町山智浩と春日太一『兵隊やくざ』『宮本武蔵』を語る

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町山智浩さんと春日太一さんがTBSラジオ『たまむすび』に出演。勝新太郎『兵隊やくざ』シリーズと内田吐夢監督『宮本武蔵』シリーズについて話していました。

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(赤江珠緒)じゃあですね、ここからは春日太一さんとされるトークショーで取り上げる映画についてお話いただくということですね。

(町山智浩)ええと、今回。明日ですね。明日の午後から渋谷のユーロライブというところで春日太一くんと僕とで映画について語るんですが。チケット、まだちょこっと残っているのかな?

(赤江珠緒)午後1時30分開演。

(町山智浩)そうですね。渋谷ユーロライブですが。で、今回お題はですね、勝新太郎主演の『兵隊やくざ』と内田吐夢監督の『宮本武蔵』シリーズです。じゃあちょっと『兵隊やくざ』、聞いてみましょう。

(兵隊やくざ 歌が流れる)

(町山智浩)はい。素晴らしいですね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)こっちが本職なんですけどね。勝さんっていうのは。もともとは。

(春日太一)長唄・三味線の人ですから。役者になる前はね。ええ。ある種のミュージシャンっていうか。和楽器のミュージシャンの人ですから。

(赤江珠緒)そうですね。

勝新太郎『兵隊やくざ』シリーズ

(町山智浩)『兵隊やくざ』シリーズっていうのがあったんですよ。1965年からずっと続いているんですが。全部で9作つくられている。それを今度、一挙に説明するというのをやります。

(赤江珠緒)へー!すごい。『兵隊やくざ』は『続』『新』があって、『脱獄』『大脱走』『俺にまかせろ』『殴り込み』『兵隊やくざ 強奪』。なんかもう、すごいことが起こっているな!っていうような。タイトルだけ見て。

(町山智浩)はい。これ、コメディーです。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)お笑い映画です。はい。で、舞台はね、戦争末期なんですけども。昭和18年の満州なんですよ。ソ連との国境近くで。そこでほとんど日本軍の隊内で。陸軍の隊の中で行われるいじめと、それに対して戦う兵隊やくざ勝新太郎と、その相棒っていうか上官の。兄貴分の有田上等兵のコンビが日本軍の嫌らしいいじめに対して戦っていくっていう話なんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)で、これ、あれですよね。前にここで紹介した・・・

(春日太一)そう。『人間の條件』っていうね、映画がありますけども。あれのファンタジーバージョンというか。

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(山里亮太)あれをファンタジーに仕上げられるんですか!?

(春日太一)あれをファンタジーに、コメディーにしたらこうなりましたっていうような。で、あそこでみんな耐えたわけですよね。いじめられて。それで、あるいは自殺したりとかあるのを、『いや、耐えない。ちゃんと反抗するぞ!』って。

(山里亮太)なんかちょっとこっちの方がまだ、胸がすっきりする。見ていて。

(春日太一)はい。あれを見た後で、ちょっといろいろフラストレーションが溜まったものを、これで晴らすっていうのがいいなと。

(赤江珠緒)それが『兵隊やくざ』。

(町山智浩)要するに、『人間の條件』って9時間見ていて、スカッとするのは9時間目の一瞬だけなんですよ。で、この『兵隊やくざ』シリーズは毎回スカッとするというね。9本あって全部スカッとするんですけど。ただ、両方とも設定はまったく同じで。ソ連との国境付近の満州の日本軍の駐屯地の中で行われて。しかも、原作は両方とも作者の体験によって書かれているんですよね。

(春日太一)そうなんですよね。

(町山智浩)あっちは五味川純平さんの体験で、こっちはですね、有馬頼義さんの体験なんですね。で、この作家の先生はですね、あれですよ。阿佐田哲也さんとか立松和平さんの師匠にあたる直木賞作家ですね。この有馬さんっていう人は貴族の出なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)お武家さんのね、出で。たしか水天宮ってありますよね?あそこの神社のお賽銭が彼の家に入るっていうような。

(赤江珠緒)えっ?あの人形町の?

(春日太一)その有馬家なんですね。

(町山智浩)そう。有馬家です。この有馬さんの息子さんはいま、水天宮の宮司かなんかじゃないかな?

