菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の冒頭のトークの中で大橋巨泉さんを追悼していました。
(菊地成孔)去る7月12日、大橋巨泉さんが亡くなりました。お若いリスナーの方など、単なるウザいジジイだとお思いの方も多いと思われますが、もともとは日本でも屈指のジャズ評論家です。そして彼は戦後日本のモダニズム、ダンディズム、さらには必死に働く男には遊びが必要なんだという啓蒙において、我が国の戦後の大衆文化史に名を残すと思います。改めて考えてみるまでもなく、私の大人のバラエティー番組。あるいは反骨精神とブラックユーモアといったものに対する感受性の80%ほどは『11PM』『ゲバゲバ90分』によって形成され続けています。
それは、子供が見てはいけない大人の夜の世界。そして『ゲバゲバ90分』の「ゲバ」は「ゲバルト」。すなわち、左翼運動における市街戦闘から名前が取られているということはみなさん、どれぐらいご存知でしょうか? 大人も子供もなくなってしまった世界。そして、世界中で行われている市街戦が学生たちによる革命運動でなくなってしまった世界。そんなもんを作り始め、あまつさえ完成させてしまった。つまり、世界を無粋で無粋に変えちまった世代のジャズミュージシャンとして、取らなくてもいい責任を取り、つけなくてもいいカタをつけるつもりで毎週毎週、貴重な時間をいただいております。
本日の放送、いやさ、この番組の全て、いやさ、私の活動の全てを大橋巨泉さんがクリエイトしたあの時代のあの世界に捧げたいと思います。ジャズのわかんねえ奴にはビタ一文儲けませんよ。こっちは巨泉とクレイジーキャッツに有り金全部だ! と博打の話はお子様には耳の毒。ご両親、小さいお子様は寝かしつけて。そして、お子さんが本当に寝ているか、目をつぶって寝たふりをしながら必死で聞き耳を立てているかどうかはどうか、知らんぷりでひとつ、お願いいたします。それではみなさま、楽しい大人の時間を。
<書き起こしおわり>