町山智浩『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマイケル・ムーアの最新ドキュメンタリー映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を紹介していました。



(赤江珠緒)今日、町山さんが紹介してくださる映画は、私も見たいなと思っていた映画ですよ。

(町山智浩)ああ、そうですか?

(山里亮太)もうじき、日本でも。来週ぐらいの公開なんですよね。今日のやつ。

(町山智浩)あ、そうなんですね。5月27日。もうすぐ公開なんだ。はい。『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』というタイトルの映画です。このマイケル・ムーアっていう人は日本でも……世界一有名なドキュメンタリー映画作家ですね。この人は、いちばん当たった映画は『華氏911』という2004年の映画で。2004年当時、ブッシュ大統領がやっていたイラク戦争に真っ向から反対したドキュメンタリーだったんですけど。これ、世界のドキュメンタリー映画史上最大のヒットになりましたね。

(赤江珠緒)ああー。しかも、面白かったですしね。

(町山智浩)そうですね。ただ、当時は賛否両論だったんですよ。日本でも、アメリカでもね。つまり、戦争をやっている最中だったのと、「イラク戦争は正しい」って言っている人たちが多かったんですよ。そういう論調が日本でも結構あってですね。はっきり言うと、産経新聞ですが(笑)。でも、実際はイラクは911テロとか大量破壊兵器っていう戦争の理由自体が後で否定されて。嘘だったと。しかも、10年以上たったいまでも、泥沼が続いてるんで、完全に間違った戦争だったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、マイケル・ムーアは正しかったわけですけども。これに関しては。ただ、正しくない方がよかったですけどね(笑)。本当に悪い結果になっちゃったわけですけど。で、今回、マイケル・ムーアのこの映画のタイトルが『世界侵略のススメ』っていうタイトルなんですが。世界侵略、関係ないですね。この映画ね。中身。

(山里亮太)関係ない?

(町山智浩)関係ないんですよ。これ。マイケル・ムーアが世界中のいろんな国に行って、その国の税金がどういう風に使われているのか?っていうのを見て回るという映画なんですね。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)だから、まず最初にイタリアに行くんですけども。そこでは、税金っていうわけでもないんですけど。労働状況を見るんですね。すると、イタリアはだいたい1日8時間以上、絶対に労働しないんですよ。それで、昼休みが2時間もあって、お家に帰ってご飯を食べて。で、国が定めた最低の有給休暇が35日間あって。

(赤江珠緒)35日!?

(町山智浩)そう。で、外国に行ったりいろいろできてですね。あと、子供ができたら男の人でも2週間とか休めて。有給で。で、1年に8週間休みがあるとかね、そういった状況が見せられるんですけども……アメリカって、国が定めた有給休暇がないんですよ。

(山里亮太)あ、そうなんだ。

(赤江珠緒)ないんですね。へー。

(町山智浩)そう。日本も、あるけども使われてないですよね? で、そういうのを見せていくんですよ。で、なぜこういう映画をマイケル・ムーアが作らなきゃならなかったか?っていうのがね、わからないと思うんですよね。これをただ見た人は。

(赤江珠緒)うん。

マイケル・ムーアが世界の国を見て回る意味

(町山智浩)これね、日本だと、日本の人ってよく、「フランスではこうだよ」とか、「アメリカではこうだよ」って言われると、「ああ、じゃあ日本は遅れているな。なんとかしなきゃ!」って思いますよね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)そういう人が多いですけども。いわゆる”出羽守(でわのかみ)”みたいなね。「○○では……」っていうやつですけど。アメリカ人は、そういうことが全くないんですよ。

(赤江・山里)ふーん!

(町山智浩)外国で何があっても、気にしないんですね。

(赤江珠緒)ああ、そういう考え方?

(町山智浩)それは、マイケル・ムーア自身が2007年に『シッコ』というドキュメンタリー映画を作ったんですね。「シッコ(Sicko)」っていうのは「病気」っていう意味なんですけど。おしっこじゃなくて。その映画の内容は、「アメリカ以外の国には大抵、国民健康保険、国民医療保険があるんですよ」っていう風にアメリカ人に教える映画だったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)日本にもありますよね。国民健康保険が。アメリカには、この間までなかったんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。だから、虫歯だけでも大変って言いますよね。

