町山智浩 ラスベガス銃乱射事件とその後のアメリカ国内の議論を語る

町山智浩 ラスベガス銃乱射事件と銃規制問題を語る 荻上チキSession22

町山智浩さんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』に電話出演。ラスベガスで起きた銃乱射事件と、その後に起きたアメリカ国内での議論などについてレポートしていました。

(荻上チキ)さて、そういった中で、ではアメリカではどういう報道がなされているのか? などいろいろとレポートをしてもらいたいと思います。TBSラジオ『たまむすび』でもおなじみ。『マリファナも銃もバカもOKの国 USA語録3』などの著書があるアメリカ在住の映画評論家、町山智浩さんにお電話でうかがいます。町山さん、よろしくお願いします。

(町山智浩)はい。おはようございます。よろしくお願いします。

(荻上チキ)寝起きですか?

(町山智浩)あ、すいません。寝起きです。はい(笑)。

(荻上チキ)いま、そちらは何時ですか?

(町山智浩)朝7時前です。

(荻上チキ)たいへん早くにありがとうございます。

(町山智浩)いえいえ。

(荻上チキ)さて、町山さん。今回の事件をどういう風にご覧になっていますか?

(町山智浩)今回の事件はいままでずっとアメリカ政府とか民主党がしようとしていた銃規制では止められないような事件だったと思います。

(荻上チキ)「止められない」。つまり、議論があったとしても止められなかったということですか?

いままでの銃規制案では止められない

(町山智浩)実際に銃規制で民主党がやろうとしていたのは「バックグラウンド・チェック」というものなんですね。それは銃を買う際に、精神病歴や犯罪歴を調べて、それがない者にだけ銃を売ることができるというような法律にしようとしていたんですが。それは(法案は)議会を通っていないんですけど、もし通っていたとしても今回、その犯人には犯罪歴も精神病歴もなかったので、(犯行を)止められなかったということですね。

(荻上チキ)なるほど。

(町山智浩)あと、もうひとつは今回、フルオートと言われる、いわゆる機関銃のように連射して大量に殺戮が行われたんですけども。それに関しても、法律でフルオート(全自動)の銃を売るのには非常に厳しい規制をかけるということが進められなかったり、いろいろとしたんですが。そういう議論も無にするような、普通の(販売されている)セミオート(半自動)式のライフルに2万円ぐらいのおもちゃみたいなものを付ければ簡単にフルオートで撃つことができるわけで。そうすると、そのフルオート銃の規制も無意味ということになりますね。

(荻上チキ)うん、なるほど。今回はかなり多くの銃を犯人が持っていたということなんですけども、どういう銃を持っていたという風に報じられているのか、町山さん、いかがですか?

(町山智浩)今回は40丁以上の銃を1年以内に買っていたということなんですが。主にアサルトライフルと言われる、現在各地の戦争で使われている兵士が持っている銃ですね。突撃銃と言われているものなんですが、それが多かったですね。

(荻上チキ)その銃の中で、先ほど言ったセミオートを自動化するような装置も取り付けられていたということですか?

(町山智浩)はい。「装置を取り付ける」というと非常に大げさで難しいことのように思うんですけども、今回は単に「バンプストック」と言われている、銃は肩に当てる部分があるんですが、その部分を取り替えるだけで……中にバネが仕掛けてあって、弾丸を1発撃つごとに後ろに向かって反動がありますから、それをバンプ(バウンド)させてスプリングで手が勝手に引き金を連続して引けるようになっている仕掛けなんで。それは誰でも簡単に買えて。1個2万円ぐらいらしいんですよ。それで簡単にフルオート化することができるということが問題になっていますね。

バンプストック

(荻上チキ)はい。それから、他にもいろいろとたとえば遠距離から撃つ銃など、種類もいくつかあったということですか?

(町山智浩)いや、「遠距離」と言いますけど、長い銃身の銃にはショットガンと言われる弾をバラまく近距離しか当たらない銃と、ライフルと言われている遠くに弾が飛んでいく銃があるんですけど。基本的にはライフルだったら、今回は300メートルぐらいですから、なんでも届きますし、誰でも当てられます。

(荻上チキ)なるほど。これ、Twitterで(ツイートを読む)「あんな何十丁も銃を持っていて、所持自体は問題にならないんですか?」という質問が来ているんですけども。

(町山智浩)これがいちばん大きな問題で。現在アメリカでは、平均すると国民1人に対して1丁弱ぐらいの銃があるという計算になっているんですが。コレクターが非常に多くて、1人で8丁とか10丁とか持っている人が非常に多いんですよ。それと、(全く)持っていない人がいる。ということで、平均をするのはあまり意味がなくて。1人でいくら買っても、それ自体は規制されないということが問題で。この犯人の場合には40丁以上ですから、もう武器庫みたいになっていたんですが、それを規制する法律はないんです。

(荻上チキ)うん、なるほど。実際に所持の時に、たとえば家で持っておくことと持ち歩くことは、ここには線引きはないんですか?

