是枝裕和さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』にゲスト出演。宇多丸さんと映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』と『万引き家族』について話していました。
【上映決定!】
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
7/14(土)?7/20(金)10:00 pic.twitter.com/kSbsvqeY9O— 下高井戸シネマ (@shimotakacinema) 2018年6月19日
(宇多丸)これ、是枝さんのそのお話をうかがって「さすが!」っていう風に思っていたんですけど、先日『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』というアメリカのインディペンデント映画を僕、評しまして。
(是枝裕和)はい。
(宇多丸)監督のインタビューを呼んだら、そのショーン・ベイカーという若い監督は「もちろん『誰も知らない』とか是枝さんの作品は見て、大変参考にしています」と公言しているんですけども。
(是枝裕和)はい。
(宇多丸)やり方が結構正反対で。彼は子供に完全にセリフを覚えさせた上でアドリブをしていいよっていう、ある意味普通の役者に対するような順番であれをやっているみたいな。是枝さん、ちなみにこの『フロリダ・プロジェクト』はご覧になっていますか?
(是枝裕和)拝見しました。面白かったです。
(宇多丸)いかがご覧になりました?
(是枝裕和)子供の撮り方に関して言うと、ちゃんと背中から入るんですよ。
(宇多丸)「背中から入る」?
子供の背中を撮る
(是枝裕和)背中を撮っているんです。オープニングも背中ですし、最後も背中で行くでしょう? あれは「正しい」って言っちゃうとちょっと偉そうですけども……正しいです(笑)。
(宇多丸)これは、どういうことでしょう?
(是枝裕和)子供を撮るにはね、やっぱりきちんと背中を……子供の顔がいいから、正面に回りがちなんですけども。だけどやっぱり子供は背中がいいんですよね。僕は背中がいいと思っているんで。「ああ、この人は価値観としては同じ価値観を持った監督だ」って思いました。冒頭の走っている背中からスタートして待っている2人がカットバックで入ってきますけども。ラストもやっぱりあれは正面の顔じゃなくてずーっと背中で背中で追いかけていくっていうのはすごい好きだなと思いました。
(宇多丸)へー。これはなんですか? ひょっとしてあんまり理屈にしづらい部分ですか?
(是枝裕和)そうですね。でも……好きな子供の映画ってだいたいいい背中があるんですよ。
(宇多丸)へー! それもすごいな。これ、また僕、ハッと思いついちゃったのは、僕はやっぱり(『万引き家族』の)映画後半になって祥太くんが内面的に「ちょっとこの家族、ヤバいんじゃないか?」みたいな、大人になりかけた時にだんだん映画そのものも周りの大人を見る目が変わってきているなと思って。特にリリーさんを見る目が変わる。で、車上荒らしをして。彼はその時点では全然、「ちょっともうダメでしょ」って距離感を感じているじゃないですか。
(是枝裕和)はい。
(宇多丸)そしたら、リリーさんが走る。もうその走り方が最悪! ガキの走り方。で、こうやってちょっと内股気味に本当に情けない感じで走る。でもそれを、リリーさんはその走る背中、後ろ姿を見せて「ダメだ、こりゃあ。ガキだ」って見えるなと思ったんですけど。「子供は背中から撮る」の法則をリリーさんにも適応しているのか? みたいな。
(是枝裕和)あ、そうかもしれない。でも、あそこの背中はすごく大事で。やっぱりあそこで幻滅しないといけないから。リリーさんに「みっともなく走ってくれ」と言ったことはないんですけども。ただ、「この父親はずーっと最後まで悪ガキの中学生が悪い子として楽しんで遊んでいる。そこから成長しない、最後まで抜け出せない男だ」っていうような共通認識でやっているので。あそこがいちばんそういう悪い中学生みたいな走りになっているんですよね。
(宇多丸)うんうん。でもそれを指示していないのは驚きですね。あれはね。それであの走り方ができちゃうし。しかもそれをちゃんと背中からとらえている。「子供は背中」の法則が。
(是枝裕和)あれ、そうだったかもしれないですね。
(宇多丸)じゃあ、演出の個々の場面のあれは監督でそれぞれあるかもしれないけども、子供を見る目線というところは近いものがあるなと?