(春日太一)久留米の城主ですね。

(町山智浩)そうそうそう。久留米の城主です。だから戦国時代の前からずっと続いている。

(赤江珠緒)そうか。後に華族になられて。

(町山智浩)由緒正しい華族なんですけども。『こんないいところに生まれたからっていうことで優遇されるのはおかしい!』って言って、普通だったら華族の人っていうのは士官学校に入って、士官になるんですけども。それをやめて、普通に兵隊として。一般の貧しい人たちと一緒に戦争に行ったんです。この人は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そこで出会ったのが、元暴力団員のこの大宮貴三郎というね、勝新が演じる人なんですけども。彼がすごくてですね。要するに、初年兵ってことで最初の1年目っていうのはものすごくいじめるんですよね。

(春日太一)そうですね。日本の体育会系の部活みたいな感じでね、いじめるわけです。まず。

(山里亮太)こういうところですから、すっごいんでしょ?いじめ方も。とんでもないいじめ方で。

(春日太一)軍隊ですからね。『歯を食いしばれ!』ですからね。

(町山智浩)だから『挨拶をしなかったな!』ってぶん殴られて、『こっちを見たな?』っつって殴るっていう。で、また目を伏せると『なに?どこを見てるんだ!?』って殴るっていう。意味ないんですよ。殴りたいから殴るんですけど。で、それをやると、あまりにも大宮っていうのは強すぎて、殴っていた方の指が折れちゃうんです。

(山里亮太)あ、もうコメディーの香りがプンプンしてきましたね。

(町山智浩)殴っていた方が『痛え!』とか言って。で、いくら殴られてもピクリともしないんですよ。彼は。で、この有田さんっていう、この人は有田っていう名前担っているんですけど。これは田村高廣さんが演じているんですが。田村正和さんのお兄さんですね。

(赤江珠緒)はー!ええ、ええ。

(町山智浩)この人は上等兵で、彼の係をやらされるんですよ。相棒を組まされるんですね。軍隊で。で、この人は有田っていう名前からわかるように、これ、原作者の有馬さん自身なんですよ。で、モデルになる人がいたのかな?大宮貴三郎のね。で、彼がずっと面倒を見ているんですけど、あまりにも理不尽に殴られて。要するに耐え続けるんですよね。大宮が。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)したら、ある段階で『大宮、やっていいぞ!』って言うんですよ。有田さんが。そうすると、さっき春日さんが言ったみたいに、鉄人28号のようにですね。

(春日太一)正太郎少年と鉄人28号の関係性みたいなもんでね。

(赤江珠緒)動き出す。大宮が。

(町山智浩)大宮が。それでもう、悪い上官とかを片っ端から殴ってやっつけちゃうっていう。

(春日太一)大宮、強いんですよ。また。

(山里亮太)へー!でもそんなこと、本来許されないんじゃないですか?でも、実際にあった話からモチーフにしてるってことは、本当にあったんですかね?

(町山智浩)あったんですかね?

(春日太一)そこまではたぶんないでしょうけどね。やっぱりね、そこはファンタジーの映画たるところなんでしょうけど。

(赤江珠緒)そういうような鬱屈した気持ちを映画の中では晴らしてほしいっていうことで生まれた勝新さんの大宮。

(町山智浩)で、戦争がひどくなっていって。中国の共産軍とかソ連軍が攻めてくるんですけど。ソ連軍に対しても共産軍に対しても、圧倒的に強いんですよ。大宮は、たった1人で(笑)。

(春日太一)うん。だから大宮が5人ぐらいいたらね、結構わかんなかったかもしれないですね。

(町山智浩)日本は戦争に勝っていた(笑)。

(赤江珠緒)強すぎる(笑)。鉄人28号だよ、本当に(笑)。

(町山智浩)だからいつも言ってるけど、勝新が何人もいれば、日本は戦争に勝っていたっていう(笑)。

(山里亮太)範馬勇次郎みたいなもんですね。

(町山智浩)そう(笑)。

(春日太一)最終兵器ですよね。

(町山智浩)すっごいいいのは、勝新太郎さんは有名なのは『座頭市』で有名なんですよ。で、『座頭市』は盲目っていうことで目を閉じてるんですよ。いつも。それで、ニヒルで。しかも座頭市シリーズってどんどんどんどん座頭市が強くなって強くなって怪物化していくんですよ。

(春日太一)そうですね。もう本当に止まらなくなってくる。

(町山智浩)もうほとんど、ゴジラ。

(春日太一)必殺技をどんどん使い出してきますからね。

(町山智浩)で、もう人間では倒せない限界になって・・・

(赤江珠緒)そんなに強くなるんですか!?

