みうらじゅんと荻上チキ『「ない仕事」の作り方』を語る

みうらじゅんと荻上チキ『「ない仕事」の作り方』を語る 荻上チキSession22

みうらじゅんさんがTBSラジオ『荻上チキSession22』にゲスト出演。『ない仕事』を作る方法や一人電通式仕事術などについて話していました。

(南部広美)今夜のゲストは漫画家でイラストレーターのみうらじゅんさんです。

(みうらじゅん)よろしくお願いします。

(荻上チキ)よろしくお願いします。

(南部広美)TBSラジオの番組ではもちろんですけども。もう、様々なところでご活躍のみうらじゅんさんですので。

(みうらじゅん)何をおっしゃいますか。『漫画家で』っていま、おっしゃいましたけど、俺、いま『映画秘宝』で自分の連載している横に漫画書いているだけで。ほぼやってないので。イラストも、自分の書いている文章の横に自分でイラストを書いているだけで。他では依頼されていないので。たぶん、やっていないので。あの、全体的に言うと、『など』の仕事をやっているので。まあ、肩書としては『など』ですね。

肩書は『など』

(南部広美)『など』(笑)。『など』のみうらじゅんさん。

(みうらじゅん)はい。

(南部広美)では、、『など』のみうらじゅんさんのプロフィールをですね・・・

(荻上チキ)(笑)

(南部広美)いや、みうらさんのプロフィールをこんな風にラジオで紹介する日が来るとは。

(みうらじゅん)うれしいですね。何度目かの結婚のような感じがしますね。これね。

(荻上チキ)(笑)

(南部広美)1958年、京都市のご出身です。武蔵野美術大学在学中に漫画雑誌『ガロ』でデビューし、漫画家、イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャンなど、幅広いジャンルで活躍なさっています。1997年にご自身が作られた言葉『マイブーム』が新語流行語大賞のトップ10に選出され、表彰されました。そのマイブームとして、仏像ブーム、ゆるキャラ、いやげ物などなどなど、数々のムーブメントを世に広げ、その仕事術をまとめた著書『「ない仕事」の作り方』が去年、文藝春秋社から発売されました。

(荻上チキ)これだけコピーというか、言葉を生み出せるのがやっぱりすごいな!って思いますね。

(みうらじゅん)そうですか。やっぱり商品を売る気がないから、逆にできることで。商品を売っている本当の代理店の方とかは、やっぱり売らなきゃなんないので。やっぱり、胡散臭い言葉を作らなきゃならないけど。これは本当のことを結びつければ言葉になるというか。まあ、はっきり言ってゆるキャラも、当初は、もう15年以上前ですけど。『ゆるいとは、けしからん!』っつって、地方の方から怒られて。

(荻上チキ)本気で怒られたんですか?『なにがゆるいだ!?』と。

(みうらじゅん)そうなんですよ。『うちはゆるくない。ガチで作っている』って言われて。『あ、ごめんなさい。ゆるいじゃなくて、ユニークという意味なんで・・・』って言って。SPA!で連載していた時に写真を借りたりしていたぐらい。それがある時から急に価値観が裏返って、『ゆるい』がいいことになったっていうだけのことで。

(荻上チキ)そうですね。はい。

(みうらじゅん)出だしはもう、『ゆるい』と『キャラ』って水と油だから。キャラは立たなきゃならないのに、ゆるくては困るんですよね。

(荻上チキ)曖昧じゃあ困るんだと。

(みうらじゅん)困るんですよ。で、いやげ物っていうのも、いらない物の土産物ですから。あってはならないものだから。だからそういう、水と油をくっつけたネーミングが、立場がない分、できるっていうことなんですけどね。

(荻上チキ)はいはい。お仕事だとヒットして褒めていかないといけないので。貶す方向のコピーっていうのはつけられないでしょうね。

(みうらじゅん)つけにくいですよね。昔、とんまつりっていうので。とんまな祭りばっかり、日本各地を回っていたんですけど。まあ、やっぱり当然、『うちはとんまじゃない!』とおっしゃる、固い・・・京都あたりは結構厳しいところがあったんですけど。でも、まあとんまになる日ですからね。ハレの日だから。祭りってそもそも。だからまあ、合っているんだけど、『王様は裸だ』って言ってはいけないところがあるんで。でもまあ、これで別に何かをしていたわけじゃないので。単に好きだったから、そのカテゴリーの名前がなかったからつけていたっていう形なんですけどね。

(荻上チキ)はいはい。最初は否定的に取られたものがポジティブになった事例ですよね。

否定的なものがポジティブになる

(みうらじゅん)そうですね。否定的に取られた言葉の方が、みんな興味は持つと思うんですよね。『この商品、すごくいいですよ』って言うよりは。

(荻上チキ)そうですね。

(みうらじゅん)『すっごい悪いから買わないでください』って言われた方が・・・どんなに嫌なんだろうな?ってやっぱりちょっと興味を生むから。ええ。

(荻上チキ)僕、昔会社員をしていて。広告代理店みたいなところで働いていた時に、『リケジョ』っていう言葉を作ってですね。その後、STAP細胞騒動で大変ネガティブな言葉になってしまってですね。『表で言わないようにしよう』っていう風に・・・(笑)。

(南部広美)2回目ですけどね。いま、ラジオで言うのね(笑)。

(荻上チキ)と、いう風に誓うようになりましたけど。その真逆だと、なんか周りに言われてむしろ恥ずかしいというか。自分はそこまで打ち出したつもりがないのに、『生みの親』って言われる感っていうのが・・・

(みうらじゅん)ああ、男だし、別に生むことはできないんだけどね。そうなんですよね。だから、多大なる誤解が生じた時にブームっていうのは起こるってわかったので。やっぱり、なんか自分の思った通りの、ぴったり合うネーミングじゃなくて。やっぱり誤解を受けるようなのりしろをつけてネーミングは作るようにはしてるんですけど。

(荻上チキ)ああー。

(みうらじゅん)作ったら、様々な誤解があるんで。この『「ない仕事」の作り方』っていうい本も、一瞬ビジネス書と間違える人がいると思って作った本なんで。

(荻上チキ)(笑)

