町山智浩 トランプ政権の最高裁判事指名と同性婚・人工中絶禁止を語る

町山智浩 トランプ政権の最高裁判事指名と同性婚・人工中絶禁止を語る 町山智浩のアメリカのいまを知るTV

町山智浩さんがBS朝日『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の中でアメリカの最高裁判所についてトーク。トランプ大統領に指名される判事によって今後起きることとして、同性婚や人工中絶の禁止の話をしていました。

(ナレーション)LGBTなどのマイノリティーはトランプ政権を批判的なイメージがあり、実際にデモも多く行われています。そんな中、町山は就任式当日、トランプを支持するゲイの集会が開催されていると聞き、潜入取材。

(町山智浩)トランプは「ゲイを支援する」って言っているんですよ。

(杉山セリナ)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)はい。で、ゲイの人たちのシンボルマークである虹色の旗、レインボーフラッグを持ってトランプが「私はゲイを支持します。支援します」という風に実際に言っているんですよ。で、彼らはまず、共和党候補で「ゲイを支持する」と言ってくれた初めての政治家だということですごくトランプを支援しているのと、もうひとつの理由はフロリダ州オーランドであったゲイクラブ襲撃事件なんですよ。

(杉山セリナ)ありましたね。

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(町山智浩)あれで、「ああ、イスラム教はゲイを弾圧するんだ。ゲイを殺すんだ」ということでトランプ支持に回って。トランプはイスラムと戦ってくれるということでトランプを支持しているゲイの人もかなりいました。

(杉山セリナ)そうなんですね……

(町山智浩)で、結構イスラムの方の国、アラブ諸国ではゲイであるというだけで殺されてしまうと。

(杉山セリナ)ああ、そこはすごく宗教的に偏見が強いんですね。

(町山智浩)偏見が強くて。「だから我々ゲイとしてはイスラムと戦わなければいけないんだ」と言ってトランプ支持に回っている人もいました。で、もうひとつはね、トランプの閣僚が反ゲイだということも理由なんですよ。

(杉山セリナ)トランプではなく、その周りにいる人が?

(町山智浩)はい。さっき言った司法長官のジェフ・セッションズもそうなんですけども、もう1人、副大統領のマイク・ペンスという人がいて。マイク・ペンスという副大統領はキリスト教原理主義なんですよ。

(杉山セリナ)すっごい右側って聞きました。

(町山智浩)ゴリゴリなんですよ。

(杉山セリナ)もう顔もすごい怖いですよね。

(町山智浩)顔も怖いですよね。いま、アメリカでは基本的に、アメリカという国自体が同性婚はOKになったんですけども、それを潰そうとしている。だから「トランプさん、我々ゲイの人たちはトランプを支持していますから、くれぐれもゲイを弾圧する法律は作らないでください」っていう意味でトランプを支援しているんです。

(杉山セリナ)はー……

(町山智浩)ただですね、いますごく問題なのはおそらくトランプ政権下で同性婚は破棄される可能性があります。

(杉山セリナ)ええっ?

(ナレーション)大統領よりも強いアメリカ最高裁。

アメリカ最高裁のパワーバランス

(町山智浩)最高裁でそういった憲法関係のものは決定するんですね。で、最高裁っていうのは9人なんですよ。で、4対4ぐらいで、それで(プラス)1人で、これで(合計)9ですよね。これで投票して合憲かどうかを決定するわけですけど、現在(最高裁判事は)4人がリベラルで4人が保守という状況なんですね。で、1人亡くなったんで、オバマ大統領がこの空きに1人任命しようとしたんですが、任命するには上院議会の承認を受けなければならないんですが、上院は一切の審議を拒否するという。上院議会は共和党によって支配されているんで。

(杉山セリナ)ああ、動かないっていうことですね。

(町山智浩)動かないということで、1人空きなんですよ。まだ。

(杉山セリナ)ええーっ、まだ決まってないんですか?

(町山智浩)決まってないんですよ。で、トランプが今回、この空きを任命するんですね。大統領によって最高裁判事は任命されるんですよ。そしたら、確実に保守側になるでしょう?(※ ドナルド・トランプは保守派のニール・ゴーサッチを指名)。

(杉山セリナ)そうですね。

(町山智浩)そしたらもう、(リベラル)4対5(保守)で勝ち目がないから、同性婚はやはり違反であるという判決がたぶん次はでるでしょう。で、同性婚はたぶん破棄されてしまう。オバマケアと言われている医療保険。それも今回、また最高裁にかければ、まあここでトランプが任命した人によってオバマケアもたぶん破棄される。片っ端からオバマ大統領が作った新しい法律とか新しい制度は全て、トランプによる任命で最高裁でこれから破棄されていくと思います。

(杉山セリナ)へー!

