、それが9月10日かな? 日本で公開されます。それをちょっと紹介します。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』という映画です。まず、ちょっと1曲聞いてもらえますか? はい。『Move Over』。お願いします。

Janis Joplin『Move Over』



(町山智浩)はい。まあ、ジャニス・ジョプリンのいちばん有名な歌なんですけど。この人の影響はいまもものすごいですよね。

(赤江珠緒)うん。結構アーティストの方で「好き」っていう方、多いですね。

(町山智浩)はい。Superflyが出てきた時に、「うわっ、またジャニス!」って思いましたよね。

(赤江珠緒)ああー!

(町山智浩)もう本当に歌い方とかもジャニス・ジョプリンの影響が強いですよね。(越智)志帆さんはね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)日本ではね、その前にカルメン・マキさんがそうでしたね。73年ぐらいに。あと、金子マリさん。「下北のジャニス」と言われた人なんですけど。

(赤江珠緒)「下北のジャニス」。へー!

(山里亮太)ピンポイントにいましたね、ジャニスが!

(町山智浩)そうなんですよ。いろんなところにジャニス・ジョプリンがいたんです。たぶん世界中にいるんです。ジャニス・ジョプリンが。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)まあ、それぐらいすごい影響を与えているんですけど。この人がどうしてこういう歌を歌うようになったのか?っていうドキュメンタリーが『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』なんですが。赤江さんとか、ご存知ですか? 世代でジャニス・ジョプリン。

(赤江珠緒)はい。聞いたことあります。ジャニスさんは。

(町山智浩)はい。ちょっとビデオを見てもらったんですけど、どうでした? お二人。

(山里亮太)いや、もう、そんなに若かったんだって驚いたぐらいで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そうでしょう? ジャニス・ジョプリンが歌っているのを見ると、正直な話、40過ぎに見えますよね?

(赤江珠緒)そう思ってました。はい。

(町山智浩)27才で亡くなっているんですよ。1970年に。で、実際には66年からたった4年間しか音楽活動していないんですね。彼女は。

(赤江珠緒)そんなに短かったんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。たった4年間で、いまも全世界に影響を与え続けているんですごいんですけど。あの、お顔を見ると、おばあさんみたいですよね?


(山里亮太)そう。びっくりしましたね!

(赤江珠緒)ねえ。うん。

(町山智浩)ボロッボロだったみたいですね。はい。で、この映画……いままでジャニス・ジョプリンのドキュメンタリーっていうのは何度も作られているんですけど。映像なんか使われているものは今回もダブってるんですが。今回、ちょっと違うのはジャニス・ジョプリンに妹がいまして。その妹に、「お姉さんはいったいどういう子だったのか?」っていうのを聞いていって。あと、ジャニス・ジョプリンが家族に書いた手紙とか、そういったものが初めて公開されるのが売りになっている映画なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)その、彼女が歌っていた歌っていうのはほとんど全部、黒人女性のブルースを歌っていたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)っていうのは、ブルースっていうと一般によく知られている歌っていうのは『(とん平の)ヘイ・ユウ・ブルース』じゃないですか。左とん平さんの。



(赤江珠緒)一般って、そこがベースですか?(笑)。えっ?

(町山智浩)あれがでも、基本的なブルースなんですよ。「ヘイ、ユー!」っていう。「ヘイ、ユー! ワッチャネーム?」っていう。あれが基本的なブルースで、黒人男性がお客さんに「おう、俺がやって来たぜ! 俺はモテモテだぜ、イエーッ!」っていうのがブルースだったんですよ。本当に。「俺のこと、知ってるかい? モテモテの……」とかいう、もう自分がいかにモテるか?っていうのを自慢するのが黒人男性のブルースだったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなの?