(町山智浩)そうなんですよ。貧乏な人は病気になると、そのまま死んでいくだけだったんですけど。で、オバマ大統領が2010年にすごい戦いの果てに、やっと国民全員に医療保険を与えられる法律を作ったんですけども。その前に作られたのが、そのマイケル・ムーアの『シッコ』だったんですね。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)でも、共和党はいまでもそれを撤廃するって言ってるんですよ。初めて医療保険を持った人から奪い取ろうとしているんですけども。その理由は、「国が国民に医療保険を与えるのは共産主義だ」っていう風に言ってるんですよ。で、それにオバマ大統領が「いや、健康保険は共産主義とは関係なくて、世界中どこにでもあるから」って言っても、聞かないんですね。みんな、アメリカ人は。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そう言っても、「他の国のことなんか、知るか!」って言うんですよ。「なぜならば、アメリカは特別だ。世界一グレートな国だから、他の国の真似なんかしない。他の国は劣っているから」って言うんですよ。アメリカ人は。

(赤江珠緒)自信はすごいあるんですね。

アメリカは特別な国

(町山智浩)それはね、アメリカ独特の例外主義(エクセプショナリズム・Exceptionalism)って言われる、独特の考え方なんですね。それは、「アメリカは神が我々に与えた約束の地で、最終的なゴールだからそれ以上先はない」っていう考え方なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)非常に宗教的な考え方なんです。アメリカ最高!っていうのは。で、アメリカ人って一生の間に海外旅行に行く人が2割ぐらいしかいないんで、外国に興味が基本的にないんですよね。

(赤江珠緒)そうなんですってね。

(町山智浩)で、この『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』っていう映画は、それを医療保険以外にも、いろんな分野に広げて。他の国ではいったいどういう生活が行われているのか?っていうのをアメリカ人に教えるというドキュメンタリーなんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからそれを日本人が見る意味っていうのもまた別にあるんで、それを考えた方がいいと思うんですけど。たとえば、フランスに行くとフランスの給食っていうのは栄養士が、本当に栄養のバランスを取れた料理を出していると。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)当たり前のように聞こえますけど、僕、前にこの『たまむすび』で話したんですけど、アメリカの場合は栄養士がアメリカのジャンクフードの大手企業にお金をもらっているから、ジャンクフードを(給食に)入れているっていうお話をしましたよね?

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(赤江珠緒)ありましたね!

(町山智浩)それで、ミシェル・オバマ大統領夫人がなんとかそれを改善しようとしてるんだけども、ジャンクフード会社がその改善事業にお金をブチ込んじゃうから改善できないっていう話もしましたけども。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)それとか、あとフィンランドは世界一子供たちの勉強ができるらしいんですよ。で、英語が話せるのは当たり前で、全員で英語をしゃべっているんですけども。これ、日本以外のアジアも、ほとんどそうですけどね(笑)。

(赤江珠緒)そっかー。うん。

(町山智浩)みなさん、アジアに行かれてわかったと思いますけど、大学を出ている人たちは全員、英語をしゃべれますね。日本以外の国はね。で、まあそういう問題なんですけども。アメリカでは、現在国民の29%が親よりも学歴が低くなっているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)親は大学に行けたのに、子供は大学に行けないっていうのが29%。国民の1/3ぐらいになっているんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)それとか、あとマイケル・ムーアはポルトガルに行くんですね。で、ポルトガルでは、15年ぐらい前に覚醒剤とか麻薬とかマリファナとか、一切の薬物使用を、個人的な所持とか使用では一切罪に問わないっていうことにしたんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)やり放題です。ポルトガル。で、これでどうなったか?っていうと、まずアメリカも日本もそうなんですけど、犯罪のかなり多くの割合が覚醒剤か麻薬の使用なんですよね。刑務所に入っている人の女性とかは、覚醒剤使用がすごく多いんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)その分の裁判費用とか警察の費用とか刑務所の費用が、一切ゼロになりましたね。これで、ポルトガルは。

(赤江珠緒)ああー、そうか。うん。

(町山智浩)で、アメリカなんかも本当に麻薬の犯罪がトップなんで、税金が刑務所で彼らのために使われている状態なんです。ほとんど。だから、アメリカで大麻を解禁しようっていうのは、まずその部分の税金をカットするっていうのがあるんですね。

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(山里亮太)へー!

(町山智浩)もうひとつは、ポルトガルでは覚醒剤とか麻薬の個人所持を一切罪に問わなくなったおかげで、薬物の使用者が激減したんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)薬物中毒患者が激減したんです。

(山里亮太)あれ? なんか、自由だから逆なイメージがありますけども。

(町山智浩)いや、別に誰にでも言ってもいいことだから、病院にみんな行くようになったからです。

(赤江珠緒)ああー!