(みうらじゅん)でも、『ない仕事』って言ってるんだから、『ない仕事』っていうのがある。あるような気もするし、ないような気もするっていう。

(荻上チキ)誤解させるような帯でもありますよね。

(みうらじゅん)ええ、もちろん。はい。

(荻上チキ)『一人電通式仕事術を大公開』。明らかに仕事術の本だっていう売り方をしてますね。

(みうらじゅん)まあ、一応それで食べてきたので。俺も。細々とは食ってきたのであれなんですけども。

(荻上チキ)『真似できる』とはどこにも書いてない。

(みうらじゅん)書いてないし、したらたぶん火傷するんじゃないかな?それ。

(荻上チキ)(笑)。そうですよね。でもたしかに、誤解されると言えば『負け犬』という言葉とか。後は、『草食系男子』っていう言葉だとか。これも作った人の意図を離れて、ネガティブな意味で流通したりしたっていうようなところもあったりして。やっぱり作り手が考えていないところで、周りが意味付けするっていうところがやっぱり言葉の流行のひとつのポイントなんでしょうね。

(みうらじゅん)そうですね。やっぱり誤解ですよね。やっぱり誤解が生んでいるものであってね。みんなに正しい伝わり方をするものって、流行らないですよ。

(荻上チキ)ああ、そうですね。『負け犬』だって酒井順子さんが『負け犬でなにが悪い』っていうスタンスだったのがバカにする言葉になって。『草食系男子』も最初はそういった形の新しい生き方で、それをポジティブな形で深澤真紀さんがひとつの類型として描いたら、『最近はだらしない』みたいな形で捉えられて。上から目線になるみたいなね。だから、深澤真紀さん、謝ってましたよ。『大変な迷惑をかけてしまった』って。

(南部広美)そういうつもりじゃなかったのにと。

(荻上チキ)そうそうそう。だから、大変ですね。

(みうらじゅん)まあいま、謝罪流行ってますからね。まあね、乗っかれる。ちょっとうらやましいですけどね。

(荻上チキ)そうですね(笑)。ところで、先ほど話しましたけども、みうらさんと南部さんは以前、お仕事を。J-WAVEで。

(みうらじゅん)J-WAVEで。また、似つかわしくないところから誘われたもんで、はりきっちゃって。

(荻上チキ)おしゃれな感じの。

(みうらじゅん)おしゃれと真逆なことがしたくて。あの頃、もう。ちょっとパンクな気持ちが入っていて。

(荻上チキ)風穴開けてやるぜ!みたいな。

(みうらじゅん)ええ。もう最期の鶴光さんをやりたくて。ひっどい番組だったんですけど。まあ、南部さんにもひっどい原稿をいろいろ読んでいただいて。

(南部広美)いや、でもその番組が・・・それこそ、『ない仕事』をみうらさんに作ってもらった立場なので。

(みうらじゅん)そうですよね。正しくニュースを読む人が、間違っている下品な話をするっていうコーナーでしたからね。

(荻上チキ)どんな原稿を読んでいたんですか?当時は。

(みうらじゅん)ひどかったですね。あれは。言えないぐらいひどかったですよね。

(荻上チキ)言えないぐらいひどいことをラジオで言っていたという。

(南部広美)『立ちなさい!』とか。

(みうらじゅん)そうそう。その、南部さんの声で、違う意味で言った『立ちなさい!』とか。『濡れてます』みたいな話を。それをオカズにしようっていう話だったんですよね。

(荻上チキ)(笑)。どストレートですね。

(みうらじゅん)ええ。

(荻上チキ)敬語とか丁寧な言葉でエロティックな・・・

(みうらじゅん)そうそう。セクシー敬語っていうのでね。敬語って、上の人を敬うわけじゃなくて、やっぱり男を立てる言葉じゃないか?って僕、ずっと思っていて。昨今、やっぱりセックスとか言うけど、立ててないんですよね。敬語が廃れているから。

(荻上チキ)ほう。

(南部広美)敬語のせいですか?

(みうらじゅん)うん。やっぱり『うわー、お勃ちになってますね。すごく、お固いですね』とか言われた方が。男ってほら、バカだから。調子に乗ってナンボじゃないですか。

(荻上チキ)夢を抱いて、幻想を抱いて、膨らんでいくと。

(みうらじゅん)ええ。その部分をやっぱり、そこらへんのセンスが男女、もう平等になっちゃったもんで。あの、そういうバカらしい夜の敬語を使わなくなったもんで、セックスレスになったんだと踏んでいるんですけど。

(荻上チキ)ある種、シチュエーションプレイができなくなったってことになるわけですね?

(みうらじゅん)そうですよね。

(南部広美)その時から警鐘を鳴らしていたわけですか?

セックスレス解消法

(みうらじゅん)警鐘を鳴らしました。セックスレス。『セックスレス』を『セックスデス』にしようと思って。

(荻上チキ)(笑)

(みうらじゅん)『最近、どう?』って言われた時、『セックスデス!』って言えるようにね。ええ。

(南部広美)『レス』じゃなくてね。

(荻上チキ)私、『セックスフル』って言ってましたけど。『デス』の方がやっぱり・・・

(みうらじゅん)『セックスデス』の方が、ちょっとデスメタルみたいな感じでちょっとかっこいいですよね。

(荻上チキ)そうですね。『セックスフル』だとちょっとかっこ悪いですね(笑)。

(みうらじゅん)そう。だからなんか、長年夫婦でも、やってることが恥ずかしいみたいな。『いやいや、もうぜんぜんやってないから』って言うようになって。そんな風に言っているうちに、自分で自分を洗脳しちゃってできなくなっているんだと思うんで。アブノーマルじゃなくて、ラブノーマルっていうね。家でやる。

(荻上チキ)はいはいはい。

(みうらじゅん)家でやるってことは、ラブノーマルですからね。本当は。アブノーマルじゃないんですけど。アブノーマルだと思っちゃうんですよね。ええ。

(荻上チキ)そういう風潮はたしかにありますよね。

(みうらじゅん)ありますよね。

(荻上チキ)外でちょっとオープンにしにくいみたいな。

(みうらじゅん)そうでしょう?かっこ悪いみたいな感じになっているでしょ?

(荻上チキ)サラリーマン川柳の世界でも、なんか奥様を卑下してというか、下げてナンボみたいな。それが実は自虐なんで・・・

(みうらじゅん)『うちのチャンカーが』みたいなやつでしょ?