(町山智浩)だからロックンロールっていうのはモテモテロックみたいなものから始まってルンですよ。「あの子がほしいぜ!」とか、そういう歌だったんですよ。ブルースはロックンロールの元祖なんで。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)ところが、女性ブルースっていうのは全く逆なんですよ。女性のブルースはそういう、はっきり言うとだらしない男。女ったらしに苦労する女性たちの立場から歌われているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからベクトルが完全に逆なんですね。黒人女性ブルースと黒人男性ブルースって。で、その流れっていうのはまず、黒人男性がブルースを歌い始めたっていうのは奴隷解放されてから肉体労働とか工場労働に仕事が移っていったんですけど。その中で、仕事が終わった後に歌う歌だったんですよ。ところがその頃、ブルースが出た頃、ロックンロールの始まりっていうのは、その頃南部の黒人には全く人権がなかったわけですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、選挙権もないし。将来なんかも真っ暗だったわけですよ。で、金持ちになれる可能性ってほとんどゼロだったですね。その頃。スポーツにも芸能界にも出れなかった時代ですから。黒人は。当時。で、その鬱屈を歌っていたんですけども。その中で、さらに下にいたのが、下層の下層の最下層が黒人女性だったんですよ。

(赤江珠緒)あ、同じ黒人の方の中でも、女性の方がさらに虐げられていたと。

(町山智浩)そうなんですよ。もう男尊女卑だから。で、その歌をなぜ、白人女性であるジャニス・ジョプリンが歌ったか?っていうことがわかっていくんですね。このドキュメンタリーを見ていると。で、彼女がまず生まれたのはテキサスのすごいちっちゃい町で。石油工場、精製所がある町で、ものすごく保守的だったんですね。そこは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)どのぐらい保守的か?っていうと、KKKが事務所をちゃんと構えて堂々と黒人差別をしているような町なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? あのKKKが。

(町山智浩)そうなんですよ。「KKK」って看板を出しているような町だったんですよ。で、その当時は黒人と白人の人種を平等にしようっていう運動が起こっている最中だったんですけど。ジャニス・ジョプリンが子供の頃っていうか、思春期の頃は。1950年代から60年代にかけては。ところが、テキサスはそれに対してものすごい反発が起こっていて。徹底的な黒人排除と黒人差別が町ぐるみで進められていたのがテキサスなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その頃大統領がジョンソン大統領になって。公民権、黒人の平等っていうのを法律的に確立するんですけど、それでもって民主党が完全にテキサスの支持を失っちゃうと。そのぐらい、テキサスっていうのは反黒人だったんですね。当時。

(赤江珠緒)えっ、当時ってでもまだ50年ぐらい前の話ですね。

(町山智浩)そうなんですけど。その時にジャニス・ジョプリンはその町の中で全く居場所がなかったんですよ。

(赤江珠緒)うん。なんで?

(町山智浩)具体的には、ジャニス・ジョプリンっていうのはすごく太っていて、顔中ニキビだらけだったらしいんですね。中学・高校の頃には。で、その女の人はとにかく美人で金持ちと結婚するっていうのだけが価値だと思われていたテキサスなんで。もうとにかく、学校で「ブス! ブス! ブス! ブス!」ってものすごいいじめられていたんですね。彼女は、自殺するぐらいのいじめを食らっていて。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、その中で彼女が共感したのは、どん底の黒人女性のブルースだったそうなんですよ。

(赤江珠緒)ああー、ええ、ええ。

(町山智浩)自分の心をわかってくれるものは、テレビを見ても歌を聞いても、なにもないわけですよ。白人社会には。ねえ。女の人は専業主婦になって、掃除機をかけて。『奥様は魔女』みたいなのがいちばんいい女性っていう風になっていましたから。その当時は。だから、彼女の心を受け止めてくれるものは、黒人女性の歌うブルースしかなくて、それを歌うようになったんですね。ジャニス・ジョプリンは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そしたらまたね、「差別はいけないわ」みたいなことを言っちゃって、町中から「お前はニガー・ラバーだ!」って言われるんですね。ジャニス・ジョプリンは。「ニガー・ラバー」っていうのは「黒人を愛する女」っていう意味なんですよ。裏切り者だと。

(赤江珠緒)ええー……

(町山智浩)で、ますます、黒人女性のブルースに彼女はハマっていくんですけども。でも、勉強はできたんでテキサス大学っていう結構名門大学に行くんですよ。ところが、そこでもいじめがあって。そこは学生新聞が人気投票みたいなのをやるんですけども。それで、「テキサス大学でいちばんブサイクな男」っていうのの投票かなんかをやって、それでジャニス・ジョプリンを選んじゃうんですよ。

(赤江珠緒)えっ? 女の子なのに?