(町山智浩)「犯罪」っていうことだと、おおっぴらにできないから、治療しないんですよ。誰も。捕まっちゃうから。

(赤江珠緒)すごく逆転の発想ですけど、結果、よかったんですね。

(町山智浩)そう。だから「捕まえない」っていうことにしたから、みんな普通に治療するし、家族にも相談するし。おおっぴらだからみんな治療するし、完治するし。だから、麻薬患者、覚醒剤中毒は激減したんです。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それとか、ノルウェーでは死刑が完全に廃止なんですね。で、殺人を犯しても無期懲役もないんですよ。その代わり、刑務所では罰を与えるんではなくて、シャバに出た後にどうやって働くか?っていう。その後の生活とか、社会に復帰することだけを徹底的にやるんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)だから、出るとすぐに働いて、社会に溶け込めるんで。再犯率がわずか2割なんですね。

(赤江珠緒)ああ、それはいいですね。いいことですね。

(町山智浩)はい。でも、アメリカの場合は再犯率はなんと8割なんです。

(赤江珠緒)えっ! 高いな!

(町山智浩)そう。刑務所に入れば入るほど、犯罪者になるんですけど。これは、まず最大の理由が、刑務所を民営化してるからです。経費削減、削減でもって、刑務所を民営化したために刑務所がただ閉じ込めるだけの施設になっちゃっているんですよ。

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(山里亮太)ああー。

(町山智浩)だから、出た後になにもできないし、生活力がなくなっちゃうんでまた犯罪を繰り返すんですよ。

(山里亮太)そうか。犯罪をするしかなくなっちゃうんだ。出ても。

(町山智浩)そう。たとえば、麻薬にしてもそうだけど、麻薬をやっている原因とかそういうものを究明していって、それを潰していくっていうことをするんですね。北欧では。でも、アメリカの場合には……日本もそうですが。刑務所に入れて、はい、それだけですよ。その原因を追求して、一人ひとりに対してカウンセリングを行ったりはしないわけですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)まあ、そういう事態になっていて。あとは、アイスランドに行きます。マイケル・ムーア、次。で、アイスランドはご存知の通り、サブプライムローンの時に金融破綻に巻き込まれて、財政が破綻しましたよね。国のね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)現在、立ち直っているらしいんですよ。で、立ち直っている最大の理由は、閣僚たちを全部入れ替えたとかもあるんですけど。いちばん大きかったのは、そのギャンブル的な投資をやったやつらを全員刑務所にブチ込んだんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)ところが、サブプライムローンの破綻自体を引き起こしたアメリカの金融関係者は誰一人、起訴もされていないんですよ。

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(赤江珠緒)ああー!

(町山智浩)だから、またやるでしょう。だからこれは、アメリカ人のためにマイケル・ムーアは作っているんですけど。「アメリカは外国に比べてなんて、ひどいことになっているんだ」と。ただ、面白いのは、そこでマイケル・ムーアがいろんな人たちに取材するわけですよ。刑務所の人とか、学校の先生とかに。すると、みんな言うのは、「私たちはアメリカをお手本にしてこういった改革を成し遂げてきたんですよ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、逆にマイケル・ムーアが「アメリカにはこんなもん、ないですよ」って言うと、みんなびっくりするんですよ。「ええっ? アメリカがお手本だったのに!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

アメリカがお手本だった

(町山智浩)っていうのも、国民の平等を成し遂げた世界最初の民主主義国家っていうのはアメリカなんですよね。独立宣言をした時に、「全ての人間は生まれながらにして平等である」と宣言して。それはもう、画期的なことだったんですね。その頃、ヨーロッパでは貴族が大金持ちで、それが大勢の貧しい人たちを奴隷のように使って君臨していて。貧しい人に生まれたら、農民に生まれたら一生農民でいるしかないっていう世の中だったのに、アメリカでは誰でも自由に、好きなものになれるっていう国を作ったわけですよね。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)農民の子でも、大統領になれると。そうなんですけど、そっから世界中でやっと民主主義が始まったのに。アメリカはいま、いちばん出遅れているわけですよ。出遅れじゃないですね。出だしは早かったんだけど、どんどん遅れちゃったんですね。でも、公立学校っていうのを世界で最初に作ったものアメリカなんですよ。死刑を最初に廃止したのもアメリカなんですよ。婦人参政権もアメリカで最初に実現しているんですよ。ワイオミングで。

(赤江珠緒)だから、やっぱり人権っていうイメージがすごく強いですけど。

(町山智浩)それは、正しいんですよ。アメリカはずーっとリベラリズム(自由主義)。人権の国だったんですよ。だから、1968年まで、人権重視の福祉国家だったんですよ。アメリカはずっと。で、それが1930年に大恐慌が起こって、バブルが崩壊したんですね。で、民主党のルーズベルト大統領が政権を取った時に、あまりにもバブルがひどかったんで、これは金持ち、金融関係が暴走しているから、それをコントロールして、金持ちに集中している富を税金で徴収して、それを貧しい人たちに再分配して、仕切り直しをしようとしたんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)その「仕切り直し」っていうのの英語の訳で「ニューディール(New Deal)」っていうんですけど。ニューディール政策。

(赤江珠緒)ああー、ニューディール政策!

