宇多丸さんが2020年3月23日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で吉岡里帆さん主演の映画『見えない目撃者』について話していました。
(宇多丸)あとね、この休みの間、僕もその三連休の間を使ってまあいろんな仕事をしたり、いろいろとインプットしたりしてたわけですけど。そんな中でですね、昨年の年間ベスト。いろんな人が発表するやつで映画の年間ベストを発表するくだりがあったじゃないですか。昨年の12月27日に……まさに篠原梨菜さんの回ですね。みなさん、いろんな方が来て年間の映画ベストを発表するという回で、人気ブロガーの三角絞めさんとうちの、ライムスターのマネージャーの小山内さんが。小山内さんはでも、実はもう日本映画界の製作のそういう現場に元々はいて、こっちに転身したような方で。
(熊崎風斗)今、「やめて、やめて」って言ってますね。
(宇多丸)でも非常に業界とも縁が深いような人で。映画もすごい見てる人なんだけど。その2人が……あと、他の人からも。もちろんその当時、リスナーからもメールをいただいていて、すごい評判を聞いてた『見えない目撃者』という吉岡里帆さん主演の作品。これは2011年の韓国映画『ブラインド』の日本でメイク版。その間に中国リメイク版というのも挟んでいるという作品なんだけど。これ、遅まきながらようやく……劇場公開時は僕、結局間に合わなくて。でもすごく評判は聞いていて、「見たいな、見たいな」と思っていて。で、ようやく配信とかが開始になってこの三連休の合間を見て、見たんですよ。これ、超面白くて。最高でした!
(熊崎風斗)おおーっ、絶対に見よう。
(宇多丸)要は吉岡里帆さんが警察官志望で非常に優秀な警察官候補だったんだけど、まあとある事故があって失明してしまう。で、盲導犬の一緒に非常に失意の中で生活をしている。そんな中で、とあるひき逃げというか、なんかスケボーの音がして、なんか接触っぽい音が。その彼は音でしか分からないから。そしたら「大丈夫ですか?」なんて言ったらその止まっている車の奥から女の子の「助けて」みたいな声が聞こえてたはずだと。で、それを訴えるんだけど、彼女はまず見えてないということ。それと、失明して以降非常に精神が不安定になっていて。精神科に通院とかをしているということもあって、信用してもらえない。
だから社会的なそういう偏見が彼女の証言を阻むわけですよね。で、なかなか信じてもらえないんだけど、そのスケボー少年……これはね、高杉真宙さんが演じてらっしゃって、これも素晴らしかった。高杉さん演じるそのスケボー少年を何とか見つけて、事件の糸を手繰り寄せてくうちに……というやつで。まあ昔からその主人公が目が見えない人が主人公で、女性でとかっていうのは、たとえば『暗くなるまで待って』っていうオードリー・ヘップバーンのやつとかあったりしますけど。
だからこの設定も昔からあるっていえば、ある。で、この映画もでジャンル映画ですからサスペンス映画として「ああ、こうなっていくんだろうな」とか「きっとこういう場面があるだろうな」っていう、そういうジャンル的なお約束とか、ある種のフラグとか。「この人、きっとこうなるだろうな」っていう、そういうのがあるんです。まあジャンル映画だから。なんだけどね、やっぱこの手の映画の面白みって、それが意外性とかじゃなくて、その1個1個がでも、こっちの予想よりもちょっとだけうまくできてるとか。
全ての場面に工夫がこらされたジャンル映画
「『どうでこうなるんだろうな』って思っていたことがたしかにそうなったんだけども、その後にこれがつく」とか。とにかくジャンル映画の全ての場面にもう一工夫、二工夫っていうのが見事にされていて。あのね、だからもちろん超名作というか……まあ、すごくよくできてる作品なんだけど、なんて言うか……まあ「普通に面白い」っていうサスペンス映画で。ジャンル映画として本当にすごく上出来だったし、吉岡里帆さんも本当に素晴らしい女優さんだなと。昔、木村拓哉さんにインタビューをした時に「目を開いている盲人役というのは非常に難しいんだ」という。
要するに、「目線の動かし方とかで一発でバレちゃうし……」とかっておっしゃってましたけどね。彼も『武士の一分』というので目は開いている盲目の人を演じていたんだけども。その意味で吉岡里帆さん、本当に見事に演じられていましたし。要所要所の演出も「きっとこの小道具がこんな感じで……」って思っていても、やっぱりね、演出のいろんな呼吸が上手いし。あと、俺の言葉で言う「余計なことをしていない」っていうか。こういうところはチャチャッと済ますとか。なんかダラダラしていないし。終端場とかも必要以上に長くないとか。あと音楽が「ここはちゃんと音楽なしで緊張感を保って」とかね。
まあとにかくその1個1個のネジがしっかり締まっていて。僕ね、こういうのを見てると……たとえばとある場面で「ああ、こう来るか? こう来るか? どうなるんだ、どうなるんだ? そうか、ここでこういう見せ方を考えたか!」みたいなので。その、あまりにも作り手のサービスに「ありがとう!」っていう気持ちで。それでもう涙が出てきちゃって。「ああ、こんなにも面白い映画を、ありがとう!」っていう。
(熊崎風斗)へー!
