宇多丸 関東大震災と朝鮮人虐殺・2025年の最新おすすめ書籍を語る

宇多丸 関東大震災と朝鮮人虐殺・2025年の最新おすすめ書籍を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2025年9月1日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の中で関東大震災と朝鮮人虐殺についてトーク。2025年9月現在のおすすめ書籍を紹介していました。

(宇多丸)本日、9月1日は防災の日ということで。TBSラジオもさまざまな形でね、「防災意識を高めましょう」みたいなこともやってますけど。まあ「防災の日」って非常にね、なんて言うんですかね? ソフトなネーミングをしてますけどこれは早い話がまあ、関東大震災が起こって1923年の9月1日に起こったという、それを踏まえての防災の日じゃないですか。

この番組でもね、9月1日になれば必ずその話をしてまして。先ほどもちょうど『Session』で……やっぱりさすがの『Session』。やってくれますよ。お話なんかをしていて。実は僕が今日、紹介しようとしてるこの著者の方が出てられていて「ああ、やっぱり。さすが!」なんて話をしてたんですけど。毎年、大正12年9月1日に起こった関東大震災の後にさまざまな流言飛語、デマなどが飛び交ったことで……いろんな形があるんですけど。

本当に普通の人々が自警団という形だったり、群衆としてワーってやったり。ところどころでは本当に公権力というか、軍隊が動いたりとか、そういうこともあったりして大量の当時、日本に暮らされていた朝鮮の方々、あるいは中国の方々、あとは日本の人も含むというような感じで大殺戮、虐殺行為が起こったということはもう歴史的事実。さまざまな資料に事欠きませんし日本政府、内閣府が出した正確な、公的な資料というかな? 研究資料もしっかりあるというまあ、当然のことながらの歴史的事実でございまして。まあでもそれをちゃんと、明らかに……これ、日本の近現代史の中の最大の汚点の1つなのは間違いないですよね。

で、まあその汚点なら汚点ほど、間違ったことをしたというあれがあればあるほど、それを見つめていかないと。っていうのは毎年、言っていますけど。これ、僕が上から目線で何かを言ってるように聞こえたら本当にすいません。そんなつもりはなくて。これは僕自身に対する戒めというか。つまり、僕だって良識ある人間面をしていますけども。いや、良識ある人間なんですけれども。それが集団心理とか、いろんな条件が重なると……なんか怖くなっちゃったとか、いろんなことが重なると、暴力行為も含む普通じゃない行動を取る。取り得るんですね。そのことをやっぱり関東大震災の時の虐殺のいろんな証言であるとか、みたいなものがもう明らかにしていて。

すごくまともな人が……で、後から考えると「あれはどうかしていた」っていうようなことも全然、あるわけですよね。だから戒めとしてやらないと何が起こるか? それは同じことを繰り返すよっていうことですね。

(山本匠晃)1人間としての戒め。

(宇多丸)山本さんもさ、『アイム・スティル・ヒア』というの素晴らしい作品、映画を見て。「すごく良かった」っていうお話をしていたけれども。あの中でも最後の方で「なぜ歴史の過去の過ちをいちいちほじくり返すんですか? もっと未来を見た方がいいんじゃないですか?」って言われた主人公……彼女、実在の女性ですよね。実在の主人公が「なぜ過去を見つめなきゃいけないか? そうしなければ繰り返すから」っていう。で、その繰り返すというも歴史が証明しちゃってるわけですよね。

(山本匠晃)そうですね。残念ながら。

(宇多丸)残念ながら人類の……我々、人間という、なんというかな? サル的なものから進化した我々のある種の動物的な限界の部分もあるかもしれません。理性でコントロールしようとしてもできないところとかがあるかもしれない。だからこそ、世の中の進歩が……人間そのものの生物性みたいなものに急激な進化はないにしても、歴史をちゃんと学び直すことで制御したりとかすることができるはずだ。それこそが人類の進歩というものであろうと私は考えるんです。ということでしつこく言ってるんですね。しつこくっていうか、まあ大事な話だから。