(町山智浩)はい。で、これが1968年まで、だから38年間ぐらい続くんですよ。アメリカで、ニューディールが。で、いわゆる「リベラル」っていう言葉がありますけど。リベラルっていうのはニューディールに対して賛成っていうのをリベラルっていう意味なんですね。アメリカ的には。で、日本は戦後、このニューディール主義、リベラリズムのもとに、日本の戦後っていうのは始まったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)自民党ってもともと、自由党(Liberal Party)から発生しているんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。名前から言うと、そうですね。

(町山智浩)日本も戦後はリベラリズムで自由主義だったんですよ。でも、それが1980年から新自由主義(ネオ・リベラリズム)っていうのに変わるんですよね。で、その時にそれをやったのが共和党のロナルド・レーガン大統領なんですけども。そのネオ・リベラリズムっていうのは基本的には「経済を国がコントロールしたり、国が福祉を国民に与えたりすることは国民の自由を奪うことなんだ」という考え方なんですよ。

(赤江珠緒)うーん……

(町山智浩)で、国の力とか福祉を小さくすることで、実力重視の競争社会、自由主義競争を加速しようという考え方なんですね。そうすると、それが成功したという形で、いわゆるレーガノミックスっていうので、企業とかが利益をどんどんあげていったんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これは、なにがそれを実現したのか?っていうと、まず、人員削減をガンガンやる。それで、効率化をする。大きい企業がどんどんどんどん小さい企業を乗っ取っていくのもOKにする。つまり、規制をしないっていうことなんですね。企業の自由な行動に対して。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これ、弱肉強食の世界になっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。「規制をしない」っていうと言葉はあれですけども。守ってもらえないっていう。逆を見るとね。

(町山智浩)国は守らないっていうことですね。でも、レーガン大統領は「福祉にたよっている人間っていうのは寄生虫なんだ」ってことを言ったんですね。

(赤江珠緒)えっ、そこまで?

(町山智浩)「それは、恥ずかしいことなんだ」という風に言って、福祉を受けること自体が恥ずかしいっていう気持ちを非常に人々に植え付けていったんですよ。その一方で、ずっとそのレーガン政権から始まって、ずっとこの後、ブッシュ政権まで続きますけど……あ、現在まで続いてますけど。共和党はずっと議会を基本的には支配してますからね。民主党の人が大統領になっても、基本的には議会が共和党に支配されていると変わらないわけですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)彼らがやったいちばん大きなことっていうのは、金持ちの所得税を減税したことなんですよ。ニューディール時代っていうのは大金持ちの所得税率っていうのは最高で9割だったんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、レーガン大統領が大統領になる直前の1980年でも7割だったんですよ。それを、3割まで落としたんですよ。

(赤江珠緒)あっ、ずいぶん落としたんですね。ええ。

(町山智浩)そしたら、どうなると思います?

(赤江珠緒)それはもう、どんどん差が広がりますね。

(町山智浩)格差が異常に広がっていくわけですよ。金持ちと貧乏人の。で、しかも公共事業をカットしたんですね。ニューディール政策でいちばん大きかったのは、橋を整備したり、ハイウェイを作ったりして、アメリカっていう国を整えていったんですよ。いろんなものを作って。それは、レーガン政権になってから、やらなくなったんです。公共事業っていうのは。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)だから、アメリカにある橋とか道路とかの多くは、1930年代、40年代、50年代に作られたものがいまだにあるんですよ。だから、グチャグチャに落ちるんですよ。でも、減税しちゃったから。金持ちに。で、出てきたのがドナルド・トランプなんですよ。

