町山智浩『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でリブート版『猿の惑星』シリーズの第三弾、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』について話していました。


(町山智浩)そう。だからそういうことをいろいろと考えながら、『猿の惑星』を見に行ってきましたよって、上手くつなぎましたが(笑)。

(山里・海保)(笑)

(海保知里)あ、今度は猿と人間の対立ね(笑)。

(町山智浩)そうなんですよ。『猿の惑星: 聖戦記(グレート・ウォー)』っていう日本のタイトルなんですけど。これ、原題は『War for the Planet of the Apes』なんですけど。映画を見たら、戦争映画じゃなかったですね(笑)。

(山里亮太)そうなんですか?

(町山智浩)はい。これはタイトルを聞いて日本の会社がつけたんで、日本の会社は悪くないと思いますが。見たら、西部劇でした。

(山里亮太)西部劇?

戦争映画ではなく、西部劇

(町山智浩)西部劇でした。だから全然違う話でしたけど。まあ『猿の惑星』の話を簡単に説明しますと、これはもともと1968年に作られた映画で『猿の惑星』というのがありまして。これは宇宙飛行士が光の速さを超えるスピードで宇宙旅行をして地球に帰ってきたら500年たっていて。着いてみたら人間が奴隷になっていて、類人猿のゴリラとかチンパンジーの奴隷として人間が使われている世界になっていたという話が『猿の惑星』という話だったんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、まあこれが世界的大ヒットして。特にアメリカで大ヒットした理由は、1965年ぐらいにアメリカで南北戦争からずーっと続いてきた南部の人種隔離政策っていうものが……まあ、はっきり言って黒人から選挙権を、人権を奪う政策が1965年になくなったんですよ。で、それに対して南部の人たちは非常に恐怖して。白人の支配が脅かされるんじゃないか? と非常に怖がってニクソン大統領に投票したりしていたんですけども。その恐怖を上手く拾ったのがこの『猿の惑星』で。前半で、まあ白人しか出てこないんですけども、人間たちが猿に捕まって奴隷にされるという部分が、完全にそのアフリカで黒人が捕まって奴隷にされるのを白人でやり直しているんですよ。

(山里亮太)はー。

(町山智浩)だからもう、これは完全に黒人を奴隷にしていたことの仕返しをされるという恐怖の映画だったんですね。『猿の惑星』は。で、大ヒットしてその後にずっと続編が作られていったんですけど、続編から先は毎回、その当時の政治状況を反映した内容になっていって。たとえば、『続・猿の惑星』では核ミサイルを神として崇めるカルトの人たちが出てくるんですよ。

(山里亮太)はあ。

(町山智浩)核ミサイルが地球を滅ぼす力を持っているから神と同じなんだということで、崇拝する人たちが出てくるんですけど、これ、実在しますからね。

(山里亮太)えっ? 実在する?

(町山智浩)これ、アメリカの「ファンダメンタリスト」と呼ばれているキリスト教の聖書原理主義的の人たちは聖書に書いてある最後の審判(アルマゲドン)が実際に起こればいいと思っている人たちなんですよ。で、それが起こっても、自分たちはラプチャーといって、神に召されて天国に行くんで、地球の滅亡には巻き込まれないと信じている人たちなんですよ。で、核戦争が来ることを望んで祈りを捧げる人たちが実際にいるんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だからそういう風に、実際にいるものをSF、サイエンス・フィクションの中に盛り込んでいったのが『猿の惑星』シリーズだったんですね。

(山里亮太)ああ、そうなんだ。

(町山智浩)だから『新・猿の惑星』では『猿の惑星』から原題にタイムスリップしてきたチンパンジーの夫婦が平和を訴えているうちに暗殺されるっていう話なんですよ。それはマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺をモデルにしているんですよね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)という風に、常に現実を反映して作られてきたのが『猿の惑星』シリーズだったんですけども。それが2011年からリブートをかけられて、全く新しいシリーズとして作り直されてたんですよ。その間に、ティム・バートンという監督が『猿の惑星』を1回リメイクしているんですけども、全く現実の社会を反映していない、おポンチ話だったので、なかったことになっているんですよ。

(山里亮太)おポンチ話(笑)。

(町山智浩)「これはなかったから、みんな見なかったことにしようね」ってなっているのがティム・バートン版の『猿の惑星』で。ちゃんと真剣に元の『猿の惑星』の描いていた社会性を盛り込んでシリーズをやり直そうとして作られたのが2011年から始まっている『猿の惑星』シリーズなんですね。

(海保知里)そういう気持ちが込められているわけなんですね。

リブート版『猿の惑星』シリーズ

(町山智浩)そうなんですよ。だからそれ、最初は『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』っていう話で。これはチンパンジーを使って新薬の生体実験をしている話なんですよ。で、これは実話ですよね。猿の中でもチンパンジーは人間にもっともDNAが近いので、ワクチンとかは彼らを使って作られるんですよ。だから、病原菌を注射されているんですよ。チンパンジーに。ただ、チンパンジーはみなさんがご存知のように人間の5才ぐらいの知能があるんですよね。……5才の子供に病原菌を打ちますか?