(町山智浩)そう。もう、いじめなんですよ。で、もう本当にテキサスに彼女はいられなくなっちゃうんですね。あまりにも、まあいじめ出されちゃう形で。それで、彼女はどこに行ったか?っていうと、僕が住んでいる町ですよ。ベイエリアっていう、サンフランシスコとかの地域なんですけど。そこはその当時、もういちばん自由だったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)要するに、人種もなにも関係ないっていう。で、みんなで自由に好きな格好して、好きなことをやって……っていう町だったんですね。

(赤江珠緒)テキサスと全然違ったんですね。

(町山智浩)全く違うんですよ。だから黒人と白人が一緒に暮らしてもよかったんで、彼女はまず最初に黒人の女性と一緒に暮らし始めるんですね。サンフランシスコで。そこで、バンドに入って歌い始めるんですけども。で、いまもその彼女が住んでいた家とかサンフランシスコには残っているんですけども。で、彼女がその黒人女性のブルースを歌って、ものすごいショックを与えるんですね。白人のロックを聞いているような人たちに。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)っていうのは、彼女が歌うと歌が違う意味になってくるんですよ。で、『Summertime』っていう非常に有名な歌があって。これ、ジョージ・ガーシュウィンが黒人ミュージカルのために作った歌なんですけども。オリジナルがもともとあって、南部の子守唄だったらしいんですね。伝統的な子守唄で、暑い南部の夏にお母さんが赤ちゃんをあやしながら「暑いけど、泣かないで」っていう歌なんですね。その『Summertime』っていうのは。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが……ちょっと聞いてもらえますか? ジャニス・ジョプリンの『Summertime』を。

Janis Joplin『Summertime』



(町山智浩)はい。これね、そのドキュメンタリーの中でこの『Summertime』をどういう風にレコーディングするか?ってディスカッションしながら、論争しながらレコーディングしていく風景が出てくるんですけども。これ、もうすごく有名な歌ですよね? みんな知っている。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)ただね、彼女が歌うと違う意味になってくるんですよ。

(赤江珠緒)子守唄ではないな。そうなると。

(山里亮太)子供、起きるね。

(町山智浩)これ、どう聞いても子守唄じゃないですよね?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)「アアアアーーッ!」って言ってますからね。眠れねえよ!っていうね(笑)。赤ん坊、泣いちゃうよ。起きちゃうよっていう歌い方なんですけども。コブシ、効きすぎだろ?っていう感じなんですが。ただね、これ絶叫になっているのは意味があるんですよ。っていうのは、彼女が歌っている歌詞がこういう歌詞なんですけども。「泣かないで。泣かないで。いつの日か、あなたは立ち上がる日がくるから。歌いながら立ち上がるの。翼を広げて、大空に飛んで行く日がくるのよ」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)ええー?

(町山智浩)子守唄じゃないんですよ。これ。彼女が絶叫しているのは、彼女のようにいじめられて、もう居場所のない人たちに向かって、「いつか、大空に飛び立つ日がくるから」って歌っているんですよ。実は。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、ジャニス・ジョプリンの歌っていうのは結構全部そうで。『Cry Baby』っていう歌は逆に「泣かないで」じゃなくて「泣いていいのよ」って歌っているんですね。そういう風にひどい目にあっている子に対して。



(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、このドキュメンタリーのタイトルになっている『Little Girl Blue』っていうのももともと、やっぱりミュージカルの曲。スタンダードナンバーなんですけども。「あなたがいまできることは涙の粒を数えることだけだけど、あなたの気持ちは私がいちばんよくわかっているわ」っていう歌なんですよ。



(赤江珠緒)ふーん……

(町山智浩)だから全部、自分で受けて歌っているんですね。この人ね。いじめられてた頃のことを思い出して。で、だからみんな「すごい歌だ」とか「歌い方がすごい」って言ってるんですけど、実は歌っている心にものすごく意味があるんだってことが、このドキュメンタリーを見るとわかるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! でも、こんなスーパースターになったらね、当時いじめていた人とかは、ちょっと改心したりとか。そういうのはないんですか?

