渡辺志保・小林雅明・宇多丸 ドラマ『アトランタ』を語る

渡辺志保・小林雅明・宇多丸 ドラマ『アトランタ』を語る アフター6ジャンクション

渡辺志保さんと小林雅明さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でアメリカの大人気テレビドラマ『アトランタ』について宇多丸さんと話していました。

(宇多丸)さらに、これちょっと僕が個人的にお話をうかがいたいです。テレビドラマ『アトランタ』。もう何度となくあちこちから話が……それこそさっき、チャイルディッシュ・ガンビーノの話が出ましたけども。まさにチャイルディッシュ・ガンビーノの出世作というか。

(渡辺志保)『アトランタ』、本当に日本でも多くの人に見てもらいたい、いまもうアメリカでいちばんホットなテレビドラマなんですけど。なかなかまだ日本ではたやすく見れる状況にないという……。

(宇多丸)一時期やっていたんでしょう? 期間限定?

(小林雅明)かなり期間限定でした。

(渡辺志保)はい。やっていたんですけども……。

(宇多丸)それはどこでやっていたんですか?

(渡辺志保)Huluでやっていました。

(宇多丸)Huluさん、お願いしますよー!

(宇内梨沙)シーズンいくつまで出ているんですか?

(渡辺志保)いま2まで出ていて。日本では超期間限定で1だけが公開されていたんです。

(小林雅明)しかもまとめて見られないっていう。

(渡辺志保)かなりこれは不条理コメディーです。

(小林雅明)1話30分完結。30分いかない回もあったり、40分にのびている回とかもあって。でも短くて、あと毎回全部違うタイプの作りになっていて。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。ふーん。

(渡辺志保)『世にも奇妙な物語』みたいな一話完結で、後味がすごい悪い回もあって。

(宇内梨沙)「後味が悪い」!?

(小林雅明)という回もあります。

(渡辺志保)そんな回もあれば、泣いちゃうような回もあって。で、アトランタっていま、アメリカの中でもいちばん音楽ビジネスで盛り上がっている、ラップミュージックですごく盛り上がっている土地なんですけども。そこを舞台にして、なんとかラップで成功をしてやろうというキャラクターたち……で、主人公のドナルド・グローバー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)はそのラッパーにマネージャーとして付くんです。

(宇多丸)ちなみにドナルド・グローバーっていうのはさっき言ったチャイルディッシュ・ガンビーノというラッパーでもある人です。

(宇内梨沙)えっ、同じ人なんですか? 『This Is America』の?

(渡辺志保)名前を変えていて。俳優名とラッパー名を変えているんです。

(宇多丸)いちばん近いのは星野源です。

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(宇内梨沙)ああーっ!

(渡辺志保)っていうね、そういう感じです。

ドナルド・グローバー=星野源

(宇多丸)で、いまやっている映画『ハン・ソロ』でランド・カルリジアンという重要なキャラクターを演じたりもしています。ドナルド・グローバー。

(渡辺志保)そうなんです。で、劇中でドナルド・グローバーのガールフレンド役として出ているザジー・ビーツっていう子もいま『デッドプール2』でヒロインのドミノ役を演じていて、かなりいろんな意味で出世しています。

(小林雅明)で、これがただ単純にラッパーが成功してバンザイみたいな話に全く行かないんですよ。そこがまた面白いところで。普段の生活とかの不条理なところをどんどん突いていくわけですけど。それで、またさっきの一話完結っていう話ですけども。プロットとかは基本的に捨てているというか、ないんですよ。

(宇多丸)ほうほう。オフビートな日常描写?

(小林雅明)オフビートなんですけど、でもしっかり1人ひとりのキャラクターに沿って描いていくという感じなんですよね。

(宇多丸)うんうん。ねえ、これちょっと話だけ聞いていてもなかなか面白さが伝わらないし……。

(小林雅明)それでもうちょっと違う言い方をすると、たとえばそのオフビートコメディーっていう角度でいえばジム・ジャームッシュとかの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の最初の頃のものとか、あとはアキ・カウリスマキの一時期の作品みたいな、そういう笑いとか。みんな基本的にラッパーでイケイケじゃなくて、無表情っていうかブスッとした……。

(宇多丸)ダウナーな(笑)。

(小林雅明)そうですね。どちらかというと。でも笑ったりとか騒いだりとかみんなしているんですけど、でも基本的に表情はみんなそういう感じですね。

(宇多丸)これ、ドナルド・グローバーの出世作だし、監督の日本人の方も……。

(渡辺志保)そうなんです。ヒロ村井さん。

(宇多丸)ヒロ村井さん。この方が撮っていて。日本人なんだよ、これ。

(宇内梨沙)日本人!?

(宇多丸)『This Is America』のあのビデオの監督も日本なんだよ。

(宇内梨沙)ああーっ! えっ、あの方ですか?

(渡辺志保)そう。日本人なんですよ。

(宇内梨沙)で、『アトランタ』も監督をされているっていうことなんですか。へー!