(海保知里)そうか。そう考えると、そうですね。

(町山智浩)だからこれ、ものすごく人権ギリギリのことをやっていて。ただ、このチンパンジーの生体実験がなければ、我々は死んでしまうんですよ。っていうすごく厳しい問題をもとにしていたのがその『猿の惑星』のリブートの第一作なんですね。で、その生体実験の中から、副作用みたいな形で知能の高いチンパンジーのシーザーというチンパンジーが生まれて。そこから病原菌が発生して、人間がどんどん死んでいくんですね。で、その二作目の『猿の惑星:新世紀(ライジング)』では人間がその病原菌によってもうかなり死滅して。猿によって人間の世界が乗っ取られるかもしれないという状況だったのが二作目なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、今回の三作目の『聖戦記』ではもう人間はほとんど死んでいるんですよ。かなり死滅している状態で、それでもまだ人間の支配を守ろうとして猿に対して攻撃を仕掛け続けているグループがいるんですね。アルファ・オメガグループっていうのがいて。で、それをウディ・ハレルソン扮する大佐というのが指揮しているんですけども。猿を滅ぼして、人間の世界を守るんだと言っているんですけど。で、シーザーというもっとも知能の高いチンパンジーは、「ただ我々は生き残りたいだけだ」っていうことで、抵抗して戦っているんですが……そのウディ・ハレルソンの一味に奥さんと子供を殺されてしまうんですね。

(山里亮太)シーザーが。はい。

(町山智浩)で、その時にシーザーは自分がリーダーであるにもかかわらず、復讐の旅に出ちゃうんですよ。つまり、自分の一族を捨てて、「あの大佐に復讐するんだ!」っていうことで旅に出ちゃうんですよ。

(山里亮太)うんうんうん。

(町山智浩)ここから、話が西部劇になっていくんですよ。そのシーザーが馬に乗って荒野を、復讐の旅に出るわけですよ。

(山里亮太)そうなってくると、『猿の惑星』でいつも表現しようとしているこのメッセージとかっていうのはちゃんと組み込めるんですか?

(町山智浩)ちゃんと組み込めます。それは。で、この部分はクリント・イーストウッドという俳優さんが監督した映画で『アウトロー』という映画があるんですね。それが、奥さんと子供を殺されたクリント・イーストウッドが復讐の旅に出るという話で。それをすごくモデルにしています。だから、このシーザーはクリント・イーストウッドのようにいつもしかめっ面で、いつも目を眩しそうにしているんですよ。

(海保知里)眩しそうな顔……わかるなー(笑)。

(町山智浩)そう。だから猿のクリント・イーストウッドになっているんですよ。本当に。

(山里・海保)(笑)

(町山智浩)これね、アンディ・サーキスっていうね、俳優さんが演じているんですけど。この人は本当にすごい俳優ですよ。

(海保知里)えっ、どんな作品に出ている方なんですか?

(町山智浩)この人ね、『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』で指輪に取り憑かれてしまったゴラムっていう。怪物になってしまった男がいましたよね?

(海保知里)(モノマネで)「オー、マイ・プレシャス」みたいな変な声で言う……。

(町山智浩)そうそうそう! めちゃくちゃ上手い! 「マイ・プレシャス」って言っていた人ですよ。あれを演じていた人ですね。あと、キングコングをやっていますし。これ、モーションキャプチャーっていうシステムで、顔とかに点を打って、表情とか体の動きをそのままコンピューター上のCGで作られたキャラクターに直結させて操るんですよ。だから、俳優さんがやった表情とか体の動きは全部、キャラクターの動きになるんですね。

(山里亮太)うんうんうん。

(町山智浩)それをずっとやっている人なんです。アンディ・サーキスは。で、ハリウッド版のゴジラでも、ゴジラの基本的な動きは彼がやっているんですよ。だから、ぬいぐるみの中の人ですね。いわゆる「中の人」俳優ですね。