(是枝裕和)ありました。すごく子供の歩みに合わせて全部カメラが動いているし。そこは覚悟がちゃんとできている映画だなと思いましたし。
(宇多丸)覚悟?
(是枝裕和)ラスト……ラストはしゃべっちゃいけないのかな?
(宇多丸)ああ、ちょっとある”飛躍”がありますけども。
(是枝裕和)その前の主人公の女の子が泣くところとかもすごくちゃんと撮っていると思って。
(宇多丸)正面から撮られたいわゆる顔だし。子供が泣く場面ってそれはある意味これ以上にベタな泣かせはないと言っても過言ではないけども。あそこはどこがちゃんとしているんですか?
(是枝裕和)あそこはでも、覚悟を決めて正面で泣き顔を撮っているっていう。あそこは唯一泣いていいカットだと思ったんで。そこはちゃんと正面に回っているっていうのもよかったですね。
(宇多丸)たしかに彼女はずーっとそこをある意味見ないようにしてきた子だからこそ、向き合っちゃって……っていうのは大事ですよね。そうしないと映画は終わらないっていうのもあるし。
(是枝裕和)ただ、もう僕は評論家でもなんでもないんで「自分だったら」っていう話になっちゃうんですけども。ややカットバックが多いんですね。
(宇多丸)切り返しが。
カットバックが気になる
(是枝裕和)たとえば、あそこの泣き顔でずっと押すんじゃなくて、別の受けを2、3度挟んでくるっていう。あのリズムがいろんなところであって。もうちょっと粘ってもいいのに、子供を撮る時にここで入るっていうのは、たとえばあの間にもしかするとなにか演出の声が入っているのだろうか? みたいなことをちょっと……。
(宇多丸・日比麻音子)ああーっ!
(是枝裕和)ちょっと想像しちゃうんですね。その編集点なのかな?っていう感じがするところが何箇所かあるんですね。すごくナチュラルにズルッと座って2人子供がしゃべっている時、フッと別のを入れてフッと戻るっていう。それが、つまんだところで何をしているんだろう?っていうのはすごく、監督としては興味がありますね。
(宇多丸)これはすごいね。日比さん、絶対に我々には……。
(日比麻音子)こんな視点はやっぱり……なるほど!
(宇多丸)同業者というのは嫌だなっていう(笑)。
(是枝裕和)嫌な見方を。僕は結構そういう長回しにしたまま入っていって耳元でなんか言って出てきて、そのまま続けてもらってあとはそこで抜くというようなことをやるので。この監督がどういう風にしてこれを引き出しているんだろう?っていうのはすごく興味深かったです。
(宇多丸)へー!
(是枝裕和)あと映画としてはすごく『万引き家族』と似た要素の多い……子供が親と犯罪を犯すっていうのもそうですし、花火のシーンもありましたし。ゲップのシーンも。
(宇多丸)そうですね。ゲップもそうですね!
(是枝裕和)結構要素が重なっているなと思っていて。面白かったですけども。
(宇多丸)お風呂もありますしね。
(是枝裕和)あと、ウィレム・デフォーが素晴らしいですよね。
(宇多丸)そうですね。彼は最高ですね。彼の視点……彼が観客の視点というかね。
(是枝裕和)彼がやっぱり素晴らしいなと思いながら見ていました。映画としては。
(宇多丸)いやいや、めちゃめちゃ面白いですね。ほら、神々の視点! 出た、出ました!
(是枝裕和)神々じゃないですけどね(笑)。
(宇多丸)フフフ(笑)。
<書き起こしおわり>