(町山智浩)ねえ。それがね、このドキュメンタリーの中で出てくるんですけど。まあ、非常に有名な映像なんですけど。ネットにも上がっていますが。1970年の夏に、彼女が生まれた町のテレビ局が企画をして、10年目の高校の同窓会っていうのをやるんですよ。

(赤江珠緒)へー。うん。

(町山智浩)で、ジャニス・ジョプリンを故郷に招待するんです。

(山里亮太)うわー……

(町山智浩)で、そしたらそのずっといじめていたやつらとかが、「こんなに有名になっちゃって、驚いたよ!」とか言うかと思うじゃないですか。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それとか女の子とか、「10年ぶり!」とか言って抱きついたりとかしそうじゃないですか。

(山里亮太)なにもなかったかのようにね。

(町山智浩)ねえ。しないんですよ。この映像を見ると。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)テレビ局に連れられて、ものすごいカメラマンとかを連れて、ジャニス・ジョプリンが町に来て、高校の同窓生と会うんですけど、町の人はみんな、なにも話しかけないんですよ。ジャニス・ジョプリンに対して。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)「なに、この女?」っていう感じで見ているんですよ。「有名になったと思って、気取ってるんじゃないの?」とかいう感じなんですよ。

(山里亮太)ええーっ? 凱旋なのに?

(町山智浩)あからさまに。「ブサイクだったくせに!」みたいな。

(赤江珠緒)はー……

(町山智浩)ところがね、テレビ局側は全くわかっていないんです。で、本当に鈍感なアナウンサーで、明らかに周りの人との間にものすごい亀裂があるのにわからないで、ジャニス・ジョプリンにマイクを向けて、「高校の時にデートとかに誘われたこと、ある?」とか聞くんですよ。

(赤江・山里)おおー……

(町山智浩)すると、ジャニスの方も困った感じでうつむいて、「一度もないわ……」って言うんですよ。で、「いまでも本当に辛い高校時代だったわ。私はね、だからブルースを歌ったのよ」って言うんですよ。彼女は、そこで。ところが、そのインタビューをしているテレビ局のアナウンサーはバカだから、それがギャグだと思って、そこで「アハハハハハ!」って笑うんですよ。

(山里亮太)ああっ!

(町山智浩)本っ当に鈍感でバカなテレビのアナウンサーで。このシーンがものすごく見ていて辛いんですよね。



(赤江珠緒)うわー……

(町山智浩)もう、強烈なシーンなんですけど。しかも、その同窓会の2ヶ月後に彼女はヘロインのやりすぎで27才で死んじゃうんですよね。

(赤江珠緒)えっ! その2ヶ月後なのか。

(町山智浩)そうなんですよ。だから、見てられないんですけど。でね、ただね、彼女が歌っている歌っていうのはほとんど全部人の歌なんですよね。

(山里亮太)ああー、カバー。

(町山智浩)そう。カバーばっかりなんですよ。でもね、歌手の力っていうのはすごくて、全部違う意味に彼女は読み替えていくんですね。でね、『Piece Of My Heart』っていう歌をちょっと聞いてもらえますか?