(荻上チキ)そうそうそう。なんか、よくあるじゃないですか。サラリーマン川柳。五七五とかで。『恋敵 譲ればよかった いまの妻』みたいなね。そういうやつ。

(南部広美)ああー!それ、奥さん激怒りですよ。

(荻上チキ)『これは男性式の自虐ネタとしてやっているのであって、別に妻を下げているわけではない』っていう言い分があるみたいなんですよ。でも、どう考えても下げてますからね。

(南部広美)本人がどう言おうとね。それ、奥さんが読んだらがっかりですからね。

(みうらじゅん)まあ、そういうことを粋としてるからこんなことになっちゃったんですよね。

(荻上チキ)そうですね。別の粋を探していきたいですね。

(みうらじゅん)そうですね。真逆なことをね。もう、ヒントは全部真逆のところにあるから。そこのあたりにはないですよね。それはね。

グラビアン魂

(荻上チキ)たしかにそうですよね。あと、僕みうらじゅんさんの『グラビアン魂』が大好きで。

(みうらじゅん)ああ、ありがとうございます。あれもね、もともとやっぱりカメラマンの人と編集者の人がグラビアを決めていることにすっごい疑問があったんだ。俺。

(荻上チキ)おおー。

(みうらじゅん)大概の雑誌ってそうじゃないですか。だって、こっちは勃てようと思って買ってる必死の人が、やっぱり『こうあった方がいい』って思っているわけだから。そういう人の意見が反映したグラビアの選び方がしてくて。まあ、持ちこんだ企画で。はじめは。で、大概ね、グラビアの女の子のマネージャーが写真にバツをするんですよ。『これはちょっと変な表情だから』って。

(荻上チキ)使わないでくださいと。

(みうらじゅん)でも、変な表情が嫌らしいわけであって。そんなキレイに撮れているのって、どこの雑誌でも同じわけで。嫌らしくないわけじゃないですか。だったら、もう自分がエスキースを書いて。『こうしてくれ!』と。『後ろは薄暗くなっていて、ここはバイブが落ちている感じ』とか書いて。俺がエスキース書いて。それでいまやってるんです。

(荻上チキ)コンテみたいなやつですね。

(みうらじゅん)コンテを書いて。そうやると、やっぱりより読者に近いグラビアができるんじゃないかな?と思って。

(荻上チキ)リリー・フランキーさんと一緒に。

(みうらじゅん)はい。リリーさんとやってるんですけどね。あれ。

(荻上チキ)毎号楽しみにしています。なんなら、自分の連載を見ずにそちらを見る号もありますから(笑)。

(みうらじゅん)(笑)

(荻上チキ)いや、あるんですよ。そうしたところが。でも、やっぱりそのエロスの追求という点で考えると、やっぱり本人が着なそうなやつとか。

(みうらじゅん)ああ、もちろん。もちろん。違和感があるやつがいいですよね。

(荻上チキ)シチュエーションで比較するやつとか。

(みうらじゅん)熟女にセーラー服みたいな、そのミスマッチがいいんですよね。男ってなんか、ゲーッ!とか言って。小学校の時、よく神社の裏とかでエロ本、落ちていたじゃないですか。

(荻上チキ)落ちてましたね。黒いサンタクロースが未来の市場を開拓するために・・・

(みうらじゅん)神様が落としてくれたもんだって言われていたけど。あれをなんかやっぱり、そこで落ちている棒でページをめくって。友達と見た時に、ゲーッ!って言ってるんだけど。まあ、自分の母親より上だと認めたものはゲーッ!っと言わなきゃなんないと、やっぱり童貞の時に思っちゃったんだよね。

(荻上チキ)ああー、童貞コード。

(みうらじゅん)だから、みんな価値判断って童貞の時につけた。男はね。それを信じたまんま大人になっているから、そこをちょっと1回疑ってみようと思って。俺。

(荻上チキ)脱皮のタイミング、たしかにあまりないですね。

(みうらじゅん)ないでしょう?

(荻上チキ)人と話す機会も少ないし。

(みうらじゅん)ねえ。だからその時のゲーッ!って言ったことって、なんでゲーッ!って言ったんだろう?って思ったら、好きだからだよね。あれ。『ゲーッ!すっげー!』だから。『すげーっ!』の『ゲーッ!』なんだよ。

(荻上チキ)感情を揺さぶられたわけですからね。

(みうらじゅん)そこでなんか、うわー!とか言うと友達からちょっと仲間外れになるような怖さがあったからゲーッ!って言っていただけなんじゃないかな?と思って。だから、もうできる限りSPA!はゲーッ!っていうやつをやりたいなと思って。

(荻上チキ)いやー、最高ですよ。たまに、最近は出てないですけど、男性グラビアもね。

(みうらじゅん)あ、『グラビアン魂オム』って言ってね。あのー、杉作J太郎さんとか。もう、周りしか口説けないんで。男がグラビア巻頭を飾っていてもいいじゃないかってやっぱり思うし。

(荻上チキ)ananとはまた違う方向でね。

(みうらじゅん)ananとはまた違う方向なですけど。やっぱりエッチなことって、男と女がいないと成立しないのに、やっぱりグラビアって女の人が主体になっているから。あのオムをやることによって男のおっきいグラビアが手に入るわけで。そのグラビアと次号の女の人のグラビアを右ページと左ページに貼り合わすと、すごく嫌らしい世界観ができるように作っているんで。あれ。

(南部広美)へー!

(みうらじゅん)だから上手く貼りあわせていただければ。

(荻上チキ)ああー。想定してないけども、男性ファンの中でも喜ぶ人もいるわけじゃないですか。そっちのニーズもね。

(みうらじゅん)いや、そうです。たぶん2丁目あたりでは売れるんじゃないか?っつって。まあ一応、そん時の編集長とかを口説いて。

(荻上チキ)杉作さんのやっぱりボディーとかは・・・

(みうらじゅん)いや、いいボディーですよ。すごくキュートなんですよね。

(荻上チキ)張り。腹の。脳裏に焼き付いてますもん。

(みうらじゅん)だから結構、週刊誌としては男の、しかもananじゃないモデルの杉作さんをすることによって、ダメージを受けるんじゃないか?ってやっぱりちょっとね、躊躇してたんですけど。