(町山智浩)だから座頭市っていうのはたぶん、原爆でしか倒せないんですよ。

(赤江珠緒)そんなに!?

(春日太一)毎回、悪役がどうやって座頭市を倒すか?っていうアイデアをこらすのが結構話題になりますからね。

(山里亮太)あ、そうなんですね。

(春日太一)それをまた突破していく座頭市のとてつもないスーパー技が出ていくっていう。

(山里亮太)そうでしたっけ?あの、バーッとね、殺陣がすごいっていうイメージだったけど。必殺技なんてありましたっけ?

(春日太一)もう、その殺陣がまたむちゃくちゃなことをやるんですよ。

勝新太郎自身に非常に近い役

(町山智浩)毎回毎回すごいんですよ。もう、物理的にありえないことをやるようになるんですけど。その超人化に対して、この『兵隊やくざ』の方は勝新自身に非常に近いんですよ。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)勝新太郎さんっていうのはなぜ『座頭市』をやったか?っていうと、目がものすごくかわいくて。ぬいぐるみみたいなんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、『これでは俳優としてダメだろう』と言われて(笑)。

(春日太一)実は童顔なんですよね。勝さん。

(山里亮太)へー!なんか、いかついイメージですけど。

(春日太一)歳いってから、ある程度そういう風になりましたけど。若い頃なんて本当、目がくりっくりのつぶらな瞳で。

(町山智浩)かわいくて。イウォークみたいなんですよ。だから俳優としてはこれ、ヤバいんじゃないの?って言われていたんですよ。で、目を閉じることで『座頭市』で俳優としては成功したんですけど。この『兵隊やくざ』、原作通りなんですが、『目がくりっくりでかわいい』って書いてあるんですよ。原作に。

(赤江珠緒)じゃあよかったんだ。これはもう、素のままの自分で演じられる。

(町山智浩)で、バンバンぶたれても、いつも舌で上唇をペロッてなめていて。なんかペコちゃんみたいな感じなんですよ。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)原作通りなんですけど。で、もう見るからにかわいくてかわいくてしょうがないんですよ。この『兵隊やくざ』の勝新は。それで、その上等兵の有田。まあ、有馬さんですけど。も、とにかく勝新がかわいくてかわいくてしょうがないから、もう途中から違う映画になってきますね。

(春日太一)そうですね。うん。

(赤江珠緒)えっ?

(春日太一)2人の世界(笑)。

(町山智浩)2人の世界です(笑)。

(赤江珠緒)えっ?

(山里亮太)それは、世に言う・・・?

(町山智浩)これ、女の子が毎回出てくるんですよ。女優さんが。それがマドンナですね。一種のね。まあ、マドンナがたいていはいわゆる慰安婦の人たちなんですね。で、最初は同じ・・・言っちゃうとあれなんですけど。1人の慰安婦を2人で、こう、有田上等兵と勝新がまあ、2人で愛するっていうところから、だんだんその慰安婦っていうか女性がいなくてもよくなってくるんですよ(笑)。

(赤江珠緒)ええっ!?ちょっと待ってください。えっ?それも、入ってるんですか?この中に。

(春日太一)もちろん、その性的なあれはないですよ。直接の行為は、2人の間で。

(町山智浩)あまりにも仲がいいんで、途中で夏八木勲だか宍戸錠だかにね、『お前ら、出来てるだろ!?』みたいに言われるんですけど。それは、そうとしか思えないよなっていう世界になってくるんですよ。

(春日太一)もう本当にね、1作目のラストシーンから第2作目のファーストシーンから。もう、なんだろう?2人がいれば、私たちは十分ですみたいな世界、みたいな雰囲気が・・・

(山里亮太)それ、世に言うBL感がちょっと・・・

(春日太一)半端なくありますね。

(町山智浩)で、慰安婦の人たちっていうのはたいていは日本でもすごく誤解があるんですけど、貧しい東北の人とか、沖縄の人とか、朝鮮の人とか。とにかく貧しい人たちが搾取されて連れて来られているわけですね。無理やり。だから一種の奴隷として連れて来られていたんです。日本人も朝鮮人もみんなね。だから、彼女たちは置いていかれちゃうわけですよ。戦場がひどくなっていくと。日本軍はそれを必要としていたにもかかわらず、敵が来ると、自分たちだけ日本軍は撤収して。慰安婦の人たちを置きっぱなしにしちゃうんですよ。戦場のど真ん中に。それを助けるのが兵隊やくざ、勝新たちなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)かっこいいんですよ。で、『一緒に逃げて!』っていう感じで『逃げましょう!』ってやっていくんですけど、上等兵はある理由があって、そこに残らなきゃならないわけですね。有田上等兵は。すると、勝新は悩んでですね。大宮は悩んで。『うーん・・・俺は上等兵がいなきゃ、嫌だ!』っつって、彼女を捨てて。『えっ、私を捨てるの!?』『いや、俺は女よりも上等兵だ!』っつって。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)なんだかよくわからない映画になっていくんです。