Janis Joplin『Piece Of My Heart』



(町山智浩)この歌はね、もともとはちょっと前にアレサ・フランクリンっていう非常に有名なソウル歌手のお姉さんの、エルマ・フランクリンっていう人がレコーディングした歌なんですよ。で、このタイトルはね、「私の心の欠片」っていうタイトルで。1人の女性が悪い男にいろんなものを捧げて、なにもかも捧げて、捧げて、尽くしていって。で、もうあげるものがなにもなくなっちゃった女の人が、「もうあげるものがなんにもないから、あとはもう私の心をちぎってあげるから、これを持っていきなさいよ!」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)えっ……

(町山智浩)「はい、もうひとつ。はい、もうひとつ、私の心をちぎってあげるから、持っていきな! 持っていきな!」っていう歌なんですよ。そういう、ひどい男に対する歌なんですね。もともとは。ところが、ジャニス・ジョプリンが歌うと違う意味になってくるんですよ。

(山里亮太)違う意味?

(町山智浩)で、この映画の中で、ドイツに行った時のライブでこの歌を歌うシーンがあるんですね。で、歌いながら、お客さんをどんどんステージに引き上げていくんですよ。一人ひとり、ジャニスが。で、一人ひとりステージに上げて、それで一人ひとりに対してこの歌を歌うんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)すると、「はい、私の心の欠片だから、受け取って! 私の心の欠片だから、受け取って!」って、一人ひとりに歌っていくんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)だから、もともとはひどい男に対するヤケクソな歌なんだけども、ジャニス・ジョプリンが歌うと、「私のこの歌は、私の心の欠片なのよ!」って歌っているように聞こえるんですよ。

(赤江珠緒)本当だ! 全然違う意味合いになる。

(町山智浩)そうなんですよ。で、「あなたたちにあげるから! それが私は楽しいの」って言って、すごい笑顔で歌っているんですよ。これ。



(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)本当はひどい男に対する悔しい歌なんですけど、笑顔で「私の心の欠片よ! 持っていって!」って歌っているんですよ。まあ、それをやったらもうなにもかもなくなっても……もうね、心の切り売りだから、まあ4年間で死んじゃいますよね。これはね、たった4年間でなぜ、これだけすごい影響を与えたか? それは1人の女の人がたった4年で全部、自分の心をちぎって歌っていたからだなっていうのがよくわかる映画でした。

(赤江珠緒)うわー、なんかちょっと辛くなりますね。でもね。そうか。

(町山智浩)でも、俺みたいに50何年ダラダラ生きていても何も残らない人よりも、たった4年で100年残る人の方がいいけどねってところはありますけどね。

(山里亮太)残しているよ、町山さん! 僕たちの心には残ってるよ!

(町山智浩)いや、全然ないですけどね(笑)。この人はたった4年間でね、もうそれこそ数億人の人たちを元気づけてきているんでね。

(赤江珠緒)ねえ。

(山里亮太)いまの歌手の人たちにもね。「あの人みたいになりたい!」って思わせているんだもんね。ずーっと。

(赤江珠緒)影響を与えてね。

(町山智浩)そう。でもこの人みたいになるっていうのも、命切り売りの世界なんですけどね。

(赤江珠緒)いやー、本当だよ。自らの命を燃やしてだね。

(町山智浩)はい。というのが、『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』という映画です。9月10日からイメージフォーラムで公開です。

(赤江珠緒)はい。日本で9月10日から公開されるということで。順次全国でも公開されるようになるということですので。まずは渋谷のシアター・イメージフォーラムで。それが9月10日からということです。今日は『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』をご紹介いただきました。いやー、これはちょっと見たいですね。

(山里亮太)見たい!

(赤江珠緒)このお話を聞いてから、なお揺さぶられそうですね。で、町山さん、来週はアメリカで大ヒットしている悪役だらけの映画『スーサイド・スクワッド』をご紹介いただけるということで。お待ちしております。

(町山智浩)はい。これもね、意外と見てみたらテレサ・テンの歌のような映画でしたね。

(赤江珠緒)ええーっ? テレサ・テンとつながる? そうですか。

(町山智浩)はい。

(山里亮太)どんな感じなんだろう?

(赤江珠緒)ありがとうございました。来週、楽しみにしています。

(町山智浩)はい。どうもです。

<書き起こしおわり>