菊地成孔 錦織圭 苗字がリエゾンする問題と日本語の特徴を語る

菊地成孔 錦織圭 苗字がリエゾンする問題と日本語の特徴を語る 菊地成孔の粋な夜電波

菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の中で、錦織圭選手の苗字の読みが『にしこり』とリエゾンするという話から、日本語の言語的な特徴について語っていました。

(菊地成孔)この間ね、それこそ同じ場所(居酒屋)。同時多発していて。醸し人九平次がイコールかニアリーイコールか?論争と別のグループがですね、やっぱりこの、錦織選手は日本では数少ないリエゾンしている名前ですよね。『にしきおり』ですからね。リエゾンしなければ。だから『NISHIKIORI』の『I』がリエゾン・・・とは違うな。『I』が省略されて、『にしこり(NISHIKORI)』ってなっているわけなんだけど。これが納得できないっていうより、これは男性同士だったんですけど、『みんな「にしきおり」って言ってるんだ!』って言ってきかない人がいて。『いや、「にしきおり」って言ってないよ!「にしこり」だ!』って言って。

『だって、「I LOVE NISHIKORI」とかアルファベットで書いてあるやつ、あるだろ?』とか言って。『いや、それは見たことがない。あれを「にしきおり」って読んでいるのが、聞こえてんの。こっちに「にしこり」って』っていう、もうものすごい論争になっていて。もう、『日本語にリエゾンはないんだ』みたいなね。まあ、たしかにね。日本語は母音から出るのは・・・要するにリエゾンするには二文字目が母音から出ないといけないですからね。ちょっと話、ややこしいですか?後ろに、母音から出る『あいうえお』が来ればリエゾンできますよね?たとえば、『福岡(FUKUOKA)』。『おか』が『お』から出てますから、福岡っていうのは『ふこうか(FUKOKA)』っていう風にリエゾンできますよね。幸か不幸かですよ。幸か不幸か博多についた、みたいなね。博多についたばい!みたいな感じですけども(笑)。

この形ね。日本は母音はかならず先に来ますから。有田、井口、宇野、江藤、尾崎。先に来るわけですよね。だから後ろにこう、来ない。だけどこの錦織選手はこう、『織』という字が後ろに来てますからいけるんだけども、絶対それは許さない!っていうね。あるわけないじゃん!っていう。『いやいや、あるよ。日本語はさ、リエゾンいっぱいあるよ!「バカヤロー」が「バッキャロー」とかなるでしょ?』っていう話になって。まあ、そちらが賢者なんですけど。だいたいこういうのは賢者と愚者がやってるんですよね。愚者ってまあ、愚者が悪いわけじゃないんですけど。まあ、飲み屋での賢者と愚者がモメるわけなんですけど。で、まあ日本人はこう、なんて言うんですかね?あんまりリエゾン、実は他の国に比べるとないんですよね。

韓国語だとかフランス語はもうリエゾンすごいですから。日本語はまあ、江戸弁にね。私は江戸よりずっと下町をさらに下った東の果ての銚子ですから。北関東の言葉と江戸弁が混じった濁流が私のなんて言うんですかね?ホームランゲージなんですけど。『やってんだよ、食ってんだよ』っていうのは『やってるんだよ、食ってるんだよ』の『R』が飛んだ形ですよね。日本人は本当、『R』の発音弱いですよね。『R』『L』にね。まあ、さらに言うと文頭に無音が来るっていうのは日本はないですよね。アフリカってあんなに広い大陸なんで、いろんな宗教やいろんな食事、いろんな文化があるんだけど、結構多くの語圏に文頭無音っつって、『ミッシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)』とか、『ドゥドゥ・ンジャエローズ(Doudou N’diaye Rose)』、『ユッスー・ンドゥール(Youssou N’Dour)』とか。要するに頭に音がないという。