(荻上チキ)えっ?SPA!ですら躊躇するんですか?(笑)。

(みうらじゅん)躊躇しました。そん時は。ないことなんで。

(荻上チキ)SPA!の癖に躊躇しなくていいですよ。

ラブドール

(みうらじゅん)でも結果、売上は変わらなかった。ということは、誰でもいいじゃないか?って。最終的に自分と、まあリリーさんもその時期に買ったんですけど。ラブドール。あれ、2体絡めて。1回、もう人間じゃなくてもいいんじゃないか?って。ドールでもグラビアやったし。別に文句はなかったし、売上は変わらなかったっつーんだから、いいんじゃないかな?と思って。何をしても、実は。

(荻上チキ)ドールと、たとえば昔の南極2号とか。あるいは、昔ながらのロボット的な、それこそ手塚治虫が描くロビンみたいな感じのやつとか。旧タイプと新時代のやつが絡むとか、妄想が広がっていいじゃないですか。

(みうらじゅん)でもね、旧タイプのやつも僕、20年ちょっと前に1回、買ったんですよ。そん時、高級って言われていたんだけど。まだソフビの時代で。まあ、棒立ちなんですよ。もう、可動できないっていうか、関節がなくて棒立ちで。うちの事務所のところによく棒立ちで、素っ裸で立たされたりしてたんですけど。

(荻上チキ)はい。

(みうらじゅん)そういう時はやっぱり友達が来て、まあうちの事務所で飲んだりしたら、『うわー!』なんておふざけで乗っかったりして。『うわー!』なんて騒いでいたんだけど。いまのラブドールってすっごい完成度が高いもんで。シリコンでできていて、もう皮膚感も結構人間に近いし、顔もすごい近いから・・・

(荻上チキ)私、オリエント工業さんに取材に行ったことがありますよ。

(みうらじゅん)ああ、そうですか。そうでしょう?ものすごいリアルになっているでしょ?

(荻上チキ)すごいですよ。丁寧に作りこんでいて。

(みうらじゅん)でもね、リアルなものって、買った人間にしかわからないと思うけど、なんかね、乗る気がしないっていうか。頭がやっぱり危険信号をちゃんと見ぬくみたいで。『これは人間じゃない!』っていうところを見つけるんですよ。必死で。

(荻上チキ)不気味の谷みたいな感じなのかな?

(みうらじゅん)やっぱりちょっとした人間じゃない部分を見つけては、ホッとするんだよね。だから逆に言うと、盛り上がらないんですよ。そういう意味では。

(荻上チキ)だから実際、オリエント工業などのラブドールは、その方向の使用をする人の方が少ないんですよね。

(みうらじゅん)そうなんですよ。やっぱり結局俺もそうだったけど、あれを旅行に持って行って。そういう同志と撮影会したり。それがメインなんすよ。

(荻上チキ)だから大きなフィギュアみたいな仕方で。着せ替えたり、あるいは助手席に乗せていって、ひとつの仮想デートの相手にするんですよね。

(みうらじゅん)そうそうそう。そうなんですよ。1回、リリーさんとね、高円寺でちょっとトークショーをやった時、ゲスト2人呼んで。ラブドール。4人で横並びで登壇したんですけど。

(荻上チキ)ラブドールのお二方と。

(みうらじゅん)ぜんぜん盛り上がらないんですよね。

(荻上チキ)(爆笑)

(みうらじゅん)しゃべってこないんで。座っているだけなんで。いるだけなんで。

(荻上チキ)異常のノリの悪い2人ですよね。

(みうらじゅん)ええ。あんまりトークには向かないなと思いました。それは。

(荻上チキ)そうですね(笑)。そこまではまだ、発達してないですからね。

(みうらじゅん)発達してないですよ。

(荻上チキ)そこはほら、ペッパーくんとか、あとはSiriとかね。ああいうやつにしないと。

(みうらじゅん)あの、ステージ脇から自分で出てこれるじゃないですか。そういうのは。あの、ドールは出てこれないので。もう本当、死体遺棄みたいに運んでくるんですよね。それで、座らせるんで。まあ、かなり観客は引くんですよね。おかしいことなのにねとは思うんだけど。やっぱり概念があるんですよね。ああ、あんなものを・・・っていうのがあるんじゃないですかね?

(荻上チキ)人のようで人でないみたいな。でも、大事にされている方は、先ほど死体遺棄っていう話がありましたけど。捨てないんですよね。かならず供養をすると。

(みうらじゅん)供養と、『お里帰り』っていうシステムがあって。まあ、ポックリ亡くなった場合、遺族が困るから。そんなものがあっても。だからそのオリエント工業に返すシステムがあるんですよ。ちゃんと。

(荻上チキ)はい。あります。たくさんお手紙とか、『生前に大事にしていたものです。一緒にお願いします』って託される。

(みうらじゅん)あれを、70万ぐらいするんですよ。

(南部広美)1体ですか?

(みうらじゅん)70万ぐらいするんですけど。でも、買ったことによって、『もう絶対に俺は鬱病になれないな』って思うんですよね。こんなものを仕事場に置いている人間が、やっぱり悩めないんですよね。

(荻上チキ)悩めない?

(みうらじゅん)悩めないっていうか、周りからも『お前、悩んじゃダメだろ?』っていう。やっぱり。これがある限りっていうのがあるから。ちょっとでも悩むとね、まあ、それを見に行くとね、悩めなくなるんですよ。『こんなもんがある俺が何を悩んでんだ?』って。

(荻上チキ)文学的苦悩とかはね、似合わないような部屋になりますよね。

(みうらじゅん)そうなんすよ。だからそういう意味は、そういう病むことはないですよ。そっち方面では。

(荻上チキ)ああー。なるほどね。じゃあ、ある意味での抑止策として。

(みうらじゅん)うん。なると思います。あれ。

(荻上チキ)最近はほら、ペットを愛でることでメンタルをケアするみたいなものもあったりしますけど。ドールケアみたいなものも、実際にあるわけじゃないですか。ロボットケアとか。ねえ。

(中略)