(山里亮太)でも、すっごい人なんですね。

(町山智浩)だからあんまり出しちゃいけない人なんですよ。まあ、そういうことで、このアンディ・サーキスさんはね、たぶんこの『猿の惑星:聖戦記』でもしかするとアカデミー賞にノミネートされる最初のモーションキャプチャー俳優になるかもしれないって言われています。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)彼の物語なんです。このシーザーの悲劇の物語なんですよ。で、シーザーっていう名前から非常にシェイクスピア的なものを感じますけども、本当にそういう話になっていましたね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)っていうのは、彼がその復讐の旅に出てしまったために、一族はそのウディ・ハレルソンのグループに全員拉致されて、奴隷として働かされることになるんですよ。で、この部分は『猿の惑星』の原作小説を書いたピエール・ブールっていうフランスの人がいて。その人がビルマでの日本軍の鉄道建設を描いた映画で『戦場にかける橋』っていうのがあるんですけど。それの原作者なんですね。で、それはイギリス軍とかアメリカ軍の捕虜を使って日本軍がビルマに鉄道を建設させたという事実を映画にしているんですよ。

(山里亮太)うんうん

(町山智浩)それを使っていて。その捕まえた猿たちを使って、人間たちが砦を作らせているんですよ。これ、すごい面白いところを引っ張っているなと思ったんですけど。ただ、そのシーザーは一族を捨てたから、一族から全く相手にされないんですよ。こんな目にあったから。

(海保知里)裏切り者だと。

(町山智浩)で、そこから彼のリーダーとしての贖罪が始まるっていう話なんですよ。だからこれ、すごいのはね、猿の話なんですよ。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)でもね、ものすごく人間的な話なんですよ。で、最後は彼が一族の本当のリーダーになっていく物語なんですけど、ここの部分は完全に旧約聖書なんですよ。

(山里亮太)西部劇から始まり、旧約聖書になっていく。

最終的には旧約聖書に

(町山智浩)そう。旧約聖書の出エジプト記におけるモーゼの役割を彼が果たしていくんですよ。

(山里亮太)へー! そうか。じゃあ、脱出させて連れていくんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれ、すごいなと思って。西部劇で始まって、脱走物語になって、最後は聖書で、モーゼの物語で終わらせていくというね。ものすごい壮大なことをやろうとしているんですね。猿ですけど。

(山里亮太)そうなんですね。なんか本当にね、猿対人間、どっちが勝つか? みたいなのじゃないんですね。

(町山智浩)そうじゃないんですよ。もっと大きなことをやろうとしている、すごい話だなと思って。だからこれ、すごいなと思って。アメリカはいまこれ、夏休み映画として後悔したんですよ。これを。夏休み映画って普通、漫画とかね、アメコミとかのスーパーヒーロー物とか、イケメンのスターとか美女とかが出てくるもんじゃないですか。普通。なんにも出ないですよ。イケメンとか、美女とか(笑)。猿ですから。

(山里亮太)猿ばっかり。

(町山智浩)すごいですよ。猿で夏休み大作を作っちゃうってすごいなと思って。だから、物語と映画の力だけで、そういうキャラクターとかに立ち向かっているんですよね。この映画は。

(海保知里)かっこいいですね。でもね。

(町山智浩)すごい無謀なことをしてんなと思いましたけどね(笑)。ただね、この映画のいいところはね、ちょっと清水の次郎長に似ているんですよ。ヤクザ映画にちょっと似ていて、シーザーがどんなに無謀な選択をしても、かならず黙ってついてくる子分が2人いるんですよ。なんていうかね、大政・小政みたいなのがいて、またそいつが泣かせるんですけど。毎回やっているんですよ、これ。だから、西部劇であり戦争映画でもあり、聖書的な物語でもあってヤクザ映画の男と男の仁義の物語でもあるんですよ。

(山里亮太)ほー!

(町山智浩)これはすごいなと。だからね、イケメンとかアニメ的なキャラクターとかいなくても、全然勝負できるんだなと。猿で(笑)。というところでね、いや、感動しましたよ。リーダーとは何か? 男とはどういう風に生きるべきか?っていう話になっていましたね。

(山里亮太)なるほど。これ、町山さん。『創世記』と『新世紀』は見てから行った方がいいですか?

(町山智浩)これはもう、最初から見た方がいいとは思いますけど。でも、これだけ見ても全然大丈夫です。

(山里亮太)ああ、そうですか。

(海保知里)私も両方、こちら見ているんですけど。ジェームズ・フランコの顔がどんどん猿化していくのが気になっちゃって、なかなか……(笑)。ちょっと似ていません? 猿っぽくないですか?

(町山智浩)ジェームズ・フランコ、一作目でシーザーを育てた男でしたけどね。全然忘れてましたね(笑)。ものすごい世界を突き進んで行ってますからね。そんなの大昔のようですか。

(海保知里)日本では10月13日公開になります『猿の惑星:聖戦記』を町山さんに今日ご紹介していただきました。町山さん、どうもありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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