(町山智浩)地方によって違うんですけども。僕が住んでいるサンフランシスコであるとかニューヨークであるとか、観光客が来るような東海岸、西海岸沿いは持ち歩くためにはちゃんと箱に入れて運ばなければならないんですけども、それ以外の州では「オープンキャリー」と言いまして、銃をむき出しで肩に担いでどこでも行けるわけですよ。

(荻上チキ)ほう!

(町山智浩)だから、僕がオハイオとかアイオワとかアリゾナのドナルド・トランプが大統領になる前の、去年の予備選(の選挙運動)に行った時は、見ている聴衆が何人も肩に銃・ライフルを担いだ状態で。もちろん弾丸も込めた状態で見ていたり政治集会に参加しているという状況です。

オープンキャリー

(荻上チキ)なんでわざわざ政治集会に銃を持ってくるんですか?

(町山智浩)反対派がいるからです。

(荻上チキ)要は、意思表示になるということですか?

(町山智浩)反対派をビビらせるためですね。

(荻上チキ)おおーっ、まあ威嚇ということですか。

(町山智浩)はい。そうです。また、黒人に対する警察の暴力で武器を持っていない黒人たちが次々と殺されるという事件が続いていて、それに対してテキサスで集会を開いた時、警官が5人ぐらい射殺された事件がありました。あの時、警官に対してのデモをしている中に、30人ぐらいAR-15ライフルを持っている人がいて、歩いていたという事態なんですよ。

(荻上チキ)なるほど。日常の中でそうやって持ち歩くことができる。Twitterで、(ツイートを読む)「去年、ラスベガスのカジノに行って驚いたこと。マカオ、シンガポール、ソウルのカジノにはあった金属探知機がなかったということ」とあるんですけど、こういったことについてはいかがですか?

(町山智浩)金属探知機があるホテル、カジノはアメリカにはないと思いますよ。

(荻上チキ)ないですか?

(町山智浩)誰でも銃を持って入って部屋まで行けると思います。

(荻上チキ)うん、なるほど。それはもう当たり前なんですね。

(町山智浩)カジノでも金属探知機っていうのはないです。カジノは廊下からすぐにカジノスペースに行けるようになっているんで、金属探知機のあるゲートをくぐらせることはできないです。ホテルもいちいち、ないですよね。

(荻上チキ)はー。カジノに行ったことはないので、なんか電子機器とかを使って詐欺じゃないけど。イカサマとかはできないのかな?って。

(町山智浩)カジノは監視カメラがすごく大量にあって。要するに、インチキをするのは防いでいるんですけども。銃に関してはまあ、チェックできないんですよね。

(荻上チキ)なるほど。いまの話で、銃社会の実情をすこしうかがえたんですが、今回ターゲットになったコンサート。どういった場所でどういった人たちが集まっていたんでしょうか?

(町山智浩)今回のコンサートはルクサーというピラミッド型のホテルがあるんですけども。あの向かい側に最近作られた野外コンサート会場です。これが標的になったのは、コンサート会場に入る際には荷物チェックがあるんですよ。セキュリティーはかならずあります。まあ、主にカメラを防ぐためですけどね。でも、爆弾とかの持ち込みも一応チェックするわけですけども。コンサート会場の外から撃つことは防げないですよね。

(荻上チキ)まあ、そうですよね。

(町山智浩)で、全米各地でいま、コンサートが中止になったりしている状態です。

(荻上チキ)それはたとえば、模倣犯などを恐れているというようなところがあるわけですか?

(町山智浩)全くその通りです。

(荻上チキ)なるほど。今回の音楽祭がカントリー音楽であったという点が注目されて語られることもあるんですけども。この点は町山さん、いかがでしょうか?

(町山智浩)この犯人は1年以上をかけて準備をしていたので。それはこのカントリー音楽のコンサートが告知をされるより前からですから。まあ、たまたまだったんだと思います。それと、犯人が実行するのは1週間とか1ヶ月前にもやろうとしていたんじゃないか? とも言われているので。たまたまカントリーミュージックだったんだろうと言われていますが。アメリカではいま、報道されている時にいわゆる右派メディア……FOXニュースというケーブルテレビチャンネルがそうなんですけど、右派メディアはなんとかこの事件を銃規制に結びつけないようにしたいので、「カントリーミュージックを聞くような保守的な人々を狙ったんだ」とか、なんとかこの犯人とISIS(イスラム国)との関係をつなげたいというように、非常に意図的な……「銃を集めている人が悪かったんじゃない」という方向に捻じ曲げようとする報道は見られます。

(荻上チキ)どう捻じ曲げてそこを無理やりつなげようとしているのか、いまいちちょっと想像が……というか、「やれ」と言われても難しいんですけど。どうやっているんですか?