(南部広美)今夜のゲストは漫画家でイラストレーター”など”のみうらじゅんさんです(笑)。

(みうらじゅん)『など』ですね。メインは『など』でございますので。

(南部広美)今夜はですね、仏像ブームやいやげ物などなどなど、数々のムーブメントを生み出したみうらじゅんさんに『ない仕事』の作り方をたっぷりとうかがおうかと。

(荻上チキ)そうなんですよ。本が出まして。文藝春秋社から。みうらじゅん『「ない仕事」の作り方』。ビジネス書っぽく作って、客を騙そうという(笑)。

(みうらじゅん)いやいや、騙す気はないんですけど。正直なところなんですよね。いちばん手の内を明かしてしまったかもしれない。ええ。いや、僕、『好きなものをやって楽しそうにしている』って思うように仕掛けてきましたけど。決して、好きなものをテーマにしてきたつもりはないんで。あの、俺もすごいまともな人間なんで。いや、ものすごい寒いこととかにも敏感なんで。『こんなもん、誰が買うんだろう?』とか、『こんなこと、なんでするんだろう?』とかっていうことに対して、『俺がしよう!』って思って。

(荻上チキ)はい。

努力を重ねる過程を紹介

(みうらじゅん)で、努力を重ねる過程を紹介していくっていう仕事が『ない仕事』だったんですけど。だから趣味の延長では、別になかったんですよね。本当は。

(荻上チキ)あ、『好きが高じて』っていう風に思われるのはブランド戦略としては有効なんだけど・・・

(みうらじゅん)そうですね。そう思います。

(荻上チキ)だけど実際は寒いのに敏感だからこそ、ニッチ戦略としてそこに行けるだろうと。

(みうらじゅん)そうですね。僕、一時天狗とか来るって言ってたんですよ。『天狗ブームが来る!』って言ったけど、ぜんぜん好きでもないわけですけど。天狗ってまあ、おかしいことはおかしいから。でも、それが部屋にやっぱり天狗の面が3つより10個。10個より100個ある家って、おかしいことはおかしいじゃないですか。

(荻上チキ)おかしいですね。

(南部広美)嫌だ(笑)。

(みうらじゅん)人って1個あることに対しては『変』で終わっちゃうけど。100個あると、『おおっ!?』って言うんですよ。一応。興味ないくせに、『すげえ!』とか言うんですよ。

(荻上チキ)『すごいお部屋ですね』って。

(みうらじゅん)ええ。だからその一環で、まあいやげ物って言っていた地方で土産物の中に混入されている、誰が買って喜ぶのかわからないような、貝細工の猿とか。なんかいろいろあるでしょう?

(荻上チキ)ペナントとか。

(みうらじゅん)ペナントとか、マリモ。あれをまあ、ごっそり買って、自分のところの事務所に溜めていたんですけども。それをまあ、土産物っていうカテゴリーだからこの人、イキイキできないけど。もう本当、いらないから『いやげ物』っていう名前にしてあげたら、そこで泳げるんじゃないかな?と思って。それもやっぱり、千じゃダメだから、万単位でってことで。万単位で、もうえらいことになっちゃって。仕事場が。それでまあ、展覧会をやるってことで。またまあ、そういうところにウワーッ!っと。パルコとかああいう、発信源みたいなところで、ミスマッチなことをやって。

(荻上チキ)はい(笑)。

(みうらじゅん)で、来た人は『うわー!』って言うんですよ。膨大な数なんで。

(荻上チキ)発信源が掃き溜めになっちゃったみたいな感じでしょうかね?

(みうらじゅん)でもやっぱり、その無駄な努力と無駄な量っていうのが、まあテーマは何であれ、ワーッ!っと振り向くことは振り向くので。その仕掛けをすれば、大概のものはいけると踏んだんですけどね。ええ。

(荻上チキ)うんうん。そうして、いろんなものに本当に手を出して。その都度、その都度、企画をむしろ持ち込んでいって。これは、宿命ですよね?

(みうらじゅん)ない仕事なんで。編集部とかテレビから『あれをよろしくお願いします』って言われることないし。そんな、名前も誰も知らないことで、『いやげ物の連載してください』なんて言われるわけないから。当然、こっちから持ち込みするなり、申し込まないと載せてもらえないんで。当然、載せてもらう時も、『囲み記事なら・・・』とかそういうことなんですよ。雑誌の場合。

(荻上チキ)はいはいはい。

(みうらじゅん)『小さいコラムのところぐらいだったら・・・』って言うんだけど、そんな、いままでないものを、ちっちゃいところで紹介しても意味がないんですよね。

(荻上チキ)そうですよね。

(みうらじゅん)ないことを、やっぱり5ページぐらいでやんないと。何やってんだ?っていう感じはないから。

(荻上チキ)5ページあるとね、まず、見開いて、バッと展示して、図式化して、分類して、識者に聞いて・・・みたいな。一通りできますね。

(みうらじゅん)ねえ。だから初めは囲み記事をしょうがないからそこから始めて。それを1ページにしていって。で、『実はこれ、このネタの場合はカラーの方がもっと伝えられる』とか言って。まあ、編集者の人と飲みに行って、二軒目ぐらいで口説いて。まあ、その人からしたら、1ページにしたらカラーにするなんて別にどうでもいいことだと思うから。『ぜひとも・・・』って言って、接待船を出して。売り込んで。で、1ページにしてもらったり、カラーにしてもらったりして。徐々にページを増やしていって。

(荻上チキ)はい。

(みうらじゅん)で、その無駄なページになった時に・・・連載もずいぶんいまもやっているんですけど。まあ、当時は30本以上やっていたんで。一斉に同じことを書いていたんで。それはもう、一人電通のやり口で。もう本当、固い雑誌からエロ本までやっていたんで。もう一斉にやると、ある人はどっかの歯医者の待合所でその雑誌をたまたま見て。『いま、天狗がブーム』とか書いてあると。で、ある人は違うところで見て。で、その人がたまたま同級生で。何かで会った時に、何かの話の折に、『なんかいま天狗ってさ・・・』って言った時に、『あ、俺も見た!俺も見た!』っていうことで。同一人物が仕掛けているとは思わないから。

(荻上チキ)うん。

様々な雑誌で一気に仕掛ける

(みうらじゅん)そんな雑誌を何冊も買っている人、いないから。まあ、そういう一人電通のやり口でいままでやってきたんで。

(荻上チキ)いわゆる接触効果ってやつですよ。

(南部広美)装うんだ(笑)。

(みうらじゅん)そうですよね。

(荻上チキ)出会うところを増やしていけば、1回、2回は偶然だけど、3回見たってなると・・・

(みうらじゅん)いやいや、もう絶対に流行っていると。

(荻上チキ)来てんだ!?みたいな。

(みうらじゅん)と、思いますから。人に言いますから。そうやってなったら。

(荻上チキ)電通のやり口ですね(笑)。

(みうらじゅん)一人電通のやり口なんで。

(荻上チキ)金をかけて、出会わせて、来てんな!と思わせて、本当に来させるっていう。既成事実から入るっていうやつですね。

(みうらじゅん)でも、来たからって言ってそこで何か商品を売っているわけじゃないから。何もうちにはないわけだけど。その、なんか信頼感が、よりやっぱり信頼感とつながっていくと思うんですけどね。商品がないですから。もともとは。