(山里亮太)おっ、ここに。

ドナルド・トランプの国内政策

(町山智浩)ドナルド・トランプって右派だと思われているけど、実は国内政策は完全に左派なんですよ。

(赤江珠緒)へー、うん。

(町山智浩)共和党がやってきたことと全部逆にやろうとしているんですよ。たとえば、国民医療保険もオバマケア自体は負担が大きいから変えるけども、国民医療保険は新しいやり方で続行するとトランプは言っているんですよ。もっといいものにね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、共和党はソーシャルセキュリティーっていう年金制度も民営化しようって言ってるんですけど、ソーシャルセキュリティー(年金制度)には手を付けないってトランプは言っていて。で、共和党が撤廃しようと言っている老齢者医療補助も、トランプは手を付けないと。共和党はそれを撤廃しようとか民営化しようとか言ってるわけですけど、それもトランプは維持するって言ってるんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)だから、民主党の主張とほとんど同じなんですよ。で、さらに公共事業も行うって言ってるんですよ。で、さらに日本車とか海外からのものに38%の税金をかけるって言ってるんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)これ、民主党も保護貿易なんですよ。TPPにも反対なんですよ。トランプは。それでさらに最近は、富裕層に対しても増税するって言い出しました。

(赤江珠緒)あっ、そうですか!

(町山智浩)はい。これ全部、いわゆる白人ブルーカラー(低所得者層)の票を取ることができますよね。これでね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)政策を変えているんですよ。トランプはどんどんどんどん。

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(赤江珠緒)あれ? 割といい政策じゃないですか?

(山里亮太)いま、聞くとね。

(町山智浩)そうです。貧しい人たち向けの政策です。要するに、共和党が取りこぼしていた部分なんですよ。ずっと貧しい人たちは我慢して、自分たちが不利になる共和党に投票をし続けていたんですね。キリスト教を守ってくれるから。白人を守ってくれるから。銃を持つ権利を守ってくれるから。でも、どんどん貧乏になっていって、金持ちばっかり得する政策ばかり通されていたんですけど、トランプが出てきました。「はい、あなたたちはいままで、共和党に騙されてました」って言っちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)だから、ごっそりトランプが持っていきますよ。

(赤江珠緒)あ、以前に町山さんがね、「トランプはもしかしたら民主党からの刺客かもしれない」っておっしゃってましたけど。もう民主党にそんなに寄っているんですね。

(町山智浩)これ、だからね、マイケル・ムーアは最近のインタビューで「トランプはいま、このままの政策……貧乏な人を救済する方向にもって行ったら、サンダースの票を取っていくだろう」って。

(赤江珠緒)ああ、サンダースさんのね。はいはい。

(町山智浩)この福祉策はほとんどサンダースさんと変わらないんですよ、実は。

(山里亮太)そうだ。サンダースさんもだって、「ウォール・ストリートからの金を学生に」って言ってるんですよね。

(町山智浩)そう! 反ウォール・ストリートで福祉優先だから。で、しかもその自動車に税金をかけるわけでしょ? 日本の自動車に。したら、デトロイトとかミシガンとか、民主党が徹底的に強かったところも持っていきますよ。デトロイトとか、オハイオとか。デトロイト、オハイオを取ったら、勝ちますからね。大統領選。

(山里亮太)うわー! え、じゃあ本当にトランプの可能性は、結構出てきてるんですね。

(町山智浩)あるんですよ。そう。マイケル・ムーア自身はサンダース支持なんですけども、サンダースの福祉政策をトランプが持って行こうとしているから。だからこれはすごいことになっているなと思います。この映画『世界侵略のススメ』を見ると、アメリカ自体が抱えている福祉でいちばん進んでいた国がどんどんダメになっていっている現状もわかるし、日本はずっとアメリカを目標にしてきたけど、それでいいのかな?っていうことですよね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)「国が強くなればいい。国が金持ちになればいい。GDPがいちばんになればいい」って思っているけど、そうじゃなくて、「一人ひとりの国民が幸せかどうか」で国の良し悪しは判断されるべきじゃないか?っていう映画ですね。

(赤江珠緒)そうか。レーガンさんの前と後でそんなに違うんですね。

(町山智浩)違うんですよ。

(赤江珠緒)その前の印象が強すぎたんだね、アメリカのね。

(町山智浩)そうなんですよ。アメリカのいい印象っていうのは、実はその前のアメリカなんですよ。人権の国、自由の国アメリカっていうのは。

(赤江珠緒)ねえ。ふーん。これはいまの世界状況が見えてきて、ねえ。

(町山智浩)っていうか日本はずーっとアメリカを尊敬してきたけども、それは戦後しばらくのアメリカなんですよね。リベラルだった頃の。で、いまもついて行ってるけど、それでいいのか?っていうことですね。国の本当の豊かさをどこで測るべきか?っていうことが考えさせられると思います。はい。

(赤江珠緒)今日は日本でも5月27日から公開される『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございます。来週は日本に戻ってこられるということで、スタジオで来週はお待ちしております。

(町山智浩)はい。スタジオから。よろしくお願いします。

(赤江珠緒)はい。お願いします。

<書き起こしおわり>

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