でね、大事な話だし、関東大震災のその虐殺の事件のいろんなあれに関してはですね、毎年のようにいろいろ研究が進んで、アップデートされた本が毎年のように出ているんですよ。ということでこの場ではですね、まあ軽くでございます。先ほど『Session』でも特集されていたわけですから軽く、私の今年のおすすめ本。「今年の」とかを全部抜くんであればまず、たとえばこれを聞いていて「宇多丸、何を言ってるのかな?」とかね、「ああ、なんか教科書で見たことあるな」とかっていう感じでまず、ビギナー的におすめしたいのはこれはあの定番でおすすめしてますけども。加藤直樹さんという方。よく『Session』にも出られて話されています。

ころからというところから出ている『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』という、この本をまずおすすめしたいんですけど。その同じ加藤直樹さんがたとえばこれ、まさに今日9月1日初版発行。今日、出た本でございます。『「九月」を生きた人びと 朝鮮人虐殺の「百年」』という新刊が出ていて。これはなんていうかな? 3部構成になっているんですけども。加藤さんがいろんなところでやった講演の内容であるとか、あとはこの9月にいろいろと虐殺があった中のサバイバーみたいなものを通していろいろと語っていくところがあったり。これ、帯がすごく分かりやすいんでちょっと読みますね。

『「九月」を生きた人びと 朝鮮人虐殺の「百年」』

(宇多丸)「王貞治が戦後、日本のヒーローであることを否定する人はいないであろう。だがその王の父があの時、中国人だからという理由で殺されずに済んだのは偶然にすぎない。ホームラン王だけではなく、さまざまな民族的出自の人がこの社会を共に作ってきた。彼らの存在を否定し、苦しめる民族差別は私たちの社会の価値をも否定しているのだ」っていう風に書いてるんです。これはこの本の中の1パートなんですけど。まあ王さんってね、もちろんそのお父様は中国から来た方で。

で、そのお父様の出身の人達が固まって住んでいたところがあって。そこの人たちでどこかに連れて行かれて大量に殺されちゃっていたりする方がいて。だから王さんのお父さんは幸いにもそれを免れたけれども。まあある意味、助かったっていう状況なんだけど。で、王さんってね、今でも国籍は台湾なわけですから……ということなんですよ。でも王さんは明らかに国民的ヒーローじゃないですか。

でも、そうやって日本社会っていろんなところから来た、いろんな出自のいろんな国籍があったりとかっていう人がすでに我々のこの社会を作っているわけだから。「日本人ファースト」って言うけれども、その「日本人」ってイメージしてるのはどこのどういう範囲なのか?っていうことですよね。だしさ、我々だってどこかからか来た人たちなんですよ。それは絶対に。人間なんてものは。っていうことだし。まあ、これは今、わかりやすい例かと思って引きましたし。

ハーバード大学のラムザイヤー教授論文に対する反駁

(宇多丸)とかね、あとこの本の3章目はこれ、ハーバード大学のラムザイヤー教授という方が近年、2020年代になってその朝鮮人虐殺に関して……まあ、他にもいろいろおっしゃってる人ですけど。なんていうかな? 主に当時の新聞記事とかをベースに実際にたとえばその当時の流言飛語の内容を肯定するようなことを書かれたりしていて。で、やっぱりその最近、出てきちゃってる「諸説」というね。小池百合子都知事が「諸説ある」なんてことをおっしゃったその諸説とやらなんですけど。「なかった論」みたいなものが恐ろしくも浮上しちゃっているんだけど。だからまあ、そういう人たちは大喜びしてるわけですよ。「ハーバードの教授がこんなことを言っているぞ!」なんつって。

まあ一応、言っておくけどこの人、別にハーバードの他の教授とか、学会とからもものすごく「この論文、ダメでしょう?」ってめちゃくちゃ非難を浴びていたり。それはいろいろデータとかの不備があったり、その取り方がダメだったりっていうことを言われているんですけど。この加藤直樹さんの新たな本、『「九月」を生きた人びと』の中で3章はこのラムザイヤー教授の論文を加藤さんが読み込んで、それをデータに照らし合わせたり、資料と照らし合わせたりすることですごく雑な資料の集め方をしているとか。あとは当たるべき資料に当たっていないで書いてるかっていうことを本当に個別に論証して見せているやつで。