(荻上チキ)はい。だからもともとの起爆力があるものをちゃんとプッシュできる、その選眼能力みたいな。選ぶ能力がライターとして強みというか。評価されるポイントじゃないですか。自社の商品を無理やり売ってましたってなったら、いまはそれはストレスマーケティングということでね、叩かれる時代ですからね。でも、物書きってだんだんだんだんと威張っていくじゃないですか。で、企画をむしろ待ってっていく中で、むしろ接待をされる側になっていくじゃないですか。

(みうらじゅん)ああ、いちばん危険な時ですね。これね。ええ。

(荻上チキ)そうではないという初心をいつまでも忘れないっていうのは大事ですね。

(みうらじゅん)やっぱり、不自然な格好をしているっていうことが。うちの事務所のタレントとして僕、出てますんで。あの、『いい歳こいてこの人、なんでサングラスなのかな?』とか、『なんで髪の毛を伸ばしてるんだろう?』っていう、やっぱり、レッツゴー不自然が、やっぱり偉くなれない理由なんで。

(南部広美)レッツゴー不自然(笑)。

(みうらじゅん)ええ。やっぱり、偉い人はちゃんと偉い格好をしていくわけじゃないですか。

(荻上チキ)ビジュアル系の人も、だんだんメイクしなくなってくるし。

(みうらじゅん)ねえ。やっぱり偉くなるとそうなっちゃいがちだけど。やっぱりなんか服を着ても、ちょっと・・・まあ、いい服を着ていても、ちょっと胸元に気になるようなフクロウのブローチをつけていたりね。

(荻上・南部)(笑)

(みうらじゅん)『この人、おばさんなのかな?』みたいな。そこ、すごい気になって、偉くなったことに気がつかないと思うんですよ。やっぱりそうやって気を散らしていくっていうか。相手の。そこもやっぱり戦術だと僕、思うんですけどね。

(荻上チキ)どうしても、パリッと、らしくしなきゃみたいなの、あるじゃないですか。

(みうらじゅん)そこになんか違和感のあるものを1個、入れていく。ブローチを入れていくっていう。

(荻上チキ)らしくなったら、ライターはできなくなりますよね。あれは。作家先生になっちゃいますね。

(みうらじゅん)ああ、そうですよね。うーん。そこはやっぱり、一人電通としては気をつけなきゃいけないところで。威張っていてもしょうがないですからね。これ。

(荻上チキ)そうですよ。出世魚制度って、この物書き業界にはあるじゃないですか。最初は『○○作家』と名乗っていた人が、その『○○』っていう部分が取れて、ただの作家になるっていうパターン。猪瀬直樹さんとかもまあ、そうですよね。

(みうらじゅん)はいはい。

(荻上チキ)作家にこう、なられていくというか。

(南部広美)段階があるわけだ。

(荻上チキ)段階というか、猪瀬さんはもう、作家ですから。そうなんですけど。なんか昔は違う肩書だったけど、あの肩書はもうやめたのかい?みたいな。

肩書問題

(みうらじゅん)ありますよね。まあ、そこに相変わらず『イラストレーターなど』と言い続けるというね。いや、そのイラストレーターっていうのも、もともとは、初めは漫画家で僕、デビューしたもんで。親戚の新年会に行くと、子供たちが『じゅんお兄さんは漫画家だ!』っつって、ドラえもんの絵とか書かされて、すっごい下手で。『こいつ、ニセモンだ』とかっていじめられたもんで。言わないようにして。イラストレーターだったらわからないだろう?って僕、イラストレーターにしていたら、親戚のおじさんが次の年に、『じゅんちゃんはインストラクターやってるんやて?』って言われて。

(荻上・南部)(笑)

(みうらじゅん)それでね、済んじゃったんですよ。話が。世の中なんて結局、肩書で済んじゃってて。本当に重要なのは、僕が何のインストラクターだったか?じゃないですか。インストラクターって、成り立たないじゃないですか。それだけで。なんかのインストラクターなのに。でも、なんか、『だいたいタモリ倶楽部に出てそうな人』とかいう俺、くくりでずっとやって来たので。そんなに頻繁に出ているわけじゃないし。でも、世間ってそれぐらいしか見ていないところを逆に利用していかないと。

(荻上チキ)はいはい。

(みうらじゅん)そんなにみんな詳しいわけじゃないから。他人に対して。

(荻上チキ)なるほど。逆に、肩書をアイデンティティーにしないっていうことですよね?

(みうらじゅん)そうですよね。

(荻上チキ)最近はカタカナで『○○クリエイター』とか、『○○イラストレーション』とか。ものすごく細かくアイデンティティーを・・・

(みうらじゅん)カタカナで書いてあるやつでしょ?

(荻上チキ)そうそうそう。まあ、いいと思いますよ。それは。それで仕事が上手く行くんだから。でも、みうらさんの場合はそうはいかないですよね?

(みうらじゅん)『など』の方ですからね。肩書がないことで、苦労してきたんで。やっぱり、なんか『イラストレーターにしてください』って言われるんですよ。新聞とか固いところは原稿をたのまれて書いて。最後に『みうらじゅん』って書いて、下に肩書が入るじゃないですか。あれ、ないと、単なる『なんだ、こいつ?』ってなっちゃうから。で、『イラストレーターなど』って言うんだけど。『いや、そういう職業ないんで。「など」は取っていいでしょうか?』って言われるんだけど。『いや、「など」が重要なんだけど!』って言うんだけど。やっぱりそれは、理解してもらえないから。『ない仕事』だから。そこは。

(荻上チキ)なるほど。デスク判断で除けられると思います。

(みうらじゅん)でしょう?だからやっぱり、ない仕事って、肩書もないんですよ。肩書があってはいけないんですよ。

(南部広美)そっか。共有しているものがないんですもんね。みんなが『○○』って言って、『ああ、そうか』って思えるものがない仕事なんですね。

(荻上チキ)僕も困りますよ。新聞に載る時は。評論家じゃないですか。でも、評論家なのに、何でこれについてコメントしてんの?ってことがあるわけですよ。たとえば僕、いじめの研究もしてるし、流言とかの研究もしてるけど。で、その時は『いじめ問題に詳しい』っていうのを頭につけた評論家になるわけです。

(みうらじゅん)はいはいはい。

(荻上チキ)じゃないと、新聞はやっぱり収まりが悪いんですよね。だからみうらさんもおそらく、『○○に詳しいみうらじゅんさん』っていう肩書にされたこと、ありますよね?

