菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の中で映画『美女と野獣』についてトーク。エマ・ワトソンの素晴らしさなどについて話していました。
(菊地成孔)美に貴賎はないと言えばね、この間、『美女と野獣』っていう映画を見に行ったんですよ。これは、好きで個人で見に行ったんじゃなくて、映画祭で対談があってですね。その対談相手の監督さんが「『美女と野獣』を一緒に見て、お互いにその感想を言い合うことから対談を始めませんか?」って振ってきたの。なので、行ってみたんです。で、まずいちばんびっくりしたのは、映画が始まる前に、特にシネコンで映画を見ると映画の前にいっぱいコマーシャルが流れるじゃないですか。それで成田屋……成田屋って市川海老蔵さんが、アメックスのカードの声タレっていうかナレーションをしているんですけど。もう、ね。成田屋のオーラの消えっぷりってなんなの?っていう。
市川海老蔵のオーラの消えっぷり
まあ、よきパパになり、その……軽々しくは扱えませんけど、奥様の闘病に対しても献身的になさって。なんですけど、そのことはよくわかっているんですけど、そのことが芸道における芸とどういう相関関係にあるのか? 同じ芸道を生きる者として、私の方も追求していかなければいけない。っていうか、テメーに降りかかってくる問題ですけどもね。もうね、「海老蔵の声だな。やっべー、海老蔵がナレーションしているよ!」って思わせなかったら成田屋、終わりだと思うんですよ。ですけど、もう誰だかわかりませんでした。脇に字幕で「声:市川海老蔵」って出るまでは。「ああ、なんかこれ、アナウンサーの人がしゃべってるんだな」と思って。
あの、木村拓哉さんの時代劇も見に行こうと思いますけど、予告編を見るだに成田屋のオーラが少ないんですよね。成田屋のオーラがピークだったのはやっぱり伊藤リオンくんにぶっ食らわされてた時だよと思うんですけど。あん時のオーラ、半端じゃないですよね。ですけど、まあ「やっぱり荒れている時はオーラがすごく、いいパパ、いい夫になるとオーラが低くなっちゃいますよ」なんていう安直な結論に結びつけたいわけでも何でもないんですよ。つまり、成田屋の巻き返しに期待しております。『美女と野獣』の話に全然なってないですね(笑)。ええと、でも本当にね、驚くほど声に個性もないし。エグい成田屋のパワーが無かったの。『無限の住人』、行ってみますね。とりあえずね。
さて、『美女と野獣』を見に行ったんですけど、とにかく非常に素晴らしい映画で、非常に示唆的でした。いろんなことが。ええとね、いま生放送だしな。どうしようかな? 誤解を受けそうな話をいま、しそうなんだけど。誤解を受けそうだからこの話をリスクヘッジして誤解を受けないように、この話は止めてしまって、バーで友達と話すだけの話にしようか、オンエアーに乗せようかっていうことで、いま、もう「生きるべきか、死ぬべきか」みたいな、『ロミオとジュリエット』のロミオみたいな気分ですけど(笑)。
エマ・ストーン……(笑)。エマ・ストーンじゃねえわ。あのね、今年は『ラ・ラ・ランド』があって、『美女と野獣』があって。エマ・ストーンとエマ・ワトソンがどっちも踊りを見せることによって多くの人の心を掴んだ年ですので。エマ・ストーンとエマ・ワトソンを言い間違えちゃうっていうのもね、なんかひとつの楽しみっていうところでしょうけど。私はまあ、『ラ・ラ・ランド』はまあまあまあ、なんて言うんですかね? 「シッ」って思ってますけども(笑)。言っちゃった(笑)。『美女と野獣』はもう最高でしたよ。
最高だった『美女と野獣』
どこが最高か?っていうと、本当にこれ、冗談でも諧謔でもないですよ。本当に。それから、ある種の個人的な悪い思い出がある方なんかに触れちゃったら本当にごめんなさい。本当に悪いことを言おうとしてるんじゃなくて言うんですけど、エマ・ワトソンの額のシワとほうれい線……つまり、あの人って顔のシワが比較的多くて、笑いジワとかが出やすい人なの。で、そのことを隠さない。潔いですね。女優さんはそういうことをボトックスだとか、あるいはもっと手軽に「出来上がったフィルムからCGで上手く消してくれ」とか言ったら消してくれますからね。ですけど、そのままやっているんで、エマ・ワトソンさんがチンパンジーに見えてくるんですよ。見ていると。
これ、「サルに似ている」って言われてバカにされたっていう、小学校の頃に言われて傷ついたとかいう人がいたらトラウマに触れちゃうかもね。ごめんなさいね。私が言いたいのは、「それでもかわいい」っていうことなの。すっごくかわいいの。エマ・ワトソンが。めちゃめちゃかわいいんですよ。めちゃめちゃかわいいんだけど、ほぼほぼ最初の『猿の惑星』の特殊メイクと彼女の通常の顔が、ほぼほぼ変わらないぐらいに見えるぐらいチンパンジー顔なんですよ。人間は何かに似ています。私はよく「深海魚に似ている」と言われます。私が教えている生徒の中でいちばん人気がある女の子はカバに似ています。