(山里亮太)いまの、『女よりも上等兵だ』っていうセリフがあるんですか?それによってはだいぶBL感が・・・

(町山智浩)もう、あります。で、途中から赤ちゃんを拾って。その赤ちゃんを2人で育てようよっていう展開になってくるんです。

(赤江珠緒)そこまで!?

(町山智浩)上等兵と2人で。

(赤江珠緒)もう家族的な感じになって?

(町山智浩)そう。だからいわゆる同性婚カップルが子供をもらって・・・みたいな話に展開していくんですよ。

(山里亮太)でも、それが描かれているのが1960年代ですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)もう最高ですよ。BL映画としてはもう最高ですね。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)いや、BL映画って・・・そのつもりで作ってるのかな?

(町山智浩)BL話をしすぎたんで、次の話ができないです(笑)。

(一同)(笑)

(町山智浩)置いといてですね・・・

(山里亮太)置いとけますかね?こんな衝撃。

(赤江珠緒)まさかそんな展開になるとは思わなかった。この映画が。

(町山智浩)まあ、本当最高なんでね。

(山里亮太)コメディーなんですね。じゃあ。

(町山智浩)コメディーです。

(春日太一)アクションコメディーです。日本で珍しいです。

(町山智浩)とにかく勝新がかわいいです。ぬいぐるみのようで。おもちゃを作ってほしいですね。どっかで。はい。

(赤江珠緒)ちょっとプーさんみたいですもんね。たしかに。

内田吐夢監督『宮本武蔵』シリーズ

(町山智浩)で、もう1本やるのがですね、紹介するのは『宮本武蔵』シリーズという、1961年から65年にかけて東映が作った映画で。これ、内田吐夢監督が作ったものなんですけど。いま現在、みんなが知っている宮本武蔵って、『バガボンド』とかね、あと、キムタクの『宮本武蔵』とか。全部これがベースです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ねえ。

(春日太一)そうですね。もうビジュアル的にはこれが作っていったっていう感じですよ。もう、宮本武蔵イコール暴れん坊でワイルドで、まあちょっと汚らしい身なりをしながら、それでいてかっこいいという宮本武蔵像はここでできたと言っても過言ではないというキャラクターですね。

(町山智浩)それまでの宮本武蔵って結構服とかキレイで。髷とかもキレイなんですよ。ところが、この映画から宮本武蔵っていうのは髷は荒い、適当にまとめただけで。で、真っ黒な服を着て。で、どこんこの中を駆けめぐるっていう宮本武蔵はこの内田吐夢監督の映画からできたんですよ。

(赤江珠緒)もうなんかワイルド!っていうイメージですもんね。

(山里亮太)不器用なね、武のみに生きるみたいなね。

(春日太一)はい。この映画でできあがったキャラクターというか。

(町山智浩)それまではそうでもないんですよ。で、これは萬屋錦之介さんが宮本武蔵をやるんですけども。この映画は1961年から作られ始めるんですけど。この頃、日本の時代劇が全部血みどろになっていくんですよ。

(山里亮太)血みどろ?

(町山智浩)それまで、チャンバラ映画っていうのは血が出なかったんです。出てないんですよ。

(赤江珠緒)斬ったシーンとかあっても?