(みうらじゅん)ああ、もう昔からずーっと。『仏像マニアの』とか書いてあるんだけど。そんなことで食ってる人、いないですよ?

(荻上チキ)(笑)。便宜的肩書ですね。

(みうらじゅん)そんなの、趣味ですからね。それは。

(荻上チキ)あたかもそれで生活しているかのような。じゃないと・・・

(みうらじゅん)だから初めはマイブームっていう言葉を作ったのも、自分の肩書として作った言葉だったんだけども。で、それを『マイ』なことを『ブーム』にして発信する職業の名前で考えたんだけど。でも、誤解が生じて。みんなの趣味とかそういうことに変わっちゃって。こう、流通したってことなんで。

(荻上チキ)うん。まあ、時代の機運もありましたよね。なんかブームってひとつのものだみたいなイメージがあったけども、その頃には社会が多元化していて。それぞれのブームをそれぞれが生きているっていう感覚としてやっぱりスッと入ったので。

(みうらじゅん)そういうことを、やっぱりその時代時代で、まあ、頭がいい人がね、ちゃんと書いてくれる人がいるんですよ。

(荻上チキ)それっぽくね(笑)。

(みうらじゅん)うん。このない仕事もね、頭がいい人が、『これはナントカである』って。僕が読んでもその意味がわからないようなことを書いていただけると、誤解が生じて広く広まるんですよね。ええ。

(荻上チキ)書評をしてくれってことですよね。だから

(みうらじゅん)そうです。して欲しいんです。だから。間違った書評を。

(荻上チキ)(笑)

(南部広美)解釈を多様に。

(みうらじゅん)そうですね。

(荻上チキ)本人の意図から離れた書評をね。

(みうらじゅん)うん。離れれば離れるほど、いいと思います。やっぱり。こういうことは。

(荻上チキ)だからもしかしたら、試験問題に出るかもしれないですよね。文章ですから。

(みうらじゅん)そうですよね。

(荻上チキ)だから、『作者の意図を考えろ』とか言われるかもしれない。

(みうらじゅん)意図は違いますからね。そこにはありませんからね。

(南部広美)みうらさんのない仕事って、なんか割と長くずーっとやっていることが・・・

キープオン

(みうらじゅん)僕、しつこいんですよ。しつこいっていうか、いい意味でキープオン・ロケンロールなんで。ロケンロールって、ツバ吐いてりゃロケンロールに一時、見えるんですけど。ずーっとツバ吐いているって、40年も続ければ枯れてきますから。最後、出ないですよ。ツバ。でも、『あの人、出ないのにがんばって吐いてるな!』っていうことが面白いわけで。

(荻上チキ)ワイルドサイドを歩き続けてるな!みたいな。

(みうらじゅん)キープオンの方がおかしいんですよね。ええ。まあ、普通の人ってやっぱり、当然人間の才能として飽きるという才能が付いているから。飽きるから次に行けるんだけど。飽きたらこの仕事、ダメなんで。飽きないふりをしているだけで。俺。

(南部広美)ふり?

(みうらじゅん)当然、振りはしないと。

(南部広美)当然、飽きているけど・・・

(みうらじゅん)当然、飽きてますよね。

(南部広美)自分を騙すんですか?

(みうらじゅん)あ、自分洗脳っていうか。『俺は好きなはずだ』ってやっぱり思うんですよ。そのためにはやっぱりその、先ほど言ったいやげ物って言われているやつね。前はね、『うわっ、誰が買うんだろう?』っていうやつ。値段まで見ていたんですよ。前。で、やっぱり値段を見て、『うわっ、意外と高い』とか思うと、バカじゃないの?って思って怯んで買わなかったんだけど。いまはね、値段を見ない訓練を、修業をずっと積んできたんで。パッと掴んだら、すぐレジに走るんですよ。

(荻上チキ)おおっ!

(みうらじゅん)『これ、誰が買うんだ?』の『買う・・・』のあたりで掴んでバーン!走りこんで。レジに持って行ってったら、4万5千円とか言われることがあって。

(南部広美)うそー!?(笑)。

(荻上チキ)高い!

(みうらじゅん)俺、奈良彫のビーナスっていうブッサイクなやつ、買ったんですけど。ブッサイクだな!と思ったら、4万5千円もして。ヒエーッ!と思ったんだけど、その時にやっぱりハードルを越えた自分がいて。ああ、もう少々のことではビクつかなくなったんで。自分の課せてるんですよね。そういう修業を。

(荻上チキ)自分の中でも、行ったわけですね。涅槃のところまで。解脱まで。

(みうらじゅん)そうですね。だから、そこまで行くと、初めは元を取ろうなんてケチ根性があったんだけど。もうクラクラしてきて。これはいいもんじゃないか?まで来るんすよね。

(荻上チキ)いやげ物界隈の中でのトップクラスだみたいな、序列付けができるんでしょうね。

(みうらじゅん)できてきて。『俺が見つけた』とか、しょうもない。自分がなくなるんですよ。こんな、4万5千円もする奈良彫のビーナスがメインになって。こんな変なものを発見した僕っていうのは本当、なくなってきてね。ずーっと極めていくと、自分なくしになるんですよ。最終的に。自分を探していたら、つまんないっていうか。そのもの自体は光が当たらないじゃないですか。自分を消していく作業をしていくんですよ。最終的に。

(荻上チキ)ほう!

