町山智浩さんが2025年12月30日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で香港映画『スタントマン 武替道』について話していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。
(町山智浩)でね、もう1本ね、時間がないと思うのでパッといきますと『スタントマン 武替道』という香港映画なんですけど。ポスターに「命懸けで魅せる!」って書いてある通り、これは1980年代に香港のアクション映画黄金時代というのがあったんですよ。たぶんご存じないと思いますが、ジャッキー・チェンが活躍していた頃です。その頃はもうとにかく凄まじく危険なアクションで、ビル一つを爆破したり、車に轢かれるとか当たり前で。一つの村を完全に破壊するとか、そんなことばっかりをやってたんですよ。
で、その頃にアクション監督でスタントマンだった人が現在、映画の仕事がなくて。接骨医かなんかをやってるんですけど。その人が昔のプロデューサーに呼ばれて。「昔風なアクションを作らないか? アクション監督をしてくれ」って言われるんですよ。で、昔風にやるってことで「ダメだ、ダメだ。そんなんじゃない! 昔は命がけだ! ケガとか当たり前だった!」とか言って現場を仕切るんですけど。そのおじいさんがね。要するにジャッキーと同じ世代ですよ。70ぐらいですよ。
それで実際にやると、本当にケガ人がバンバン出ちゃうんですよ。まあ、当たり前ですよ(笑)。だから時代が違うんです。「昔はそれでよかった」って言ってるけど、それは大変なことで問題なんですよ。実際、人がたくさん死んでるんですから。あのミシェル・ヨーさんも大ケガしてますよ。その当時、80年代に。
だから「それを今、やるなよ」ってことでだんだん居場所がなくなっちゃうんですよ。みんな、若い俳優とかが怒っちゃって。で、彼に憧れてた若い俳優は『トワイライト・ウォリアーズ』で信一くんを演じてたテレンス・ラウですけど。で、現在のスタントマンチーム、若い今の映画を作るスタントマンチームのリーダーはあの橋Pにそっくりなフィリップ・ンが演じていて。その世代のギャップがあるわけですね。
で、だんだんその爺さんのアクション監督が追い詰められていって。しかも、彼がやらかして。80年代に自分は大成功だったと思っていたんだけど、その時にケガをさせたスタントマンは下半身不随で人生が破壊されちゃってるし。自分の家族も全部崩壊していて。で、自分がずっと人生の誇りにしてたその80年代アクションって一体、何だったんだ?っていうことで追い詰められていくっていう、壮絶な映画でしたよ。
もう悲しくて……僕とか、その80年代アクション映画で育った世代だから。それをもう否定してくるんですよ。「その映画はどれだけの人の人生を犠牲にしたんだ?」っていうことで。そしたらこの間、ジャッキー・チェンが……ジャッキー・チェンって、自分の息子と疎遠になっていて。ジャッキー・チェンの息子って警察沙汰を起こしたりして、もう完全に親子の縁が切られてる状態なんですけど。
それがどうしてそうなってしまったのか?っていうことをジャッキーは舞台で謝罪したんですよ。ついこの間。「私は息子に厳しすぎた。『昔はこうだった』って言ってもう自分のルールを押し付けて。それで息子をダメにした」って謝ったんですよ。
だから僕、それと重なって今、頭がぐちゃぐちゃになってるんですけど。これはね、もうおじいさんの人たちにみんな、見ていただきたいですね。「昔はこうだった。お前はなんでできないんだ?」とか絶対、言わないようにというね。もう、あらゆる職場でそれやってる人がいると思います。「昔は残業なんて当たり前だった」とかね、「昔は死ぬほど仕事した」とか言ってる人いますけど。だからダメなんだよと。