「こんなにも面白い映画を、ありがとう!」
(宇多丸)ごめん。俺の特殊な体質なんだけどね。ちゃんと作ってあるいいものを見るとないちゃうんですよ。なんか、「ありがとう!」っていう感じで。だからこのぐらいの面白さの水準のものが日本映画でもっと増えてきたらやっぱりすごくいいなと思って。でも日本映画でも全然できるじゃんっていう。その韓国のリメイクも。ゴア描写とかも……これ、三角絞めさんもおっしゃっていたかな? 全然そこも逃げていないというか、むしろどエグで。ちゃんとそれが物語上の緊張感を高めているし。要するに「一刻も早くなにかをしなきゃ!」っていうちゃんとした緊張感にもなってるし。
役者陣の皆さんも素晴らしいしね。「素晴らしかったです」ということを申し上げたかったということがございますね。監督の森淳一さん。僕、以前に評したもので言うと『重力ピエロ』を監督されていて。まあ『重力ピエロ』、褒めるところは褒めたけど、たぶん偉そうなことも言っていたと思います。まあ、初期シネマハスラーなんでね、私も偉そうなことを言っていたかもしれませんが。まあ、これに関しては本当に……森さん、脚本も書かれていますね。見事なものでございました。藤井清美という方と一緒に……『ミュージアム』とかの脚本もやられていた方ですよね。
だからそういうサイコホラー物というか、サイコ・サスペンス物というか。だから『見えない目撃者』、マジでおすすめです。なんか興行的にはあれだったみたいな話も聞かなくはないけど、これで非常に見やすくなっていると思いますし。サラッと、適度にきっちり面白いというか。ジャンル映画で楽しみたいという時には『見えない目撃者』、マジで一押しです。という感じですね。だからね、皆さんからおすすめしていただいたやつとか、全部見きれてないじゃん? だから、1個1個がこうなんだろうな!(笑)。
(熊崎風斗)まだ、宇多丸さんが……。
(宇多丸)この番組で勧められているやつ、紹介しきれてないやつ、1個1個がこうなんだろうな!(笑)。
(熊崎風斗)体が何個あっても足りなくなってくるやつですよ、それ(笑)。
(宇多丸)でも、そういう意味では楽しみなんていくらでもあるなっていうかさ。そういうのを改めて……いや、「いくらでも」なんて言わないな。これはそう簡単に作れる作品ではないと思う。作った皆さんに本当に拍手を贈りたいし、ぜひこれが「よかった」というのが作り手の皆さんにも伝わってほしい。で、もっといっぱい見てほしいという意味で「見えない目撃者』、おすすめです。昨年、2019年9月20日に公開されたばかりと言ってもいいでしょうね。素晴らしい作品ですのでぜひ、この機会に見てください。
『見えない目撃者』予告
<書き起こしおわり>
アフター6ジャンクション(1)【カルチャートーク】など | TBSラジオ | 2020/03/23/月 18:00-19:00 https://t.co/zjV4filoV4 #radiko
— みやーんZZ (@miyearnzz) March 24, 2020