今後、「こういうハーバード大学の教授がこういうことを言っている」っていうのを錦の御旗にして……「欧米人が言ってくれてるんだ!」っていうね。それはどういう保守だ?っていう感じがするんだけど。まあ、そういうのに対して加藤直樹さんはね、『トリック : 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』という本。要するにこの「なかった論」みたいなものに対して論理的に反駁するような本も出されたりしますけど。今回、そのラムザイヤー教授の説に対する最新版みたいなことでございます。『「九月」を生きた人びと』という非常に最新版のものとしてこれもおすすめしたい。

『関東大震災 虐殺の謎を解く ――なぜ発生し忘却されたのか』

(宇多丸)でね、もう1冊は先ほど、『Session』にまさにご出演されていました。ジャーナリストの渡辺延志さんという方が書かれた『関東大震災 虐殺の謎を解く ――なぜ発生し忘却されたのか』。筑摩選書から出ています。これ、今年の7月とかに出たのかな? 割と新しめな本で。で、この渡辺さんはまさにラムゼイヤー教授の書いた論文に対してちくま新書でその論文に対して反駁していくというかな? 本を出されたりしてる方ですけど。このね、渡辺さんの今回の本は僕が光栄にも帯を寄せさせていただいた後藤周さんという方の『それは丘の上から始まった』という、横浜での虐殺に……虐殺のあれってガーッと広がっていくんだけど。それは実は横浜から始まったと言われているんですね。で、その『それは丘の上から始まった』という本に僕、光栄にも帯を書かせていただいて。帯にしては長すぎる帯。長すぎっていうのを書かせていただいたんだけど。

この後藤周さんのそういう研究とか、さまざまな先行研究とかをもとにさらに渡辺さんが研究を進めて。詳しくは『Session』とかでもね、話されたかもしれないけど。まあ通説とかとは違ういろんな事実が浮き上がってきたりとかっていうのを渡辺さんが本当に丹念に丹念に調べ上げて。そしてなおかつ、それがなぜ忘れ去られかけていて、なんならなかった論みたいなものが出てきてしまうのか? それはたとえばそうやって犯罪行為を犯して捕まった人もいっぱいいるんですけど。殺人とかで。そういう人が後に、ものすごくトリッキーな方法で恩赦を受けているわけです。これ、すごいトリッキーな方法で恩赦を受けたりするわけ。

だから、まあある意味、「軽く済ませたい」とか「なかったことにしたい」みたいな心理がすでに早くから働いていて、みたいなことなんですよね。っていうようなことがあって。そういうのをもとに、たとえば松野博一さんっていう前の官房長官。裏金問題で辞任したりしていましたけども。その松野さんが当時、「(虐殺があったという)そういう資料はちょっと見当たらないんで」みたいなことを言ったりしてるのはそういう入り組んだ……松野さんはね、2011年の時点でそういう論をベースにした国会質問とかしてるんですよ。民主党政権時代に。というのもこの渡辺さんが書いていて。要するに松野さんが言ってることっていうのをどういう流れでこの人はこういうことを言っているのか?っていうのを検証しているわけで。すごい最先端の研究。そしてもちろんラムゼイヤー論文みたいなものに対しても当然、書いてあるということで。つまり、これが現状の最先端研究報告といった感じゃないでしょうか。グウの音も出ない内容です。

さらにここ、たとえばクラシックとされているいろんな先行文献。たとえば吉村昭の『関東大震災』とか。そういうところの結論みたいなところにも「これが結論でいいのか?」みたいなところもちゃんと比較検討していて。渡辺延志さんの『関東大震災 虐殺の謎を解く ――なぜ発生し忘却されたのか』。筑摩選書から出てますんで。こんな感じでは今年はこの2冊。私もまだ2冊とも読み込んでいる最中ではあるんですけど、今年はこの2冊をおすすめしたい。

何にせよ、ちゃんと事実とか……特に都合が悪い事実ほど見つめないと。それってすごく、なんていうかな? 幼児的な態度っていうか、過ちを繰り返しやすい態度ですよね。本当に私自身、私たち自身の全員にも通じる危険性ですから。というようなことなんです。毎年のように言ってますが、毎年のように言わせていただきます。

毎年、9月1日になるとかならずラジオでこのことを語ってくれる宇多丸さん。今年も最新の研究を反映させた本をご紹介くださっています。もう二度と、同じようなことを繰り返さないためにもおすすめ図書などをチェックしていきたいと思っています。

アフター6ジャンクション2 2025年9月1日放送回

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