「動物や草木、魚類なんかに似ている人の方がセクシーだ」という話はこの番組でしたと思うんですけど。「いちばん恐ろしいのは人間にしか見えない顔だと。それは誰か? というと、(番組の)長谷川Pなんだ」っていう話をしましたよね? この番組でね(笑)。「それがやっぱりいちばん悪辣に見えるんだ」と(笑)。。獣や草木、昆虫。あるいは電車とか物でもいいですよ。なんかにシュミラクラで似ている人はね、やっぱりセクシーだし善人に見えるの。人間でしかない顔っていうのはやっぱり恐ろしいですよ。私はね。そういう意味で、私はこの番組のプロデューサーを恐れています。それに対してディレクターは恐れていません。なにかに似ているからなんですよね。言ってみれば、里芋に似ているとも言えますし、いろんなことに似ているんですよ。戸波さんは。まあ、それはどうでもいいんですけど(笑)。
エマ・ワトソンの美しさ
とにかくエマ・ワトソンはチンパンジーに似ているの。これは間違いない事実。なんだけども、そのエマ・ワトソンが本当に美しいわけ。めっちゃくちゃかわいいですよ。もう、やっばいですよ。最後大活躍するところなんか……あ、ダメだ。これから見る人のために、ネタバレになっちゃいけませんから。とにかく、『ハリー・ポッター』を見ていた頃はこんなにきれいな人だと思わなかったし、『Super Rich Kids』(がエンディングで使われた映画『ブリングリング』)を見た時も「『転向して演技派になったんだ』って言っていたけど、まあどうかな?」って思っていたんですけど、『美女と野獣』を見たら「こんだけかわいいのか! まだまだお姫様役全然いけるじゃん!」って思ったぐらいかわいいの。でも、サルに似ているの。
そして、ジャン・マレー当時のフランス映画の第一作――あれ、たしか戦前ですよ――の、『美女と野獣』の時の野獣の顔っつーのが、もう狼男のマスクみたいなのをつけているから完全に醜い。美醜っていうものは難しいです。ですけども、美醜っていうのは難しいっていうか、美醜っていうのは私は無いと思っております。美醜っていうのは全部相対的なもの。あるいは個人的な、宗教的なものであって、クロノス時間みたいに社会的、絶対的には決められない。まあ、囲い込んで囲い込んで基準にすることはできますけどね。最後の一手はその人の気持ちだと思うんですよ。ということは、やっぱりないんです。基準は。
で、ジャン・マレー当時の『美女と野獣』の野獣は本当に醜いっていうか、簡単に言えば笑うぐらいの毛皮の仮面ですよね。ところが、今回の野獣はこれ、「カナダとかに行ったらヒゲの濃い人、このぐらいの人いるよ」ぐらいなのよ。毛が長くて、ソバージュで、顔面中にヒゲが生えている人がいたら、これ別に特殊メイクと言えないんじゃないか? ぐらいなわけ。そうすると、何が言いたいか? 野獣の方の特殊メイクもだいぶ人間に近いし、女優の方の何もしていないメイクがだいぶサルに近いんですね。中心が寄ってきちゃっているんですよ。お互いにこう、歩み寄る感じで。そうするとね、『美女と野獣』のテーマっていうのは『Beauty and the Beast』っていうぐらいで、絶対的な美に対して絶対的な醜っていうのがぶつかる。
だけど、絶対的な美を持っている人は……「人間は外見じゃない。心の美しさが問題なんだ」っていうのがこの映画のテーマなはずなんだけど、もう心が美しいも何も、みんな美しいのよ。全員が。なんで、肝心要の『美女と野獣』のテーマである「美しいお姫様が醜い野獣を好きになる」っていうことが液状化、もしくは蒸発しちゃっている映画なの。なんですけど、とても素晴らしいです。どう素晴らしかに関しては、そうですね。ブログをお楽しみにっていう感じですかね(笑)。番組でしゃべっていると時間がかかっちゃいますからね。
曲に行きましょう。French Kiwi Juice。略称FKJというタレントさんが2017年にデビューしました。フランスのダンスミュージックレーベル Roche Musiquを主催している人です。主催者なんだけど、この人、キーボード、ギター、サックス、サンプラー、ベース、PC、ボーカル。1人7役という大変な才人で、レーベルで人に作らせているんじゃなくて、とうとうテメーが立ち上がったいう形なんですけども。彼のデビュー作が出たばかりです。とれとれです。こちらから1曲、聞いてみましょう。非常に素晴らしいです。「捨て曲なし」ってよくレコード屋さんは嘘で言うんだけど(笑)。絶対に捨て曲はあるんだけど、これは本当に捨て曲ないです。私が保証します。French Kiwi Juice a.k.a FKJの最初のアルバムになります。『French Kiwi Juice』より『Skyline』。
FKJ『Skyline』
https://miyearnzzlabo.com/archives/42287
はい。なんて言いますかね、もう暦の上では初夏ですね。恋の準備をお願いします。準備ができないという方は私がお手伝いします。エマ・ワトソン、エマ・ストーンがごちゃごちゃになってすいませんでした(笑)。エマ・ワトソンが『ハリー・ポッター』シリーズ、そして『ブリングリング』に出ていた人で今回『美女と野獣』の主役です。エマ・ストーンが、それを言ったら『バードマン』から出てますね。『バードマン』『ラ・ラ・ランド』と並んだ人ですね。
エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』、エマ・ワトソン『美女と野獣』が同じ若手で実力のある女優がちょっと踊ってみたらすごかったっていうね。いかにいま、ダンサーじゃない人の踊りっていうのが価値を持っているか?っていうことで。これも大きく恋とかかわることですので、ぜひどちらの映画も見に行っていただきたいと思います。
<書き起こしおわり>