(ナレーション)アメリカ最高裁最大の問題とは?

(町山智浩)リベラル派の人の中に(ルース・)ギンズバーグさんっていうおばあさんがいるんですよ。この人は非常にご高齢で、たぶんもうすぐ亡くなるだろうと言われています。そしたら、これ(の欠員枠)も保守に行きますね? そうすると保守6対リベラル3になりますよね?

(杉山セリナ)もう(リベラルが)半分になっちゃうんですね。

(町山智浩)そうすると、今後アメリカでは一切リベラルな法律が通らなくなります。

(杉山セリナ)でも、じゃあ最高裁っていうのはリベラルと保守の割合は別に決まっていないっていうことですか?

(町山智浩)決まっていないです。

(杉山セリナ)じゃあ1対8っていう可能性もあるってことですか?

(町山智浩)あります。ただ、問題なのは1回大統領が任命した判事は亡くなるか本人が引退するまで、変えられません。どんなにひどい判決を下しても更迭されないんです。ということは、トランプがこの後4年で大統領がダメになったとしても、その後にどんな民主党的な、まあ民主党が政権を取ろうとも、10年以上最高裁は保守的な判決しか下さないでしょう。今後。で、いちばんの問題は大統領よりも最高裁の方が権力が強くて、大統領がどんな大統領令を出しても、議会がどんな決定を出しても、それは最高裁が否定したら通らないんです。

(杉山セリナ)ええっ、怖い!

(町山智浩)アメリカは法がいちばんのトップにあるんですよ。それによって大統領よりも最高裁が強いんですが、最高裁はたぶんこのトランプ政権で3対6になります。

(杉山セリナ)うーん……

(町山智浩)だから、どんな差別的な法律が通るかわからないんですよ。

(杉山セリナ)じゃあ結構共和党のやりたい放題になりますね。

(町山智浩)やりたい放題になります。で、いまいちばんモメてるのは……

(ナレーション)人工中絶が違法に?

(町山智浩)日本は1950年代から(人工中絶が)合法になったんですけど、1970年代までアメリカでは人工中絶はほとんど殺人と同じ扱いだったんですよ。で、ところがその時の最高裁がリベラル寄りだったんで、最高裁的には「人工中絶は女性の権利である」っていうことで、憲法で認められて。それに対して保守的な人たちがずーっと反対しているんですよ。

(杉山セリナ)なんでですか?

(町山智浩)宗教的な理由です。

(杉山セリナ)ああ、プロライフ。

保守が反対する人工中絶

(町山智浩)プロライフという。聖書によれば、人を生かす・殺すというのは人間が決めることではないからということで。「たとえレイプされても産め」と言っている人たち。で、彼らは「人工中絶を再び非合法化するためだったら何でもする」と言っているような人たちなんですね。で、トランプは彼らに約束をして、「あなたたちの思っているようにしますよ」ということで、キリスト教原理主義者の人たちの票を集めて今回勝っているわけですけども。最高裁を3対6にすることによって、たぶん人工中絶はもしかするとあと4年以内に非合法化される可能性が出てきました。

(杉山セリナ)いやー……

(町山智浩)だから、女性たちがいま、トランプに対してものすごい反対運動をしているんですね。

(杉山セリナ)あのウィメンズ・マーチ。すごい規模でしたよね。

(町山智浩)すごい規模でした。

(ナレーション)女性の権利をうたい、首都ワシントンで50万人を集めたウィメンズ・マーチ。イギリス、フランスほかおよそ80ヶ国、670ヶ所以上。全世界で合計480万人が参加。そこには著名人の姿も多く見られた。ここまで多くの人が集まり大きな動きとなったのは人工中絶など女性の権利に関わる重要な理由があったからなんです。

(町山智浩)セクハラのトランプが大統領になるのが嫌だから(女性たちが)反対しているだけだと思っている人が多いですよね。

(杉山セリナ)そうですね。

(町山智浩)でも実はその人工中絶を非合法化される可能性があるからなんです。

(杉山セリナ)そっちがメインなんですね。

(町山智浩)たぶんでも、非合法化されるだろうなと。

(杉山セリナ)でもさっきの最高裁の話を聞いていると、本当にもうそうなってしまいますね。すごい。もう今日、初耳の話ばかりでしたね。

(町山智浩)こういう話を聞くと、いままでアメリカに対して持っていたみんなのイメージがだいぶ変わると……

(杉山セリナ)いや、変わります。たぶん想像以上にいま、アメリカは危機的な状態にあるっていうのが。

(町山智浩)だから結局、アメリカっていう国はいったいどういう国なのか?っていう話をオバマ大統領とかヒラリーさんがしてきたのは、「アメリカは多様性の国なんだ。いろんな人がいるから素晴らしかったんだ」と。