(町山智浩)斬ったシーンも。出てこないんですよ。でも、この頃にですね、ちょうど『椿三十郎』っていう映画が作られて。黒澤明監督の。それで、ものすごい血しぶきが出るんですよ。で、それから日本の時代劇が全部それに影響されて、一気に血みどろになるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(春日太一)だから面白いのは、1961年にスタートして、1年に1本ずつ作っていくって言う、すごく贅沢な、当時作り方をしていたんですけど。

(町山智浩)『宮本武蔵』シリーズが。

(春日太一)普通、シリーズものって日本映画で当たっちゃったりしたら1年間に3本も4本も作っちゃうんですけど。これはもう1年に1本ずつ作っていくと。

(赤江珠緒)じゃあ、大事に大事に。

(春日太一)それが結果的に1961年スタートだったんですけど、62年の正月映画で『椿三十郎』が公開されて。血しぶきがブワーッ!っと出るので、ぜんぜん時代劇、みんな変わっちゃうんですよ。で、それがモロに影響出て。1年に1本ずつ作っていったんで、当時の時代劇の状況が1年ずつ変わっていくわけですね。それがそのまま、ある種ドキュメント的に、この5年間の間に時代劇がこんなに変わっちゃいましたっていうのがそのまま映しだされていることになっているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?これ、ちょっとポスターがね、5枚並んでいるんですけど。1枚目が『宮本武蔵 総天然色』って書いているような。

(春日太一)そうです。まだカラーが珍しかったんで。

(赤江珠緒)珍しかった頃。で、こっから62年になると、さらに血みどろに?

(春日太一)血みどろに。つまり、1作目は血みどろじゃないんですよ。結構ちゃんとした青春映画みたい雰囲気があるんですけど。62年の『般若坂の決斗』からもう血みどろの戦いが始まりだすっていう。で、今度、作っていたのは東映なんですけど、東映が1963年から集団時代劇っていうのを始めて。黒澤たちの時代劇の影響を受けて、さらに自分たちももっとリアルな激しいものをやろうということで変わっていく中で、63年、『二刀流開眼』。そして、『一乗寺の決斗』っていうのが始まっていくんですけど。

『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

(町山智浩)『一乗寺の決斗』っていうのがね、4作目なんですけど。これ、すさまじいんですよ。44人か?敵44人を宮本武蔵が1人で相手にするっていうのをやるんですよ。敵が要するに、待ち伏せしてるんですよ。

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(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)銃とかで狙撃班とかいて。それに剣2本で立ち向かうっていう話なんですが。まあ、徹底的に卑怯なんです。宮本武蔵が。勝つために。

(赤江珠緒)うん!

(春日太一)勝つためになんでもする男ですからね。

(赤江珠緒)まあ、でもその人数ですもんね。

(町山智浩)はい。敵の大将はね、12才の・・・まあこれ、原作を読んだ人なら知っているんでネタバレじゃないと思うけどね。敵の大将は12才の少年なんですよ。それで、いきなりその父親と一緒に串刺しにして殺すんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(春日太一)どうすれば、その子供のいるところにいちばん最短距離で行けるか?を計算して。裏山から入っていって、グーッ!と。だから向こうが待ち伏せしている正規の道のところにいなくて。裏山からいきなり奇襲攻撃をかけて、子供に襲いかかって殺してしまうという。で、あとは逃げるっていう。そういう戦い方をするんですけど。まあ、ここまで全部総天然色。カラーでやってきたのに、このシーンだけ白黒で、あえて作って。

(町山智浩)宮本武蔵って何度もいろんな映像化されたり、漫画化されたりしてるじゃないですか。その中でその子供殺しってやっているのはこれだけなんですよ。

(山里亮太)たしかに、そんなイメージ、ないですもん。

(町山智浩)キムタクがやったら、みんな怒っちゃうじゃないですか。でも、それがこの『宮本武蔵』の世界で。これは内田吐夢監督っていう人自身が、戦争に協力したんですよね。実は。第二次大戦の時に。映画を作りたいからっていうことで、満映と呼ばれている日本の国策映画会社に、それまで左翼だったのに、『映画を作るためだったら左翼も捨てる』っつって、いきなり日本の大政翼賛会社に入って映画を作ろうとしたんです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、そのものすごい贖罪意識っていうのが戦後、映画に戻ってから大量虐殺した男がその罪を背負うっていう映画ばっかり作り続けるんですよ。それ、本人のことですね。監督本人の。

(春日太一)しかも、満州で撮っていた時に中国に抑留されて。戦後、帰ってくるのが遅かったんですね。国内に。で、帰ってきてから、もうずーっとそういう殺伐とした映画ばっかり。暗い、何の光もない中でさまよっていくっていう。だからこの『宮本武蔵』の1作目も関ヶ原の合戦の終わったところから始まるんですよ。その戦場の荒野で1人生き残った宮本武蔵が『じゃあ、俺これからどうやって生きていけばいいんだ?』っていうところから・・・