右派メディアの意図的な報道

(町山智浩)もう、ものすごい無理なことをいっぱい言って、なんとか犯人が銃コレクターでなかったという方にしようとしていますね。だからたとえば、「一緒に住んでいた女性がアジア系だから……」みたいなことを言ったりね。要するに、「彼は差別主義の右翼ではなかったんだ。白人至上主義者傾向ではなかったんだ」って言ってみたり。まあ、いろんなことを言っていますけど、とにかく今回は全く動機がまだわからない状態で。

(荻上チキ)はい。

(町山智浩)で、動機がわからない乱射事件というのはものすごい大量にあるんですよ。アメリカでは。いちばん最初にビルの上から撃ったというのはテキサス大学の時計塔からライフルを元軍人が撃った事件がたぶん最初なんですね。それも動機はいまもわからないですから。たとえ動機がわかっても、じゃあそれを止められるのか?っていうと、そういう問題ではなくて。それで銃の規制を……精神病・犯罪者に銃を持たせないことで止められるのか?っていうと、今回のは止められない。全自動(を規制)しても止められない。じゃあ、どうやって止められるのか?っていうと、銃を売らない以外にもう止められないんですね。

(荻上チキ)はい。銃そのもの、あるいは弾を売らないとか。いろいろな、具体的に規制をしないと難しいということになるんですね。

(町山智浩)弾丸の規制は、マイケル・ムーア監督が『ボウリング・フォー・コロンバイン』で「弾丸を買えないようにすればいいんじゃないか?」と言って、スーパーマーケットで買えないようにしたりしていましたけども。ただ、ネットで買えちゃいますからね。

(荻上チキ)なるほど。これだけ注目されている事件ですけども、トランプ大統領。現地に入ったようなんですが、このトランプ大統領の動向についてはどう取り上げられているんでしょうか?

(町山智浩)トランプ大統領はいまもまだ、銃そのものを批判することはないんです。いちばん最初にこの事件について語った時も「これは邪悪な個人がやった事件だ」と言うだけで、「銃そのものをどうにかすべきだ」ということはまだ一切しゃべっていません。今回もラスベガスに行っても、そうは言わないと思います。ドナルド・トランプ大統領はNRA(全米ライフル協会)という銃の所持の自由を維持しようとする人々のロビー団体から正式な推薦を受けて大統領に当選しました。ですから、銃の所持に関して批判したり規制をする方向では発言はしないと思われます。

(荻上チキ)うーん、なるほど。そうした中で先ほど、いままでの議論では仮に銃規制の法律が通っていたとしても、抜け道になるようなものだったので防げなかったというような話を町山さん、していただきましたけども。では、より修正した強力な規制案をやろうじゃないかというような議論は出てきたりはしていないんでしょうか?

(町山智浩)いま現在、これよりも厳しく規制すると、銃そのものを売らないというようなことしかできないと思います。特に拳銃に関しては規制した方がいいという話があったんですけども、ただライフルの場合には憲法の修正第二条で規定している民兵の銃がライフルなんですね。つまり、よく言われているのは「憲法修正第二条はアメリカの政府に対して国民が抵抗戦争をするための銃の所持の認可なので、拳銃よりもライフルをOKしているんだ。ライフルの方を持つことを許しているんだ」ということなので、そうなると、なかなか難しい問題がありますね。

(荻上チキ)うーん、なるほど。となると、なかなか具体的な規制案という話になると憲法問題まで踏み込むということになるので。

(町山智浩)憲法を修正しないとならなくなってくるんですよ。修正憲法第二条そのものの見直しということになりますので、すごく大きな問題になってきます。

(荻上チキ)町山さん、こういったなかなか進まない銃規制の議論に関してはどうお感じになりますか?

(町山智浩)まあ、とにかくお金が非常に大きいので。NRAの年間の予算、2億5000万ドルという莫大な金額が政治家に対して使われているということはあるんですけども。それ以上に、アメリカ人の田舎の人たちの生活ですね。今回の(事件が起きたラスベガスのある)ネバダもそうですけども、それはやっぱり銃なしにはあり得ないんですよ。ラストベルトと言われている五大湖地方。ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルバニアの方に大統領選挙の時に取材に行きますと、圧倒的に民主党を支持していて、代々支持しているという労働組合の人たち。自動車とか工場の。で、オバマ大統領を熱烈に支持しているという人たちも、車にはみんなNRA(全米ライフル協会)のステッカーを貼っていますんで。

(荻上チキ)うん。

(町山智浩)で、彼らの文化っていうのは鹿狩りなんですよ。週末になると夜中から森に行って鹿を撃つっていうのは文化なので。まあ、非常に難しいですね。

(荻上チキ)うーん、なるほど。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもありがとうございました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/45322

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