(杉山セリナ)サラダボウル。

(町山智浩)そうですね。だから、みんな来るんだ。アメリカの音楽とか文化に対する憧れというのは、そこに対する憧れだったんですね。自由と平等と差別がない社会を求めている国という。ところが、そこがなくなっちゃうんですよ。

(杉山セリナ)もうアメリカンドリームがなくなっちゃうんですね。

(町山智浩)アメリカンドリームがなくなっちゃう。だから、今度アカデミー賞で……もうすぐアカデミー賞の授賞式なんですけど。最優秀アニメ賞が『ズートピア』になるだろうなと僕は思っているんですよ。

(杉山セリナ)私も見ました。

(ナレーション)トランプVSハリウッド。

(町山智浩)あれ、とにかくいろんな動物が仲良く暮らしているズートピアという都市があると。あれって、アメリカのことを言っているんですよね。

(杉山セリナ)そうですよね。マイノリティーとか。

(町山智浩)もうみんなが平等で。でもその中にも差別があったりするんだけども、それをなんとか是正していこうっていう話じゃないですか。で、あれでキツネが出てきて。キツネはズルいと思われているというような話があって。でも、そうじゃないんだよっていうことをやったりするじゃないですか。あれは実はもう全部、アメリカの中での人種差別とか民族差別の問題を動物に置き換えているわけですけども。でも、そういったズートピアみたいなアメリカがなくなるかもしれないわけですよ。トランプ政権下だと。それはすごく嫌な感じなんで。

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(杉山セリナ)ですね。

(町山智浩)で、もうひとつ。ズートピアってあれ、ハリウッドも象徴しているんですね。ハリウッドっていろんな人たちがいるじゃないですか。で、メリル・ストリープさんがこの間、ゴールデングローブ賞の授賞式のスピーチで……

(杉山セリナ)ああ、スピーチ。はい。

(ナレーション)メリル・ストリープは今年1月のゴールデングローブ賞で名誉賞を受賞した際、「人種の多様性が重要だ」と訴え、トランプ大統領の名を出さずに、暗に彼を非難した。

(町山智浩)「ハリウッドっていうのはいろんな人がいるところなんだ。それがアメリカなんだ。それを守らなければならないんだ」って言ったんですけど、『ズートピア』っていうのはあれはハリウッドの人たちが「ハリウッドっていうのはこういうところだ」ということで作ったものでもあるんですね。

(杉山セリナ)ふーん!

(町山智浩)ただ、「ハリウッドはそういうものばかり、多様性を押しつけてくる」と言って怒っている人たちもいて。で、メディアはそっち寄りなんだという。だからアメリカはそういった形で、白人中心の社会を求める人たちと、そうじゃなくていろんな人たちが仲良く暮らす世界を求める人たちとの間ですごいことの今度はなっていくだろうなと。

(杉山セリナ)いま結構、ゴールデングローブとかアカデミー賞で白人だけ賞をもらっていたというのが結構問題になっていましたけど。それも、また解決されなくなるっていうことですよね?

(町山智浩)でも今度のアカデミー賞の助演女優賞は5人いるうちの3人がアフリカ系の人たちなんですね。

(ナレーション)昨年、「俳優賞で1人も黒人がノミネートされなかった」と議論になったアカデミー賞。今年は助演女優賞で『Fences』のヴィオラ・デイヴィス。『ムーンライト』のナオミ・ハリス。『Hidden Figures』のオクタヴィア・スペンサーと候補者5人中3人が黒人という史上初の快挙となりました。

(町山智浩)去年のアカデミー賞はメキシコ系の(アレハンドロ・)イニャリトゥ監督がアカデミー監督賞ですよ。ギレルモ・デル・トロ監督とかもメキシコ人だけどハリウッドで映画を撮っているじゃないですか。もう特撮界ではすごいじゃないですか。トップでしょう? あと、アルフォンソ・キュアロン監督は『ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞をとっているじゃないですか。すごいですよ。

(杉山セリナ)すごいですね。

(町山智浩)ハリウッドを仕切っているのはメキシコ系なのに、メキシコ系を追い出そうとか言っているから。それはハリウッドは戦わざるをえないですよ、これは。

(杉山セリナ)ですよね。

(町山智浩)トランプによって失われるアメリカの理念を守っていくのはハリウッドなんだなと思いますけども。

<書き起こしおわり>

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