(赤江珠緒)『バガボンド』と本当、まさに一緒だ。

(町山智浩)いやいや、だから『バガボンド』とかで知られている、キムタクので知られている宮本武蔵は甘いんですよ。

(赤江珠緒)そうかそうか。

(町山智浩)ものすごい罪を背負った男なんですよ。だから、原作はこっちなんですよね。

(赤江珠緒)これをみんなベースにしてたんですね。

(山里亮太)『バガボンド』はやっぱほら、武に真っ直ぐすぎる不器用な男とかっていう描かれ方じゃない。だから、いい者の方だよね。正義な感じですよね。

(町山智浩)こっちはもう完全に罪を背負った男なんです。宮本武蔵は剣のために、人間としての大事なものを全部捨てていく男なんですよ。

(春日太一)もうどんどん暴力的に、変な話、成長すればするほど暴力的になっていくっていう流れなんで。

(町山智浩)鬼のようになっていくっていう話で。

(山里亮太)シリーズを重ねるごとに、それが露骨に出てきて。

(春日太一)だから周りの人間が不幸になっていくんですよ。ものすごい。だからある種、疫病神みたいな存在として描かれていて。で、その反対側にいま、吉岡清十郎っていう名門の御曹司がいるわけですけど。まあ、江原真二郎が演じているんですけど。これがもう、本当にかわいそうになってくるっていう。宮本武蔵が主役なのに、江原真二郎がかわいそうでしょうがなくなってくるっていうのが特に第二部、第三部であるんですけど。

(町山智浩)はい。昔、サンスターのコマーシャルに出ていた人ですね。

(赤江珠緒)えっ、じゃあこの1、2、3、4、5の『宮本武蔵』を全部見ると、宮本武蔵って・・・

(町山智浩)観がかなり変わると思いますよ。これは。

(赤江珠緒)変わりますか。

(町山智浩)変わると思いますよ。そんな楽しい人じゃないんでね。

(山里亮太)ヒーロー感はなくなってくるんだ。

(春日太一)絶望の中で生きた男というか。

(町山智浩)でも僕、これ子供の頃に見たんですよ。これ(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)すごい衝撃を受けて。『宮本武蔵』も『兵隊やくざ』も小学校の頃に見たんですけど。『宮本武蔵』は特に第一話でですね、戦場で若い侍が後家さんに襲われて童貞を奪われるシーンにものすごい衝撃を受けました(笑)。

(一同)(笑)

(山里亮太)いやー、町山さん、デビュー早えなー(笑)。

(春日太一)まあ、大人の映画をね、昔堂々と見せてましたからね。

(町山智浩)子供だったから、びっくりしましたけどね(笑)。それがまたいやらしいんですよ。怪我していて血が出てると、その後家さんが『あ、怪我してるわね。これは消毒しなきゃ・・・』っつって、その傷口を口でチューチューって吸っているうちに、2人とも欲情していって・・・っていう展開で。うわーっ!って思いましたね。

(赤江珠緒)よく覚えてるな(笑)。

(山里亮太)これが町山少年に性を覚えさせた。

(町山智浩)僕の世代はたぶんみんなそれで覚えている。この映画は(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(春日太一)エロい映画として(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。うわーっ!と思ったんですね。

(赤江珠緒)そうかー。でも、濃厚な映画なんですね。いろんな意味でね。

(町山智浩)すごい濃厚な映画です。ギトギトの映画なんで。ぜひ見てほしいというところですね。

(赤江珠緒)すごいな、これ。パンチ力がすごい。

(町山智浩)さらにここにですね、五社英雄監督の『鬼龍院花子の生涯』っていう、もう濃厚グログロの映画を混ぜて、明日は解説します。ギトギトです。

(赤江珠緒)お二人によるこのトークの続きは、明日午後の渋谷ユーロライブでということで。

(山里亮太)1時半から。昼の1時半からこんな濃厚な話を(笑)。

(町山智浩)昼から聞く話じゃないね(笑)。

(春日太一)年末の祝日に(笑)。

(山里亮太)ここ以上にもっと濃厚な話を言うわけでしょ?明日。

(春日太一)ああ、あります。あります。

(赤江珠緒)そうでしょう。はい。渋谷ユーロライブのホームページをぜひ、ご覧ください。今日は勝新太郎主演『兵隊やくざ』、そして内田吐夢監督の『宮本武蔵』シリーズのお話をいただきました。ありがとうございました。

(春日太一)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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