(渡辺志保)『アトランタ』のロケ地とかも本当にアトランタで人気のクラブとか、地元の有名なストリップクラブとかに行ってその場で撮っていたり。リアル感がすごいんです。

(宇多丸)うんうん。

(小林雅明)意外に森とか自然が多い場所っていうこともありますけど、そういうところもきちんとあって。

(渡辺志保)そうそう。森の部分ね。

(小林雅明)森で終わっちゃう回とかもあります。

(渡辺志保)あとだらしないバーバーショップとか、そういうところもフィーチャーされているようなドラマ。

(小林雅明)これでさっきのブラックムービーのステレオタイプの話とかをすると、バーバーショップの回っていうのがあるんですけど。これ、バーバーショップってブラック物だとそこの中で話が盛り上がって笑ったりして楽しくやっておしまい、チャンチャン……ですけども。この『アトランタ』の場合はバーバーショップの外にバーバーが連れて行って引きずり回して戻ってきてっていう話なんですよ。

(渡辺志保)本当に聞くだけだと「は?」みたいな。「えっ、面白いの?」って思うような感じなんですけど、面白く終わっているんですよ。ちゃんと。

(宇内梨沙)へー!

(宇多丸)といったあたりで『アトランタ』にちなんだ1曲をお願いします。

(渡辺志保)はい。私もアトランタが大好きでここ3年ぐらい毎年遊びに行っているぐらいなんですけど。『アトランタ』というドラマがすごく視聴者の心を掴んでいるのは音楽もその要因のひとつなんですね。で、地元出身のラッパーがたくさんいますから、劇中にもアトランタ出身のラッパーの作品が新旧含めてめちゃめちゃかかるんですよ。それがしかも、ちゃんとその時々の主人公の気持ちを代弁しているような曲がめちゃめちゃいいタイミングでかかったりして。それがしかも、Spotifyとかで随時サウンドトラックとして更新されていくような状況で。そこもまたかなり面白い点ではあるんですけども。

(宇多丸)なるほど。

(渡辺志保)ここはちょっとみなさんにまた1曲聞いていただきたいのはアウトキャストというアトランタ出身のベテランヒップホップデュオ。

(宇多丸)もうアトランタを代表する。

(渡辺志保)そうなんですよ。グラミー賞も取っているようなグループなんですけども。とても素晴らしい。で、このアウトキャストの初期の曲で『Elevators』っていう曲があるんですよ。で、これって「俺たちいま音楽業界で成功しようとしているけど、思ったほどの金も稼げてないし、いったい俺らはどういうことなんや?」っていう曲なんですよ。

(小林雅明)それが『アトランタ』の話の筋と……。

(宇多丸)一致しているわけだ。

(渡辺志保)一致している。で、これがドラマ『アトランタ』のシーズン1のいちばん最後のエピソードのいちばん最後のシーンでかかる。で、主人公も「俺、音楽業界で成功しようとしているのになんでこんなに上手くいかないんだろう?」っていう気持ちをセリフは一切ないんだけど、この曲で代弁しているという。ちょっとドロッとした曲なんですけど、聞いてください。アウトキャストで『Elevators』。

Outkast『Elevators』


(宇多丸)ちょっと早めに終わっちゃってすいません。アウトキャストで『Elevators』。これは何年の曲?

(渡辺志保)93、4年? そんぐらいです。

(宇多丸)結構初期だね。ああ、そう。ある意味クラシックとして、アトランタといえばアウトキャストみたいに。みんな「出た~!」っていう感じで来るみたいなことなんだよね。

(渡辺志保)そうなんですよ! だからアトランタの最先端の絵を描きつつ、最後はこのクラシックなアトランタの曲で終わるっていうのがすごい……。

(小林雅明)シーズン1のいちばん最後ですから。

(宇多丸)ズーンと来るようになっているんだね。

(渡辺志保)シーズン2のいちばん最後はまた全然ちがうテンションで終わっているんですけども。

(宇多丸)ちょっと『アトランタ』、Huluさんでもいいですし、どこか、お願いします! 見たいでーす! あと、他にもHuluのドラマ『インセキュア』とかいろいろとお話をうかがいたかったんですけども。

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(渡辺志保)またちょっと次の次ぐらいにうかがいます(笑)。

(宇多丸)いや、次でいいんじゃない? わからないけど(笑)。まあまあ、ちょいちょい来てね。ということで、お知らせごとを。まずは小林さん……。

(小林雅明)あ、レディーファーストで。

(宇多丸)ああ、レディーファースト。はい。

(渡辺志保)ありがとうございます。毎週月曜日夜10時からインターネットで聞けるラジオ、block.fmというところで『INSIDE OUT』という番組をやっています。こういった類の話が聞きたいという方がいらっしゃれば、ぜひ。

(宇多丸)最先端の話をもう希釈抜きでね。星野源くんも聞いているという噂でございます。

(渡辺志保)ありがとうございます。うれしいです。

(小林雅明)そして私、日本映画の方に実はちょびっとだけ出演しておりまして。『大和(カリフォルニア)』という映画。それも女性が主人公のラップ絡みの映画なんですけども。これ、ずっと4月から封切られていて来週は横浜で。その後も順次日本各地で公開されます。それともうひとつ、『ミックステープ文化論』という書き下ろし本が200ページ、二段組もある本なんですけど、それが今月26日に。

ミックステープ文化論
Posted at 2018.7.5
シンコーミュージック

(宇多丸)『ミックステープ文化論』がどんな話か……それは本が出たらまたその話をすればいいのか。またお招きします。ということでポップカルチャーの中でいま盛り上がる現代ブラックパワー特集映画編。小林雅明さん、渡辺志保さん、ありがとうございました!

(小林・渡辺)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

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