(南部広美)自己滅却。

(みうらじゅん)だから、何だこれ?っていうことのために邁進するだけだから。ええ。

(荻上チキ)もう仏の境地にまで行ってますね。

(みうらじゅん)うん。趣味はやっぱり自分が集めているっていう自我が発生するけども。ない仕事はね、自我があってはいけないんですよ。広く流布させるためには。好きなことって、熱く語りがちじゃないですか。で、熱く語ると当然、ウザいじゃないですか。

(荻上チキ)うん。俺がナンバーワンだって結局、言ってるわけですから。

(みうらじゅん)それはもう小学校の時から僕、仏像で痛い目にあっているから。もう、ウザいウザいっていうことだったんで。

(荻上チキ)ドン引かれしてたんですね。

(みうらじゅん)ドン引かれされるとマズいんで。これは。されないように、されないように持っていなきゃならないから。どれだけいいか?っていうことを言うわけですから。

(南部広美)主語はそのいやげ物になるとか、仏像になるとか。

(みうらじゅん)もちろんいやげ物ですよね。それのスポークスマンの役をするっていうことなので。自分が主語に立つようでは、まだまだなんですね。

(荻上チキ)ああー。いやげ物道ができて、その中での黒帯だってあとで発見されるぐらいじゃないと、なかなか難しいですね。

(みうらじゅん)そうですね。その間、まあ自分も完璧に洗脳されているんで。まず、自分を洗脳するって人を洗脳するより当然、難しいじゃないですか。自分のこと、知ってるから。そういうやっぱり、自分をどこまでノイローゼに追い込むか?がやっぱり。ノイローゼになれない時がノイローゼなんですよ。だから。ノイローゼになれない!っていう時。

(荻上チキ)どっかでやっぱりブレーキが働いている瞬間なので。何やってんだ?みたいなものが顔を出しちゃうんでしょうね。きっとね。その段階だと。

(みうらじゅん)出すのか、まあ、ちょっと視点がズレてるのか。なれない時があるんですよ。すんごい落ち込んでいる時、あります。そういう時。

(荻上チキ)そうですよね。

ライフワークのエロスクラップ

(南部広美)こちらはどうでしょうね?さっき紹介しましたけども。Twitter。(ツイートを読む)『みうらさんはスクラップ、いまでもしてるんだろうな』っていうことですけど。

(みうらじゅん)うーん。『してるんだろうな』っていうか、4時間ぐらい前にしてましたから。

(荻上チキ)してましたか!

(みうらじゅん)もちろん。あれはね、もう『してる』っていう感覚がないんですよ。

(南部広美)ああ、もう?

(みうらじゅん)ええ。仕事場にスーッと入ると、スーッと床に座って、スーッとスクラップを広げて。もうワーッとエロの切り抜きが散乱してるんで。それをスーッとやって、スーッとハサミでスーッと・・・スーッと貼って、スーッと終わってるんですよ。

(南部広美)呼吸のように?(笑)。

(みうらじゅん)ええ。ほんでもう、朝からやって、もう気がついたら4時半とかね。

(南部広美)えっ?4時半って・・・

(みうらじゅん)夕方の。もうだから、無になってるんですよね。ええ。だから昔はそれを、まあ私家本のエロ本を作ろうと思って。それで美味しい目にあおうと僕、してたんですけど。それもないんですよ。もう貼っていることが全てだから。こういうところで、まあTBSでちょっと置いてある雑誌とか見つけて。『貼りたいな』と思うと、もう、貼りたくてしょうがないんですよ。もうちょっとね・・・

(南部広美)貼りたい?(笑)。

(みうらじゅん)盗みたいぐらい、その雑誌がほしいんですよ。で、ビリビリッて破って帰ったりすることもあるんですけど。もう貼って貼って貼り倒したいっていう。凝り性ってあるけど、僕ね、貼り症なんですよね。まあ、スクラッパーっていう金にもならない職種なんですけど。僕。昔から。小1からやってるんですけど。

(荻上チキ)ああー、もうライフワークですね。

(みうらじゅん)怪獣から始まっているライフワークなんですけども。でも、最近、そのエロスクラップが458巻目を迎えたんですよ。もうそろそろ、500行くんですよ。もう、なんにも悪いことしてないのに、ほぼ犯罪者同然の感じなんですよ。これ。

(荻上チキ)そうですね。何かやったら、『こんなもの出てきました』って言われるパターンですよね。

(みうらじゅん)もちろん、出てきただけでもう・・・ってなるんですけど。僕、これをどっかの体育館みたいなところに、押収された品みたいな展覧会をしたいんですよ。

(荻上チキ)あ、はいはい!警察がよく、下着を並べたり。

(みうらじゅん)あるでしょ?下着ばっかりを盗んでるやつとか。ザーッと並んでいる。その、スクラップがバーッ!って並んで、上から見る展覧会、いけるんじゃないかな?って。

(荻上チキ)じゃあ、やるならやっぱり体育館みたいなところですよね。

(みうらじゅん)が、いいと思うんですよね。

(荻上チキ)おしゃれなところじゃなくて。

(みうらじゅん)おしゃれなところじゃない方が。青いブルーシートの上にのっているような感じがいいんじゃないかと。

(荻上チキ)そうそうそう。で、三角のやつで数字で『27』とか横に置いてあるみたいな(笑)。で、27のあたりでは・・・って、地図が書いてあって、みたいなぐらいが。

(みうらじゅん)そうなんですよ。自分もいつまでやるのかな?と思って。ええ。これだけはね、本当、仕事になんないんですよ。ない仕事にならないっていうか。

(荻上チキ)でも、展覧会にだったらできるかもしれない。

(みうらじゅん)うん。昔ね、ラフォーレで100巻記念の時にやったんですけど。バードウォッチングみたいに双眼鏡で見るやつを。

(荻上チキ)(笑)。オペラグラスでこう・・・

(南部広美)ということでみうらさんの著書『「ない仕事」の作り方』。お値段税込み1350円ということで文藝春秋社から発売されております。

(荻上チキ)もう、なにが『ということで』なのかさっぱりわからなくなりましたけども(笑)。すごい面白かったです。

(みうらじゅん)とりとめのない話になってしまいましたね。すいませんね。

(南部広美)また、お待ちしています。500の時は知らせてください。

(みうらじゅん)わかりました。たぶん年内には終わると思います。いま、週刊誌レベルでやってますんで。

(南部広美)今夜のセッション袋とじ、ゲストは漫画家でイラストレーターなどのみうらじゅんさんでした。

(みうらじゅん)ありがとうございました。

(荻上チキ)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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