で、英語で表記する時にそれが無音っていうのは書けないから『N』入れちゃうんで。ンデゲオチェロって言ってますけど『ンデゲ』っていう人じゃないですからね。『ミッシェル・○デゲオチェロ』。ないわけです。ここね。これが音楽の『ズダッダッ!』っていう、拍の頭に音がないっていうこととつながっていると言われているとか言われてないとかっていう感じなんですけど。文頭に無音があるのは、たとえば韓国語にはあるんですよ。韓国語はね、日本語の小さい『つ』ってあるじゃないですか。『やった』っていう時の『っ』。あれがまず来てから出る『た』と、ない『た』は別なの。『た』っていうのと、『った』っていうのがあるんですよ。撥音っていうんですけど。こう、弾ける音ね。

まあ、そういう意味で韓国語は英語の属性とアフリカ語の属性をどっちも持っているということから、あ、韓国は『R』と『L』がありますからね。なんで、英語、アフリカ語のどっちの属性も持っていることからHIPHOPに向いていると。これ、来週話した方がいい話でしたけどね。来週、日本語ラップ特集ですから。日本語よりずーっと韓国語の方がHIPHOPのライミング、ヴァースにね、向いているんですけどね。あとね、これは私が個人的に『こんぶ・こぶ問題』って呼んでるんですけど(笑)。

『こんぶ・こぶ問題ってなんだよ?』ってことなんですけど。日本語は『N』もね、『こんぶ』が『こぶ』になるでしょ?で、たとえば子どもを背中に背負うことを『おんぶする』って言いますよね。で、『おんぶ』は名詞であると同時にBE動詞になって『おんぶする』って言いますけど。あれがBE動詞じゃなくて本当に純粋な動詞になると『おぶう』っていう風になりますよね。『おんぶう』って言わないわけですよ。だから日本人はね、『N』を子どもっぽいと思っている節が・・・子どもっぽいっていうかね、まあまあほら、男性器の俗称ね。あと、女性器の・・・これもまあ、深夜帯ですからね。大丈夫だと思いますけどね。女性器の俗称にも真ん中に『N』が入ってますよね?『ん』っていうのがね。まあ、そことの因果関係・類推関係、何が先で何が後か?とかちょっとわかんないですけど。

私が、常日頃ですね、物書きの端くれとして『こんぶ・こぶ問題』として問題視している『N』の扱いっていうのもまあ、ありますよね。これもあの、日本語の特徴の1つだと思うんですけど。まあそんな、モメてましたよ。で、最終的には『2位で残念だ』っていう話と、『2位だって十分がんばったんだ』っていうバッカみたいなその・・・(笑)。『クソ!クソ!』っていうね。1位取れなかったのが残念だっていう人は、もう飲んじゃうと。人間もう、ねえ。なんて言うか、もうクダ巻きますからね。シラフなら別にね、あっという間に終わる話なんですけどね。頑固になっちゃってね。『いやー、でも残念だよ』『いや、2位でいいよ。2位だって立派だよ』っていうね。まあ、いまこそ蓮舫議員にね、再び出てきてもらってね、『2番手じゃダメなんですか?』っていうね、一言をですね(笑)。あの2人に言ってほしかったっていう感じですけどね。はい。

<書き起こしおわり>

※菊地成孔 錦織圭が好きな音楽・ジャジーヒップホップに驚く

菊地成孔さんが別の回でまた錦織選手について言及。錦織選手が好きな音楽を聞いてびっくりしたという話をしていました。

(菊地成孔)はい。菊地成孔の粋な夜電波。ジャズミュージシャンの、そして錦織選手が公式な発言で『ジャジーヒップホップが好き』と発言されているのを聞いて腰が抜けた。まあしかし、海外生活も長い方ですし、まあよく考えればなくもない話だと。とは言え、ジャジーヒップホップっていう、あの年齢でジャジーヒップホップっていうのはまあ、マッドリブとかQティップとかかな?と思っていたら、なんとNujabes!二度腰が抜けた、そしてこのネタはあんまり広さ的には狭いのだなということに言った後で反省している菊地成孔がTBSラジオをキーステーションに宇宙中継。全宇宙にお送りしております(笑)。

<書き起こしおわり>

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